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SES偽装請負
チェックリスト10項目

小川将司
小川将司代表取締役

SES企業経営6年・偽装請負に関する相談を年間数十件受けてきた経営者が解説

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この記事でわかること

  • 偽装請負の定義と違法性(労働者派遣法違反で1年以下の懲役または100万円以下の罰金)
  • 10項目のチェックリストで自分の現場を自己診断
  • 偽装請負が発覚した場合の具体的な対処手順
  • SES経営者視点で偽装請負が生まれる構造的な理由

この記事の対象: 自分の現場が法的に問題ないか確認したいSESエンジニア

「現場のクライアント担当者から直接タスクの指示を受けている」

この状況が、法的に問題になる可能性があることを知っているだろうか。

私はSES企業を経営して6年になる。当社には転職相談・キャリア相談が年間を通じて寄せられるが、相談内容をヒアリングしていくと、体感で3〜4割のケースが「それは偽装請負のグレーゾーンに該当する可能性がある」という状態だ。エンジニア自身が「うちの現場では普通」と思っていることが、法的には問題になりうる——これがSES業界の現実だ。

偽装請負が問題なのは、罰則うんぬんの前に、労働環境の管理責任が宙に浮くことだ。実際に当社に転職してきたあるエンジニア(Bさん・20代・PHP歴3年)は、前職で準委任契約にもかかわらずクライアントから直接残業を命じられ、断れずに体調を崩した。所属企業に相談しても「現場のことは現場で解決して」と取り合ってもらえなかったという。こうした事態を防ぐために、自分の現場の状態を正確に把握しておくことが不可欠だ。

本記事では、偽装請負の定義と違法性を整理したうえで、「あなたの現場は合法か」を確認するためのチェックリストを提示する。違法状態と判断した場合の対処法も具体的に示す。

この記事は「SES法律・契約完全ガイド」の子記事です。 偽装請負だけでなく、準委任契約・指揮命令権・契約更新拒否・トラブル対処まで体系的に学びたい場合は親記事を参照してください。


偽装請負とは何か

SESと請負の法的な違い

SES(System Engineering Service)は、「準委任契約」に基づくサービスだ。

準委任契約において重要なのは「指揮命令権」の所在だ。

  • 適法なSES(準委任):エンジニアへの指揮命令は、SES企業(所属会社)が行う
  • 適法な派遣:エンジニアへの指揮命令は、派遣先(クライアント)が行う(労働者派遣法の許可が必要)
  • 適法な請負:完成物に対してSES企業が責任を持ち、クライアントはエンジニア個人に指示しない

偽装請負とは、「書面上は準委任(SES)または請負契約なのに、実態はクライアントが直接エンジニアに指揮命令している状態」だ。

なぜ違法なのか

労働者派遣法では、労働者に対して指揮命令できるのは「派遣元企業」(SES企業)だけと定めている。クライアントが直接エンジニアに業務上の指示を出すためには、労働者派遣法に基づく正規の「労働者派遣契約」が必要だ。

SES契約(準委任)を締結しながら、実態として派遣と同じ指揮命令関係を置くことは、労働者派遣法違反になる。これが「偽装請負」だ。

偽装請負の違法性と罰則

違反対象適用法令罰則
SES企業(事業者)労働者派遣法 第4条・第24条の21年以下の懲役または100万円以下の罰金
クライアント(受注者)職業安定法 第44条1年以下の懲役または100万円以下の罰金

エンジニア本人が罰せられるわけではないが、知らずに偽装請負状態で働いていることは、問題が発覚した際に不安定な立場に置かれるリスクがある。

また、偽装請負が横行している現場では、労働環境の管理責任が曖昧になり、ハラスメント・長時間労働・不当な扱いを受けても「誰が責任を持つのか」が不明確になるという実害もある。


偽装請負チェックリスト10項目

以下の10項目に「はい」と答えた数が多いほど、偽装請負の可能性が高まる。

指揮命令の所在に関する項目

項目1:クライアント社員から直接、日常的な業務指示を受けている

「今日はこのタスクを進めてください」「この作業の優先度を上げてください」など、日々の業務内容や進行順序についての指示を、クライアント側の担当者から受けている場合。

所属SES企業の担当者を通じてではなく、クライアントから直接、かつ日常的に業務指示がある状態は要確認だ。

実際のケース: 当社への転職相談で「毎朝クライアントのPMから直接Slackでタスクを割り振られ、SES企業の担当者は月1回の電話連絡だけ」という状態が複数件報告されている。


項目2:クライアントの社内ルール・就業管理に従っている

クライアント企業の就業時間・休憩規則・セキュリティポリシー・服装規定などに、クライアントの指示として従っている場合。

注:現場のルールに「協力する」のは問題ない。問題なのは、クライアントが「管理・指示する権限を持っている」状態だ。

実際のケース: 「クライアントの服装規定に従い、毎朝クライアントのICカードで入退室を管理されている」という相談があった。本人は「常駐だから当然」と思っていたが、SES企業の指示ではなくクライアントの管理下にある点が問題だ。


項目3:作業時間・勤怠をクライアントに直接報告・管理されている

出退勤の確認・残業の承認・有給休暇の申請をクライアント側の上司に行っている場合。

適法なSES(準委任)であれば、勤怠管理はSES企業が行い、クライアントに報告するのはあくまで「稼働実績の確認」に留まるべきだ。

実際のケース: 「有給を取るときにクライアントの上長に承認をもらっている」というケース。勤怠の承認権限がクライアント側にあるのは、派遣的な関係の典型だ。


項目4:クライアントの組織図に自分の名前や役割が記載されている

クライアントの社内組織図・プロジェクト体制図に「○○チーム メンバー」として記載されており、社員と同等の扱いを受けている場合。

実際のケース: クライアントの全社組織図に「開発2課 メンバー」として記載され、社員と同じ名刺を持たされていた、という相談があった。


項目5:クライアントのシステム・ツールにクライアント社員と同等のアカウントで登録されている

クライアントのコミュニケーションツール(Slack、Teams等)・プロジェクト管理ツール・社内ポータルにクライアント社員と区別なく登録されている場合。これ単独では問題とならないが、他の項目と組み合わさると危険度が増す。

実際のケース: クライアントのSlackに「正社員」チャンネルにも参加させられ、社内イベントの出欠確認まで回ってくる、というケース。ツール参加自体は問題ないが、「正社員と区別なく管理される」状態は他の要素との組み合わせで問題になる。


項目6:クライアント社員から、業務範囲外の仕事を命じられたことがある

SES企業との契約書に記載されている業務範囲を超えた作業を、クライアント社員からの指示で行ったことがある場合。

例:「Webシステム開発」の契約なのに「社内ヘルプデスク対応」を命じられた、など。

実際のケース: 「Java開発」の契約だったが、クライアントのIT部門の人手不足で「PCセットアップ・アカウント管理」まで担当させられていた、という転職相談があった。


項目7:SES企業の担当者が現場に来ることが極めて少なく、実態的なマネジメントをしていない

SES企業(所属会社)の担当者が週1回・月1回の割合で現場に訪問して業務状況を確認することがほとんどなく、実態としてSES企業がエンジニアの業務を管理・監督していない場合。

「何かあれば連絡して」というだけで、日常的な業務管理がクライアントに完全委任されている状態は問題だ。

実際のケース: 「所属企業の営業担当が3ヶ月に1回の定例面談すらスキップする」「連絡がつかない」という相談は珍しくない。SES企業のマネジメント放棄は偽装請負の温床だ。


項目8:クライアント社員から「残業してください」「今週は土曜も来てください」と直接指示された

残業・休日出勤の命令をクライアントの担当者から直接受けた場合。適法なSES(準委任)では、労働時間の延長指示はSES企業を通じて行われるべきだ。

実際のケース: 冒頭で紹介したBさんのケースがまさにこれだ。クライアントのPMから直接「今週は土曜も出てほしい」と言われ、所属企業を通さず受けてしまっていた。


項目9:現場で発生した問題の責任をクライアントから直接問われる

プロジェクトで問題が発生した際、SES企業を通じてではなく、クライアントから直接「なぜできていないのか」「責任を取れ」という文脈での指摘を受けている場合。

成果物の品質問題ではなく、「個人の労働に対する責任」をクライアントが問う形は、請負・派遣的な関係を示唆する。

実際のケース: 「本番障害が出た際にクライアントのマネージャーから直接叱責された」という相談。準委任では品質問題はSES企業を通じて対処すべきであり、エンジニア個人がクライアントから直接責任を問われる構造は問題がある。


項目10:「派遣」から「SES(準委任)」に切り替わったが、業務実態が変わっていない

かつては正式な労働者派遣契約で稼働していた現場が、コスト削減等の理由でSES(準委任)契約に切り替わったが、実際の業務内容・指揮命令関係が変わっていない場合。これは典型的な偽装請負のパターンだ。

実際のケース: 「派遣3年ルールの期限が近づいたタイミングで、書面上だけSES(準委任)に切り替わった。席も業務も何も変わっていない」という相談は、偽装請負の最も典型的なパターンの一つだ。


チェックリストの判定基準

「はい」の数判定
0〜2項目概ね問題ない可能性が高い(ただし個別状況を確認すること)
3〜5項目グレーゾーン。所属SES企業に状況を確認・共有すべき
6項目以上偽装請負の可能性が高い。具体的な対処を検討すべき

現場の法的状態を把握したら、次に確認すべきは「自分の単価が適正かどうか」だ。偽装請負状態の現場では、本来受け取るべき単価よりも低い水準で働かされているケースが多い。


偽装請負状態だと分かった場合の対処法

まずSES企業(所属会社)に相談する

個人でクライアントに「これは違法では」と直接申し出ることは、関係性・立場的に難しい場合が多い。まず所属SES企業の担当者に「現場でこういう状況が発生している」と事実ベースで伝える。

SES企業として適法な運営をしている企業なら、状況を確認してクライアントとの契約形態の見直し・現場調整を行うはずだ。「それはあなたが気にしすぎ」「現場の文化なので」と取り合わない企業は、問題を認識した上で放置している可能性がある。

所属企業が対応しない場合

所属SES企業が問題に対応しない・または問題を認識しながら放置している場合、以下の機関への相談が選択肢になる。

労働基準監督署:労働条件・残業管理・休日出勤等の労働法違反に関する相談 ハローワーク:偽装請負・不正労働者派遣に関する申告 都道府県労働局 需給調整事業部:労働者派遣法違反に関する相談・申告

相談の際には「いつ・誰から・どのような業務指示があったか」の記録(メール・チャット・メモ等)を事前に整理しておくことが重要だ。

会社・現場を変える

根本的な解決策として、偽装請負が常態化している現場・企業から離れることも有効な選択肢だ。

偽装請負が横行している現場では、エンジニアの労働環境の管理責任が曖昧になっており、問題が生じた際のサポートを期待できない。長期的なキャリアリスクにもなる。


SES企業側の視点:なぜ偽装請負が生まれるのか

SES企業を経営する立場から、偽装請負が生まれる構造的な理由を説明する。

クライアント側の事情

多くのクライアント企業(特に大手企業)は、コンプライアンス管理のために「派遣」よりも「SES(準委任)」を好む傾向がある。派遣の場合、派遣先事業主として法律上の義務(均等待遇・直接雇用申し込み義務等)が生じるためだ。

しかしビジネス上の現実として、「指揮命令なしでSESエンジニアを活用する」のが難しい場面がある。結果として、書面上はSES(準委任)契約にしながら、実態は指揮命令関係を維持するという状態が生まれる。

SES企業側の事情

SES企業としては、クライアントに「指揮命令をしないでください」と求めると、案件が取れなくなるリスクがある。業界の慣行として偽装請負が黙認されている背景には、こうした力関係がある。

透明性のある運営を志向するSES企業は、クライアントとの契約交渉の段階で準委任契約の適法な運用を求める。これが難しいクライアントとは取引しないという判断をすることもある。


偽装請負が発覚した場合の実際の影響と対処手順

行政指導・調査の実態

厚生労働省・都道府県労働局の需給調整事業部は、偽装請負の申告を受理している。調査対象となった場合、以下のプロセスが発生する。

  1. 事業所への立入調査:担当者がSES企業・クライアント企業を訪問し、契約書・業務実態を調査
  2. 是正指導:違反が認められた場合、適正化の指導が行われる
  3. 是正勧告・公表:繰り返し違反の場合、企業名の公表・行政処分に至ることがある

エンジニア自身が申告した場合、匿名での申告も可能だ。ただし、「申告したのは自分だ」と会社に知れた場合の影響は覚悟しておく必要がある。

偽装請負状態での労働問題が発生した場合

偽装請負状態で長時間労働・パワハラ等の問題が発生した場合、「誰が責任を持つか」が曖昧になる。

法的には:雇用主であるSES企業が一義的に責任を負う。クライアントが実態として指揮命令していた場合、クライアントにも連帯責任が認められるケースがある。

実態としては:責任の所在が不明確で、エンジニアが泣き寝入りするケースも多い。

この状況を避けるために、偽装請負状態に気づいた段階で早めに対処することが重要だ。

適法な現場に移るための実践手順

  1. チェックリストの結果を文書化する(項目別に「はい/いいえ」と具体的な事例を記録)
  2. 所属SES企業に「現場の状況が準委任契約の適法な範囲か確認したい」と申し入れる
  3. 企業が問題を認識し改善に動く場合は、経過を観察する(目安:1〜3ヶ月)
  4. 改善されない場合、または企業が問題を否認する場合は転職・現場変更を検討する
  5. 深刻な案件(残業管理・報酬問題等)は労働基準監督署へ相談する

重要なのは「記録を残すこと」だ。メール・チャット・手書きメモでも構わない。いつ・誰から・どのような指示があったかの記録は、後に何かが起きた際の保護になる。


まとめ:「知らなかった」では済まない構造的リスク

偽装請負はエンジニアにとって直接的な違法行為ではないが、労働環境の管理責任が曖昧になることで様々なリスクが生じる。

チェックリストの10項目を確認し、6項目以上に該当する場合は所属SES企業に相談することを強く推奨する。

法律的に適正な環境で働くことは、エンジニア自身のキャリアと権利を守ることに直結する。現場の慣行として「当たり前」になっていても、当たり前が正しいとは限らない。

適正な環境で、適正な単価で働くために、まず自分の市場価値を把握しておこう。


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よくある質問(FAQ)

Q. 偽装請負の状態で働いているエンジニア本人に、罰則や法的責任はありますか?

エンジニア本人に直接の罰則はない。罰則の対象はSES企業とクライアント企業だ(労働者派遣法違反で1年以下の懲役または100万円以下の罰金)。ただし偽装請負状態は、労働環境の管理責任が曖昧になることで実害が発生するリスクがある。ハラスメントや長時間労働が発生しても「誰が責任を持つか」が不明確になり、エンジニアが泣き寝入りするケースも多い。自分の権利を守るためにも状況の把握が重要だ。

Q. 偽装請負が発覚した場合、どのような流れになりますか?

行政(都道府県労働局 需給調整事業部)の調査が入り、SES企業とクライアント企業に対して是正指導が行われる。悪質な場合は刑事告発もあり得る。エンジニアにとっては案件が強制終了になる可能性があり、短期的には就労継続に影響が出る場合がある。ただし是正の結果として正式な派遣契約や直接雇用への切り替えが行われるケースもある。発覚後の対処は所属SES企業が主体的に動くべき問題だ。

Q. 現場の問題を行政機関に申告した場合、自分のキャリアへの影響はありますか?

法的には申告を理由とした不利益取扱いは禁止されているが、現場との関係悪化や案件変更が生じる可能性がある。告発に踏み切る前に、まず所属SES企業に状況を伝えて改善を求めるステップを経ることを勧める。企業が対応しない場合に行政窓口への相談を検討する順序が現実的だ。相談の際には業務指示の記録(メール・チャットのスクリーンショット、手書きメモ等)を事前に整理しておくことが重要だ。



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まとめ

偽装請負はエンジニア個人の法的リスクは低いが、労働環境の管理責任が曖昧になることで様々な実害が生じる。チェックリストで現場の状態を把握し、必要に応じて所属企業・行政窓口に相談することが自分を守る第一歩だ。

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この記事の著者

小川将司
小川将司

Heyday株式会社 代表取締役

SES企業経営6年・偽装請負に関する相談を年間数十件受けてきた経営者が解説

Heyday株式会社 代表取締役。エンジニア・PM/PdMを経験後、SES事業を創業。複数クライアント現場でAI導入コンサルティングを担当。「ITをもっとフェアに」を掲げ、マージン構造の開示に取り組む。

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