「うまくいってないって、言えるようになった」
取材の終盤、中村はそう言って少し笑った。謙遜でも自虐でもない、穏やかな手応えのある笑い方だった。
入社1年8ヶ月。IT業界の知識ゼロからスタートし、何十回と断られ続けた日々を経て、彼女がたどり着いた「成長」は、数字の成果ではなく、自分の弱さとの向き合い方だった。
「この人の話を聞いてみたい」と思った
中村がHeydayに入ったのは、ある意味で直感だったという。
就職活動中、さまざまな業界を見て回っていた彼女は、IT業界に特別な関心があったわけではなかった。SESという言葉すら知らなかった。
「正直に言うと、ITのことは何もわかっていなかったんです。プログラミングって何をする人?くらいの感覚で」
ただ、代表の小川と話した時間が、他の面接とはまったく違ったのだという。
「『業界の情報格差をなくしたい』って、小川さんがすごく真剣に話してくれて。利益の話じゃなくて、構造の話をしていたんですよね。エンジニアがどういう立場に置かれていて、何がおかしくて、それをどう変えたいか。聞いているうちに、この人の話をもっと聞いてみたいと思ったんです」
それが入社の理由だった。業界への憧れでも、給与条件でもなく、「この人の見ている景色を見てみたい」という素朴な動機。しかし、現実はすぐにその素朴さを打ち砕くことになる。
何がわからないかも、わからない
入社後の3ヶ月間を、中村は「霧の中にいるようだった」と振り返る。
SES営業の仕事は、エンジニアと企業の間に立ち、双方の希望をすり合わせていくことだ。しかし中村には、その「間に立つ」ための土台がなかった。
「エンジニアの方と打ち合わせをしても、話している内容の半分以上がわからなくて。JavaとJavaScriptが別物だということも知らなかったし、『上流工程』と言われても何のことかピンとこない。メモを取ろうにも、どこをメモすればいいかもわからない状態でした」
単価の仕組み、商流の構造、契約の種類。覚えることが果てしなく見えた。周囲は忙しく動いているのに、自分だけが止まっているような感覚が続いた。
「先輩に質問しても、自分が何を聞きたいのかうまく言葉にできなくて。『何がわからないかがわからない』って、本当にあるんだなって思いました」
夜、帰宅してから業界用語をノートに書き出す日々が続いた。翌日、そのノートを見返しても、理解が追いついていないことに気づく。その繰り返しだったという。
一週間で20回以上、断られた日のこと
SESの営業は、断られることが仕事の大部分を占める。企業に人材を提案すれば「今はいい」と返され、エンジニアに案件を紹介すれば「条件が合わない」と言われる。ベテランでもそうなのだから、未経験の中村にとってはなおさらだった。
「最初のうちは、断られるたびに自分を否定されたように感じていました。技術のことがわかっていないから断られるんだ、私が頼りないからだ、って」
入社半年ほど経った頃、一週間で20回以上のお断りが続いた時期があった。数字だけを見れば珍しいことではないが、当時の中村にとっては限界に近い重さだったという。
「朝、パソコンを開くのが怖くなったんです。メールを見るのが怖い。また断られるんじゃないかって。夜も、あのとき別の言い方をしていれば違ったかな、とか、ずっと反芻していて」
眠れない夜が続いた。「もう無理かもしれない」という言葉が、何度も頭をよぎった。
そんなとき、中村は代表の小川に時間をもらって相談した。覚悟を決めて「辞めたい」と言うつもりだったかもしれない、と本人は笑う。
「小川さんは、私の話を聞いた後、責めるでも慰めるでもなく、『何が原因だと思う?』って聞いてきたんです」
一瞬、突き放されたように感じたという。しかし、小川の表情を見て、それが本当に「一緒に考えたい」という問いかけだとわかった。
「それで、自分でも原因を言葉にしてみたんです。技術理解が浅いこと、提案のタイミングが遅いこと、エンジニアの方が本当に求めていることを聞けていないこと。口に出してみたら、意外と整理できた。ああ、こういうことだったんだって」
その夜、中村は少しだけ眠れたという。
隠すのをやめた日
中村の転機は、劇的な成功体験ではなかった。ある日を境に急に成果が出たわけでもない。変わったのは、もっと地味で、しかし本質的なことだった。
「うまくいっていないことを、隠さなくなったんです」
以前の中村は、困っていても平気なふりをしていた。わからないことがあっても、あとで自分で調べようとした。数字が出ていなくても、もう少し頑張れば大丈夫ですと言い続けた。
「認めたくなかったんだと思います。IT未経験で入ったからこそ、迷惑をかけたくなかった。できない自分を見せたくなかった」
しかし、隠せば隠すほど、問題は大きくなった。わからないまま進めた提案は的外れになり、遅れた報告は対処を遅らせた。
「ある日、チームのミーティングで、正直に言ったんです。『今週、全然うまくいっていません。何をどう変えればいいか、自分ではわからなくなっています』って」
言った瞬間、胃が縮む思いがしたという。
「でも、誰も責めなかったんです。先輩が『じゃあ、先方への連絡の仕方から一回見直してみようか』って、すごく具体的に動いてくれて。ああ、もっと早く言えばよかったって思いました」
それからは、週の始めに「今うまくいっていないこと」を共有する習慣ができた。中村だけでなく、チーム全体で。
「会社の空気がそうなんだと思います。エンジニアの方に取引条件を隠さないのと同じで、社内でも数字や状況を隠さない。透明であることが前提になっている。その環境にいたから、私も変われたんだと思います」
断られることが、パズルになった
入社から1年を過ぎた頃、中村の中で「断られること」の意味が変わり始めた。
「前は、断られると自分がダメなんだって思っていたけど、今は『なんでだろう』って考えるのが面白くなってきたんです」
提案のタイミングが悪かったのか。エンジニアのスキルセットと案件の要件にずれがあったのか。そもそも先方が今求めているものを、自分は正しく理解できていたか。
「パズルを解くような感覚に近いかもしれません。断られた理由がわかると、次に何を変えればいいかが見えてくる。それが少しずつ楽しくなってきた」
最近、中村が担当したあるエンジニアの案件が、無事に決まった。条件のすり合わせに時間がかかり、何度もやり取りを重ねた末の稼働開始だった。
「そのエンジニアの方から、稼働が始まって少し経った頃に連絡をもらったんです。『ここで良かったです』って、たった一言なんですけど」
中村はそのときのことを話しながら、少し声が震えた。
「その一言で、全部報われた気がしました。断られ続けた日々も、わからなくて泣きそうだった夜も、全部意味があったんだって」
「1年後の自分が楽しみ」という言葉
取材の最後に、これからのことを聞いた。
中村は少し考えてから、こう答えた。
「まだまだわからないことだらけです。技術のことも、業界のことも、営業としてのスキルも。でも、1年8ヶ月前の自分と比べたら、確実に変わっている。それがわかるから、1年後の自分が楽しみなんです」
そして、こう付け加えた。
「うまくいってないって言えるようになった。それが私にとっては、一番大きな変化です」
うまくいっていないと認めること。それは弱さの表明ではなく、現実を正確に見据えて、次の一歩を踏み出すための起点だ。中村はそれを、何十回もの「お断り」の中から、自分の手で掴み取った。
誰かの期待に応えようと背伸びをするのではなく、今の自分をそのまま差し出す。できないことはできないと言い、わからないことはわからないと言う。そこから始める。
IT未経験、営業経験も浅い。そんな中村が1年8ヶ月で手にしたのは、華やかな実績ではなく、正直でいることの強さだった。
中村 / 営業 / IT未経験入社 / 在籍1年8ヶ月
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