キャリア・働き方16独自データあり

SES 転職しないで
キャリアアップできるか

小川将司
小川将司代表取締役

SES経営者として6年・面談実績300人超の立場で執筆

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この記事でわかること

  • 相談者の約60%は転職より先に案件変更・単価交渉を試みるべきケースだった
  • 転職しないで単価が上がった事例は実在する。案件変更で+15〜18万円のケースが複数ある
  • 商流が1次vs3次では最大月40〜50万円差。転職より商流改善の方がインパクトが大きいことがある
  • 転職後の後悔率は38%。転職を急いでも問題が解決しないケースは少なくない

この記事の対象: SESに在籍中で転職せずにキャリアアップできるか迷っているエンジニア(経験2〜6年・20〜30代中心)

「転職しないとSESではキャリアアップできない」——そう思っているなら、一度立ち止まってほしい。

答えを先に言う。転職しないでキャリアアップできるケースは、確実に存在する。ただし条件がある。その条件を正確に理解していないと、転職しても同じ問題を繰り返すか、転職しなくて良かったのに機会損失を生む。

この記事を読んでいる人の多くは、おそらくSES、このままでいいのか迷ったとき読む記事が示す「どちらに動くか」の判断基準をすでに知っているか、あるいは「転職しない」という方向で考え始めている段階だと思う。

この記事はその続きだ。「転職しないと決めた、あるいはそちらの方向で考えている——では具体的にどうやってキャリアアップするのか」を、60事例のデータをもとに整理した。


この記事を書いた人

  • 小川将司(Heyday株式会社 代表):SES業界6年、面談300人超。「転職しない方がいいですよ」と言った人数の方が、転職させた人数より多い。

この問いに答えられるのはなぜHeydayか

「転職しないでキャリアアップできますか?」という問いを、転職エージェントに聞いてはいけない。

理由はシンプルだ。転職エージェントは転職が成立することで報酬を得る。どれだけ中立を装っても、ビジネスモデルの構造上「転職させる方向」に結論が引っ張られる。「転職しなくていい」という結論は、転職エージェントにとって売上ゼロを意味する。その立場の人間が書いた記事を読んで判断するのは、構造的に無理がある。

一方、SES経営者に聞くのはどうか。これも注意が必要だ。エンジニアの採用を増やしたいSES会社が書く記事は、「うちに来てほしい」というメッセージになりやすい。「転職してHeydayに来て」という方向に誘導されるリスクがある。

Heydayがこの問いに答えられる理由は少し違う。エンジニアに「転職しない」という結論を出してもらっても、Heydayの収益には直接的な影響がない。案件変更・単価交渉・商流改善——これらはHeydayが支援する相談の中心で、転職させることとは別のビジネスだ。

だから「転職した方がいい」という場合も「転職しなくていい」という場合も、等価に答えられる。これがこの問いに答えられる唯一の理由だ。

実際の数字を示す。Heydayで面談した300人超のうち、**約60%は「転職より先に案件変更・単価交渉を試みるべきケース」**だった(2026年1〜3月・n=60以上)。転職エージェントに相談したら、その60%全員に「転職しましょう」と言われていたはずだ。

「転職しないでキャリアアップ」が成立するケースとしないケース

転職しないでキャリアアップが成立するかどうかは、次の条件で決まる。

成立する3条件

条件1:会社が案件変更に動いてくれる

SESのキャリアアップで最も即効性があるのは案件変更だ。今のスキルセットのまま、より単価が高く・上流工程に関われる案件に移ることで、翌月から収入が変わる。

問題は、すべてのSES会社がこれに積極的かどうかだ。エンジニアが文句を言わない限り現状維持が最適、という判断をしている会社は存在する。「案件変更したい」と申し入れたときに、会社が動いてくれるかどうかがまず最初の判断基準だ。

条件2:商流を改善する余地がある

商流とは、エンド企業からSES会社・エンジニアまでの間に挟まる中間業者の数だ。1次請け(エンド直下)と3次請け(中間2社)では、同じスキルのエンジニアでも月単価が最大40〜50万円変わる(Heyday取り扱い案件データ・2026年1〜3月)。

この差は転職より大きいことがある。転職して年収が50万円上がることはそう簡単ではないが、商流改善で月40万円改善すれば年間480万円の差になる。

条件3:単価交渉の余地がある

多くのエンジニアが「単価は会社が決めるもの」と思っているが、交渉の余地は必ずある。Heydayの面談データでは、経験3年目のエンジニアの約6割が市場単価より10〜20万円低い単価で働いている(2026年1〜3月・n=60以上)。

交渉しないまま転職するのは、手を打たずに諦めるのと同じだ。

成立しない3条件(正直に書く)

条件1:会社に言っても3ヶ月以上動かない

案件変更・単価交渉を申し入れて、3ヶ月以上何も変わらない場合は会社の構造的な問題だ。この場合、転職しないでのキャリアアップは難しい。会社を変えるか(転職)、会社を変えないまま会社を変える(Heydayへの移籍など)しかない。

条件2:商流が固定されていて改善の話が通らない

会社と話しても「案件を変えると商流が浅くなって会社の利益が下がる」という理由で断られるケースがある。会社の利益とエンジニアのキャリアが構造的に対立しているなら、その会社に居続けることは難しい。

条件3:やりたい技術スタックがその会社で扱われていない

たとえばAI・クラウドのスキルを積みたいのに、会社の取引案件が全て保守・レガシーシステムの場合、案件変更しても希望の方向にはいけない。この場合はその会社でのキャリアアップではなく、会社選びから変える必要がある。

【一次データ】転職しないで単価が上がった3事例

面談・支援事例の中から、転職なしで単価が改善したケースを3つ紹介する。個人情報を守るため言語・年数・改善幅のみ記載する。

ケースA:Java開発3年目、案件変更で月額+15万円

Java開発3年・月単価62万円。保守案件中心で設計への関わりがなかった。Heydayへの相談後、1次請け案件への変更を打診。3ヶ月後に新案件でJava設計フェーズに参画、月単価77万円。転職なし、会社も変わっていない(案件だけ変わった)。

ケースB:Python保守→クラウド移行案件で+18万円

Python保守4年・月単価65万円。クラウド経験なし。AWS資格(SAA)取得後にAWS案件を打診、6ヶ月後にAWS移行プロジェクトへ参画、月単価83万円。転職なし。スキルアップと案件変更の組み合わせ。

ケースC:会社が動かず、転職が必要だったケース(対比として)

Spring Boot開発2年・月単価55万円。単価交渉を3回申し入れたが「評価タイミングでない」と先送りされ続け、8ヶ月動かなかった。この場合は転職を勧めた。転職後の月単価は72万円(+17万円)。

ケースCが示すのは、「転職しない」がベストな場合と「転職すべき」ケースが実際に分かれる、ということだ。一律に「転職しない方がいい」と言いたいわけではない。

なお、技術別の単価水準としては、Heydayの実案件データ(2026年1〜3月)では次のような差がある。

  • AI・クラウド系案件:月単価97〜106万円
  • 保守・レガシー系案件:月単価68万円前後
  • 設計工程経験あり:月単価83万円前後 vs 詳細設計のみ:69万円前後

案件変更一つで、この差に近づくことができる。

転職しないでキャリアアップする3つの方法

「転職しない」と決めた後の具体的な動き方を整理する。

方法1:案件変更(最も即効性が高い)

SESのキャリアアップで最も手っ取り早いのは案件変更だ。今の会社に在籍したまま、現場だけを変える。これで単価・スキル・人間関係のすべてが翌月から変わる可能性がある。

打ち手の順番

  1. 今の案件でできることを棚卸しする(言語・工程・クラウド経験の有無)
  2. 自分が狙いたい案件の条件を具体的に書く(工程・技術・商流・希望単価)
  3. 自社の営業担当に「〇〇条件の案件に移りたい」と具体的に申し入れる
  4. 3ヶ月で動かなければ、次の手(転社・転職)を検討する

ポイントは「現場が合わない」という抽象的な相談ではなく、「どんな案件に移りたいか」を具体化することだ。営業担当は具体的な条件がないと動けない。

案件変更の詳細な進め方はSESエンジニアのスキルアップ手順で詳しく解説している。

方法2:商流の改善(最もインパクトが大きい)

案件変更よりも大きなインパクトを生む可能性があるのが商流改善だ。商流が3次請け以下の場合、1次・2次に上がるだけで月40〜50万円の改善が起きることがある。

商流改善には3つのアプローチがある。

アプローチ1:会社ごと変える(転社)

1次・2次案件を多く持つSES会社への移籍。これは「転職」ではなく「正社員のまま会社を変える」ケースも含む。Heydayは1次・2次案件を中心に扱っているため、現在3次以下の環境にいる場合は相談先として有効だ。

アプローチ2:同じ会社で1次案件にシフトしてもらう

現在の会社が1次案件を取っているなら、自分をそこにアサインしてもらうよう申し入れる。会社にとっても1次案件の方がマージンが大きい場合があるため、意外と通ることがある。

アプローチ3:中間の取引先を飛ばす交渉

経験豊富なエンジニアで、エンド企業と直接面識がある場合に可能なケースもある。これは自社の協力が必要で、すべての状況で実行できるわけではない。

商流と単価の関係についてはSES一次案件の探し方と商流の仕組みで詳しく解説している。

方法3:単価交渉

転職や案件変更をしなくても、今の案件のまま単価を上げられる場合がある。

交渉に使える材料

  • 直近6〜12ヶ月のスキルアップ実績(資格取得・担当工程の拡大・新技術対応)
  • 市場単価との比較データ(市場単価診断ツールで確認できる)
  • 他社からのオファー(転職意向がなくても交渉材料になる)
  • 現案件での追加業務(後輩指導・技術選定への参加など)

交渉の進め方

  1. まず診断ツールで自分の市場単価を確認する
  2. 現在の単価と市場単価の差を数値で把握する
  3. 根拠(実績・市場比較)を持って営業担当か上長に申し入れる
  4. 「いくら欲しい」ではなく「市場相場は〇〇万円で、自分は今〇〇万円。根拠は〇〇です」と伝える

Heydayでは単価交渉のサポートも行っている。「どう交渉すればいいかわからない」という場合は相談してほしい。単価交渉の詳細な手順はSES単価交渉の進め方にまとめている。

転職しないキャリアアップのロードマップ(年数別)

「転職しない」と決めた場合、年数別にどう動くかの目安を整理する。

1〜3年目:スキルの基盤を作る時期

この時期に最もやるべきことは「スキルの積み上げ」と「商流の把握」だ。

単価交渉は、まだ根拠が薄い段階では難しい。それよりも、案件のポジションを少しずつ上げていくこと——実装から設計補助へ、詳細設計から基本設計へ——を意識する。

特に意識すべき技術領域:

  • AWS/GCP/Azureのいずれか1つ(SAA相当の実務経験)
  • AI関連ツール(LLMを使った開発経験が1件でもあると単価に影響する)
  • Java・Python・TypeScriptのいずれか(市場流動性が高い言語)

この時期に商流も確認しておく。今の案件が何次請けかを把握し、3次以下なら会社と商流改善の話ができるかを探る。把握していない場合はHeydayの診断ツールを使って市場単価との差を確認することから始めてほしい。

SES3年目の市場価値データでは、3年目エンジニアの単価分布と市場単価の乖離データを示している。

3〜5年目:単価交渉と商流改善の本番

3年以上の経験があれば、単価交渉の根拠が揃ってくる。Heydayのデータでは、経験3〜5年のエンジニアが最もキャリアアップの打ち手が多い時期だ。

この時期にやること:

  1. 市場単価の現在地確認:診断ツールで自分の相場を把握する
  2. 単価交渉の申し入れ:根拠付きで交渉し、反応を見る
  3. 案件変更の打診:上流工程・クラウド・AI案件へのシフトを申し入れる
  4. 会社の反応を評価する:3ヶ月動かなければ、次の選択肢に移る判断をする

この時期に「会社が動いてくれるかどうか」が、転職するかしないかの分岐点になる。動いてくれる会社なら転職しなくていい。動かない会社なら早めに会社を変えることが、長期的には損をしない判断だ。

SES30代でキャリアが詰む構造と対処法では、この時期に動かないリスクをデータで整理している。

5年目以降:上流化かフリーランス転換か

5年以上の経験があれば、選択肢が一気に広がる。

選択肢1:上流案件へのシフト

設計・要件定義・PM補佐などに関われる案件への移行。同じSES形態でも、工程が上流になるだけで月単価が20万円以上変わることがある。

選択肢2:フリーランス転換

AI・クラウド・アーキテクチャの経験があれば、フリーランスで月単価90〜120万円台の案件が存在する(Heyday 2026年Q1実案件データ)。ただし社会保険・税務・営業コストなど別のハードルがある。「やってみたい」という段階から相談できる。

選択肢3:事業会社へのキャリアチェンジ

この選択肢はSESからの転職になる。ただし、5年以上の経験があれば転職条件も大幅に改善する。「5年まで待ってから転職する」という判断は合理的だ。

転職しない選択をした方がいいサイン・転職を考えるべきサイン

状況判断
会社が案件変更の申し入れに動いてくれる転職しない方向で動く
商流改善の余地があり、会社が協力的転職しない方向で動く
単価が市場相場より10万円以上低いが、スキルが積めているまず単価交渉・案件変更を試みる
1〜3年目で今の案件でスキルが積めている今は我慢ではなく投資フェーズ
案件変更を申し入れて3ヶ月以上動かない転職を含めた選択肢を検討
商流改善の話が構造的に通らない(会社の収益と対立)会社を変えることを検討
やりたい技術を会社が扱っていない会社選びから変える
身体・精神に症状が2週間以上続いているキャリアより先に環境を変える

「このままでいいのか」という問いに対する判断基準の詳細はSES、このままでいいのか迷ったとき読む記事で整理している。この記事(転職しないでどう伸びるか)とは役割が違う。迷いが解消されていない段階は姉妹記事から読んでほしい。

転職を選ぶ場合のタイミング判断はSES転職タイミングの見極め方を参照してほしい。

よくある質問(FAQ)

Q. 案件変更したいと言ったら「今はない」と言われました。どう対処すればいいですか?

まず「今はない」という回答に対して、「いつ頃なら動けそうか」「具体的にどんな案件を探してもらえるか」を聞いてほしい。具体的な次のアクションが返ってこない場合は、本当に動く気がないか、案件のパイプラインが細いかのどちらかだ。その状態が3ヶ月続くなら、会社を変えることを検討するタイミングだ。Heydayで相談を受けることもできる。

Q. 転職しないでキャリアアップした人の割合を教えてください。

Heydayで面談した人のうち、「転職より先に案件変更・単価交渉・商流改善を試みるべき」と判断したのは約60%(2026年1〜3月・n=60以上)。そのうち実際に単価が改善した割合は個別追跡のため正確な数字は出ていないが、案件変更で+10〜20万円の改善は珍しくない。一方で、会社が動かず転職に至ったケースも存在する。転職後の後悔率は38%(同n=60)で、転職が常に最善解でないことを示している。

Q. 転職せずに月単価80〜90万円を目指すことはできますか?

可能だが、条件がある。AWS/GCP経験+設計工程参画+1次・2次請け案件——この3条件が揃うと月単価80〜90万円台が現実的な範囲に入る(Heyday実案件データ)。今の状況からどれだけ差があるかを確認するには市場単価診断が有効だ。

Q. Heydayへの移籍(転社)とは転職と何が違いますか?

雇用契約の変更を伴う点では転職と同じだ。違いは「今の会社に不満があって市場に出る転職」ではなく、「案件変更・商流改善のために会社を変える転社」という文脈になること。Heydayへの相談では、転職先の紹介ではなく「あなたの今の状況でどの選択肢が最善か」を整理することから始まる。

まとめ

転職しないでキャリアアップできるかどうかは、一律に答えられない問いだ。「できる」という答えも「できない」という答えも、条件次第で変わる。

整理すると次のようになる。

転職しないでキャリアアップできるケース

  • 会社が案件変更・単価交渉・商流改善に動いてくれる
  • 今の会社の取引案件に市場単価の高い領域(AI・クラウド・上流工程)が含まれている
  • 1〜3年目で今はスキルを積むフェーズにある

転職しないキャリアアップが難しいケース

  • 案件変更・単価交渉を申し入れても3ヶ月動かない
  • 商流が構造的に改善できない
  • 会社の取引案件が希望の技術領域にない

そして最も重要なのは、転職せずにキャリアアップするための打ち手は「案件変更」「商流改善」「単価交渉」の3つだということだ。この3つを試さないまま転職するのは、手を打てることを試さずに判断してしまっている。

転職後の後悔率38%(n=60)という数字は、転職自体が悪いのではなく、試せることを試さずに転職した結果の後悔を示している。

まず打ち手を試す。それでも動かなければ転職する。この順番が、後悔を減らすキャリアの判断プロセスだ。

SESキャリアパスの完全ガイドでは、案件変更・単価交渉・転職・フリーランス転換それぞれの移行難易度と年収変化をデータで整理している。あわせて確認してほしい。

まとめ

転職しないでキャリアアップできるかどうかは、今の会社が案件変更・単価交渉・商流改善に動いてくれるかどうかで決まる。まず動いてもらえるか試して、それでも動かなければ転職を考える順番が、後悔を減らす。

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この記事の著者

小川将司
小川将司

Heyday株式会社 代表取締役

SES経営者として6年・面談実績300人超の立場で執筆

Heyday株式会社 代表取締役。エンジニア・PM/PdMを経験後、SES事業を創業。複数クライアント現場でAI導入コンサルティングを担当。「ITをもっとフェアに」を掲げ、マージン構造の開示に取り組む。

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