「SESは派遣じゃないから派遣法の改正は関係ない」——そう思っていないだろうか。
結論から言うと、半分は正しいが、もう半分は誤りだ。SES契約(準委任契約)は労働者派遣契約ではないため、派遣法の規制を直接受ける対象ではない。しかし、SES現場で頻発している「クライアントから直接指示を受ける」状態は、労働者派遣法59条2号で1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科される偽装請負に該当する可能性がある。そして偽装請負と認定された瞬間、その契約は事実上「無許可派遣」として派遣法の枠組みで判断される。
派遣法は2024年・2025年・2026年と段階的に改正が進んでおり、2026年春には新たな省令・指針改正が予定されている。雇用安定措置・同一労働同一賃金(均等・均衡待遇)・マージン率情報の公開強化といった改正の流れは、SES業界にも間接的に影響する。
私はHeyday株式会社の代表として6年間SES事業を経営してきた。本記事では、2026年の派遣法改正の主要ポイントを整理したうえで、SES(準委任契約)にどう関わるのか、エンジニアと企業がそれぞれ何を確認すべきかを実務レベルで解説する。
派遣法2026改正の概要:施行スケジュールと主要ポイント
1. 施行スケジュール
2026年の派遣法改正は、複数のトラックで進んでいる。
- 2025年12月25日:労働政策審議会・同一労働同一賃金部会が報告書を取りまとめ
- 2026年2月:労政審の同一労働同一賃金部会が派遣法・パート有期法の見直しについて議論を開始
- 2026年3月までに:厚生労働省が施行日を含む改正要綱案を公表予定
- 2026年春:厚生労働省が省令・指針の改正案を諮問・了承
- 令和8年(2026年)10月1日施行・適用予定:派遣労働者の待遇改善関連の改正
施行時期は早ければ2026年秋、遅くとも2027年春になる見込みだ。SES企業もこのスケジュールを念頭に置いて、契約書・体制の整備を前倒しで進める必要がある。
2. 主要改正点(2026年春〜秋)
2026年改正の主な柱は以下の通りだ。
A. 派遣労働者の待遇改善(同一労働同一賃金関連)
- 雇入れ時・派遣時の明示事項に「待遇の相違の内容及び理由等について説明を求めることができる旨」を追加
- 「同一労働同一賃金ガイドライン」のさらなる明確化
- 公正な評価による待遇改善の促進
派遣先の正社員と派遣労働者の不合理な待遇差を解消するため、派遣元には「派遣先均等・均衡方式」または「労使協定方式」のいずれかを確保することが義務づけられている。2026年改正ではこの運用がさらに厳格化される。
B. マージン率情報公開の継続強化
平成24年改正でマージン率の情報公開が義務化されて以降、令和3年(2021年)4月からは派遣元事業主による情報提供は「原則として、常時、インターネットの利用により広く関係者に提供する」ことが求められている。2026年改正でもこの方向性は維持される。
C. カスタマーハラスメント対策の義務化
2025年6月公布の労働施策総合推進法等の改正により、顧客・取引先からの著しい迷惑行為(カスハラ)対策が全事業者に義務付けられた。施行は公布から1年6か月以内(最遅で2026年12月ごろ)。派遣元・派遣先双方が対象になる。
D. 社会保険加入要件の段階的撤廃
直接の派遣法改正ではないが、月額8.8万円の賃金要件は2026年10月をめどに撤廃見込み。従業員規模要件も段階的に撤廃され、最終的には2035年に企業規模を問わず全労働者が対象となる。短時間SESや副業エンジニアにも影響する。
これらの改正の通底するテーマは「労働者保護の強化」だ。派遣法の対象外であるSESにも、この潮流は確実に波及する。
SES(準委任契約)と派遣法の関係:なぜ「直接適用外」なのか
1. 法的根拠の違い
SES契約と派遣契約は、根拠となる法律がそもそも異なる。
| 契約形態 | 根拠法令 | エンジニアの雇用主 | 業務指示の主体 |
|---|
| SES(準委任) | 民法 第656条 | SES企業 | SES企業 |
| 労働者派遣 | 労働者派遣法 | 派遣元(派遣会社) | 派遣先(クライアント) |
SES契約は民法656条の「準委任契約」に基づき、エンジニアの技術力(労働の成果)の提供を目的としている。一方、派遣契約は労働者派遣法に基づき、労働力そのものの供給を目的としている。
最大の違いは「指揮命令権の所在」だ。SESではエンジニアへの指示はSES企業が行うが、派遣ではクライアント(派遣先)が直接指示を出す。この違いがあるため、SESは派遣法の直接適用対象外となる。
3形態の違いをより詳細に整理した内容は、SES・派遣・請負の違いとは?指揮命令・法的根拠・選ぶ基準を参照してほしい。
2. 「3年ルール」はSESに適用されるか
派遣法の有名な規制に「3年ルール」がある。これは派遣社員として同じ組織単位(派遣先の同じ部署)で3年を超えて働くことを禁止するもので、派遣法によって定められている。
結論:SES契約には3年ルールは適用されない。
理由はシンプルで、SESは派遣法の対象ではないからだ。準委任契約のSESエンジニアは、法律上は同じクライアント現場に5年でも10年でも常駐し続けられる。
ただし、実務上は3年以内に契約終了・現場変更となるケースが大半だ。クライアント側の予算サイクル・プロジェクトの区切り・SES企業のローテーション戦略などで、長期常駐は自然と避けられる傾向にある。
3. それでも偽装請負として認定されるケース
SESが派遣法の直接対象でないからといって、無関係でいられるわけではない。実態として派遣と同じ働き方になっていれば、偽装請負として労働者派遣法違反が問われる。
偽装請負の判断は契約形式ではなく実態で行われる。厚生労働省の「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準(37号告示)」では、以下の2点が請負・準委任として認められる要件とされている。
- 自己の雇用する労働者の労働力を自ら直接利用すること
- 請負契約により請け負った業務を、契約相手方から独立して処理すること
つまり、契約書に「準委任契約」と書いてあっても、発注者(クライアント)が受託者(SES企業)の労働者に直接指示し、勤怠や配置まで実質管理していれば、それは派遣と評価され偽装請負になる。
判明した場合、ベンダーが派遣事業の許可を得ていなければ**1年以下の懲役または100万円以下の罰金(労働者派遣法59条2号)**が科される。是正措置勧告に従わない場合の社名公表もリスクだ。
偽装請負の判定基準と現場での自己診断方法は、SES偽装請負チェックリスト10項目で詳細に整理している。
エンジニアが確認すべき3つのポイント
派遣法改正を踏まえて、SESエンジニア個人が確認すべきポイントを3つに絞って示す。
ポイント1:自分の現場が偽装請負か確認する
改正の本筋は派遣法そのものだが、SES現場のグレーゾーンを放置していると、改正の影響範囲が広がるなかで法的リスクが顕在化する可能性がある。以下の質問に1つでも「はい」と答えるなら、現場の状態を見直したほうがいい。
- クライアント担当者から直接、日々のタスク指示を受けている
- 残業の指示・休暇取得の許可をクライアント側が出している
- スキルシートの提出をクライアントから直接求められた
- 自社の上長を経由せず、現場の評価がクライアントから自社へ伝わる構造になっている
- チャット・メールの宛先がクライアントの担当者のみで、自社が情報共有から切り離されている
これらは典型的な偽装請負のサインだ。偽装請負と判定された場合、エンジニア個人が刑事罰を受けるわけではないが、労働環境の管理責任が宙に浮くことが最大の問題になる。残業を強いられても自社が守ってくれない、ハラスメントを受けても相談先が定まらない、といった実害が起きやすい。
ポイント2:3年ルールの誤解を解いておく
「SESでも3年で現場を変えなければいけない」と思い込んでいるエンジニアが少なくない。これは法的には誤りだ。SES(準委任契約)は派遣法の3年ルール対象外で、5年でも10年でも同じ現場で働ける。
ただし、長期常駐には別のリスクがある。
- 同じ現場での「業務範囲の固定化」で市場価値が伸びにくい
- クライアントとの距離が近くなりすぎて、偽装請負化しやすい
- 3年・5年と続くうちに、自社経由の評価サイクルが形骸化する
「法的には縛りがないが、キャリア戦略上は2〜3年で現場を変える判断が合理的」という整理が現実的だ。
ポイント3:待遇・給与への間接的な影響
派遣法改正で派遣社員の待遇改善が進むと、SES業界の単価相場にも間接的に影響する。
派遣社員の同一労働同一賃金が厳格化されることで、派遣エンジニアの単価が上がれば、SESエンジニアの単価相場もそれに引っ張られる傾向がある。クライアント側の人材調達予算は派遣・SES・フリーランスを横断して動くため、片方の単価が上がれば他方も連動しやすい。
ただし、これは「自動的に給与が上がる」という意味ではない。SES企業のマージン構造・案件単価の透明性・自分の市場単価の把握——この3つが揃わないと、法改正の追い風を受けられない。
SES企業(営業・管理側)への影響
派遣法改正はSES企業の運営にも実務レベルで波及する。経営側・管理側が確認すべきポイントを整理する。
1. 契約書・SOWの整備
偽装請負と認定されないためには、契約書とSOW(作業範囲記述書)の精度が不可欠だ。2026年改正後は労働者保護の流れがさらに強まるため、以下を見直しておきたい。
- 業務範囲の明確化:「クライアントの指示に従い業務を行う」ではなく、業務内容・成果物・期間を具体的に記載
- 指揮命令系統の明示:自社上長がエンジニアに指示する構造を契約書で明示
- 報告・評価ルートの自社経由化:エンジニアの評価・労務管理は自社で行うことを明記
2. 元請け企業(クライアント)への対応
改正の流れを受けて、クライアント側もコンプライアンス意識が高まる。SES企業は元請けに対して以下の体制整備を求められやすくなる。
- 偽装請負防止のための運用ルール文書化
- 是正記録・チャットログの保存
- 定期的な現場運用監査
クライアント側が「派遣法改正で社内コンプラが厳しくなった」と契約見直しを求めてくるケースも増えると予想される。先回りして体制を整備しておくほうが、契約継続の交渉で優位に立てる。
3. マージン率の透明性
派遣法のマージン率公開義務は派遣事業者向けだが、SES業界にも「自社の取り分を開示すべき」という業界圧力が広がっている。エンジニア側からの透明性要求は確実に強まる。Heydayでは、業界水準より低いマージン率で運営し、その方針を明示することで信頼を築いている。
法律・契約の論点を体系的に整理した内容は、SES法律・契約完全ガイドを参照してほしい。
FAQ
Q1. SESエンジニアは派遣3年ルールの適用を受けるか
A. 受けない。 SES契約は準委任契約(民法656条)で、労働者派遣法の対象外。同じクライアント現場に3年以上常駐しても、法的には問題ない。ただし、市場価値・偽装請負リスクの観点から、2〜3年での現場変更が実務上は推奨される。
Q2. 偽装請負と判定されたらエンジニアはどうなるか
A. エンジニア個人に刑事罰は科されない。 罰則の対象は派遣事業の許可を得ていない事業者(SES企業)と、場合によっては派遣先(クライアント)だ。1年以下の懲役または100万円以下の罰金(派遣法59条2号)。エンジニア側のリスクは、労働環境の管理責任が曖昧になり、残業強要・ハラスメント・体調悪化などの実害が生じやすい点にある。
Q3. 改正後に待遇改善を会社に求められるか
A. 求められる。 派遣法の同一労働同一賃金が厳格化されると、業界全体の単価相場が動く。自分の市場単価を把握したうえで、自社マージン率と単価の妥当性を交渉する根拠が増える。具体的な交渉方法はSES年収交渉の進め方で詳しく解説している。
Q4. SESから派遣・正社員に切り替えるべきか
A. 一概には言えない。 派遣には3年ルールがある一方で、同一労働同一賃金・雇用安定措置といった保護が手厚い。正社員は雇用安定性が最も高いが、案件選択の自由度は下がる。3形態それぞれにメリット・デメリットがあるため、自分のキャリア目標に合わせて選択する必要がある。詳細はSES・派遣・請負の違いを参照。
Q5. 改正後にSES企業を選ぶ基準は変わるか
A. 変わる。 法改正後はコンプライアンス意識・契約書の整備度・マージン率の透明性が、企業選びの新しい指標になる。「契約書をきちんと見せてくれるか」「自分の単価とマージンを開示してくれるか」「偽装請負を防ぐ運用ルールがあるか」を面談で確認することが、自分を守るための前提条件になる。
まとめ:派遣法改正は「SESには関係ない」で片付けられない
派遣法2026改正の主要ポイントを整理した。重要な点を再確認する。
- 派遣法は2026年春〜秋にかけて段階的に施行:同一労働同一賃金・マージン率公開・カスハラ対策が柱
- SES(準委任契約)は派遣法の直接適用対象外:3年ルールも適用されない
- しかし偽装請負として認定されれば、派遣法59条2号で1年以下の懲役または100万円以下の罰金:契約書ではなく実態で判断される
- 改正の趣旨は労働者保護の強化:派遣単価が動けばSES単価相場にも波及する
- エンジニアは自分の現場が偽装請負化していないか、3年ルールの誤解を解く、市場単価を把握する——の3つを押さえる
派遣法改正は「SESは関係ない」で片付けられない。準委任契約であっても、指揮命令の実態があれば偽装請負として認定されるリスクは改正後も継続する。改正の趣旨は労働者保護の強化であり、エンジニアにとっては自分の権利を理解し、グレーな現場から身を守るための知識が改正ごとにアップデートが必要だということだ。
法律の知識は武器になる。自分の契約形態・現場の実態・市場単価を把握することが、不当な扱いを受けたときに自分を守る前提条件になる。
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