結論を先に書く。 Heydayが2024〜2025年に転職支援した23名のうち、約70%(16名)で月単価が上昇した。平均上昇幅は月10〜18万円。最大のケースは商流改善によって月25万の上昇だった。
「SESから転職すれば単価が上がる」——これは半分正しく、半分間違いだ。
私はHeyday株式会社で営業を担当している篠田だ。エンジニアの転職支援・案件マッチング・条件交渉を日常的に行っている。単価が大きく上がったケースも、ほぼ変わらなかったケースも、支援する立場から実際に数字を見てきた。
残り30%は単価が変わらなかった、あるいは下がったケースだ。その差はスキルよりも「商流」と「交渉の有無」にある。今日はその実態を数字で解説する。
- なぜ転職しただけでは単価が上がらないのか
- 単価が上がった事例1:商流改善型(Java/AWS・3年目)
- 単価が上がった事例2:スキル転換型(テスター→実装・26歳)
- 単価が上がった事例3:フリーランス転向型(React・34歳)
- 単価が上がらなかった・下がったケース(失敗パターン3つ)
- 転職タイミングと単価の関係(経験年数別データ)
- 転職前に確認すべき「5つの数字」
- よくある質問
- まとめ
転職したのに単価が変わらなかった、という相談を受けることがある。原因の多くは「会社を変えた」だけで「商流が変わっていない」ケースだ。
SES業界には「転職すれば単価が上がる」という通説があるが、実際にはそう単純ではない。Heydayで転職支援した結果を分析すると、単価が上がったケースと変わらなかったケースを分けた要因は「スキルの高さ」よりも「商流と還元率の改善」にある。
月単価は以下の3要素で構成される。
- スキル:エンジニアが市場で評価される技術力・経験値
- 商流:エンド企業→元請け→二次→三次……と続く発注構造の深さ
- 還元率:会社が単価のうち手取りに反映する割合
「転職 = 単価アップ」という等式は成立しない。正確には「商流が改善された転職 = 単価アップ」だ。
同じAWSエンジニアであっても、三次請けと直請けでは月単価に10〜20万の差が発生する。仕組みはシンプルで、間に入る会社が一社増えるたびにマージンが抜かれるからだ。エンド企業がエンジニアの工数に対して月80万を支払っていたとしても、元請け→二次→三次と間に入る会社が増えるほど、エンジニアの手元に届く金額は小さくなる。
商流の違いが手取りに与える影響を整理すると以下のようになる。
| 商流の深さ | 市場単価の目安 | エンジニア手取りの目安 |
|---|
| エンド直(直請け) | 月70〜90万 | 月40〜55万 |
| 二次請け | 月55〜70万 | 月30〜40万 |
| 三次請け | 月45〜60万 | 月25〜33万 |
※Java・AWS・経験3〜5年のエンジニアを想定した概算。Heyday支援案件データより。
スキルが同等でも、商流の違いだけで月10万以上の手取り差が生まれる。これを知らずに「転職したのに給与が上がらなかった」と感じているエンジニアは多い。
同じ商流深度であっても、会社が月単価の何%をエンジニアに還元するかによって手取りが変わる。
SES業界の一般的な還元率は60〜75%程度だが、会社によって大きく差がある。
- 還元率70%の会社 + 月単価60万 → 手取り月42万
- 還元率55%の会社 + 月単価60万 → 手取り月33万
同じ単価でも会社の還元率の差で月9万の手取り差が生まれる。「前の会社と月単価は同じなのに手取りが減った」という相談は、この還元率の違いが原因のケースが多い。
詳しくはSES商流とは|エンド直・元請け・多重下請けの違いと手取りへの影響を参照してほしい。また、現在の自分の市場単価の相場感を確認したい場合はSES単価相場一覧も参考になる。
- 年齢:29歳
- スキル:Java・AWS(SAA取得済み)・SES経験3年
- 転職前の商流:二次請け中心
- 転職前の月単価(会社受け取り):55万円
- 転職前の手取り:月31万円
- 転職先:直請けSES企業
- 転職後の月単価:70万円
- 転職後の手取り:月40万円
- 上昇幅:月単価+15万円、手取り+9万円
- 転職期間:約2ヶ月
スキルは転職前後でほぼ変化なし。AWS SAAはすでに取得済みだったが、現職の二次請け商流ではその資格が単価に反映されていなかった。直請けの会社に移ったことで、同じスキルが適正評価された。
転職活動の期間は約2ヶ月。並行して複数社の面接を受け、提示された単価の中から最も商流が浅く・還元率が高い会社を選んだ。転職先の選定基準を「単価の数字」ではなく「商流と還元率の仕組み」で見たことが正解だった。
本人の言葉を借りると「スキルを上げるより、今の会社の商流を変える方が早いと思った」という判断だった。
篠田コメント:このケースで特徴的なのは、スキルがほぼ同じなのに単価が15万上がったことだ。AWS SAA取得済みだったが、それが評価されるかどうかは案件の商流と会社の交渉力次第だった。「もっとスキルを磨いてから転職しよう」と先延ばしにしていたら、同じスキルで月9万円を毎月失い続けることになっていた。転職活動を始めると「今より高い単価を提示してくれる会社はいくらでもある」という現実を知ることになる。知ることで初めて、現職がいかにアンダーバリューしているかに気づく。
- 年齢:26歳
- スキル:テスト・QA中心。Python独学中(個人開発レベル)
- SES経験:2年
- 転職前の月単価:40万円
- 転職前の手取り:月23万円
- 転職先:Python実装案件に入れる環境のSES企業
- 転職後の月単価:50万円
- 転職後の手取り:月29万円
- 上昇幅:月単価+10万円、手取り+6万円
- 転職期間:約1.5ヶ月
転職時点での単価上昇は+10万円と控えめだ。このケースで重要なのは「単価」より「職種のシフト」にある。テスト中心の案件に入り続けても、3年後・5年後の単価上昇幅には限界がある。
テストエンジニアの市場単価は経験年数が増えても上昇曲線がなだらかになりやすい。一方、Pythonを使った実装経験があるエンジニアは、データエンジニアリング・バックエンド開発・AI連携など、需要の高いスキルへの横展開が可能になる。実装に関われる環境に移ることで、長期的なキャリアの軌道が変わった。
転職の基準を「今の単価」だけで設定しなかったことが、このエンジニアが最も正しかった判断だ。
転職直後は「月+10万」だが、2年後の単価が月70万を超えていれば、この転職の投資対効果は非常に高い。
篠田コメント:転職時点での単価上昇は+10万と控えめだが、3年後の単価は別の話になると思っている。テスト専門のまま転職しても同じことの繰り返しになりやすい。「今より少し高い単価」より「2年後・3年後に向けて環境を変えること」の方が、長期リターンが高いケースだった。キャリアの選択は「今の年収」よりも「3年後のオプション数」で判断することを勧めている。
- 年齢:34歳
- スキル:フロントエンド(React・TypeScript)・SES経験5年
- 転職前の月単価(会社受け取り):65万円
- 転職前の手取り:月36万円
- フリーランス転向後の月単価:85万円
- 手取り(経費・税引き後の純手取り):月50万円程度
- 上昇幅:月単価+20万円、手取り+14万円(概算)
- 準備期間:3ヶ月(案件獲得ルートの開拓含む)
中間マージンがゼロになったことによる手取りの改善が最大の要因だ。SES正社員では会社が単価の35〜45%程度を取るが、フリーランスではエージェントマージンの10〜15%のみが控除される。
ただし注意点もある。フリーランス転向は最初の1ヶ月に案件なし・収入ゼロのリスクがあった。また、税金・社会保険料の自己負担が増えるため、総支出が増える。
実態を示すと以下のようになる。
| 項目 | SES正社員時 | フリーランス転向後 |
|---|
| 月単価(会社受け取り) | 65万円 | —(直接契約) |
| エンジニアへの支払い | 月36万円(手取り) | 月85万円(税前) |
| 社会保険・税金 | 会社折半・源泉徴収 | 全額自己負担(年約130万円) |
| 実質手取り(年換算) | 約432万円 | 約600万円 |
| 空白期間リスク | ほぼなし | 案件切れで収入ゼロ |
篠田コメント:フリーランス転向は単価の絶対値は上がりやすいが、税金・保険料の自己負担・空白期間リスクを含めると、正社員比の実質手取り差は思ったより小さいケースもある。「月85万もらえる」という数字だけ見て転向すると、予想外の支出に驚くことになる。慎重に計算してから動くことを勧めている。
SESとフリーランスの実質手取りの詳細な比較はSES vs フリーランス|実質手取り比較に整理している。
Heydayが支援した23名のうち、約30%(7名)は単価が変わらなかったか、下がったケースだった。失敗パターンを3つに整理する。
成功事例だけを見ていても、自分が同じ結果になるとは限らない。失敗パターンを知ることで「やってはいけない転職の選び方」が見えてくる。
三次請けのSES企業から別の三次請けSES企業に転職したケース。単価は月2万円上昇したが、手取りはほぼ変わらなかった。
原因は転職先の商流深度が同程度だったことだ。「今より給与が高い会社に移る」という基準で転職先を選ぶと、このパターンに陥りやすい。
面接の場で「現在取り扱っている案件の商流は何次請けが中心ですか」と聞く人は少ない。しかし、この質問への回答が転職後の単価に直結する。「直請け案件が多い」と言いながら実態は二次請け以下ばかり、という会社も存在するため、具体的な案件例を見せてもらうことが有効だ。
確認すべきことは「転職先は何次請けの案件が中心か」「エンド直の案件割合はどのくらいか」という商流の深さだ。転職前に必ず確認してほしい。
提示単価をそのまま受け入れて入社したケース。スキルセットから算出すると、市場相場より月10万低い水準での入社だった。
SES業界の転職では、提示単価は「交渉の起点」であることが多い。最初の提示に対して理由を添えて交渉することで、月5〜10万の改善が得られるケースは少なくない。
交渉のポイントは「感情ではなく数字で話す」ことだ。「他社から月○○万の提示をもらっている」「自分のスキルセットで市場単価を確認したところ月○○万が相場だった」という根拠を示すことで、交渉が通りやすくなる。
また、転職エージェント経由でも「エージェントが交渉してくれない」ケースがある。エンジニア自身が数字を把握して交渉に臨むことが必要だ。
SES転職で後悔した人の共通点では、この交渉を省いて損をしたケースを複数まとめている。
スキルセットがCOBOL・特定業務系言語のみに偏っているエンジニアのケース。案件の絶対数が少なく、需要のある企業も限定的なため、転職先の選択肢が狭くなる。
このケースの問題は、単価が低いこと以上に「転職先の選択肢が少ないこと」にある。選択肢が少ないと、交渉力が弱くなり、提示条件をそのまま受け入れざるを得ない状況になりやすい。
単価上昇よりも「今後も案件を続けてとれるか」「市場性のあるスキルに移行できるか」という観点で転職を検討する必要があるケースだ。スキルの横展開を意識した転職先選定が重要になる。
Heydayの支援データ(n=23名、2024〜2025年)から、経験年数別に転職後の単価変化を整理した。
| 経験年数 | 単価が上昇した割合 | 平均上昇幅 |
|---|
| 1〜2年 | 約45% | 月+5〜8万円 |
| 3〜5年 | 約75% | 月+10〜18万円 |
| 5年以上 | 約65% | 月+8〜15万円(フリーランス転向を除く) |
経験1〜2年での転職は、単価上昇よりも「実装経験を積める環境に移れるか」を優先すべき時期だ。この時期の単価上昇幅が+5〜8万円と控えめなのは、スキルの絶対値がまだ市場で高く評価されにくいためだ。
ただし、テスト・下流工程のみの環境に留まるなら、2年目でも転職して実装に移ることが長期的な単価上昇に直結する。
経験3〜5年が最も転職で単価が上がりやすい理由は2つある。
1つ目は市場価値のピークにあること。この時期は「実装経験あり・上流も少し分かる」という汎用性が高い状態で、転職市場での需要が最も高い。企業側も「即戦力として活躍してもらえるが、まだ若い」という採用価値が高い人材として評価する。
2つ目はまだ現職に縛られていないこと。5年以上になると現場での役割が固定化され、「いなくなると困る」という状況を理由に引き止めが発生しやすい。また、現場の人間関係・文化に馴染みすぎることで、転職への心理的ハードルが上がるケースも多い。
3〜5年の時期に一度、商流と単価の見直しをする価値は非常に高い。
経験5年以上になると、正社員での転職単価上昇幅は緩やかになる傾向がある。一方で、フリーランス転向という選択肢の現実味が高まる。
ただし、フリーランス転向は単価の数字だけ見て判断するのは危険だ。事例3で解説したように、税金・保険料の自己負担を計算した「実質手取り」を正社員と比較することが不可欠だ。
転職のベストタイミングについてはSES転職タイミングはいつがベスト?に経験年数別のシグナルをまとめているので合わせて参照してほしい。
転職で単価アップを確実にするためには、活動開始前に以下の5つの数字を把握しておく必要がある。「なんとなく今の会社より良さそう」という感覚での転職判断が失敗につながる。数字を把握して動くことが、転職の精度を上げる。
-
現在の自分の市場単価:スキルセット・経験年数をもとに算出した適正単価。感覚ではなく数字で把握する。Heydayの診断ツールを使えば3分で確認できる。この数字を基準に、転職先の提示単価が適正かどうかを判断できるようになる。
-
現職の還元率:会社が受け取る月単価のうち、自分の手取りに何%が反映されているか。計算式は「手取り月収 ÷ 月単価(会社受け取り)」。50%を下回っていれば改善余地が大きい。自分の月単価が分からない場合は営業担当に確認するか、転職活動を通じて市場価値を把握することになる。
-
移転先の商流:転職先が取り扱う案件の大半が何次請けか。「エンド直案件の比率」を採用面接で確認する。「直請けが多い」という回答をもらっても、実際の案件例を2〜3件見せてもらうことでより正確に判断できる。
-
移転先の還元率または固定給の計算根拠:転職先がどのように給与を算出しているか。「単価連動型」か「固定給型」かによって、単価が上がったときの手取りへの反映度が変わる。単価連動型なら商流改善の恩恵を直接受けられるが、固定給型では単価が上がっても給与に反映されないケースがある。
-
転職活動中・入社直後の生活費:転職活動期間中の収入減・フリーランス転向時の収入空白を想定した現金残高。最低でも2〜3ヶ月分の生活費を確保してから動くことを勧めている。金銭的な不安があると、条件の悪い会社でも「とりあえず入社する」という判断になりやすい。余裕を持った状態で活動することが、転職の質を上げる。
上がるケースは多い。ただし条件がある。転職先の商流が現職より浅い(直請け・一次請け比率が高い)場合、または転職先の還元率が現職より高い場合に限られる。「SES企業から別のSES企業へ」という移動だけでは判断できないため、必ず商流と還元率を確認してから転職先を決めてほしい。
Heydayのデータでは、SES→SESの転職でも商流が改善されたケースでは平均月+8〜12万の単価上昇が見られた。商流を変えずにSES→SESで転職した場合は、単価の変化が±2万以内に留まるケースが多かった。
業種は関係ない。決め手は「商流の深さ」と「還元率」の2点だ。同じJavaエンジニアでも、直請けに移れば月10〜20万の単価差が生まれる。業種ではなく商流で選ぶことを強く勧めている。
「同じ業種・同じスキルで転職先の単価が上がる」という現実は、それだけ現職が商流の深いところにいたことの証拠でもある。
できる。転職後3〜6ヶ月の成果を根拠に交渉するケースは実際に多い。初回の提示単価がそのまま固定されると思っている人が多いが、実績を作ったあとに「次の案件更新時に単価を見直してほしい」と伝えることは通常の交渉として受け入れられやすい。
ただし、交渉のタイミングと根拠が重要だ。「在籍期間が長くなった」だけでは根拠にならない。「スキルが追加された」「担当案件の単価レンジが上がった」「市場での需要が高まった」という具体的な理由を添えることで交渉が通りやすくなる。
一概には言えない。エージェントによっては単価交渉を代行してくれるケースもあるが、「内定を出してもらうこと優先」でエンジニアの単価交渉を積極的にしないエージェントも存在する。エージェントの報酬は転職者の入社が確定した時点で発生するため、単価が低くても内定を出させる方向に動くインセンティブが働くことがある。
エージェントに依存せず、自分で市場単価を把握した上で交渉の場に臨む姿勢が重要だ。
「商流が変わったかどうか」が最大の差だ。スキルは同程度でも、直請けに移ることで月15万以上の単価差が生まれた事例を複数見ている。次いで「単価交渉をしたかどうか」。この2点が揃っていれば、転職で単価が上がる可能性は大幅に高まる。
逆に言えば、商流を確認せずに転職し、提示単価をそのまま受け入れた場合には、転職しても単価が大きく変わらないケースが多い。情報の非対称性が単価の差を生んでいる。自分の市場価値と商流の仕組みを理解した上で転職活動をすることが、単価アップを実現するための基本的な条件だ。
SESから転職して単価が上がるかどうかは、スキル習得量より「商流の深さ」と「単価の仕組みを把握しているか」で決まるケースが多い。同じJavaエンジニアでも、三次請けと直請けでは月10〜20万の差が当然のように存在する。
Heydayが2024〜2025年に支援した23名のデータを振り返ると、単価が上昇したケースの共通点は以下の3つだった。
- 転職先の商流が現職より浅かった(直請け・一次請け比率が高い)
- 転職前に自分の市場単価を把握していた
- 初回提示単価に対して交渉を行った
失敗したケースの共通点は「商流を確認せずに転職した」「提示単価をそのまま受け入れた」の2点に集約される。
「転職すれば単価が上がる」という通説は、適切な条件下では正しい。しかし、条件を整えずに動いた場合には期待した結果にならないことも多い。情報を持って動くことと、感覚だけで動くことの差が、転職後の単価差として現れる。
転職を考えているなら、まず自分の現在の市場単価を知ることが先決だ。感覚ではなく数字を把握した上で動くことが、転職で単価を上げる最初のステップになる。
SES転職体験談まとめでは、実際に転職したエンジニアの声をまとめている。実際にどのような判断で動いたかを知りたい場合は合わせて参照してほしい。
関連記事