「同じスキルなのに、会社によって年収が100万円以上違う」——SESエンジニアからよく聞く話だ。
この差の多くは、スキルや経験ではなく「商流の深さ」で生まれている。
私はHeyday株式会社でSES営業を担当している篠田だ。案件の調達・クライアントとの交渉・他社への案件紹介を日常的に行っている。商流が深い案件ほど、エンジニアの収入が構造的に削られていく仕組みを、内側から繰り返し見てきた立場から、多重派遣の仕組み・単価への影響・見抜く方法を整理する。
多重派遣とは何か
多重派遣とは、エンジニアが複数のSES企業を経由してエンドクライアントに常駐する構造を指す。
エンドクライアント(発注者)
↓ 100万円/月で発注
元請けSIer(1次請け)
↓ 90万円/月で発注(10万円のマージン)
1次請けSES企業(2次請け)
↓ 78万円/月で発注(12万円のマージン)
2次請けSES企業(3次請け)
↓ エンジニアへの還元ベースは65〜70万円
エンジニア稼働
それぞれの層が「取り分」を抜いていく構造だ。
エンドクライアントが100万円を払っていても、エンジニアに届くのは65〜70万円以下になることもある。
商流の深さによる単価ダメージ
具体的なシミュレーション
エンドクライアントが月100万円で発注しているケースを例に、商流の深さごとにエンジニアへの還元額がどう変わるかを示す。
| 商流段数 | 構造 | 各層のマージン率目安 | エンジニア還元ベース |
|---|
| 直接契約(1段) | エンド→SES企業→エンジニア | 15〜25% | 75〜85万円 |
| 2段階(2次請け) | エンド→元請け→SES→エンジニア | 各10〜15% | 62〜72万円 |
| 3段階(3次請け) | エンド→SIer→1次SES→2次SES→エンジニア | 各10〜12% | 52〜62万円 |
| 4段階以上 | さらに1層追加 | 各8〜12% | 45万円以下も |
3次請け以下になると、同じ100万円の案件でも30万円以上の差が生まれることがある。
なぜここまで差が出るのか
各層は自社のコスト(営業費・管理費・利益)を差し引いた上で次の層に発注する。
「取り分」は表向き小さく見えても、積み重なると大きな差になる。
エンジニア本人はエンドクライアントの現場で働いているにもかかわらず、いくつもの会社の取り分を負担させられている構造だ。
多重構造を見抜く3つの方法
方法1:面談時に直接聞く
最も確実な方法は、面談で商流を直接確認することだ。
聞くべき質問:
- 「担当してもらう案件は何次請けが多いですか」
- 「エンドクライアント直接または1次請けの案件は全体の何%ですか」
- 「商流が2段階以上になる場合、事前に教えてもらえますか」
回答の判断基準
「商流については開示が難しいです」という回答は要注意だ。
開示できない理由がある企業は、深い商流の案件が多い可能性が高い。
即答できる企業は、商流管理ができていると判断できる。
方法2:求人票・企業情報で確認する
面談前に求人票や企業HPで確認できる情報がある。
チェックポイント:
- 「エンド直接」「プライムベンダー」という記述があるか
- クライアント企業名の実績が明示されているか(実名があれば直接取引がある証拠)
- 「大手SIerとの取引実績」という書き方は元請けから発注を受けているケースが多い(2次請けになる)
「幅広いクライアント」「多数の取引先」という抽象的な表現だけの企業は、商流が深い可能性がある。
方法3:入社後のサインを見逃さない
入社後も商流を確認する機会はある。
以下のサインが見えた場合は、深い商流の可能性がある:
- 「クライアント」と「現場担当者が所属する会社」が異なる
- 現場での指示系統が複雑で、誰がどの会社の人間かわからない
- 「担当SES企業」として自社以外の会社名が出てくる
- 契約書に複数の企業名が登場する
入社後でも「今の案件は何次請けですか」と担当者に確認することは正当な権利だ。
商流の深さが分かれば、適正単価も見えてくる
自分のスキルで市場がつける単価を知れば、商流が深い案件で「損をしているか」どうかを判断できる。
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商流何社がリスクのラインか
営業として案件調整をする中で、3次請け以下の案件の実態を見てきた。3次請け以下になった時点でリスクラインを超えると判断している。
2次請け(エンド→元請け→SES→エンジニア)であれば、元請けのマージンが適切な範囲なら許容できる。
しかし3次請け以下になると、複数層のマージンが積み重なり、エンジニアへの還元が構造的に下がる。
さらに問題なのは、3次請け以下になると「誰がエンジニアのキャリアを管理するか」が曖昧になることだ。
各層の企業はそれぞれ自社の利益を優先するため、エンジニアのキャリア支援や単価交渉を積極的に行う主体がいなくなりやすい。
実際にこういうケースがあった。あるエンジニアが「担当営業に単価交渉をお願いしたが、「上の会社が決めることで、うちからは動けない」と言われた」という相談を持ちかけてきた。これは3次請け以下の案件で起きやすいパターンだ。交渉の窓口が自社の営業ではない構造になっているため、エンジニアが損をしても誰も積極的に動かない。商流の深さは、単価だけでなく「交渉できる環境があるか」にも影響する。
よくある質問(FAQ)
Q. 多重派遣は違法ではないのですか?
「多重派遣」という言葉は混乱を生みやすい。
SES(準委任契約)は「派遣」ではなく、労働者派遣法の規制外だ。
そのため法律上は複数のSES企業を経由した商流でも直ちに違法にはならない。
ただし、実態として「指揮命令関係」がエンドクライアントにある場合は偽装請負(違法)になる可能性がある。
商流の深さそのものより、指揮命令の所在に注意が必要だ。
Q. 求人票に「エンド直接案件多数」と書いてあれば信頼できますか?
必ずしも信頼できない。
「多数」がどの程度の割合かは企業によって異なり、1割でも「多数」と表現する企業がある。
面談で「エンド直接または1次請けの案件は全体の何%ですか」と数字を聞くことで実態が見えやすい。
Q. 商流が深くても良い案件はありますか?
ある。案件の規模・技術スタック・チーム環境が良ければ、商流が多少深くても価値があるケースはある。
ただしその場合も、自分への還元単価が市場水準と比べてどの程度かを確認することが重要だ。
「良い案件だから単価が低くても仕方ない」という判断は、市場単価を知った上で行うべきだ。
Q. 入社後に商流が深いと気づいた場合、どうすればいいですか?
まず担当者に確認し、実際の商流と単価を把握することから始める。
その上で「単価改善の余地があるか」を相談する価値がある。
商流が深くて単価改善の見込みがない場合は、直接契約や浅い商流を強みとする別の企業を検討することも選択肢になる。
Q. 商流が浅ければすべて問題ないですか?
商流が浅いこと(エンド直接・1次請け)は単価面では有利だが、それだけでは不十分だ。
エンド直接でも還元率が低ければ手取りは変わらない。
商流の浅さと還元率の高さ、両方を確認することが重要だ。
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