SESエンジニアが年収交渉を避けるのには理由がある。
「言い出しにくい」「断られたら関係が悪くなる」「そもそもどう交渉すればいいかわからない」。
この3つが絡み合って、交渉しないまま何年も同じ給与で働き続けるパターンは非常に多い。
私はSES企業を経営し、300人以上のエンジニアのキャリアに関わってきた。
交渉を持ちかけてくるエンジニアも見るし、何も言わずに不満を溜めて辞めていくエンジニアも見る。
後者の方が圧倒的に多い。
ひとつ先に言っておくと、Heydayでは契約単価を稼働前にエンジニア本人に開示している。つまり「自分の単価がいくらか」を最初から知っている状態が前提だ。この前提があると、年収交渉は「情報の非対称性を埋めるための交渉」ではなく、「市場単価とのギャップを根拠にした対話」になる。しかし多くのSES企業ではこの前提がない。だからこそ、交渉の構造を知っておくことが重要になる。
SES業界の特性上、年収交渉には「構造を知っていること」が武器になる。
タイミング・根拠・言い方・断られたときの選択肢——この4点を具体的に整理する。
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SES年収交渉の基本構造:誰に、何を、どのタイミングで交渉するか
SESエンジニアの年収交渉が難しいのは、「交渉相手が複数存在する」からだ。
交渉相手は誰か
SESの給与は、基本的に「契約単価 × 還元率」で決まる。
そのため、年収を上げるには次の2つのアプローチがある。
- 自社(SES企業)と給与交渉する:契約単価は変わらず、還元率を上げてもらう
- 案件の単価を上げてもらう:営業担当を通じてクライアントとの単価交渉を動かす
多くのエンジニアは「給与を上げてほしい」という要求だけ伝えて終わる。
しかし効果的な交渉は「どちらの数字を動かす交渉なのか」を明確にした上で臨む。
両者は連動していることも多いが、手順と相手が違う。
「市場単価」を知ることが交渉の前提条件
交渉で最も力を持つ根拠は「市場相場」だ。
「もっと給与を上げてほしい」という要求は感情論になる。
「私のスキルセットは市場では月〇〇万円の単価がつく。現在の単価・還元率だと乖離がある」は数字の話になる。
市場単価を知らずに交渉テーブルに座ることは、原価を知らずに値引き交渉する買い手と同じだ。
相手ペースになる。
まず自分のスキルが市場でいくらの単価をつけるかを確認することが、すべての交渉の出発点だ。言語別の詳細な単価データはJavaエンジニア単価ガイドやPythonエンジニア単価マップなどを参考にしてほしい。
交渉に最適なタイミング4選
年収交渉のタイミングは選べる。むしろ選ばなければならない。
「いつでも言える」と思っていると、結果的に「いつまでも言えない」になる。
タイミング1:案件更新の交渉時期(最重要)
SESの契約は通常3〜6ヶ月ごとに更新される。
この更新タイミングが、年収交渉の「ゴールデンタイム」だ。
クライアントが単価を更新する判断をするのと同じ時期に、自社との給与交渉も行う。
営業担当が「更新か終了か」の調整に動いているこのタイミングが、単価交渉が最もしやすい。
具体的なタイミング:契約更新の1〜2ヶ月前に担当者に連絡を入れる。
「次回更新について、単価・給与の見直しをご検討いただきたいです。理由をお伝えしたいのでお時間をいただけますか」
この一言で交渉の場を設定できる。
タイミング2:案件変更・新規アサイン前
現在の案件が終了して次の案件を探しているタイミング(アベイラブル期間)も、交渉機会だ。
「次の案件のアサインと同時に、給与の見直しをお願いしたい」という形で、入場前の条件交渉として行う。
このタイミングの強みは、案件を受けるかどうかの決定権が自分にある点だ。
「この条件なら入ります」という形での交渉ができる。現在の案件から離れるタイミングとしては契約更新時の辞退が最も円滑で、具体的な断り方と注意点を事前に理解しておくとスムーズだ。
タイミング3:スキルアップ・資格取得後
AWS認定試験・PMP・情報処理技術者試験など、市場価値を高める資格を取得した直後は交渉チャンスだ。
「AWSソリューションアーキテクト(プロフェッショナル)を取得しました。これにより市場単価が上がっていると考えています。給与への反映をご相談したい」という形で切り出しやすい。
重要なのは、取得後すぐに動くことだ。
「そのうち言おう」と思っているうちに、資格は「取得済みの当たり前の要素」として扱われ始める。
タイミング4:市場単価との乖離を確認したとき
転職サイトの案件情報・フリーランス向けエージェントの案件単価・同スキルの求人給与などを調べ、自分の現在の年収と明確な乖離を発見したとき。
「市場調査をしたところ、私のスキルセットでは月○○〜○○万円の案件が複数見つかりました。現在の処遇との差を確認したく、話し合いの機会をいただけますか」という形で、感情ではなくデータで交渉を開始できる。
市場単価を根拠にした交渉スクリプト
交渉の「言い方」で結果が変わる。
実際に使える台詞レベルで整理する。
ステップ1:交渉の場を設定する
NG例(感情で切り出す)
「正直、給与に不満があって……もう少し上げてもらえませんか?」
この言い方は交渉ではなく「お願い」だ。
相手にYes/Noの裁量を全部渡してしまう。
OK例(事実で切り出す)
「キャリアについて少し確認したいことがあります。15分ほどお時間をいただけますか?案件更新の前にご相談したいことがあります」
まず「場を設定する」ことに集中する。
内容は面談の場で話す。電話やチャットで全てを解決しようとしない。
ステップ2:根拠を提示する
面談の場で使うスクリプト。
「現在の私のスキルセット(Javaバックエンド5年・AWS経験・基本設計経験あり)で、市場の案件単価を確認しました。複数のエージェントやフリーランス向けサービスで、月70〜85万円の案件が複数見つかっています。現在の単価・還元率を踏まえると、市場相場との差が出始めていると感じています」
ポイントは3点だ。
- 自分のスキルを具体的に列挙する(「経験5年です」ではなく、スタック・工程・年数を出す)
- 市場単価の根拠を示す(「気がします」ではなく「複数の媒体で確認しました」)
- 今の条件との差を説明する(感情でなく数字の話にする)
ステップ3:具体的な要求を伝える
「現在、月収が○○万円ですが、市場相場と照らし合わせると○○万円程度が適切と考えています。単価交渉が難しい場合でも、還元率の見直しでご対応いただけないでしょうか」
要求は「いくら欲しいか」を数字で言う。
「もう少し」「それなりに」という曖昧な言い方は交渉を難しくする。
また、「単価交渉か還元率交渉か、どちらが動かせるか」を相手に選ばせる形にすると、交渉が前に進みやすくなる。
ステップ4:期限を決める
「次回の更新(○月)を目処に回答をいただけますか。その結果に基づいて今後の方向性を考えたいと思っています」
期限を設けることで、相手側の意思決定が促される。
「後で検討します」が「検討中のまま3ヶ月が過ぎた」にならないようにする。
断られたときの3つの選択肢と判断基準
交渉が断られた場合、感情で動かないことが重要だ。
3つの選択肢を冷静に評価する。
選択肢1:スキルを上げて再交渉する
断られた理由が「現状のスキルでは市場単価に届いていない」だった場合、これが最適な選択肢だ。
「今後6ヶ月以内に○○を習得した場合、見直しをご検討いただけますか?」と条件付きの再交渉のルートを開けておく。
具体的なアクション:資格取得・技術書購入・個人開発のポートフォリオ作成などで、6ヶ月後の交渉材料を作る。
選択肢2:案件を変える
同じSES企業に在籍したまま、単価の高い案件に移ることで実質的な年収アップを目指す。
「単価の高い案件にアサインしてもらえれば、それで解決できます。現在どんな案件が動いていますか?」という形で、交渉の軸を「給与」から「案件」に変える。
単価を直接動かすのではなく、単価の高い案件に入ることで年収を上げる方法だ。
選択肢3:転職またはフリーランス転向を検討する
断られた理由が「会社の方針として難しい」「今後も改善の見込みがない」だった場合は、長期的に見て最も合理的な選択肢になる。
重要なのは、「断られたから感情的に転職」ではなく、「断られた理由を聞いた上で、構造的に改善が見込めないと判断したから転職」というプロセスを踏むことだ。
判断基準
以下の条件がそろった場合、転職・フリーランス転向を真剣に検討すべきだ。
- 市場単価との差が月10万円以上ある
- 交渉を複数回行ったが一度も前向きな回答がない
- 断られた理由が「会社の方針」で変える気がない
- 担当営業に改善への意欲が見られない
正社員SESとフリーランスで異なる交渉戦略
同じ「SESで働く」でも、正社員とフリーランスでは交渉の構造が根本的に異なる。
正社員SESの場合
交渉は「雇用主(SES企業)との給与交渉」だ。
労働基準法の枠の中にある。
- 交渉の相手:担当営業 → HR → 経営層の順で上げていく
- 交渉の武器:市場単価・スキルアップ実績・在籍年数
- 断られた場合の選択肢:転職(別のSES企業・事業会社)
正社員の場合、会社側にも雇用コスト(社会保険・福利厚生)があるため、単純な単価連動にならないことを理解しておく必要がある。
その代わり、「案件の空き期間も給与が出る」「各種保険が完備されている」という安定性が対価だ。
フリーランスSESの場合
交渉は「エージェント・直取引先との単価交渉」だ。
雇用関係がないため、純粋に市場単価の話として行いやすい。
- 交渉の相手:エージェントの担当者 / 直接取引先の発注担当者
- 交渉の武器:市場相場・稼働継続実績・スキルシートのアップデート
- 断られた場合の選択肢:別のエージェント・別の案件に移る
フリーランスの場合、交渉が容易になる代わりに「交渉する責任が100%自分にある」。
定期的に単価を見直す習慣がないと、スキルが上がっているのに単価が据え置きになるケースが多い。
フリーランスの交渉頻度の目安
- 案件更新のたびに単価を確認(据え置きの場合、理由を聞く)
- 半年に1回は市場相場との比較を行う
- 新しいスキルを習得したタイミングで単価の引き上げを提案する
Heydayの単価公開制度について
多くのSES企業では、エンジニアが自分の契約単価を知ることができない。
Heydayでは稼働前に契約単価を本人に開示しており、「自分が市場でいくらで取引されているか」を常に確認できる。
なぜそれが可能なのかというと、開示することで「不当なマージンを取れない」という制約が生じるが、それをむしろ強みにしているからだ。
エンジニアが自分の単価を知っていれば、還元率の計算ができる。
還元率が開示されていれば、交渉の土台がある。
年収交渉の土台として機能するのは「自分の単価を知っている状態」だ。
Heydayはその状態を最初から提供している。
単価を確認したい場合は案件例を見てみる →から現在の案件の単価感も確認できる。
よくある質問(FAQ)
Q. 年収交渉は何回まで許容されますか?
A. 回数の上限はない。ただし毎回「根拠」を持って臨むことが前提だ。「前回断られたが、この3ヶ月でAWS資格を取得した」「市場単価の調査を改めて行い、差が広がっていた」など、前回との違いを明確にした上で交渉を再開することが重要だ。根拠なしに繰り返すと「ただ給与が欲しい人」という印象になり、交渉力が下がる。
Q. 交渉しようとしたら「まず評価を上げてから」と言われました。どう対応すればいいですか?
A. 「評価の基準と、現在の自分の評価を具体的に教えてください」と聞く。基準が明確になれば、何をクリアすれば交渉テーブルに乗れるかがわかる。基準を示せない場合は、「評価を口実にした先送り」の可能性が高い。その場合は転職・フリーランス転向の検討を始めるべきタイミングだ。
Q. 現在の年収を転職先に正直に伝えるべきですか?
A. 正直に伝えることを推奨する。ただし「現在の年収」だけでなく「希望年収」を明確に伝えることが重要だ。「現年収○○万円ですが、市場単価を踏まえると○○万円を希望します」という形で、現状と希望を分けて伝える。現年収に縛られる必要はない。
Q. フリーランス転向は年収を上げる有効な手段ですか?
A. スキルセットと市場価値によって異なる。フリーランスは単価の上限が高い一方で、待機期間の収入がない・社会保険を自己負担・確定申告が必要という変数がある。手取りベースで計算すると、フリーランス転向で年収が下がるケースも存在する。転向前に診断ツールでスキルの市場単価を確認した上で、フリーランス単価との比較計算を行うことを強く勧める。
Q. 交渉を断られたあと、どれくらい待てばいいですか?
A. 3〜6ヶ月が目安だ。断られてすぐに「では転職します」と動くのは感情的な判断になりやすい。一方で、1年以上待ち続けるのは機会損失になる。断られた理由が「スキル不足」であれば3〜6ヶ月で成果を作る。「会社の方針」であれば、同期間で転職活動の情報収集を始める。断られた直後に理由を確認し、アクションプランを作ることが重要だ。
Q. 営業担当が頼りなくて、交渉が前に進みません。どうすればいいですか?
A. 担当営業を変えることを求める、または営業の上長・HR担当に直接話す機会を求めることが有効だ。「担当者を変えてください」とは言いにくいかもしれないが、「キャリアについて上長の方も交えてご相談したい」という形でエスカレーションは正当な要求だ。交渉の窓口が機能していない場合、そのSES企業でのキャリアに限界がある可能性を検討する。
まとめ:年収交渉で失敗しないための3原則
年収交渉で失敗するパターンには共通点がある。
- 感情で切り出す(「不満がある」「もう少し上げてほしい」)
- 根拠がない(市場単価を調べずに交渉する)
- タイミングが悪い(案件更新と無関係な時期に突然言い出す)
この3点を避けるだけで、交渉の成功率は大きく上がる。
「根拠を作る → タイミングを選ぶ → 数字で交渉する → 断られた場合の選択肢を持つ」。
このプロセスを踏めば、交渉は「お願い」ではなく「対話」になる。
まず自分のスキルが市場でいくらか確認することから始めよう。
あなたの市場単価を診断する →
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