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単価・データ

SES単価交渉術|契約更新タイミングで月10万上げるための準備と交渉スクリプト

小川将司
小川将司代表取締役

IT業界12年・SES事業6年・100名以上の単価交渉に関わった経営者

この記事でわかること

  • 単価交渉の失敗パターン(根拠なし・タイミングミス)とその対策
  • 契約更新3ヶ月前を狙う理由と交渉の仕組み
  • 市場データ・スキル棚卸し・商流確認の3つの準備
  • 営業担当への伝え方・断られたときの返し方(スクリプト付き)
  • 単価交渉が通りやすい企業・通りにくい企業の構造的な違い

この記事の対象: 今の単価に不満はあるが、交渉の仕方がわからないSESエンジニア

この記事にはHeydayの独自データが含まれています

SES単価交渉で月10万円上がる人と、何年経っても同じ単価の人の差は、スキルではない。準備とタイミングの差だ。

Heyday株式会社の代表として6年間SES事業を経営し、100名以上のエンジニアの単価交渉の現場に関わってきた。その経験から言えば、交渉に失敗するエンジニアのほとんどは「正しい準備をして、正しいタイミングで動けていない」だけだ。スキルが低いわけでも、相手の企業が意地悪なわけでもない。

この記事では、単価交渉の失敗パターンから始まり、契約更新の仕組み、交渉前に揃えるべき3つの武器、実際の交渉スクリプト、そして「交渉が通る企業・通らない企業の構造的な違い」まで、現場レベルで使える情報を全部書く。

まず自分の市場単価を把握しておきたい方は、診断ツールで確認してほしい。


SES単価交渉で失敗する人のパターン

失敗するパターンは大きく2つある。

「なんとなくお願い」は交渉ではない

「そろそろ単価上げてほしいんですが……」という依頼を営業担当に投げるエンジニアは多い。しかし、これは交渉ではない。お願いだ。

営業担当はエンドクライアントや元請けに「なぜ単価を上げる必要があるのか」を説明しなければならない。その際に必要なのは、感情的な依頼ではなく数字で語れる根拠だ。「現場での担当範囲が広がった」「AWSの資格を取った」「市場相場では同スキルセットで月○○万円が平均」——このような事実を伝えられないと、営業担当が動けない。

Heydayで関わってきた交渉の中で、根拠なしの依頼が通ったケースはほぼゼロだ。逆に、きちんと数字を準備して依頼してきたエンジニアの交渉成功率は高い。

タイミングを間違える

最も多い失敗が、契約更新後に交渉を依頼するケースだ。

SESの契約は通常3〜6ヶ月ごとに更新される。この更新タイミングが、単価を変えられる唯一の機会だ。更新が決まった後に「次から単価を上げてほしい」と言っても、交渉の余地はほとんどない。クライアントとの金額はすでに確定しているからだ。

次に多い失敗が、更新の直前(1〜2週間前)に申し出るケースだ。交渉を通すためには、営業担当がクライアントや元請けと調整する時間が必要で、この調整には通常1〜2ヶ月かかる。直前では物理的に間に合わない。


交渉のベストタイミング:契約更新3ヶ月前の法則

SES経営者の立場から断言する。単価交渉の依頼は、契約更新の3ヶ月前が最適だ。

なぜ3ヶ月前なのか

SESの単価交渉は以下のステップで進む。

  1. エンジニアが営業担当に交渉依頼を出す
  2. 営業担当が社内の決裁を得る(所属企業の上長承認)
  3. 元請け・エンドクライアントに単価改定の打診をする
  4. クライアント側の予算確認・承認プロセスが動く
  5. 双方合意の上で契約書の変更が完了する

この一連のプロセスには、スムーズにいっても1〜2ヶ月かかる。交渉が難航すれば2〜3ヶ月以上かかることもある。3ヶ月前に動き始めれば、交渉が長引いても次の更新タイミングに間に合う計算になる。

契約更新の仕組みを理解する

SESの契約更新は、多くの場合「特に申し出がなければ同条件で更新」という形で動いている。つまり、黙っていれば単価は変わらない。 自分から動かない限り、何年経っても同じ単価で更新され続けるのが現実だ。

まず自分の契約が何ヶ月ごとに更新されているかを確認してほしい。3ヶ月更新なら年に4回、6ヶ月更新なら年に2回が交渉チャンスだ。次の更新日から逆算して、今すぐ動くべきかを判断してほしい。


交渉前の準備:3つの武器を揃える

交渉に臨む前に、以下の3つを準備する。この3点セットが揃っていれば、営業担当が動きやすくなる。

武器1: 市場単価データ

自分のスキルセットに対する市場相場を数字で把握する。「なんとなく安い気がする」では交渉にならない。

Heydayの2026Q1実案件データに基づく言語別相場は、SES単価アップ完全ガイドに掲載している。たとえば Java経験5年であれば相場は65〜90万円、Go経験5年なら75〜110万円だ。自分の言語・経験年数でのレンジを確認して、現在の単価との乖離を数字で把握してほしい。

言語や経験年数だけでなく、クラウド経験や上流工程の有無も単価に影響する。AWS実務経験で月+8〜15万円、要件定義経験で月+10〜15万円の上乗せが市場では発生している。これらの加点要素を持っているなら、ベース相場より高い数字を根拠として使える。

市場単価の個別算出は、以下の診断ツールで3問答えるだけで確認できる。

武器2: 自分のスキルの棚卸し

現在の案件で担っている業務範囲を整理する。特に、当初の契約範囲を超えた業務を担っている場合は、最も強力な交渉材料になる。

以下の項目を書き出してほしい。

  • 入場当初の担当業務(例: バックエンドAPI実装)
  • 現在の実際の担当業務(例: APIに加えてインフラ設計も担当、PMに近い役割も一部)
  • 取得した資格(AWS SAAなど)
  • 案件を通じて習得した新スキル(Kubernetes、Terraform等)
  • PM・PL・テックリードに近い動きをしているか

「当初の契約からここまで業務が広がりました」という事実を示せると、クライアント側も「確かにこれだけやってもらっているなら」という判断がしやすくなる。

なお、クラウド経験や上流工程の市場評価については、SES単価の相場一覧のスキルプレミアムの項目に詳しい数字がある。

武器3: 現在の商流の深さを把握する

現在の案件が何次請けかを確認する。SES商流の仕組みで詳しく書いたが、商流が1段階深くなるごとに月額10〜15万円が中間マージンで消える。

3次請けの案件にいる場合、スキルが上がっても単価の天井が構造的に低い。もし現在の商流が2次以上深ければ、単価交渉と並行して「商流の浅い案件に移る」という選択肢も交渉カードになる。「他で条件の良い案件の話がある」という事実は、交渉に現実的な重みを加える。

還元率の計算方法も事前に把握しておくと、自社の還元率が業界水準に対して高いか低いかを判断できる。


交渉スクリプト(実際の会話例)

準備が整ったら、営業担当に伝える。以下は実際に使えるスクリプトだ。

営業担当へのメール文例

件名:次回契約更新での単価改定についてご相談

○○さん

お世話になっています。

現在の契約更新が□□月末に予定されていると思いますが、
次回の更新に向けて単価の改定についてご相談させてください。

理由は3点です。

1. 担当業務の拡大
   入場当初はバックエンドAPIの実装が主な業務でしたが、
   現在はインフラ設計(AWS ECS/RDS)とコードレビューも担当しており、
   当初の契約範囲から業務が広がっています。

2. スキルの追加
   今年2月にAWS SAAを取得しました。
   現在の案件でも実務として活用しています。

3. 市場相場との比較
   Java経験5年・AWSスキルありの市場相場は72〜85万円程度です。
   現在の単価との差分を確認し、改定をご検討いただけますか。

具体的には月○万円を目標にしていますが、
まずはご状況を確認させてください。

よろしくお願いします。

口頭の場合も同じ3点を準備しておき、会話の中で順番に伝える。「なんとなくお願い」にならないよう、数字と事実を先に話すことを意識してほしい。

断られた場合の返し方

「クライアントとの交渉が難しい」と返ってきた場合、以下の問いを返す。

  • 「具体的にどういう理由で難しいのか教えてもらえますか?」
  • 「全額は難しくても、一部改定の余地はありますか?」
  • 「次の更新では対応可能でしょうか?その場合、今から何を準備すれば交渉が通りやすくなりますか?」

理由を明確にしてもらうことが重要だ。「予算がない」という場合は構造的な問題の可能性があるが、「クライアントへの説明材料が足りない」という場合は追加の根拠を準備することで解決できることがある。

断られた場合でも、すぐに諦める必要はない。「では次の更新(3〜6ヶ月後)に向けて今から準備したい」と伝え、具体的な条件を確認しておく。

転職カードをちらつかせるタイミング

転職カードは最後の手段だ。交渉の最初から使うと、関係が壊れるリスクがある。

「他で条件の良い話が来ている」という話は、交渉が行き詰まり、2回以上断られた後に、事実として伝える文脈で使う。「だから上げてほしい」という圧力ではなく、「こういう状況なので、判断材料として正直にお伝えしています」というトーンが適切だ。

実際に転職の話を持っていない状態でこのカードを使うことは勧めない。「では転職を進めてください」と言われた場合に、自分が困る。転職のタイミング判断については別記事で詳しく書いているので、選択肢として本格的に検討しているなら先に読んでほしい。


単価交渉が通りやすい企業・通りにくい企業の違い

同じ準備をしても、所属企業によって交渉の通りやすさは大きく異なる。

単価を公開している会社は交渉の余地がある

契約単価をエンジニアに開示している企業は、単価交渉においても正当な根拠を受け入れる文化を持っていることが多い。「現在の受注単価は○○万円で、還元率は○%です」と明確に伝えてくれる企業は、エンジニアが市場相場と比較して交渉できる環境がある。

逆に、「単価は言えない」「会社の方針で開示できない」という企業は、エンジニアが交渉根拠を持てない構造になっている。自分の案件が何次請けか、受注単価がいくらかを知らないまま「安い気がする」と感じても、具体的な交渉材料を作れない。

マージン率を言わない会社での交渉限界

マージン率を一切開示しない企業では、交渉に構造的な限界がある。クライアントから受け取った単価の何%が自分に届いているかを知らない状態では、「どこに改善の余地があるか」を特定できないからだ。

SES企業のマージン開示の実態でも書いたが、マージン率を非開示にすること自体は違法ではない。ただ、透明性がない企業では、エンジニア側が情報格差の中で交渉しなければならない。この状況で交渉が長期的に通りにくいと感じるなら、企業を変えることが最も根本的な解決策になる。

Heydayのスタンス:「単価は交渉じゃなく計算で決まる」

Heydayでは、単価交渉を「エンジニアが頑張って勝ち取るもの」とは考えていない。

市場相場・スキルセット・商流の深さ・クライアントの予算、この4つの数字が揃えば、適正単価は計算で出てくる。感情的な駆け引きではなく、数字のすり合わせが単価交渉の本質だという考え方だ。

Heydayでは契約更新のたびに全員の単価を見直す体制を取っている。「言わなければ上がらない」という構造をそもそも作らないことが、正しい運営だと思っている。


小川代表コメント

「単価交渉というより、市場価値の確認作業だと思っています。エンジニア本人が自分のスキルセットに対する市場相場を把握して、数字で伝えれば、感情論にならない。営業担当もクライアントも、根拠がある話には動きやすい。逆に言えば、準備なしでお願いしても誰も困るだけです。Heydayではエンジニアに単価を開示しているのも、自分の数字を自分で判断できる状態を作るためです」

— 小川将司(Heyday株式会社 代表取締役)


よくある質問

Q. 単価交渉をすると、現場の雰囲気が悪くなりませんか?

交渉は所属企業の営業担当を通じて行うものだ。エンジニアが直接クライアントに単価を交渉することは契約上ない。営業担当への依頼が適切に行われる限り、現場の雰囲気に影響することは通常ない。

ただし、「もし交渉が通らなければ転職する」という態度を前面に出すと、現場との関係に影響が出ることがある。交渉はあくまで根拠ベースで行い、現場でのパフォーマンスは変えないことが基本だ。

Q. 交渉でいくらまで上げることを要求してもいいですか?

市場相場のレンジの上限を超えた要求は、根拠を作りにくい。Heydayの2026Q1データでは、たとえばJava5年のレンジは65〜90万円だ。現在60万円なら「75〜80万円を目標に」という要求は根拠を持てる。しかし「100万円にしてほしい」という要求は、それを支える実績(要件定義経験・PL経験・希少スキルの組み合わせ等)がなければ通らない。

まず自分の市場相場を確認した上で、「現在の単価から市場レンジの中央値まで」を目標に設定するのが現実的だ。

Q. フリーランス転向も選択肢ですが、まず交渉を試すべきですか?

正社員のまま交渉を試みることと、フリーランス転向を検討することは並行して進められる。交渉が2回以上通らない場合や、マージン率が構造的に高い企業に所属していると判明した場合は、フリーランス転向の判断基準を改めて確認することを勧める。

年収600万円台では正社員とフリーランスのどちらが有利かは個人の状況次第だが、800万円超を目指す場合はフリーランス化が現実的な選択肢になる。SES vs フリーランスの手取り比較で数字レベルで確認してほしい。


まとめ

SES単価交渉で月10万円上げるために必要なことをまとめる。

  1. 根拠を揃える — 市場相場データ・スキル棚卸し・商流の確認の3点セット
  2. タイミングを押さえる — 契約更新の3ヶ月前に営業担当へ依頼する
  3. 数字で伝える — 感情的なお願いではなく、具体的な事実と数字を提示する
  4. 断られた場合も続ける — 理由を確認して次の更新に備える

「単価が上がらない」と感じているなら、まずは自分の市場相場を確認することから始めてほしい。相場を知ることで、交渉の根拠が作れる。


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まとめ

単価交渉は感情論ではなく、データと構造の話だ。市場相場を把握し、自分のスキルと商流を整理した上で、契約更新3ヶ月前に営業担当に伝える。この3点が揃えば、多くのケースで月5〜10万円の改善は現実的な範囲に入る。

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小川将司

この記事の著者

小川将司

Heyday株式会社 代表取締役

IT業界12年・SES事業6年・100名以上の単価交渉に関わった経営者

Heyday株式会社 代表取締役。エンジニア・PM/PdMを経験後、SES事業を創業。複数クライアント現場でAI導入コンサルティングを担当。「ITをもっとフェアに」を掲げ、マージン構造の開示に取り組む。

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