SES企業を選ぶ際に「口コミサイトの評価を参考にする」エンジニアは多い。
しかしこの方法には、根本的な問題がある。
私はHeyday株式会社でSES営業を担当している篠田だ。エンジニアの採用面談・他社との案件調整・企業間の条件比較を日常的に行っている。口コミは「感情の記録」であり、企業の構造を示すものではない。「担当者が親切だった」という評価は、単価が低くても生まれる。「案件がすぐ決まった」という評価は、商流が深くても生まれる。
感覚ではなく数字で企業を比較する方法を整理する。
なぜ口コミが当てにならないのか
口コミは「個人の体験」に過ぎない
口コミサイトに書かれているのは、特定の担当者・特定の時期・特定の案件での体験だ。
SES企業では担当営業によって対応の質が大きく変わる。
ある担当者の下では「神対応」でも、別の担当者では「放置」になることがある。
書く人が偏っている
強い不満がある人と、強い満足がある人が口コミを書きやすい。
普通に働いているエンジニアは書かない。
そのため口コミの分布は実態を反映しにくい。
時間が経過すると陳腐化する
SES企業は経営陣・担当者・方針が変わることがある。
3年前の口コミが今の実態を表しているとは限らない。
数字で見るべき5つの指標
指標1:還元率(額面給与ベース)
還元率は「エンジニアに還元される割合」を示す最も基本的な指標だ。
計算式:額面給与 ÷ 契約単価 × 100
| 判定 | 還元率(額面ベース) |
|---|
| 良い | 70%以上 |
| 要注意 | 60〜70% |
| NG | 60%未満・開示なし |
注意点は計算方法の定義だ。
社会保険料の企業負担分を分子に含めると、同じ実態でも数字が約15ポイント高くなる。
「うちは80%です」という企業には「社保はどちらに含めますか」と必ず確認すること。
指標2:商流段数(何次請けか)
商流が深くなるほど、各層でマージンが引かれてエンジニアへの還元が下がる。
| 判定 | 商流段数 |
|---|
| 良い | 直接またはエンド直接から1段 |
| 要注意 | 2段(エンド→元請け→SES→エンジニア) |
| NG | 3段以上・開示拒否 |
数字の確認方法:「担当する案件の中でエンド直接または1次請けは何%ですか」と聞く。
数字で即答できる企業は商流を管理できている。
指標3:待機率(アベイラブル率)
案件と案件の間の「待機期間」が全エンジニアの何%に発生しているかを示す指標だ。
この数字が低いほど、案件をスムーズに紹介できている企業だということがわかる。
| 判定 | 待機率(常時) |
|---|
| 良い | 5%未満 |
| 要注意 | 5〜15% |
| NG | 15%超・開示拒否 |
待機率が高い企業は、案件の量・マッチング力・または引き留め構造に問題がある可能性がある。
待機中も給与100%保証なら財務的なリスクは低いが、キャリアの空白期間はダメージになる。
指標4:年間離職率
エンジニアが1年間で何%退職しているかを示す指標だ。
離職率は「現在の従業員が満足しているか」を最も客観的に反映する。
| 判定 | 年間離職率 |
|---|
| 良い | 10%未満 |
| 要注意 | 10〜20% |
| NG | 20%超・開示拒否 |
IT業界全体の平均的な離職率は12〜15%程度だ。
SES業界はそれより高い傾向があるが、20%を超える場合は構造的な問題がある可能性が高い。
営業として他社の担当者とやりとりする機会がある。その中で、「エンジニアが3ヶ月で辞めた」「また離職が出た」という話を聞くことがある。理由を聞くと、「案件が選べない」「待機中に何もサポートがなかった」というパターンが多い。離職率という数字は、こうした実態を一言で示す指標だ。「高い数字を開示できない理由がある企業」と考えるほうが自然だ。
指標5:エンジニアの平均単価
エンジニア全体の平均単価は、企業が「どのレベル・どの技術スタックの案件を持っているか」を示す。
| 判定 | エンジニア平均単価(月額) |
|---|
| 良い | 65万円以上 |
| 要注意 | 50〜65万円 |
| NG | 50万円未満・開示なし |
この数字は「自分のスキルで達成できる単価水準の目安」でもある。
ただし、経験年数・技術スタックによって個人差が大きいため、「自分のスキルレベルでの平均単価」を確認すると精度が上がる。
5指標を判断するには、まず自分の市場単価を知ることが前提だ
企業の平均単価や還元率が「良いか悪いか」は、自分のスキルの市場価値と比べて初めて判断できる。
あなたの市場単価を診断する →
数字を開示しない会社への対処法
5指標のどれかを聞いて「開示できません」という回答が返ってきた場合、どう対処するかを整理する。
理由を聞く
「なぜ開示が難しいのですか」と聞いてみる価値がある。
「社内規定のため」という場合、規定の内容をさらに聞く。
「競合他社に知られたくないため」という回答は、数字に問題がある可能性を示唆する。
代替の質問をする
直接の数字が出ない場合でも、周辺情報から推測できる質問がある。
- 離職率の代わりに:「現在の最も在籍期間が長いエンジニアは何年ですか」
- 還元率の代わりに:「経験5年・Java・AWS経験ありのエンジニアの月額給与の目安を教えてください」(単価を後で確認して計算)
- 待機率の代わりに:「過去1年間で待機期間が1ヶ月以上続いたエンジニアはいましたか」
開示しない企業を「そういう企業」として判断する
数字を開示しない企業は、情報の非対称性を維持することに慣れている。
「数字を開示できない理由が存在する」という事実そのものが、企業の姿勢を示している。
5指標の全部または大半を「開示できない」という企業は、選択から外すことも合理的な判断だ。
よくある質問(FAQ)
Q. 5指標のうち最も重要なのはどれですか?
「還元率」と「離職率」の2つが最重要だ。
還元率は年収に直結し、離職率はエンジニアが継続して在籍したいと思える企業かどうかの証左だ。
この2つが良い水準にあれば、他の指標との総合判断が有効になる。
逆にどちらかがNG水準なら、他の指標がどれだけ良くても慎重に判断すべきだ。
Q. 5指標をすべて満たす企業は現実的に存在しますか?
少ないが存在する。
特に「商流段数の開示」と「離職率の数字での開示」の両方を満たす企業は業界全体でも少数だ。
すべてを完璧に満たす企業を探すより、「どの指標でNG値以下がないか」を基準にして絞り込む方が現実的だ。
Q. 5指標以外に確認すべきことはありますか?
あります。具体的には「待機期間中の給与保証の条件」「案件選択の自由度(断れるか)」「面談頻度」「契約書の事前開示」が補完指標として有効だ。
これらは数値化しにくいが、面談で直接確認できる。
詳しくは面談で聞くべき15の質問を参照してほしい。
Q. 数字を教えてもらえた場合、その数字が正確かどうかはどう確認しますか?
完全に検証することは難しい。
しかし、数字の整合性を確認する方法がある。
「還元率○%で、平均単価○万円なら、エンジニアの平均給与は○万円になりますが、合っていますか」と確認する方法だ。
また、OpenWork・転職会議に書かれた年収データと比較することも有効だ。
Q. 口コミサイトは全く参考にならないのですか?
一切無意味ではない。
特に「複数の口コミで同じ問題が指摘されている」場合は信頼性が上がる。
また、代表者や会社への評価ではなく「営業担当との連絡頻度」「待機時の対応」という具体的な記述は参考になる。
口コミは補助情報として使い、数字による確認の代替にはしないという使い方が正しい。
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実際にHeydayに移った人の声
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