「SESやめとけ」と検索したなら、その直感は正しい方向を向いている。ただし、やめるべきはSESという業態ではなく、特定の構造を持つ企業だ。
Heydayの代表として、IT業界12年・SES事業6年を経営してきた立場から、今回は「採用する側」として正直に話す。競合する記事を書いているエージェントやメディアは全員、求職者視点で「SESに入るとこんな目に遭う」と書いている。私は逆側から書く。経営者が「このエンジニアをSESに入れると詰むかもしれない」と感じる瞬間、そして「この人は必ず成長する」と確信する瞬間、その判断基準を開示する。
Heydayで採用したn=約50名の3年後データを追跡した。単価70〜80万台に到達したエンジニア、自社開発・上流へ転職に成功したエンジニア、停滞したエンジニア、離職・休職に至ったエンジニア——4つのパターンと、それを分けた条件を具体的に記述する。
やめとけと言われる本当の理由:採用する側から見た構造的問題
多重下請け構造がマージンを食い潰す仕組み
「SESやめとけ」論の根幹にあるのは、多重下請け構造によるマージンの食い潰しだ。これは感情論でも誇張でもなく、業界の構造的な問題として実在する。
エンドクライアントが「月額100万円」でエンジニアを求めたとする。この100万円が1次請け企業、2次請け企業、3次請けのSES企業を経由してエンジニアに届くまでに、各社がマージンを取る。1次請けが20万円、2次請けが15万円、3次請けのSES企業がさらに取る。最終的にエンジニアの手元に届く報酬は、元の単価からかけ離れた数字になっていることがある。
マージンそのものは悪ではない。会社が事業を継続するためのコストは確かに存在する。問題は2点だ。
1点目、マージン率が開示されないこと。エンジニアは自分がいくらで売られているかを知らないまま働いている。これは情報の非対称性であり、構造的な不公正だ。
2点目、商流が深いほど各社がマージンを取るため、エンジニアへの還元率が著しく低下すること。3次請け以下の企業がエンジニアを雇用し、さらに別企業にエンジニアを貸す構造では、最終的にエンジニアへの還元率が50%を下回るケースも珍しくない。
マージンの計算方法についてはSES手取り早見表|単価60万〜100万を還元率×商流で実額分解で詳しく解説しているが、簡単に言えば「単価×(1-マージン率)=月給」という計算式を、エンジニアが自分で検証できる状態にないことが問題の本質だ。
この構造を理解せずにSES企業に入ると、「なんとなく給料が低い気がする」という漠然とした不満だけが残り、交渉の根拠もなく、転職すべきかの判断もできないまま時間が過ぎる。これが「SESやめとけ」論の正しい部分の核心だ。
「案件ガチャ」が起きる経営者側の内情
「案件ガチャ」という言葉がエンジニアコミュニティで使われるようになって久しい。配属される案件が完全に運任せで、当たり外れが激しいという経験から生まれた言葉だ。なぜこれが起きるか、経営者の内情を開示する。
SES企業にとって、エンジニアを「待機」させることは直接的なコストだ。エンジニアに給与を支払いながら、案件が決まるまでの間、売上はゼロになる。この経済的プレッシャーが、エンジニアの希望・適性・スキルマッチよりも「早く埋める」を優先させる意思決定を生む。
特に資金力の薄い小規模SES企業では、待機エンジニアが2〜3人増えるだけで月次の資金繰りに影響が出る。「エンジニアのキャリアを考えて最適な案件を待つ」という姿勢は、経営者としての理想論と資金繰りの現実の間で崩れていくことがある。
もう一つの内情として、営業担当者の評価指標の問題がある。SES企業の多くで、営業担当者の評価は「稼働率」または「売上」に連動している。「エンジニアが成長した案件に入れられたか」「スキルアップにつながったか」という指標で評価する企業はごく少数だ。結果として、エンジニアにとって最適な案件よりも、「今すぐ埋められる案件」が優先される。
これは担当者個人の悪意ではなく、インセンティブ設計の問題だ。そして、インセンティブ設計を変えない企業は、何年経っても同じことを繰り返す。
面談で「案件の選択権はありますか」と聞いて「もちろんあります」と答えるSES企業は多い。しかし、実際にエンジニアが「この案件は断りたい」と言ったとき、担当者がどう反応するかが本当の答えだ。「経済的に待機が難しい」「次の案件がいつ来るか分からない」というプレッシャーをかけて実質的に断りを封じる企業が存在することを、経営者として認めておく。
採用面談と入社後の現実のギャップが生まれる理由
採用面談でのギャップがなぜ生まれるか。これも経営者の内情として説明する。
SES企業の採用面担当者は、実態として「営業担当者」が兼務している。彼らの仕事は「エンジニアを採用すること」であり、採用後の定着・キャリア成長は別のKPIで管理される(か、管理されていない)。
結果として何が起きるか。面談では最も魅力的な案件例を見せる。実際には稀なケースである高単価案件を「こういった案件があります」と紹介する。待機保証については「もちろん給与は保証されます」と言うが、保証される額や期間の詳細は曖昧にする。常駐先の選択権については「希望を最大限考慮します」と言うが、「考慮した結果、この案件しかないんです」と押し込む余地を残す。
エンジニア側に「面談での話と違う」と感じさせないための技術が、採用側には蓄積されている。これを公開することは、業界の採用慣行に対する批判であることは分かっている。ただ、エンジニア視点で書かれた「やめとけ」記事には載らない情報であり、この記事の存在意義はここにある。
具体的なNG手口については、後半の「見分け方:7チェック」のセクションで詳しく列挙する。
経営者が「このエンジニアは詰むかもしれない」と感じる4つのパターン
ここが、他の「SESやめとけ」記事に絶対に載らない内容だ。採用する側の経営者として、面談や稼働後の観察を通じて「このエンジニアは3年後に詰んでいる確率が高い」と感じる4つのパターンを記述する。
これは批判ではない。この4パターンを知ることで、自分が該当するかを確認し、行動を変えるための情報として使ってほしい。
単価交渉を一度もしたことがない
稼働年数が3年・5年・7年でも、一度も単価交渉をしたことがないエンジニアが実在する。面談でこの事実が出てきたとき、経営者として複数の懸念が生まれる。
1つは「市場価値の自己認識がない」という懸念だ。単価交渉をするためには、自分のスキルセットが市場でどう評価されるか、同スキルを持つエンジニアの単価レンジがどこにあるかを把握する必要がある。それを把握していないということは、市場から見た自分の価値を能動的に確認したことがないということだ。
2つ目は「情報収集をしない」という行動パターンの懸念だ。単価交渉をしないエンジニアは、案件の選択でも、転職活動でも、同じ「情報を集めて交渉する」行動を取らない傾向がある。SES環境でキャリアを伸ばすエンジニアは例外なく、積極的に情報を取りに行く人間だ。
3つ目は「現状維持バイアス」の懸念だ。単価を上げる交渉は多少の摩擦を生む。その摩擦を避け続けると、SES企業側は「この人は黙って稼働してくれる」と学習し、次の案件では単価を意図的に低く設定するインセンティブが生まれる。善意だけで動く経営者は多数派ではない。
案件を選んでいいという認識がない
「案件は会社が決めるもの」という認識でSESに在籍しているエンジニアが一定数いる。面談でこれが判明する瞬間は、「今まで希望を出して断ったことはありますか」という質問への回答で現れる。
「断ったことはありません、というか断っていいものかと思っていなかった」という答えが返ってくることがある。この認識のまま在籍を続けると、SES企業の営業担当者は「この人は何でも受けてくれる」と学習する。案件の選択権は主張しなければ自動的に失われる。
SESの法的な建付けは準委任契約であり、エンジニアは雇用された企業(SES企業)の指揮命令下に置かれる。ただしこれは「案件を断ってはいけない」という意味ではない。雇用主であるSES企業との関係において、キャリア上の希望を交渉する権利はある。
問題は、この交渉を一度もしたことがないエンジニアは、「断る文化」がないSES企業に長年在籍していた可能性が高いという点だ。そういった企業に在籍し続けることの蓄積的なコストは、単価停滞だけではなく、自律性の喪失としても表れる。
自分のマージン率を知らない・聞いたことがない
「今の案件の単価はいくらですか」という質問を面談でしたとき、「わかりません」「聞いたことがありません」という回答が返ってくるケースがある。5年以上SESにいるエンジニアでも、だ。
マージン率を知らないということは、自分の労働対価がどう設定されているかを把握していないということだ。これは経営者の視点から言えば、最も重要な交渉カードを持たずに働いているという状態だ。
マージン率を知ると何が変わるか。「この会社に在籍することが適正か」を客観的に判断できる。業界水準と比較して著しく高いマージン率であれば、転職を検討すべき根拠になる。逆に、適正なマージン率であれば、現状を肯定する根拠になる。判断の材料がなければ、現状が良いのか悪いのかすら分からない。
また、「マージン率を聞いていい」という認識を持てるかどうかは、その後のSES企業との関係性を大きく左右する。聞ける文化がある企業かどうかは、企業の透明性を測るバロメーターでもある。
マージンの具体的な計算方法についてはSES手取り早見表|単価60万〜100万を還元率×商流で実額分解を参照してほしい。
技術スタックの棚卸しを年1回もしていない
SESエンジニアのキャリアを分ける最大の要因の一つが、「市場から見た自分のスキルセット」を定期的に可視化しているかどうかだ。
棚卸しをしていないエンジニアに共通するのは、「現在の案件で使っているスキル=自分のスキル」という認識だ。しかし市場価値は、「そのスキルを今どれだけ求めているか」「同じスキルを持つエンジニアの供給と需要のバランス」によって変動する。数年前に高単価だったスキルが、AI・クラウドの普及によって相対的に価値が下がっていることもある。
技術スタックの棚卸しをしないエンジニアは、自分の市場価値が上がっているのか下がっているのかを認識できない。上がっていれば単価交渉の根拠になる。下がっていればスキルアップが必要だと分かる。この判断を「感覚」でやっているエンジニアは、市場の変化に対応できず、3年後に「なぜか単価が上がらない」という状態になる。
3年後に詰んだパターンのエンジニアを振り返ると、4つのうち2つ以上の特徴を持っていたケースがほとんどだ。逆に言えば、この4つに気づいて行動を変えたエンジニアは、出発点が同じでも3年後に別の場所にいた。
やめとけ論の「正しい部分」と「誇張されている部分」
「SESやめとけ」という言説には、正しい部分と誇張されている部分が混在している。経営者として両方を整理する。
正しい部分
多重下請け構造によるマージンの食い潰しは実在する。情報の非対称性(エンジニアが単価を知らない)は業界の構造的問題として存在する。案件の選択権が事実上ないSES企業が一定数存在する。採用面談での説明と入社後の現実にギャップを生じさせるSES企業の慣行は実在する。これらは「やめとけ」と言われる根拠として正当だ。
誇張されている部分
「SESエンジニアはスキルが身につかない」という主張は誇張だ。スキルが身につくかどうかは、案件の種類と本人の学習行動に依存する。SESという業態の問題ではなく、案件の質と本人の行動の問題だ。
「SESは全員搾取される」という主張も誇張だ。透明性を持ったSES企業は実在し、適正なマージン率で運営している企業もある。問題はどの企業を選ぶかの情報格差であり、SES業態への全否定は過剰だ。
「SESにいたらキャリアアップできない」という主張も誇張だ。後述のn=約50名データで示すが、SESから自社開発・上流への転職に成功したエンジニアは約35%存在する。SESがキャリアアップの妨げになるのではなく、不透明な企業での停滞がキャリアアップを妨げる。
「やめとけ」論が見落としていること
ほとんどの「SESやめとけ」記事は、「SESに入ると被害に遭う」という被害者視点で書かれている。しかし、同じSES企業に入ったエンジニアの中でも、3年後に大きく違う結果になる事実を説明できていない。
それはエンジニア側の情報収集力・交渉力・自律性の差が、SESという環境における成果に大きく影響するからだ。同じ会社に入っても、能動的に情報を集め、交渉し、スキルを棚卸しするエンジニアと、流されるだけのエンジニアでは、3年後の位置が全く異なる。
これは「被害に遭ったのは本人のせいだ」という話ではない。不透明な企業は存在し、そこに入ると不利になることは事実だ。ただ、「やめとけ」という結論だけでは、入ってしまった後にどう行動するかの指針を与えられない。
n=約50名追跡データ:3年後の4パターン
Heydayで採用したエンジニアn=約50名(2020年〜2023年入社・2026年時点追跡)の3年後の状況を4つのパターンに分類した。追跡できなかったケースを除いた有効サンプルを母数としている。
これは特定の成功事例を取り上げた「上振れ紹介」ではなく、分布として提示する。良い結果も、良くない結果も、包み隠さず記述する。
パターンA:単価70〜80万台に到達(約20%)
このパターンに至ったエンジニアの共通条件は3つある。
1つ目、入社時点からマージン率を開示された環境で働き、単価の動きを自分でトラッキングしていた。「自分が今いくらで売られているか」を把握していたため、単価交渉のタイミングと根拠を自分で設定できていた。
2つ目、技術スタックを年1回以上棚卸しし、「今伸ばすべきスキル」を意識的に選択していた。クラウド(AWS・Azure・GCP)やCI/CDパイプライン、インフラ自動化などの領域に早期から投資したエンジニアが、結果的に単価の上昇幅が大きかった。
3つ目、案件を断った経験がある。「この案件は自分のキャリアに合わない」と一度でも主張して、別の案件に変わった経験を持つエンジニアが、パターンAに入る確率が高かった。断る行動が、自分の価値を主張するトレーニングになっていると考えられる。
単価の伸びは直線ではなく、停滞期を経てジャンプする傾向がある。入社から1〜2年は単価変動が少なく、特定の資格取得・案件ジャンルのシフト・スキルの組み合わせ(例:Java+AWS+上流経験)を持った時点で交渉力が急上昇するパターンが複数見られた。
パターンB:自社開発・上流へ転職(約35%)
最も多いパターンがこれだ。SESからの「卒業」として最も理想的な形であり、全体の約35%が3年以内にこの形で転職した。
転職先の分類は、自社開発企業(Webサービス・SaaS)への転職が約半数、コンサルティングファーム・上流工程への転職が約30%、フリーランスとして独立が約20%だった。
このパターンに至ったエンジニアに共通するのは、「SESを踏み台として意識的に使った」という能動性だ。入社時から「2〜3年後に転職する」という目標を持ち、その目標から逆算して取るべき案件・身につけるべきスキルを選択していた。
転職活動の開始タイミングは在職中が圧倒的多数だった。「退職してから転職活動」というエンジニアは少数で、稼働中に案件の合間を使って転職活動を進め、内定後に退職するパターンが多かった。
パターンBへの転換に最も効いた要素として、面談で繰り返し出てきたのが「上流工程の経験」だ。設計・要件定義・顧客折衝の経験を積んだエンジニアは、自社開発企業への転職において明確な差別化ができていた。
パターンC:SES継続・単価停滞(約30%)
このパターンが最も「やめとけ」論が心配するゾーンだ。SESに在籍し続けているが、入社から3年経っても単価がほとんど変わっていない状態だ。
停滞した主な理由として、前述の「経営者が詰むと感じる4パターン」に該当するケースが多かった。単価交渉未経験・案件選択の受け身・マージン率不知・技術棚卸し未実施の組み合わせが、停滞を生んでいた。
ただし、パターンCの全員が「不幸」かというと、そうではない。「安定した稼働と一定の収入を維持している」という評価もできる。問題は、停滞を望んでいたわけではなく、気づいたら停滞していたというケースだ。停滞を選んだのではなく、流されていたら停滞していた、という構造が問題だ。
パターンCからパターンAやBへの移行は、3年経過後でも可能だ。ただし、停滞が長いほど「自分の価値を交渉する」行動習慣を取り戻すのに時間がかかる傾向がある。
パターンD:離職・休職・エンジニア廃業(約15%)
最も厳しいパターンだ。SESから離れ、IT業界そのものから離れた、あるいは長期休職に至ったケースが約15%存在した。
このパターンには複数の要因が絡み合っている。案件のミスマッチによる技術的な追い詰め、待機期間の長期化による経済的・精神的な消耗、不透明な企業による搾取的な状況が重なったケースが含まれる。
パターンDに共通していた早期サインは、案件への不満を相談できる相手がいなかったことだ。会社への不満を営業担当者に言えず、かといって他に相談できる同僚・先輩もいない状態で、問題が顕在化した時点では既に深刻なダメージを受けていた。
これは「弱いエンジニアが詰んだ」という話ではない。構造的な問題が重なった結果だ。透明性のないSES企業に在籍し、案件への不満を言えない環境に置かれ、情報を持たない状態で追い詰められる——この連鎖が、本人の能力・意欲とは無関係に起きる。
「SESやめとけ」論が本当に警告すべきはこのパターンへの移行リスクであり、それは特定の条件が重なった環境で発生する確率が上がる。
やめとけなSES企業の見分け方:経営者が内側から教える7チェック
ホワイトSES企業の数値基準(10指標)についてはSESやめとけと言われる理由|ホワイト企業の数値基準と脱出法を経営者が解説で詳しく解説している。ここでは、採用する側の経営者として「NG企業の見分け方」を内側から教える。
7つのチェック項目を設定した。面談前・面談中・内定後それぞれのタイミングで確認できるものを選んでいる。
チェック1:待機期間の給与保証額と期間を即答できるか
「待機中の給与はどうなりますか」という質問に、「基本給の何%を何ヶ月保証する」と即答できない企業は要注意だ。「基本的には保証します」「原則として給与が下がることはありません」という曖昧な答えは、保証していないと同義に近い。
NG企業は待機が長期化すると、「次の案件が決まるまで交通費のみ」「待機中は基本給の60%」などの条件を後から提示するケースがある。これは入社前に必ず数字で確認すべき項目だ。
チェック2:マージン率を聞いたときの反応
「単価に対してマージン率は何%ですか」と聞いたとき、「それはお答えできません」「そういった情報は開示していません」という企業はリスクが高い。
正直に運営している企業は、「弊社は〇〇%前後で、その内訳は〜です」と答えられる。答えられない理由がある企業は、答えられない数字がある企業だ。
チェック3:案件の断り実績を確認する
「過去にエンジニアから案件を断られたことはありますか、その場合どう対応しましたか」と聞く。「断ったことはありません」という企業は、断れない空気を作っているか、断った事実を認めていない可能性がある。
「断られたことはあります。その場合は別の案件を探しました」と答える企業が正常だ。
チェック4:担当エンジニアの平均在籍年数
「御社のエンジニアの平均在籍年数はどのくらいですか」と聞く。2年を下回る場合、定着率に問題がある可能性が高い。ただし、設立間もない企業は単純に在籍期間が短いため、「離職率」で聞く方が正確だ。
「離職率は何%ですか」に対して「分かりません」「把握していません」という企業は、エンジニアの定着を重視していない組織的な問題がある。
チェック5:面談での案件例の具体性
面談で見せられる案件例が「プロジェクト管理のお仕事!週5日・月収50万〜」という抽象的な記述しかない場合、その企業は案件の具体的な情報を開示する意志がないか、そもそも案件の詳細を把握していない可能性がある。
良い企業は「現在稼働中のエンジニアが入っている案件の例として、〇〇技術を使った〇〇プロジェクトで、クライアントは〇〇業界です」という具体的な情報を提供できる。Heydayの具体的な案件例は実際の案件例で確認できる。
チェック6:入社後の定期面談の頻度と担当者
「入社後、どのくらいの頻度で面談がありますか、担当者は誰ですか」と聞く。「案件が問題なければ必要に応じて」という企業は、問題が起きてからしか連絡しないという意味に近い。
月1回以上の定期チェックイン、または四半期ごとのキャリア面談がある企業が望ましい。また、営業担当者だけでなくキャリア担当者がいる企業は、エンジニアの成長を組織として設計しているサインだ。
チェック7:退職時の手続きの透明性
「もし転職することになった場合、退職の手続きはどうなりますか」という質問に対して、「そういうことは入社前に聞くことではありません」という反応をする企業は入るべきではない。
退職の手続きが透明で、引き止めのプレッシャーがない企業であることは、在職中の関係性の健全さを予測する指標だ。SES契約途中の退職に関する詳細な解説はSES契約途中の退職は可能かで確認してほしい。
採用面談で実際に使われるNG手口5パターン
経営者として、他社の採用面談でも使われているNG手口を5パターン挙げる。採用側の視点からの内部告発に近い内容だ。
手口1:実際には稀な高単価案件を「代表例」として見せる
月額80〜90万円の案件を「こういった案件があります」と見せながら、実際には大半のエンジニアがその半分以下の案件に入る。「稀なケース」を「よくあるケース」として見せる見せ方だ。
対策:「今稼働中のエンジニアの単価の中央値と最低値を教えてください」と聞く。代表値(最大値)ではなく中央値・最低値を聞くことで実態が見えやすくなる。
手口2:待機保証を「給与保証」と同一視させる説明
「待機中も給与は保証されます」という説明で、実際には「基本給の60%を3ヶ月保証」という条件を細部に埋める。エンジニア側が「全額保証される」と誤解したまま入社するケースがある。
対策:「待機期間中の給与は、基本給の何%を、最長何ヶ月保証していただけますか。数字で確認させてください」と聞く。
手口3:「あなたのスキルなら良い案件がすぐ決まります」という個人化した約束
面談時に「あなたのJavaスキルなら即日内定が出る案件があります」という個人に向けた具体的な約束をするが、入社後にその案件がなくなっていたり、条件が変わっていたりする。
面談での発言は契約書に記載されない限り法的拘束力を持たない。具体的な約束は書面での確認を求める。
手口4:競合他社との比較を避ける
「他社と比較してどういった点が違いますか」という質問に、「弊社の強みは〜です」と自社の特長を述べるが、他社と何が具体的に違うかを答えない。比較できない理由がある場合が多い。
対策:「マージン率・待機保証・定期面談の頻度で、業界平均と比較してどのポジションですか」という数値ベースの比較を求める。
手口5:長期的なキャリアビジョンの話を「将来的には〜」で終わらせる
「3年後のキャリアはどうなりますか」という質問に、「将来的には上流工程を担当することも可能です」という曖昧な答えで終わらせる。「可能性がある」という表現は、実績ではなく願望に近い。
対策:「過去に御社のエンジニアで上流工程に移行した事例はありますか。いれば具体的に教えてください」と実績で聞く。
面談でそのまま使えるコピペ質問リスト7問
以下の質問は、面談の場でそのまま使える。回答の内容と、回答への反応(嫌な顔をするか、誠実に答えるか)の両方が情報になる。
1. 待機期間中の給与は、基本給の何%を最長何ヶ月保証していただけますか?
2. 案件単価に対して、御社のマージン率はおおよそ何%ですか?
3. 過去1年で、エンジニアから案件を断られたケースはありますか?
その場合、どのように対応しましたか?
4. 現在稼働中のエンジニアの月額単価の中央値と最低値を教えていただけますか?
5. 入社後の定期面談は何ヶ月に1回、どのような担当者と行いますか?
6. 御社で直近1〜2年に自社開発企業や上流工程に転職したエンジニアはいますか?
具体的な事例を教えていただけますか?
7. 転職を検討する場合、退職の手続きはどのように進めることになりますか?
これらの質問に対して、全て誠実かつ具体的な数字で答えられる企業は、透明性を持って運営されている可能性が高い。答えを曖昧にする・明らかに不機嫌になる・「入社してから確認を」と先延ばしにするいずれかの反応があれば、それが答えだ。
やめとけなSES企業にいると判断したら:脱出ロードマップ4ステップ
「自分の今の会社はやめとけなSES企業だ」と判断したとき、次に何をするか。4つのステップで整理する。
Step1:自分の市場単価を把握する(現状認識)
最初のステップは「自分は今、市場でいくらの価値があるか」を把握することだ。現在の給与が市場価値と比べて適正かを判断するためには、比較基準が必要だ。
市場単価の確認方法は複数ある。同じスキルセットを持つエンジニアの求人票をチェックする、転職エージェントに接触してオファー単価を確認する、SESに特化した単価診断ツールを使う——などだ。
Heydayの市場単価診断ツールは、言語・経験年数・クラウドスキル・上流経験を入力することで、市場単価のレンジを確認できる。自分の現在の給与との差を見ることで、「搾取されているのかどうか」を客観的に判断する最初の材料になる。
また、スキル別・言語別の単価レンジについてはエンジニアの単価を上げる方法でも確認できる。
Step2:現在のマージン率を計算して適正か判断する
市場単価が分かったら、次は現在のマージン率を計算する。
計算式は単純だ。「1 − (自分の月収 ÷ 案件単価)=マージン率」となる。
問題は案件単価を知らない場合が多いことだ。その場合は直接SES企業の担当者に聞く。「私のマージン率を教えていただけますか」という質問に誠実に答えるかどうかが、既に企業の透明性を測るテストになる。
業界水準として、マージン率20〜30%程度を適正範囲の目安として頭に入れておくべきだ。40%を超えるマージン率は、エンジニアへの還元が著しく低い状態だと判断できる根拠になる。Heydayでは業界水準より低いマージン率で運営しており、エンジニアへの還元率を最大化する方針を取っている。
Step3:留まる条件・転職すべき条件の判断基準
現状分析が終わったら、「留まるか転職するか」の判断基準を設定する。感情ではなく、条件で判断する。
留まる判断ができる条件:
- マージン率が業界水準の範囲内(〜30%前後)である
- 単価が過去1〜2年で上昇トレンドにある(または上昇の根拠がある)
- 希望する案件・スキル領域の案件を実際に選択できている
- 担当者とのコミュニケーションが機能しており、相談できる関係がある
- 3年後のキャリアビジョンに沿った現在の稼働環境になっている
転職を検討すべき条件:
- マージン率が40%超、または開示を拒否された
- 直近2年で単価が全く上がっていない(交渉しても変化なし)
- 希望と無関係な案件に繰り返しアサインされている
- 担当者への相談が実質的にできない状態(反応がない・否定的な反応しかない)
- 案件環境が自分のキャリアビジョンと乖離が大きく、変えられる見込みがない
これらの条件を一つずつ確認することで、「なんとなく転職したい」という感情論から離れ、根拠ある判断ができる。
Step4:在職中から転職活動を開始する
転職を検討すべき条件に複数該当した場合、在職中から転職活動を開始する。
「退職してから転職活動をしよう」という選択は、エンジニアのキャリア転換において不利になることが多い。理由は2つだ。
1つ目、転職活動には時間がかかる。良い条件の転職先を見つけるまでに3〜6ヶ月かかるケースは珍しくない。退職後に活動を始めると、経済的なプレッシャーが判断を急がせ、結果として条件の悪い転職先を選んでしまうことがある。
2つ目、「今の案件で稼働しながら転職活動をしている」という状態の方が、企業側からの評価が高い傾向がある。稼働中のエンジニアの方が「市場で評価されているエンジニア」として受け取られやすい。
在職中の転職活動は、現在の業務をこなしながら並行するため負荷がかかる。週末の面接・平日夜の書類作成・昼休みの連絡対応が必要になる。この負荷を受け入れることが、転職の質を落とさずに環境を変えるための最善の方法だ。
新卒でSESに入ってしまったという場合は新卒でSESはやめとけ?6年目SES経営者が正直に答えるで新卒特有の判断基準を詳しく解説している。
SESかどうかより重要な問い
記事の終わりにこれを書く。
「SESはやめとけ」という結論を出すことは、実は思考の停止に近い。本当に問うべきは「そのSES企業は透明か」「自分はその環境で自律的に行動できているか」の2点だ。
Heydayの代表として、6年間で約50名のエンジニアを採用し、全員の3年後を追跡して分かったことがある。3年後に良い場所にいるエンジニアは、SESにいようと自社開発にいようと、共通の行動特性を持っていた——情報を持ち、交渉し、自分の価値を可視化し続けていた。
3年後に詰んだエンジニアも、共通の行動特性を持っていた——情報を持たず、交渉せず、流されていた。
これは自己責任論ではない。不透明な企業が情報格差を意図的に作り出し、エンジニアが交渉できない状況を設計していることは問題だ。ただ、その環境に気づいた時点から動けるかどうかが、3年後の場所を変える。
この記事を読んだなら、今日、1つだけ行動してほしい。自分のマージン率を確認するか、市場単価を診断するか、あるいは「案件の選択権を主張したことがあるか」を自問するか。その1つが、パターンCに留まるかパターンAかBに移行するかの分岐点になり得る。
よくある質問(FAQ)
Q1. SESとITエンジニア派遣の違いは何ですか?
SES(システムエンジニアリングサービス)は準委任契約が基本であり、エンジニアの労務管理は雇用元(SES企業)が行う。指揮命令は雇用元に帰属するため、客先での詳細な業務指示は法律上はグレーゾーンとなる(偽装請負の問題)。ITエンジニア派遣は労働者派遣契約であり、指揮命令が派遣先に移転することを法的に認めた形態だ。実態としては業務内容が似ていることも多いが、契約形態・労務管理の帰属・法的保護の内容が異なる。SES在籍中のエンジニアは自分がどちらの契約形態で働いているかを、今すぐ確認すべきだ。
Q2. SESエンジニアは本当にスキルが身につかないのですか?
SESという業態がスキル習得を妨げるのではなく、案件の質とエンジニア自身の学習行動がスキル習得を決める。同じSES企業に在籍しても、保守・運用だけを繰り返す案件に5年いるエンジニアと、設計・開発・クラウド移行など技術的に多様な案件を経験したエンジニアでは、3年後の市場価値に大きな差が生まれる。「SESだからスキルが身につかない」ではなく、「どの案件に入るかをコントロールしているか」が本質的な問いだ。案件の選択権を行使できない環境にいることが問題であり、スキル習得の阻害要因は案件の質と選択権の有無だ。
Q3. マージン率の適正水準はどこですか?
マージン率の「適正」は、SES企業が提供するサービスの質によっても変わる。採用コスト・社会保険料・案件探索・サポート・教育投資を含む運営コストを考えると、20〜30%前後が一般的な目安とされる。これを大きく超えるマージン率(40%超)は、エンジニアへの還元が著しく低い状態だ。ただし、「マージン率が低い=良い企業」という単純な等式は成立しない。サポートがなく放置するが還元率が高い企業より、マージン率は標準的でもキャリアサポートが充実した企業の方が長期的な収益(キャリア価値の向上)が高くなるケースがある。マージン率と提供されるサポートをセットで見ないと、比較の土俵が間違っている。
Q4. 30代でSESに転職するのはリスクが高いですか?
30代でSESを選択する場合のリスクは、年齢自体ではなくスキルセットの競争力と目的の明確性に依存する。30代前半でAWSやPythonなどの需要が高いスキルを持つエンジニアは、SESでも高単価案件に入ることができる。一方で、30代後半以降でスキルアップデートが止まっている場合、SES案件の選択肢が限定される傾向がある。SESを選ぶ目的が「自社開発への転職の踏み台」「特定の技術スタックを積む」「収入の安定」などで明確であり、その目的に沿った案件に入れるならリスクは低い。目的が不明確なまま流される形でSESに入ることが、年齢に関係なくリスクを高める要因だ。
Q5. SES企業への転職前に、どこで単価の情報を確認できますか?
市場単価の確認手段は複数ある。Heydayの市場単価診断ツールでは、言語・経験年数・クラウドスキル・上流経験を入力することで市場単価レンジを確認できる。また案件例ページでは実際の案件の単価レンジを言語・スキル別に掲載している。複数の転職エージェントに問い合わせてオファー単価を比較することも有効だ。1つのソースで確認するのではなく、複数のソースで比較することが実態に近い数字を掴む唯一の方法だ。言語・経験年数別の詳細な単価レンジはSES単価を上げる完全ガイドでも確認できる。
Q6. 「SESやめとけ」と言う人の多くはどういう経験をしていますか?
「SESやめとけ」の発言者のバックグラウンドは大きく2種類に分かれる。1つ目は、実際にブラックSES企業に在籍して搾取・放置・強制アサインなどの経験をしたエンジニアだ。この場合の警告は具体的な経験に基づいており、「特定の企業または業態の問題点」を正確に指摘していることが多い。2つ目は、SES経験はないが「SESはブラック」という認識を持つエンジニア・メディアだ。この場合の警告は伝聞ベースであり、良いSES企業と悪いSES企業の区別がなく「SES全般がダメ」という過剰な一般化になっていることがある。どちらのタイプかを見極めた上で、情報を使うかどうかを判断すればいい。
Q7. SESでエンジニアとして働きながら副業・フリーランス移行は現実的ですか?
SESエンジニアが副業・フリーランス移行を検討する際の注意点が2つある。1つ目は、SES企業との雇用契約に副業禁止条項が含まれている場合があることだ。雇用契約書を開いて、副業禁止条項の有無を先に確認しておくべきだ。2つ目は、フリーランス移行は「自分でクライアントを獲得する」または「フリーランスエージェントを使う」の2択になることだ。前者は稼働開始まで時間がかかるが単価が高くなりやすく、後者は稼働開始は早いがエージェントのマージンが発生する。SESからフリーランスへの移行タイミングとしては、単価70万円以上の案件を安定して受けられる実績と、専門スキルの確立が目安になる。
Q8. SES企業を選ぶときに絶対に確認すべき1つのことは何ですか?
「マージン率を口頭で聞いたときに、担当者が具体的な数字で答えるかどうか」だ。これ1つで多くのことが分かる。答えられる企業は、マージン率を開示できる水準で運営していること、エンジニアとの情報共有を重視していること、透明性に自信があることを意味する。答えられない企業は、答えたくない数字がある可能性が高い。この1つの質問を面談の最初か最後に入れるだけで、企業の透明性を大きく判断できる。「そういった情報はお伝えしていません」という返答は、それ自体が答えだ。
Q9. SES在籍中に技術力を高めるための現実的な方法はありますか?
SES稼働中に技術力を高める最も現実的な方法は、「今の案件外の技術を個人学習として積む」ことだ。稼働中の案件がJava保守であっても、プライベートでAWSを触りIaCを実装するなど、次のスキル層に投資できる。「今の案件でしか使わない技術だけに特化する」ことが、3年後に詰む最短ルートだ。また、案件の交渉で「次は〇〇の技術を使う案件に入りたい」と具体的に要求することも技術選択の一手段になる。技術の棚卸しと市場需要の確認を年1回行い、自分の投資先を意識的に選択することが、SES環境でのスキルアップの基本戦略だ。
Q10. SESが「やめとけ」ではない具体的なケースはありますか?
SESが合理的な選択肢になるケースが3つある。1つ目は、特定の技術スタックを積むための踏み台として意識的に使う場合だ。自社開発企業では経験できない多様な技術・業界を短期間で経験できるSESの特性を活かし、2〜3年のタイムボックスを設定して使う。2つ目は、働き方の柔軟性を優先する場合だ。リモート・フレックス・特定の稼働時間など、ライフスタイル上の制約がある時期に、自社開発より選択肢が多いSES案件は合理的な選択肢になる。3つ目は、エンジニアとしてのキャリア再構築期だ。他業界からIT転職後の経験積みや、ブランク後の復帰など、まず稼働実績を作るフェーズとしてSESを使うことは現実的な戦略だ。ホワイトSES企業の見つけ方についてはSESやめとけと言われる理由|ホワイト企業の数値基準と脱出法を経営者が解説を参照してほしい。