Aさん(仮名)はJava 3年目のエンジニアだ。転職するまで、自分の単価を一度も教えてもらったことがなかった。
案件を変えるたびに「単価は確認します」と言われ、結果は「変わらずです」か「少し上がりました」のどちらか。具体的な数字は出てこない。「自分がいくらで売られているのか」を知らないまま、気づけば3年が過ぎていた。
Heydayに相談に来たのは、ある金曜日の夜だった。「もしかして自分は損をしているんじゃないかと思って」——Aさんはそう話し始めた。
転職後、Aさんの月単価は55万から72万になった。スキルは変わっていない。変わったのは商流と、交渉のタイミングだけだった。
この記事は、Aさんへのヒアリング内容をもとに、私(野沢・Heyday営業サポート)がまとめたものだ。転職の経緯から、単価が上がった具体的な理由まで、数字を隠さずに書く。
転職前のリアル:月単価55万・3次請け・単価を知らないまま3年
Aさんのスペックは、転職時点でこうだった。
- Java歴3年(Spring Boot中心、AWSは基礎レベル)
- 現場:製造業の基幹システム更改プロジェクト
- 商流:エンド(製造業の会社)→ 大手SIer → 中堅SIer → Aさんの会社 → Aさん(3次請け)
- 月単価:55万(自分では知らなかった)
「単価が55万だったことは、Heydayに相談したときに初めて知りました。前の会社からは一度も教えてもらったことがなかった」とAさんは言う。
3年間、案件の更新は半年ごとに来た。その都度、営業担当から「単価は維持です」「今回は少し改善しました」という連絡はあった。しかし「今いくらで、いくらになりました」という情報は一度も出てこなかった。
Aさん自身も「聞けばよかったんですけど、なんか聞きにくくて」と振り返る。単価を聞くことが、なぜか「あなたはお金の話しかしないのか」と思われるような気がしていたという。
SESで単価が非公開になる背景には、構造的な理由がある。エンド企業が払う金額から、商流の各層がマージンを抜いていく仕組みでは、各社が取り分を明かしたくない。3次請けになれば、エンドの発注金額から3社分のマージンが引かれた残りがエンジニアへの単価になる。Aさんがいた環境がまさにそれだった。
SESの商流とマージン構造の詳細はこちら
「気づきの瞬間」——飲み会での一言と、その夜の思い
転職を意識し始めたのは、ある現場の打ち上げだった。上流ベンダーのエンジニアと飲みに行ったとき、同い年で、スキルも似たような人の話を聞いた。
「月収ベースでどのくらい違うか、直接は聞けなかったんです。でもその人が会話の流れで単価の話をさらっとして。数字を聞いた瞬間に、胃のあたりがキュッとなった感覚があって」とAさんは振り返る。
金額の差そのものより、「違う理由が分からない」ことが気持ち悪かったという。その人との技術的な差は感じなかった。ただ、商流が違った——相手はエンド直の1次請けだった。
帰り道、Aさんは初めて「商流」という言葉をスマホで調べた。「SES 商流 単価 差」と検索して出てきた記事を読み、自分がいる3次請けという状況の意味を初めて理解したという。「その夜はなんか眠れなくて。別に怒ってるわけじゃないんですけど、なんで教えてもらえなかったんだろうって、ぐるぐる考えてた」。
翌週には転職に向けて動き始めていた。
「給料を上げたいから」ではなく、「自分の市場価値を正しく知りたいから」という気持ちの方が強かったという。前の会社が悪いというより、「情報を持っていない状態で判断し続けることへの不安」が積み重なっていたのだろう。
「転職しなかった場合」の試算——3年継続との差額
Aさんのケースを振り返ると、転職しなかった場合と転職した場合で、報酬の差が積み重なる構造が見えてくる。
仮に転職せずに3次請け55万のまま3年継続した場合:
- 55万 × 12ヶ月 × 3年 = 1,980万円(税込総受取額)
一方、転職初年度65万・3ヶ月後に72万へ改定された場合:
- 65万 × 12ヶ月(初年度) = 780万
- 72万 × 12ヶ月 × 2年(2〜3年目) = 1,728万
- 合計:2,508万円
差額は概算で 528万円。ただし転職後の実際の数字は案件継続状況・更新タイミングによって変動するため、差額の幅は300〜500万円規模と見るのが現実的だ。
「数字で聞くと、さすがに結構違いますね」とAさんは言った。「3年間、何も分からないままでいた時間が、そのままコストだったんだなと思う」。
重要なのは、スキルは同じだという点だ。3次請けのAさんと、エンド直1次のAさんは同じ人間で同じスキルを持っている。差が生まれたのは「情報を取りに行くタイミング」と「商流の選択」だけだった。
Heydayで初めて単価を知った日——面談プロセスの詳細
Heydayに問い合わせた翌日、オンラインで面談した。私(野沢)が担当した。面談時間は約45分だった。
面談では最初に「今の現場の状況を聞かせてください」という確認から入った。現場の業種・案件規模・自分のロール・技術スタック・商流の構造——これを一通り整理した上で、市場単価の話をした。
「何を聞かれるか事前に不安だったんです。でも、単純にファクトを確認していく感じで。責められる感じがなくて話しやすかった」とAさんは振り返る。
面談の中で、Aさんの現場・スキル・商流を整理しながら、市場での単価レンジを提示した。
「Java 3年・Spring Boot・AWSなし・3次請けの現状では55万前後、商流を1〜2次に上げれば65〜70万が目安です」
Aさんの反応は「え、そんなに違うんですか」だった。
案件探しの期間は、面談から約3週間だった。Java・Spring Bootが活かせるエンド直の1次案件を3件提示し、Aさんが面談・現場確認を経て1件に絞った。「早いと思ってた。3週間で決まるとは思ってなかった」とAさんは言う。
単価の話を、数字で、構造の説明とセットで聞いたのは初めてだったという。「自分の単価が今いくらなのかが分かって、それが市場で適正なのかどうかが分かって、転職したらどうなるかが分かって。そこまでセットで教えてもらったことが一度もなかった」。
この「単価を知る」というステップが、実は転職成功の前提条件になる。数字の根拠なしに転職先を選ぶと、商流が変わっても単価が思ったほど上がらないケースがある。どのくらいの水準が自分のスキルに対して適正なのかを知ることが、最初の一歩だ。
SES単価の相場を言語×経験年数で確認する
商流が変わると何が変わるか:エンド直1次と3次請けの違い
Aさんの転職先案件はエンド直の1次請けだった。同じJava・同じ現場規模・同じ業務難易度。変わったのは商流だけ。それで月単価は55万から65万になった。
なぜ10万円の差が生まれるのか。構造から説明する。
3次請けの場合:
エンド発注額(仮に100万)→ 大手SIer(20万マージン)→ 中堅SIer(15万マージン)→ Aさんの会社(10万マージン)→ Aさんへの単価(55万)
エンド直1次の場合:
エンド発注額(仮に85万)→ Heyday(20万マージン)→ Aさんへの単価(65万)
エンドが払う総額が多少違っても、中間に入るレイヤーが少ない分、エンジニアへの還元率が上がる。これが商流の差だ。
Aさんは「同じ仕事をしているのに10万円違うのは、自分のスキルじゃなくて会社の場所の問題だったんだと実感しました」と話した。
もう一つ変わったのは、情報の透明度だ。Heydayでは、案件の発注単価・マージン率・手取り額のシミュレーションを提示している。Aさんが「65万の案件です」と言われたとき、それが何から計算された数字なのかが分かる状態だった。「数字に根拠があると、次の交渉もしやすい」とAさんは言った。
3ヶ月後の更新交渉:55万→65万→72万になるまで
転職して3ヶ月が経ったころ、最初の更新タイミングが来た。Aさんは自分から「単価の見直しをお願いしたい」と申し出た。
「前の会社では、そんなこと絶対に言えなかったんです。言い方も分からなかったし、言ったら次の案件に影響するかもと思ってた」
Heydayとの事前打ち合わせで、交渉の根拠を整理した。打ち合わせは更新の2週間前。Zoomで約30分、私(野沢)と一緒に現場の状況を整理した。
確認したのは3点だった。
- 3ヶ月間で現場の設計フェーズにも関与し、当初の役割よりスコープが広がっていること
- 現場からの評価フィードバックが良好であること
- 市場での同スペック単価が65〜75万レンジであること
実際の交渉はHeydayの営業担当がエンド側と行った。Aさんが直接クライアントと話したわけではない。「自分が直接交渉するのかと思ってたんですけど、Heydayが代わりにやってくれると聞いて、それも安心できた理由の一つでした」とAさんは言う。
交渉の場はクライアント担当者との定例会議の場だった。「エンジニアの貢献を評価して継続してほしい、単価も改定したい」という形で持ち込み、根拠として現場からのフィードバックと市場相場を提示した。
「交渉というより、事実の確認という感じでした。数字の根拠があったので、お願いではなく説明として話せた」
結果、更新後の単価は72万になった。
55万→65万(転職時)→72万(3ヶ月後)。
スキルは変わっていない。Aさんが変えたのは、1.情報を持つこと、2.商流を変えること、3.適切なタイミングで数字の根拠を持って話すこと——この3点だけだ。
SES単価の交渉タイミングと市場相場の詳細はこちら
転職してよかったこと・変わらなかったこと(正直に)
転職体験談によくある「全部よくなりました」という結末は、Aさんの話とは少し違う。正直に書いておく。
よかったこと
単価が上がったことは当然として、「自分のことが分かるようになった」という変化をAさんは一番に挙げた。自分が今いくらで評価されているか、次の更新でどうなりそうか、市場でどのくらいの価値があるか——これらが数字で把握できるようになったこと。
「漠然とした不安がなくなりました。別に給料が高くなくても、数字が見えていると安心感が違う」
営業担当とのコミュニケーション頻度も変わった。前の会社では月1回の定型連絡のみだったのが、現場の状況を月2〜3回は共有し合う関係になった。案件更新のときに「久しぶりに話す」状態ではなくなったことで、交渉もスムーズになった。
変わらなかったこと
現場環境や業務の内容は基本的に変わっていない。Aさんが入った案件はJavaの基幹開発で、前職の現場と規模感も雰囲気も似ていた。
「転職したら全然違う仕事になると思ってた人もいるかもしれないですけど、私はそうじゃなかった。現場環境は運もあるし、SESである以上、そこは転職してもコントロールしにくい部分です」
また、スキルアップの機会が劇的に増えたわけでもない。「Heydayに入ったからAWSが勉強できるようになった、ということはない。それは自分でやるしかない」と言う。単価と商流の話と、スキルアップの機会は別の問題として切り分けて考えた方がいい。
転職しなければよかったこと
それは特にないとAさんは言った。ただ「もっと早く動けばよかったとは思う」とも。
「3年間、何も情報がないまま働いていた時間がもったいなかったなって。別に前の会社が悪いとは思ってないですけど、自分から情報を取りにいけばよかった」
「自分もAさんのケースか」——5問セルフチェック
Aさんのケースは特殊ではない。以下の5問に3つ以上当てはまる場合、同じ構造が起きている可能性がある。
Q. 今の月単価を正確に知っているか?
「維持です」「改善しました」という連絡はあっても、具体的な数字を一度も教えてもらっていない——そういう状況は珍しくない。単価を知らない状態では、改善の余地があるかどうかも判断できない。
Q. 自分の商流が何次請けか把握しているか?
エンドから数えて何社挟まっているかを知っているか。3次以上の場合、商流を変えるだけで単価が変わる可能性がある。
Q. 最後に単価の話をしたのはいつか?
半年以上、単価の話を営業担当としていない場合、交渉のタイミングを逃し続けている状態かもしれない。
Q. 今の単価が市場と比べて適正かどうかを確認したことがあるか?
スキル・経験年数が同じ他社エンジニアと比べて、自分の単価が高いか低いかを調べたことがない——という状態は、情報の非対称性がそのまま続いている。
Q. 転職を考えたことはあるが、「今の現場が悪いわけじゃない」という理由で動いていないか?
現場環境に不満がなくても、単価の問題は別の軸で起きていることがある。現場が良いことと、単価が適正であることは連動しない。
3つ以上当てはまる場合、まず自分の市場単価を確認することが最初の一歩になる。
自分の市場単価をスキル・経験年数別に確認する
Java以外の言語でも同じことが起きるか
AさんはJavaエンジニアだったがJava以外の言語でも同じ構造は起きる。
商流の問題はプログラミング言語に依存しない。3次請け・4次請けの構造が存在する以上、Python・PHP・Ruby・Go・TypeScript等、どの言語でも「商流を変えることで単価が変わる」可能性はある。
ただし、言語によって市場の案件量や単価レンジは異なる。Javaは案件数が多く、エンド直の1次案件も豊富だ。一方でニッチな言語や特定業務系の言語は、案件数が少なく商流改善の選択肢が限られることもある。
また、経験年数が浅いうちは商流改善の効果が出にくいケースもある。目安として、実務3年以上であれば商流改善の効果が出やすい。3年未満の場合はスキルアップと並行して検討することを勧める。
Heydayでは、Java以外にも下記の言語・スキルセットでエンド直の案件を扱っている。
- Python(データ基盤・AI/ML系)
- PHP(Web系・EC基盤)
- TypeScript/JavaScript(フロントエンド・Node.js)
- Go(マイクロサービス系)
- Kotlin/Swift(モバイル系)
自分の言語・スキルセットでどのくらいの単価レンジになるかは、診断ツールで確認できる。
言語別・経験年数別のSES単価相場
よくある質問
Q1. Aさんのように単価55万から70万台に上げるには、どのくらいの期間がかかりますか?
A. Aさんのケースでは、Heydayへの問い合わせから転職まで約1ヶ月、転職後3ヶ月で72万に到達した。合計で約4ヶ月だ。ただしこれは案件が比較的すぐに決まったケースで、スペックや希望条件によって1〜3ヶ月程度の幅がある。単価改定のタイミングは更新時なので、入社後すぐではなく3〜6ヶ月後が一般的だ。
Q2. スキルが変わっていないのに単価が上がるのは本当ですか?
A. 本当だ。ただし「スキルが全く関係ない」ということではない。Aさんは実務3年のJava経験があり、その時点での市場評価として55万以上が適正だった。同じスキルを持っていても、3次請けとエンド直では取り分が変わる——これが商流の差だ。スキルがあっても商流が悪ければ評価されず、商流を変えることでそのスキルが正しく評価される、という構造になる。
Q3. 前の会社に対して単価交渉しなかったのは交渉術の問題ですか?
A. 交渉術の問題ではない。3次請けの構造では、自社(Aさんの会社)は中堅SIerから発注を受けている。その発注単価がそもそも低く抑えられているため、Aさんの会社がどれだけ頑張っても還元できる上限が決まっている。交渉相手を変えない限り、交渉術で変えられる幅には限界がある。根本的な解決は商流を変えることだった。
Q4. Heydayに相談する前に転職エージェントにも問い合わせましたか?
A. Aさんは「転職エージェントは登録したけど、あまり使いませんでした」と話していた。転職エージェントは正社員転職を前提にしているケースが多く、SES内での商流改善という選択肢を提示してくれないことがほとんどだという。「現職を辞めて別の会社の正社員になるか、SESのまま単価を上げるか——その選択肢を並べて話せる相手がいなかった」とAさんは言う。
Q5. 単価の更新交渉はエンジニア自身がやるのですか?Heydayが代わりにやってくれますか?
A. Heydayが代わりに行う。Aさんのケースでもそうだったが、エンジニアがクライアントと直接交渉する形にはなっていない。事前にエンジニアと一緒に根拠を整理し、Heydayの営業担当がクライアントとの交渉を担う。エンジニアの役割は「現場での実績を作ること」と「状況を共有すること」だ。
Q6. Java以外の言語(Python・PHP等)でも同じことができますか?
A. できる。商流の問題はプログラミング言語に関係なく起きる。Python・PHP・TypeScript・Goなど、Heydayが扱える言語領域であれば商流改善の選択肢を提示できる。ただし言語によって案件数に差があるため、選択肢の幅は変わる。まず自分のスキルセットでどのくらいの案件・単価レンジがあるかを確認することが最初の一歩だ。
Q7. 転職後、現場が合わなくてすぐ辞めた場合はどうなりますか?
A. 現場変更の相談は可能だ。SES契約は通常3〜6ヶ月ごとの更新制で、更新タイミングで現場を変えることができる。ただし早期退場はクライアントとの関係・次案件の条件に影響することがある。現場に入る前に十分な事前確認(業務内容・チーム環境・技術スタック)を行うことで、ミスマッチを減らす努力をしている。
Q8. 単価を知らないまま働いている期間が長いほど損をしているということですか?
A. そう言えるケースが多い。Aさんの試算でも示したとおり、商流改善の余地がある状態で3次請けのまま継続すると、その期間分の差額が積み重なる。ただし「知らないことが絶対に損か」という問いに対しては、現職の現場・人間関係・安定性に満足しているのであれば一概にそうとは言えない。重要なのは「知った上で選択する」ことで、情報がない状態で選択し続けることは自分にとって不利になりやすい。
まとめ:スキルより先に「市場単価を知ること」
Aさんの話を聞いて、一つ印象に残った言葉がある。
「単価が上がらない理由がスキルだと思っていたけど、そうじゃなかった。情報がなかっただけだった」
スキルを磨くことは正しい。しかし、スキルをどの商流・どのタイミングで活かすかによって、市場評価は数十万単位で変わる。スキルと単価は完全には連動していない。
Aさんのケースで変わったのは以下の3点だ。
- 自分の市場単価を把握した(情報の非対称性を解消した)
- 3次請けからエンド直1次に商流を変えた
- 更新交渉を根拠付きのタイミングで行った
何かを達成したわけでも、特別なスキルを身につけたわけでもない。「知らなかったことを知り、動くべきタイミングで動いた」だけだ。
まず、自分の今の市場単価を知ることから始めてほしい。スキル・経験年数・商流を入れると、現在の単価レンジと改善余地が確認できる。
同じように転職で単価が変わった事例を複数見たい方は「SES転職体験談まとめ|5人の単価・年収・後悔データを公開」へ。商流改善・スキル転換・フリーランス転向の3パターンで実際いくら変わるかは「SESから転職して単価が上がった事例と実数値」で解説している。