「SES、このままでいいのかな」と思いながら、でも転職する決断もできずにいる——そういう人が、この記事を読んでいると思う。
その感覚は正しい。焦って動く必要はないし、かといってずるずると先送りにし続けていいわけでもない。転職エージェントには言いにくいことを、SES経営者として正直に書く。
この記事を書いた人
- 小川将司(Heyday株式会社 代表):SES業界6年、面談300人超。転職させた人数よりも「転職しない方がいいですよ」と言った人数のほうが多い。
この記事を書いた理由(なぜ転職エージェントには書けないか)
「SES このままでいいのか」と検索すると、上位に出てくるのは転職エージェントが書いた記事ばかりだ。
読んでみると、だいたい同じ結論になる。「SESは将来性がない」「スキルが身につかない」「早めに転職を」。
これは嘘ではないが、公正でもない。なぜなら転職エージェントは転職させることで報酬を得る。どれだけ中立を装っても、商業的な動機が「転職させる方向」に結論を引っ張る。これは個々のエージェントの善悪の話ではなく、ビジネスモデルの構造上の話だ。
一方、Heydayは少し立場が違う。SES経営者として、エンジニアを採用してプロジェクトにアサインすることで売上を立てている。つまり、エンジニアが「転職しない」という結論を出しても、Heydayには直接的な利害がない。
むしろ「今の環境を変えたい」という相談に対して、転職以外の選択肢——案件変更・単価交渉・商流の見直し——も含めて一緒に考えることができる。それがHeydayのポジションであり、この記事を書いた理由だ。
転職させたい人に「転職すべき?」と聞いても、答えは決まっている。だからこそ、転職させる動機を持たない立場で、この問いに向き合う必要があると思っている。
「このままでいいのか」という問いの2種類
「このままでいいのか」という問いは、実は2種類に分かれる。それを混同したまま行動しても、問題は解決しない。
環境の問題
今の会社・案件・商流・待遇が問題のケース。これは「転職」ではなく「環境を変える」ことで解決できる。具体的には次のようなものだ。
- 今の案件のスキルアップ機会が少ない → 案件変更で解決できる可能性がある
- 単価が市場より低い → 単価交渉または会社の変更で解決できる
- 商流が深すぎて情報が遮断されている → 商流改善または案件変更で対処できる
これらは転職しなくても解決できる場合が多い。そして転職しても「環境の問題」が残れば、転職先でも同じ悩みを繰り返す。
自分の問題
エンジニアとしての市場価値・スキルの方向性・キャリアの目標が問題のケース。これは環境を変えるだけでは解決しない。
- 何をやりたいかが自分の中で決まっていない
- 今の技術スタックでは目指すポジションに届かない
- 独立・フリーランス・事業会社など、SES以外の働き方を本当に求めている
こういった「自分の問題」は、転職先を変えても持ち越す。まず自己認識を深めてから、環境を選ぶ順番が正しい。
面談300人超の経験から見ると、「このままでいいのか」と相談に来た人の約60%は「環境の問題」が主因で、転職より先に案件変更や単価交渉を試みるべきケースだった。転職エージェントに相談したら、おそらくその全員に「転職しましょう」と言われていただろう。
SES経営者が見てきた「動かなくていい3パターン」
以下の3パターンは、面談した中で「今すぐ大きく動かなくてもいい」と判断したケースだ。パターンに当てはまる場合、焦って転職活動を始めるよりも、今の環境を最大限に活用することを先に考えた方がいい。
パターン1:単価は低いが商流が浅く、スキルが積めている
SESの単価は商流の深さに大きく左右される。1次請けと3次請けでは、同じスキルのエンジニアでも月額20〜30万円の差が出ることがある(Heyday取り扱い案件n=60以上のデータより)。
ただし、単価が低くても次のケースは焦る必要がない。
- 1次・2次請けの現場で、要件定義や設計に関われている
- AI・クラウド・アーキテクチャなど、単価が伸びる技術スタックを習得中
- 3〜6ヶ月のうちに単価交渉できる実績が積み上がっている状態
こういった状況にある経験3年以内のエンジニアには「今は我慢ではなく投資フェーズ。転職よりもスキルアップに集中して、6ヶ月後に単価交渉してから判断しましょう」と伝えることが多い。
実際に、1次請けAI案件で経験を積んだ後に単価交渉を行い、月額60万円台から80万円台に上げられたエンジニアがHeydayの支援事例にある。転職しなくても単価は上がる。
SES単価の詳細な相場データはSES単価の相場・決まり方を完全解説で確認できる。
パターン2:現場の人間関係は悪いが、案件変更で解決できる
「現場の人間関係がつらい」「今の案件の雰囲気が合わない」という相談は非常に多い。これは確かに深刻な問題だが、転職を要する問題ではないケースがほとんどだ。
SESの構造上の強みの一つは、案件を変えることで現場環境を変えられる点にある。正社員で同じ会社に勤め続ける場合と違い、SESエンジニアは案件を変えることで人間関係をリセットできる。
「上司がパワハラ気味で毎日が憂鬱」という相談を受けた場合、まず確認するのは「その上司はSESの現場の人間(クライアント側)か、自社の人間か」だ。
クライアント側であれば、案件を変えることで解決できる。自社側(自社の上司・営業担当)の問題であれば、会社を変える(転職)必要があるかもしれない。
問題の所在を特定せずに転職すると、転職先でも同じ問題を引き起こすリスクがある。
パターン3:転職したいが、市場価値をまだ上げられる余地がある
「転職したい」という気持ちがある一方、「今の市場価値でどこまでいけるか不安」という状態のエンジニアも多い。
このケースで確認するのは、今の案件で「あと6ヶ月スキルを積んだ場合の市場価値」と「今すぐ転職した場合の市場価値」の差だ。
経験3〜5年のエンジニアで、AI・クラウド・上流工程のいずれかに関われている状況であれば、6ヶ月後の方が転職条件が大幅に改善するケースが多い。単価にして月額10〜20万円の差が出ることもある。
「焦って転職市場に出るより、今の環境でスキルを積んでから動いた方が、同じ転職でも年収が違う」——これは面談の中で繰り返し伝えてきたことだ。
転職のタイミングの詳細はSES転職タイミングの見極め方を参照してほしい。
「今すぐ動くべき3つのサイン」
一方で、以下の3つのサインが出ているときは、早めに動くことを勧める。「様子を見る」がリスクになるケースだ。
サイン1:商流が3次請け以下で、1年以上変わっていない
商流の深さは、エンジニアの成長機会と単価の両方を決定的に左右する。
3次請け以下の現場では、技術的な意思決定から切り離され、「言われた通りに実装する」作業に特化しやすい。それが1年以上続いているとすると、スキルと単価の両方が停滞している可能性が高い。
判断基準として使ってほしいのは次の2点だ。
- 直近1年で、要件定義・設計・技術選定に関わった経験がゼロか1件以下
- 現在の月単価が、同スキル・同経験年数の市場相場より15%以上低い
この両方が当てはまる場合、会社に案件変更を申し入れて動きがなければ、転職を含めた選択肢を真剣に検討すべきだ。
サイン2:会社に言っても何も変わらない・変える気がない
単価交渉・案件変更・商流改善を自社に申し入れたにもかかわらず、3ヶ月以上何も動かない場合は構造的な問題がある。
SES会社の中には「エンジニアが文句を言わない限り現状維持が最適」という判断をしている会社も残念ながら存在する。そういう会社に居続けることは、エンジニアとしての成長機会の喪失に直結する。
相談してみて動かなかった場合、これは「環境の問題」ではなく「会社の問題」に分類が変わる。このケースでは、会社を変える(転職)以外の選択肢はほぼない。
「まだ試していないなら、まず会社に言ってみてほしい」——それが誠実な回答だ。
言っても動かなかったときに、初めて転職の話になる。
サイン3:身体・精神に症状が出ている
これは他の全ての基準より優先される。
睡眠障害・食欲不振・慢性的な気力の低下・出勤前の強い拒否感——こういった症状が2週間以上続いているなら、キャリアの最適解を考える前に、まず環境を変えることを最優先にすべきだ。
「もう少し頑張ろう」「辞めるタイミングを見計らおう」という判断が、取り返しのつかない状態を招くリスクがある。
この状態にある場合、転職・案件変更・休職、どの選択肢であれ「今の環境から離れること」が第一優先だ。Heydayに相談してもらえれば、状況に合わせた選択肢を一緒に考える。
「転職」以外の選択肢を知っているか
「このままでいいのか」という問いに「転職するしかない」と答えるのは、選択肢を半分しか知らない状態だ。
転職エージェントが教えてくれない選択肢を、Heydayは教えられる。
案件変更
SES会社に在籍したまま、現場だけを変える。スキル・単価・人間関係のすべてが改善できる可能性がある最も低コストの選択肢だ。「転職よりもまず案件変更を試してほしい」と相談の場で最もよく言う言葉がこれだ。
自社に案件変更を申し入れても動かない場合は、Heydayへの移籍(転社)という選択肢もある。
単価交渉
多くのエンジニアが「単価は会社が決めるもの」と思っているが、交渉の余地は必ずある。特に直近1年でスキルアップした実績がある場合や、他社からオファーがある場合は、交渉材料として使える。
Heydayでは、エンジニアの単価交渉をサポートする体制がある。「いくら言えばいいかわからない」という場合は相談してほしい。SES単価のリアルな相場データを持った上で交渉すると、根拠を持って話せる。
商流改善
今の案件を変えず、商流だけを変える交渉だ。直接クライアントと契約できる状況があれば、中間のマージンが消え、手取りが大きく改善することがある。
これはSES会社側の協力が必要なため、すべての状況でできるわけではないが、Heydayが一次・二次請けの案件を多く持っている理由の一つがこれだ。
フリーランス転換
経験5年超・AI・クラウド・上流工程のスキルがあるエンジニアなら、フリーランス転換によって月額単価が20〜40万円改善するケースもある(Heyday 2026年Q1実案件データ: AI系フリーランス案件90〜120万円台)。
ただしフリーランスには社会保険・税務・営業コストなど別のハードルもある。転職と同様、「やってみたい」という段階から相談できる。
SESキャリアパスの完全ガイドでは、選択肢ごとのリアルな移行難易度と年収変化をデータで整理している。
よくある質問(FAQ)
Q. 転職エージェントに相談するのと、Heydayに相談するのは何が違いますか?
転職エージェントは転職が決まることで収益を得る。そのため、相談の出口が「転職先の紹介」にほぼ限定される。Heydayは転職させることに直接の利益がないため、案件変更・単価交渉・商流改善・フリーランス転換・転職すべてを等価に提示できる。「転職しない方がいい」という結論を出しても、Heydayのビジネスには影響がない。
Q. まだ転職を決めていなくても相談できますか?
むしろ「まだ決めていない」段階での相談がいちばん価値がある。転職を決めた後では選択肢が転職先の絞り込みしかないが、迷っている段階では選択肢が最も広い。「このままでいいのかわからない」という状態のまま来てもらって構わない。
Q. 「このままでいい」と判断した場合、次に何をすべきですか?
判断の基準は「何が変えられて、何が変えられないか」を明確にすることだ。今の環境で変えられることのリスト——案件変更交渉・単価交渉・スキルアップの方向性——を具体的に書き出してほしい。「変えられることを試してから、それでもダメなら動く」という順番が、後悔を減らす判断プロセスだ。まず診断ツールで自分の市場単価を確認し、現在地を把握するところから始めるのも有効だ。
Q. 「SES 将来不安」で検索してみると、SESの未来を否定する記事が多いです。本当にSESに将来性はないのですか?
SESという業態が消えることはない。一方で、低商流・低単価の案件に固定されたまま時間を過ごすことのリスクは実在する。「SESに将来性があるかどうか」より「あなた自身が今の環境でスキルと単価を伸ばせているか」が本質的な問いだ。業態の将来より、自分のキャリアの方向性を管理することに集中してほしい。SES業界の将来像についてはSES業界の将来・2030年の展望で詳しく解説している。
Q. 「SESを辞めたい」と思っているのですが、辞める手順はどうすればいいですか?
辞めることを決めた場合の具体的な手順——誰に・いつ・どの順番で伝えるか、有給消化の進め方、引き止めへの対処——はSES辞めたい人への退職手順ガイドにまとめている。
まとめ
「このままでいいのか」という問いに、「転職すべき」「続けるべき」という二択で答えることはできない。
大事なのは判断基準を持つことだ。
- 動かなくていいパターン:単価は低いがスキルが積めている・案件変更で解決できる問題がある・もう少しスキルを積んでから動いた方が転職条件が改善する
- 今すぐ動くべきサイン:商流が3次以下で1年以上固定・会社に言っても動かない・身体・精神に症状が出ている
そしてもう一つ。「転職か残留か」の二択以外に、案件変更・単価交渉・商流改善・フリーランス転換という選択肢があることを忘れないでほしい。
転職エージェントはこれを教えてくれない。でもHeydayは教えられる。
迷っているなら、まず相談してほしい。「転職すべきか教えてください」ではなく「何が変えられるか一緒に整理してほしい」——その相談を、Heydayは待っている。