Heyday株式会社代表の小川将司だ。
この記事は、私がSES業界で働き始めた頃に感じた「おかしさ」の正体を、経営者の立場から全部書いた記事だ。
SES業界に関わるエンジニアなら、一度は疑問を持ったことがあるはずだ。「自分の単価はいくらなのか」「会社はいくら取っているのか」「なぜ教えてもらえないのか」。
私はその疑問を持ったまま起業し、透明性を経営の核に置いた。結果として、それがビジネスモデルとして機能している。
SES業界全体の平均マージン率はどのくらいか。公式なデータは少ないが、業界内の肌感覚と複数の調査をもとにすると、エンジニアの受け取り額はクライアントが払う金額の55〜70%が相場だ。つまりマージン率は30〜45%。
これを月額ベースで考えてみる。
| クライアント支払い単価 | エンジニア手取り(還元率60%) | 会社が取る額 |
|---|
| 50万円/月 | 30万円/月 | 20万円/月 |
| 70万円/月 | 42万円/月 | 28万円/月 |
| 100万円/月 | 60万円/月 | 40万円/月 |
年間で換算すると、単価70万円のエンジニアは会社に対して年間336万円を「見えない形で」支払っていることになる。
たとえばエンドクライアントが月100万円で発注した案件が、三次請けまで流れると、エンジニアの手元に届く金額はどうなるか。
- エンドクライアント払出: 100万円
- 一次請けマージン15%控除後: 85万円
- 二次請けマージン12%控除後: 74.8万円
- 三次請けマージン15%控除後: 63.6万円
エンジニアが受け取るのは、エンドクライアントが払う金額の60%強。残りの36万円以上が中間業者に分配される。
SES会社が単価を開示しない理由には、いくつかパターンがある。
パターン1: 本当に知られたくない(マージン率が異常に高い) — 開示すれば即座にエンジニアが離れる。だから「業界の慣習」という言葉で隠す。
パターン2: 自社もわからない(多重商流の末端) — 三次・四次請けのSES会社の場合、エンドクライアントの発注金額を自社が把握していないことがある。
パターン3: 開示したことがない(慣習に従っている) — 最も多い。特に悪意があるわけではなく、業界全体がそうしていないから、自社もしていないというパターン。
どのパターンであれ、情報を持っていない側(エンジニア)が不利になる構造は同じだ。
私がSES業界に関わるようになったのは、エンジニアが「自分の市場価値を正確に知ることができない」という状況に強い違和感を持ったからだ。
市場価値を知る権利は、誰にでもある。医師が患者に治療費の内訳を開示するように、弁護士が請求する費用の根拠を説明するように、エンジニアが働く対価の構造を知ることは当然の権利だと思う。
SES業界では、それが「慣習」という名のもとに封じられていた。
起業にあたって、私は一つのシンプルな原則を決めた。
「後ろめたいことは何もしない」
後ろめたくないなら、全部開示できるはずだ。マージン率も、商流も、報酬の計算式も。開示できないのは、開示したら困ることがあるからだ。
私はHeydayでは、困ることをしないと決めた。その結果として、透明性を経営の核に置くことになった。
Heydayではエンジニアへの還元率を75%を目安に設計している。クライアントが月60万円で発注する案件であれば、エンジニアには45万円を届けることを基本とする。
なぜ75%か。SES会社の運営にかかるコストを逆算すると、健全な経営を維持しながら「エンジニアに最大限返せる割合」の上限が、おおよそこのあたりになる。
この計算式を、登録エンジニアには全員に説明している。
案件を紹介するとき、必ず商流を伝える。
「この案件はエンドクライアントとの直接契約(一次請け)です」
「この案件はXX社経由の二次請けになります。それを踏まえた上で、ご自身の判断材料にしてください」
二次請け・三次請けは、原則として単価を上げにくい。そのことをエンジニアが知った上で案件を選べば、将来的な単価アップの可能性を自分で評価できる。
知らないまま働くより、知った上で選ぶ方がいい。当たり前のことだ。
Heydayとの契約書には、以下の項目を明記している。
- クライアントへの請求単価(⚠各案件により異なるため、面談時に確認のこと)
- HeydayのマージンXX%の計算根拠
- エンジニアへの支払いスケジュール
- 案件終了時のヘルプデスク対応の範囲
- エンジニアが単価を知らないまま3年間稼働し、転職してから「前職は搾取されていた」と気づく
- 単価交渉を申し出ると「難しい」「検討します」で終わる
- 「この会社でいいのか?」という不安が常にあり、副業探しに精力が割かれる
- エンジニアが「なぜこの報酬なのか」を理解して働くため、不満の発生源が明確になる
- 単価交渉が「数字ベース」でできる
- 会社への信頼が口コミ・紹介につながる
- 稼働中のエンジニアが次のエンジニアを連れてくる
透明性のない会社でよく見られる稼働エンジニアの平均在籍期間は、業界平均で14〜18ヶ月程度とされている。Heydayでは、直近の平均在籍期間はこれを上回る水準で推移している。
理由はシンプルだ。「納得して働いている人は辞めにくい」。
確かに、開示すれば交渉が発生しやすくなる。しかしそれは「エンジニアに正当な交渉機会を与える」ということだ。
透明性を持てない理由のほとんどは「マージンを高く設定しているから」か「構造を説明できるほど整理されていないから」だ。どちらも、エンジニアにとっては損をしているサインだ。
Heydayの実感では逆だ。
透明性によって「信頼」が生まれ、その信頼が「紹介」を生む。新規エンジニアの獲得コストは、求人広告経由で1名あたり数万〜十数万円かかる。紹介経由であれば、ほぼゼロだ。
定着率が上がれば採用コストも下がる。紹介が増えれば広告費も下がる。これは「透明性が収益を圧迫する」のではなく「透明性が収益を底上げする」という構造だ。
これは正直なところ、気にしていない。業界全体が透明性に向かうことが、私たちのゴールだからだ。競合がそれに向かってくれるなら、むしろ歓迎だ。
透明性のあるSES企業を選ぶことには、デメリットはほとんどない。ただし、一つの「コスト」がある。それは「面倒くさい」と感じる質問をしなければならないことだ。
「マージン率を教えてください」「商流は何次請けですか」「契約書を事前に見せてください」——これらの質問を面接の場でするのは、心理的な抵抗がある人も多い。
しかし考えてほしい。この質問に嫌な顔をする企業は、入社後も情報を隠し続ける企業だ。入社前に質問して断られるのと、入社後に3年間情報を隠され続けるのとでは、どちらのダメージが大きいか。
「聞きにくい質問をする勇気」が、自分のキャリアを守る最初の行動だ。
担当営業に直接聞く。「開示できない」と言われた場合、その理由を聞く。
判断基準: 「業界の慣習で開示できない」という回答は、正当な理由ではない。
計算式: あなたの月額報酬 ÷ クライアント単価 × 100 = 還元率(%)
業界の目安:
- 還元率70%以上: 良心的
- 還元率60〜69%: 業界平均水準
- 還元率59%以下: 改善の交渉余地あり
- 還元率50%以下: 即座に見直しを検討すべき水準
判断基準:
- 一次請け(直接契約): 単価改善の余地が最大
- 二次請け: 標準的。単価交渉はできるが上限がある
- 三次請け以降: 単価の上限が構造的に制約される
この3つの数字を把握していれば、今の状況が「適切か」「改善すべきか」を自分で判断できる。知ることが、全ての交渉の出発点だ。
実際にHeydayに参画したエンジニアから聞く話には、共通するパターンがある。具体的な体験談は以下の記事で紹介している。
単価を知った瞬間、多くのエンジニアが「思ったより自分は高く売られていた」か「思ったより低かった」という感想を持つ。どちらであれ、その事実を知ることでキャリアの判断軸が変わる。
単価が分かれば、スキルアップの優先順位が変わる。「この資格を取ると単価がXX万円上がる」という計算ができるようになる。漠然と勉強するのではなく、収入に直結する投資としてスキルを選べるようになる。
単価を知ったエンジニアは、次の更新時に交渉できる。「現在の単価はXX万円で、自分への支払いはYY万円。スキルを磨いてXX万円の案件に移れれば、ZZ万円になるはずだ」という議論が成立する。
透明性のない環境では、この議論が成立しない。数字のない交渉は、印象と感情だけになる。
市場価値を把握し、単価の変動を追い、スキルと収入の相関を理解したエンジニアは、キャリアを「経営」できるようになる。
会社に言われた案件に入り、言われた給与をもらい続けるエンジニアと、自分の市場価値を把握して主体的に動けるエンジニアでは、5年後の差が大きい。透明性は、その差を生む起点だ。
私がこの記事を書いているのは、Heydayの宣伝のためだけではない。
SES業界全体の構造が変わらなければ、エンジニアが正当に評価される市場は生まれない。そして構造は、一社が変わるだけでは変わらない。
ただ、一社が変わることが、他社に圧力をかけることはある。
「Heydayはマージンを開示しているらしい」
「じゃあ、うちもしないとエンジニアに選ばれなくなるかもしれない」
この連鎖が起きれば、業界の標準が変わる。
「ITをもっとフェアに」というHeydayのミッションは、自社だけが変わることを目指していない。業界の構造を変えることを目指している。
SES業界の情報格差の実態:
- 業界平均のエンジニア還元率は55〜70%(マージン率30〜45%)
- 多重商流では、エンドクライアントの支払いの60%台しかエンジニアに届かないケースがある
Heydayが実践していること:
- 還元率75%を基本設計として全エンジニアに説明
- 案件紹介時に必ず商流(何次請けか)を開示
- 契約書にマージン計算根拠・支払い条件を明記
透明性がビジネスとして成立する理由:
- 定着率が上がり、採用コストが下がる
- 紹介採用が増え、広告費が下がる
- 「信頼」が口コミになり、中長期の成長を支える
自分の報酬構造を知ることは、あなたの権利だ。マージン率を聞くことは、当然の行為だ。開示を拒む理由を問うことは、正当な行動だ。
情報の非対称性に黙って従う必要はない。
Heydayは、エンジニアが自分のキャリアと報酬を正確に把握した上で判断できる場所として在り続ける。まずは、自分の今の状況を数字で確認することから始めてほしい。
Heyday株式会社 代表取締役
小川 将司(おがわ まさし)
かつては「どうせSES企業はどこも同じ」という諦めがあった。マージンも商流も開示しないのが当然で、エンジニアが受け入れるしかないという空気があった。
しかしこの数年で、情報は広まりやすくなった。エンジニアのコミュニティで「あの会社のマージンはXX%らしい」という情報が流れる。OpenWorkの口コミに「単価を教えてくれない」と書かれる。採用市場でのレピュテーションが可視化される。
企業が情報を隠し続けることのコストが、上がってきている。
この流れの中で、透明性を競争優位にしている企業が増えている。透明性を「コスト」ではなく「差別化」と位置づけた企業は、エンジニアから選ばれる存在になっていく。
あなたがSES企業を選ぶとき、「透明性があるかどうか」を判断軸の一つにすることで、業界全体をその方向に動かす力になる。エンジニア一人の選択が、業界の標準を変えていく。
Heydayでは契約単価・マージン・商流をすべて開示しています
「自分の単価が適正か分からない」「もっといい条件の案件があるのでは」という方のご相談を受け付けている。
Heydayでは稼働前に契約単価を本人に開示し、マージン構造についても質問があればすべて回答している。
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最大の理由は「参入障壁の低さ」と「慣習への依存」だ。SES事業は許認可なしで始められるため、エンジニアの待遇を考慮しない企業が参入しやすい。また、業界全体が「単価は開示しないもの」という慣習に従っており、一社が開示しても他が開示しないままであれば変わらない。エンジニアが情報リテラシーを高め、単価開示を条件に企業を選ぶことが、業界全体を変える唯一の方法だ。
3点ある。第一に「還元率75%」を基本設計として全エンジニアに説明し、計算根拠も開示している。第二に、案件紹介時に必ず商流(何次請けか)を伝えることで、単価アップの余地をエンジニアが自分で評価できるようにしている。第三に、契約書にマージン計算根拠・支払いスケジュール・対応範囲を明記している。「後ろめたいことは何もしない」という原則の具体的な実践だ。
「マージン率は何%で、その計算方法を教えてください」という一問で大半が分かる。数字と計算方法を即答できる企業は透明性が高い。「業界の慣習で開示できない」「会社の機密情報です」という回答は、開示すると困る数字がある可能性が高い。また「案件紹介時に何次請けかを教えてもらえますか」という質問も有効だ。これらに正直に答えてくれる企業を選ぶことが、自分のキャリアを守る最初の行動になる。
まず、自分の市場単価を把握することから始めてほしい
単価を知ることが、全ての出発点だ。言語・経験年数・クラウドスキルを入力するだけで、現在の市場単価レンジとあなたの強みが分かる。メールアドレスは不要で、3分で結果が出る。
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透明性の思想的背景と業界構造に興味を持った方は、以下の記事で具体的な数字や仕組みを確認できます。
業界の不透明さを数字で理解する
透明性の有無で企業を選ぶ
自分の単価を把握して交渉力を持つ