SES企業の面談で何も質問しないまま「なんとなく良さそう」で決めて、3ヶ月後に後悔する。 このパターンを私は何十回と見てきた。
私はHeyday株式会社でSES営業を担当している篠田だ。日常的にエンジニアとの面談に同席し、他社の営業担当との案件調整も行っている。Heydayでは300人以上のエンジニアのキャリアに関わってきたが、採用面談の場で、エンジニアがどれだけ損な情報状態に置かれているか、内側から見るとよくわかる。 採用担当者は何を「言わなくてよいか」を知っている。 エンジニアは何を「聞くべきか」を知らないことが多い。
この非対称性を埋めるのが本記事の目的だ。
面談で使える15の質問を、5つのカテゴリに分けて整理した。 各質問には「なぜこれを聞くのか」「どんな回答なら安心か」「何を言われたら警戒すべきか」を具体的に書いている。
この記事を読む前に:面談で質問する権利について
SES企業の面談は、企業があなたを評価する場だけではない。 あなたが企業を評価する場でもある。
にもかかわらず、多くのエンジニアが「質問すると印象が悪くなりそう」と遠慮する。 この感覚は完全に逆だ。
質問に誠実に答えられない企業は、入社後も情報開示に消極的な文化を持っている可能性が高い。 むしろ「真剣に考えているエンジニアは質問する」と評価できる企業の方が、長く働ける環境を持っている。
もうひとつ大切なことがある。 面談では「印象」よりも「数字」を確認することが重要だ。
「エンジニアファースト」「成長できる環境」「高還元」——これらはどの企業も使う。 差が出るのは、「具体的に何%か」「実績は何件か」「過去1年のデータは?」という問いへの答え方だ。
カテゴリ1:マージン・還元率(3問)
SES企業における最も重要な経済的条件がこのカテゴリだ。 マージン構造を理解せずに入社すると、自分の単価が何割手元に来ているかがわからないまま働くことになる。
質問1:「御社の還元率は何%ですか?計算方法も含めて教えてください」
この質問の意図
還元率の「定義」は企業によって異なる。 同じ「還元率75%」でも、「額面給与÷契約単価」で計算している企業と「額面給与÷(契約単価-社会保険企業負担)」で計算している企業では、エンジニアの手取りが10〜15%変わる。
「高還元です」という言葉は定義を確認しないと意味がない。
安心できる回答
「還元率は額面給与÷契約単価で計算しており、現在平均○○%です。計算式は入社前に書面でお渡しします」
参考までに、Heydayに面談で来たエンジニアがこの質問をしたとき、私たちは還元率の計算式と実績値をその場で提示している。「聞かれたから答える」のではなく「聞かれる前に出す」のがHeydayのスタンスだ。
警戒すべき回答
- 「業界トップクラスの高還元です」(数字がない)
- 「エンジニアによって異なるので一概には…」(定義を曖昧にしている)
- 「正確な数字はちょっと…」(開示する気がない)
質問2:「単価が上がった場合、給与への反映はどのような仕組みで行われますか?実績はありますか?」
この質問の意図
SES契約では、案件更新のたびに単価交渉が発生する。 しかし単価が上がってもエンジニアの給与に反映されない企業は実際に多い。
「仕組みがある」と「過去に実績がある」は別物だ。 制度があっても機能していない企業は多い。
安心できる回答
「案件単価が改定された場合、翌月または翌四半期の給与に反映しています。昨年は○名に対して平均月○万円の給与改定を行いました」
警戒すべき回答
- 「社内評価に基づいて判断します」(単価連動の仕組みがない)
- 「年1回の昇給機会があります」(単価改定と昇給が連動していない)
- 「それはケースバイケースで…」(実績データがない)
質問3:「稼働開始前に、自分の契約単価をいつでも確認できますか?」
この質問の意図
自分の単価を知らなければ、還元率の計算もできない。 単価を開示しない企業は、エンジニアに「知らせない」ことでマージン水準を不透明に保っている。
Heydayでは稼働前に必ず契約単価を本人に開示している。 これは業界の中では珍しいことであり、開示しない企業の方が多いのが現実だ。
営業担当として他社と案件調整をする場面がある。そのやりとりの中で、「うちは単価を開示していない」と当然のように言う会社は少なくない。理由は「開示するとエンジニアが転職活動を始めやすくなる」という本音だ。それは企業の論理であって、エンジニアの利益を守るものではない。単価を聞いて答えを濁す会社は、この質問を警戒しているということだ。
安心できる回答
「稼働前に契約金額をお伝えしており、確認したい場合は担当者にいつでも聞けます」
Heydayでは稼働前に必ず契約単価を本人に開示している。これを面談で説明すると「え、普通は教えてもらえないんですか?」と驚かれることが多い。それくらい、単価非開示がSES業界の「普通」になってしまっている。
警戒すべき回答
- 「それは会社の契約情報のためお伝えが難しく…」
- 「担当者に聞けば教えてもらえると思いますが」(確約しない)
- 「聞いてくる方は少ないですね」(開示しない文化)
カテゴリ2:商流・案件の深さ(3問)
SES業界には「多重下請け構造」という特徴がある。 エンドクライアント→元請けSIer→1次請けSES→2次請けSES→あなた、という流れの中で、各層がマージンを取る。
同じスキル・同じ稼働時間でも、何次請けかによって年収が100万円以上変わることがある。
質問4:「担当してもらう案件は、何次請けが多いですか?直近の実績を教えてください」
この質問の意図
「エンド直または1次請け中心です」と言う企業は多いが、その根拠となるデータを持っているかを確認する。 主観的な言葉と実際の商流データは、一致しないことが多い。
安心できる回答
「直近12ヶ月の実績では、エンド直が○%、1次請けが○%、2次請け以下が○%です」
警戒すべき回答
- 「基本的にエンドに近いです」(根拠なし)
- 「案件によって様々ですので…」(開示する気がない)
- 「商流の詳細は開示が難しいです」(隠している可能性)
質問5:「案件のクライアント企業名は、稼働前に教えてもらえますか?」
この質問の意図
クライアント名を事前に教えてもらえないと、自分がどんな環境・業種で働くかが判断できない。 「守秘義務があるから」という理由で一切開示しない企業は、エンジニアの情報収集を意図的に制限している可能性がある。
安心できる回答
「内定前後にはクライアント名をお伝えします。守秘義務がある案件は一部ありますが、その場合も業種・規模・技術スタック・チーム構成などの情報は開示します」
警戒すべき回答
- 「守秘義務のため一切お伝えできません」
- 「入社後にご案内します」
- 「聞かれる方はほとんどいないですよ」
質問6:「3次請け以下の案件に配置される可能性はありますか?その場合の単価水準は?」
この質問の意図
「可能性はゼロですか?」と聞くことで、正直に答えてもらいやすくなる。 また、万が一深い商流の案件になった場合に単価の下限がどこかを確認する。
安心できる回答
「可能性はゼロではありません。ただし3次請け以下は全体の○%以下に抑えており、その場合もエンジニアへの単価は最低○万円を確保しています」
警戒すべき回答
- 「そういった案件はありません」(断言しすぎる)
- 「適切な単価水準を保っています」(基準が不明)
商流の深さがなぜ問題になるのか、具体的なリスクと面談時の確認方法はSES多重派遣の見分け方で詳しく解説している。
カテゴリ3:待機期間・安定性(3問)
SES契約の性質上、案件終了から次の案件開始までの「アベイラブル期間(待機期間)」が生じることがある。契約更新を断って案件を変えること自体は法的に問題ないが、正しい断り方と注意点を知っておくと安心だ。 この期間の扱いは、企業がエンジニアをどう見ているかを最も率直に示す指標だ。
質問7:「案件と案件の間の待機期間中、給与はどうなりますか?」
この質問の意図
「基本給のみ」「研修扱いで給与変更あり」「状況によって相談」という答えは、実質的に収入減になる可能性を示している。 待機中も通常給与が保障されるか否かは、長期雇用の安定性に直結する。
安心できる回答
「待機中も通常給与の100%を保証します。過去1年の平均待機期間は○日で、最長でも○日以内に次の案件が決まっています」
警戒すべき回答
- 「基本給のみの支払いになります」
- 「研修扱いになりますので、給与が変動することがあります」
- 「長期になる場合は相談になります」
質問8:「待機期間の平均日数と最長日数を、直近のデータで教えてもらえますか?」
この質問の意図
「すぐに案件が決まります」という言葉は根拠なく言える。 データを持っていて、それを開示できる企業は、実際に管理ができている企業だ。
安心できる回答
「昨年のデータでは平均○日、最長でも○日でした。稼働率は現在○%で推移しています」
警戒すべき回答
- 「基本的にはすぐ決まります」(データがない)
- 「待機期間はほぼないと思います」(根拠なし)
- 「数字は今手元にありませんが…」(管理できていない)
質問9:「希望に合わない案件を提案された場合、断ることはできますか?断った場合どうなりますか?」
この質問の意図
案件の選択権があるかどうかは、エンジニアのキャリアコントロールに直結する。 「相談して決めます」という言葉の裏に「実際には断れない」という実態がある企業は多い。
断った場合のペナルティ(社内評価への影響・給与への影響)の有無が重要だ。
安心できる回答
「希望と合わない案件は断っていただけます。ただし選択できる案件数は弊社の保有状況に依存するため、事前にご確認いただくことを勧めています。断ったことで評価への影響はありません」
警戒すべき回答
- 「基本的には提案した案件を担当していただきます」
- 「何度も断ると社内評価に影響します」
- 「まずはやってみることをお勧めします」
カテゴリ4:キャリアサポート・スキルアップ(3問)
客先常駐のSESエンジニアは、所属会社との接点が薄くなりやすい。 キャリアを「自分で考える」「会社が一緒に考えてくれる」のどちらかによって、3〜5年後の市場価値が大きく変わる。
質問10:「入社後のキャリア面談はどのくらいの頻度で行われますか?何を議題にしていますか?」
この質問の意図
「何かあれば連絡してください」という企業は、エンジニアからのアクションを待つだけで、能動的にキャリアを支援しない。 頻度・議題・記録方法まで具体的に答えられる企業は、仕組みとして動かしている証拠だ。
安心できる回答
「担当営業との月1回の定期連絡に加え、キャリア担当との四半期面談があります。次の案件希望・スキルの棚卸し・中長期のキャリア方向性の3つを議題にしています」
警戒すべき回答
- 「何かあればいつでも相談してください」
- 「年1回の評価面談があります」
- 「担当が随時対応します」(仕組みではなく個人頼み)
質問11:「スキルアップ支援・資格取得補助はありますか?過去1年の実績はどのくらいですか?」
この質問の意図
制度があるかどうかより、実際に使われているかどうかが重要だ。 「制度はあります」と答える企業でも、実際に使った人数が1桁以下であれば、機能していない制度といえる。
安心できる回答
「昨年は○名が資格取得補助を利用し、うち○名がAWS認定資格・○名が応用情報技術者試験を取得しています。技術書購入費用も月○円まで実費補助しています」
警戒すべき回答
- 「制度はありますが、業務優先になることも多く…」
- 「申請が通れば補助します」(通る基準が不明)
- 「詳細は入社後にご確認ください」
質問12:「稼働中のエンジニアの方と、入社前に話せる機会を設けてもらえますか?」
この質問の意図
自社のエンジニアとの対話を積極的に設定できる企業は、エンジニアが語れる状態にあるという自信を持っている。 「調整が難しい」という答えは、エンジニアが話したくなるような環境ではない可能性を示唆する。
安心できる回答
「カジュアル面談として設定できます。事前に質問リストを共有してもらえれば、近い経験のエンジニアをアサインします」
警戒すべき回答
- 「日程調整が難しいです」
- 「個人情報の関係で…」
- 「採用担当が全てご案内します」