「どうして教えてくれるんですか?」
都内のコワーキングスペースで向かい合ったM.Yさん(35歳)は、開口一番その場面を振り返った。Heydayの担当者から「あなたの請求単価は○○万円です」と告げられたときのことだ。
「驚いたとか、嬉しかったとかじゃなくて。本当に意味がわからなかったんです。え、なんでそれを僕に言うんですか?って」
穏やかな声の中に、当時の戸惑いがそのまま残っているようだった。
10年間、誰も教えてくれなかった数字
M.Yさんのキャリアは、新卒で入ったSIerから始まった。Javaでの業務システム開発を3年ほど経験した後、Reactに出会い、フロントエンドの世界にのめり込んだ。独学でTypeScriptを習得し、スタートアップの立ち上げフェーズに参画したこともある。30歳を機にフリーランスへ転向した。
「フリーになったばかりの頃って、右も左もわからないじゃないですか。まずエージェントに頼るしかない。それで最初の会社に言われるがまま契約して、案件に入りました」
当時の報酬は月50万円台だったという。React経験3年、TypeScriptも書ける。今から振り返れば、市場価格と比べて明らかに低い水準だった。しかし、M.Yさんにはそれを知る手段がなかった。
「単価って、自分からは見えないんですよ。エージェントが間に入って、クライアントとの契約金額がいくらなのかは教えてもらえない。聞いても『お伝えできないんです』って言われるだけで」
そこから5年間で、M.Yさんは5社のエージェントを渡り歩いた。より良い条件を求めてというよりも、「なんとなくモヤモヤして」辞めるパターンが多かったという。
「聞いちゃいけないこと」だと思っていた
5社目のエージェントを使っていた頃、ある現場で転機が訪れた。同じプロジェクトに参画していた別会社のエンジニアと、たまたま食事をする機会があった。
「酔った勢いで、お互いの報酬の話になったんです。そしたら向こうが『え、それ安くない?』って。僕は月58万で入ってたんですけど、クライアントの発注単価を知ってる人が『この案件、エンド単価は110万くらいだと思うよ』って教えてくれて」
沈黙が続いた。M.Yさんはコーヒーカップを両手で包んだまま、しばらく考え込むような間を置いた。
「ショックとか怒りとか、そういうわかりやすい感情じゃなかったんです。なんていうか——ああ、ずっとそうだったんだ、っていう。知らないうちにそうなってたんだ、って。それが一番きつかった」
請求単価を知らないということは、自分の市場価値がわからないということだ。市場価値がわからなければ、交渉もできない。スキルアップの方向性も定まらない。M.Yさんはその構造に、5年間気づかずにいた。
「それまでは、単価を聞くこと自体が失礼なんだと思ってました。聞いちゃいけないことなんだ、って。でも冷静に考えたら、自分の仕事の対価ですよね。知る権利があるに決まってる」
半信半疑の問い合わせ
Heydayの名前を知ったのは、その食事相手からだった。「単価を全部見せてくれる変わった会社がある」と聞いた。
「正直、信じてなかったです。全部見せるって、そんなことしたらエージェントのビジネスが成り立たないでしょう。何か裏があるんじゃないかと思いました」
それでも気になって、問い合わせフォームから連絡した。返信は翌日に届いた。面談日程の提案と一緒に、「お話しする際に、スキルシートを事前にいただければ、市場単価の概算をお出しできます」と書いてあった。
「その時点でちょっと驚きました。会う前から出すの?って」
オンラインでの面談当日。画面越しの担当者は、挨拶もそこそこに、一枚の資料を画面共有した。M.Yさんのスキルセットに基づいた市場単価のレンジ、想定される商流、そしてHeydayが受け取るマージンの目安。すべてが数字で示されていた。
「こちらから何も聞いてないのに、全部出てきたんです。頭が追いつかなくて。それで出た言葉が『どうして教えてくれるんですか』だった」
担当者の返答を、M.Yさんは今でもはっきり覚えている。
「その人、すごくあっさりした声で『普通のことですよ』って言ったんです。普通のこと。——5年間、5社回って、一度もやってもらえなかったことが、この人たちにとっては『普通』なんだって。その一言が、一番刺さりました」