業界・会社約19分

SES契約の注意点(発注側)|準委任・指揮命令・偽装請負を避ける体制と条項

小川将司
小川将司代表取締役

厚生労働省の区分基準と疑義応答集、民法、公正取引委員会などのフリーランス法・取適法の公表資料をもとに、発注企業・BP企業・エンジニアの三者と契約実務を行うSES会社の立場から執筆

シェア:B!

この記事でわかること

  • SESは準委任契約で、発注側は要員に直接、業務の指示をしない。指示は受託するSES会社の責任者を通す
  • 請負・準委任と労働者派遣の区分は、契約書の名称より実態で判断されるとされる(厚生労働省の区分基準)
  • 契約前に確認するのは、指揮命令の経路、業務範囲と成果の扱い、精算、再委託、秘密保持・情報管理、終了・交代の6点
  • 精算幅は140〜180時間が一般的な例。超過と控除の計算、税抜か税込かを個別契約で確かめる
  • フリーランス法(2024年11月施行)と取適法(2026年1月施行)は、誰と誰の取引にかかるかを分けて確かめる

この記事の対象: SES(準委任)で外部のエンジニアを受け入れている、または受け入れを検討している企業の法務・購買・開発責任者

SES契約は準委任契約で、発注側は要員に直接、業務の指示をしない。指示は、受託するSES会社の責任者を通す。請負・準委任と労働者派遣の区分は、契約書の名称より働き方の実態で判断されるとされる。実態が派遣に当たる場合は、受け入れ側も責任を問われることがあるとされる。契約の前に確認するのは、指揮命令の経路、業務範囲と成果の扱い、精算、再委託、秘密保持・情報管理、終了・交代の6点である。

この記事は一般的な情報提供であり、法的助言ではない。契約の扱いは専門家(弁護士・社労士)に確認してほしい。法令と公的資料の記述は、2026年10月時点の公表資料による。現場のエンジニアが自分の契約を確かめる視点は偽装請負のチェックリスト(エンジニア向け)にある。この記事は、受け入れる側の体制と契約条項を扱う。

SES契約で発注側が確認する6点は何か

SES(システムエンジニアリングサービス)は、受託会社が準委任契約で業務の遂行を引き受け、要員が自社の開発に参画する形をいう。発注側が確認する点は次の6つである。このうち1の指揮命令の経路は、契約書だけでは決まらず、現場の運用で決まる。

確認する点発注側が決めること確かめる書類
1 指揮命令の経路業務の指示を誰から誰へ出すか。受託会社の責任者と、自社側の窓口契約書、体制図、運用ルール
2 業務範囲と成果の扱い頼む業務の中身。成果物の完成まで求めるのか、業務の遂行を求めるのか基本契約、個別契約(注文書)
3 精算月額の単価、精算の時間の幅、超過と控除の計算個別契約(注文書)
4 再委託再委託を認めるか、事前承諾にするか。要員の所属会社基本契約、商流の説明
5 秘密保持・情報管理扱う情報の範囲、端末とアカウント、個人データの扱い秘密保持契約、運用ルール
6 終了・交代契約期間と更新、解約の予告、要員の交代の条件基本契約、個別契約

1と4は、要員が決まる前に決めておく。参画が始まってから指示の経路を組み替えるのは、現場の負担が大きい。再委託の有無も、要員が決まった後では確かめにくい。

準委任・請負・派遣は、発注側から見て何が違うか

外部の人に開発を任せる契約は、準委任、請負、労働者派遣の3つに分けると整理しやすい。違いは、誰が業務の指示を出すかと、何を約束するかにある。

観点準委任(SES)請負労働者派遣
約束する内容業務の遂行成果物の完成派遣元が雇う労働者を、派遣先の指示の下で働かせること
業務の指示を出す人受託会社受託会社派遣先(自社)
要員の契約相手受託会社受託会社派遣元
費用の形月額の単価に精算の幅を付ける形がある成果物ごとの金額派遣料金
発注側の主な注意要員に直接指示しない完成の基準と検収の方法派遣元の許可と、派遣先としての義務

自社の社員が要員に直接指示したいなら、派遣か採用を選ぶことになる。仕様が固まっていて完成品がほしいなら請負、要件が動く中で受託会社に業務を任せるなら準委任が合う。手段ごとの比較はIT人材の調達方法(発注側)にまとめた。

準委任にも、成果に対して報酬を払う形がある。2020年4月1日施行の民法改正で、委任の報酬について、成果に対して払う類型(成果完成型)が明文化されたとされる(第648条の2)。処理した事務の割合に応じて払う類型(履行割合型)とは区別される。SESの時間精算は、成果に対して払う成果完成型とは報酬の決め方が違い、稼働の量に応じて払う形である。成果完成型の準委任と請負とで、発注側の扱いがどう変わるかは条項の書き方によって決まる。契約書を作る段階で、専門家に確認してほしい(出典: 民法第648条・第648条の2。e-Gov法令検索)。

偽装請負とは何か、受け入れ側に何が起きるか

契約は請負や準委任なのに、実態が労働者派遣に当たる状態を、一般に偽装請負と呼ぶ。

厚生労働省の区分基準(いわゆる37号告示)は、請負(準委任を含む業務委託)と労働者派遣を分ける基準を示している。請負と認められるには、受託側が次の2つをどちらも満たす必要があるとされる。

  • 自己の雇用する労働者の労働力を、自ら直接利用すること
  • 業務を自己の業務として、契約の相手方から独立して処理すること

判断は契約の形式より実態によるとされる(出典: 厚生労働省『労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準』、昭和61年労働省告示第37号、最終改正 平成24年厚生労働省告示第518号。告示本文)。

発注側から見ると、1つ目の条件は、受託会社が自らの責任で要員を使って仕事を進めることを求めるものと読める。発注側の社員が要員に作業を割り振り、勤務時間を決め、評価までしていると、この条件から外れていると評価されるおそれがある。

実態が労働者派遣と評価されると、受託側に加えて受け入れ側も派遣法上の責任を問われることがあるとされ、罰則の対象になりうるともされている。どこからが問題になるかは、1回のやり取りで決まるとは限らず、日々の運用の実態で判断される。そのため、契約書を整えるのと同じくらい、現場のやり方も先に決めておく。

厚生労働省は、区分基準の当てはめを場面ごとに示した疑義応答集を公開している。第1集から第3集まであり、第3集はアジャイル型の開発を扱っている(出典: 厚生労働省『疑義応答集』。mhlw.go.jp)。自社の運用が当てはまるかは、原文で確かめる。

現場で起きやすい7つの場面と対処

契約書が整っていても、現場の運用で指示の経路が崩れることがある。起きやすい場面と、受け入れ側の対処を並べる。どれも、それだけで違法とは決まらない。実態の判断材料になりうる場面として挙げる。

1. 朝会で発注側の社員が要員に直接タスクを振る

朝会や定例で、発注側の社員が要員一人ひとりに作業を割り振ると、指示の経路が直接になる。作業の割り振りは受託会社の責任者が行い、発注側は優先順位や要望を責任者に伝える。朝会で何を共有し、誰が割り振るかを、運用ルールとして書いておく。

要員が1人だけの参画でも、受託会社の側で責任者を決め、連絡の経路を体制図に書く。責任者が現場にいない場合の扱いは、疑義応答集と専門家で確かめる。

2. 残業や休暇を発注側が決める

残業の指示や休暇の承認を発注側が出すと、労働時間の管理を発注側がしていると見られるおそれがある。稼働を増やしたいときは、受託会社の責任者に見込みを伝え、受託会社が要員と調整する。精算の幅を超えそうなときの連絡の流れも、先に決めておく。

3. 評価面談を発注側が行う

要員の人事評価は、要員と雇用や業務委託の契約を結んでいる受託会社の役割である。発注側が要員と評価面談をして処遇に関わる話をすると、管理しているのが誰なのかがあいまいになる。業務の結果についての意見は、受託会社に伝える。

4. 勤怠を発注側が管理する

入館の記録や稼働時間の報告を受けるのは、セキュリティや精算のために発注側にも要る。遅刻・欠勤の承認や始業時刻の指示まで発注側がすると、労働時間の管理と見られるおそれがある。勤怠の承認は受託会社が行い、発注側は精算に使う稼働時間の報告を受ける形にする。

5. ツールのアカウントと権限

チャットやタスク管理ツールのアカウントは、要員ごとに、業務に必要な範囲で付与する。発注側の社員がツール上で要員に直接チケットを割り当てると、朝会と同じく指示の経路が直接になる。担当者を決める役は、受託会社の責任者に置く。共有アカウントは誰の操作か追えないので使わない。

6. 複数の会社の要員と自社の社員が混ざったチーム

複数のSES会社の要員と自社の社員が1つのチームで働くと、誰が誰に指示するかがあいまいになりやすい。会社ごとに責任者と窓口を決め、体制図に書く。ある会社の要員が、別の会社の要員に指示を出す形になっていないかも確かめる。

7. アジャイル開発での日々のやり取り

アジャイル開発では、発注側と開発者が毎日のようにやり取りする。厚生労働省の疑義応答集の第3集は、アジャイル型の開発を扱っている。自社のやり方が当てはまるかを第3集の原文で確かめ、誰が優先順位を決め、誰が作業を割り振るかを、契約書と体制図に書いておく。

エンジニアの要員について相談する

必要なスキル・人数・時期を送って相談する →

開発チームの増員、短期の補強、PMO、AI・セキュリティの要員について、Heyday がお話を伺います。候補者のご提案時に、契約単価・契約形態・商流(間に入る会社の数)をお伝えします。お伝えできない項目は、その旨をお伝えします。

契約書で確認する条項

SESの契約は、基本契約と個別契約(注文書)に分けて結ぶ形がある。次の条項が、どちらにどう書かれているかを確かめる。

条項確かめること見落としやすい点
業務範囲業務の内容、場所、期間、報告の方法成果物の完成を求めるのかどうか
精算月額の単価、精算の時間の幅、超過と控除の計算端数の扱い、稼働日の少ない月の扱い
支払条件締め日と支払日、税抜か税込か交通費などの実費の扱い
再委託禁止か、事前承諾か。再委託先の通知要員の所属会社がどこか
秘密保持・個人情報秘密情報の範囲、目的外利用の禁止、安全管理終了時の返却と消去の確認
知的財産成果物の権利の帰属要員が作ったコードや文書、既存の部品の扱い
終了・解約・交代契約期間と更新、解約の予告、交代の条件と手続き交代の申し出をどちらからできるか
損害賠償賠償の範囲と上限故意・重過失の場合の扱い

精算の幅

SESでは、月の稼働時間に幅を設け、幅の中なら月額のまま、外れた分を超過・控除として精算する形がある。幅は140〜180時間が一般的な例である。幅の決め方と、超過・控除の単価の計算方法は契約ごとに違う。見積を比べるときは、幅と計算方法、税抜か税込かをそろえる。

金額の目安はエンジニア業務委託の単価相場(発注側)にまとめた。精算幅の仕組みはSESの精算幅(エンジニア向け)でも解説している。

再委託と商流

再委託を認めると、要員が契約相手の会社の社員とは限らなくなる。職業安定法第44条は、労働者供給事業と、供給を受けた労働者を自らの指揮命令の下で働かせることを禁じているとされる。間に入る会社が増えて指揮命令の経路が長くなると、実態が労働者供給や二重派遣と評価されるおそれがある(出典: 職業安定法第44条。e-Gov法令検索、大阪労働局の解説)。

商流が深いだけで違法と決まるわけではない。見られるのは、誰が要員に指示しているかの実態だとされる。発注側は、要員の所属会社と、間に入る会社の数を契約の前に聞く。確かめ方はSESの商流を発注側が確認する方法で扱う。

秘密保持と個人データ

個人データの取扱いを委託する場合、個人情報保護法第25条は、委託元に委託先の監督を求めているとされる。個人情報保護委員会のガイドライン(通則編)は、その内容として委託先の選定、委託契約の締結、委託先での取扱状況の把握を挙げている。再委託先についても、委託元が監督する必要がある。実務では、再委託を事前承諾制にする契約が多いとされる(出典: 個人情報保護委員会『個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)』。ppc.go.jp)。

端末、アカウント、持ち出しの管理項目は委託先の情報漏えいは誰の責任かで整理している。

2024〜2026年の法改正はSES契約に関係するか

フリーランス法(2024年11月施行)

フリーランス法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)は、2024年11月1日に施行された。従業員を使わない受託者(特定受託事業者)に業務を委託する、従業員を使う発注事業者には、取引条件の書面等での明示と、報酬の支払期日を給付を受領した日から60日以内のできる限り短い期間で定めることが求められる。1か月以上の業務委託では、受領の拒否、報酬の減額、返品、相場より著しく低い報酬の設定、購入・利用の強制などが禁止される。公正取引委員会などの案内では、こう説明されている(出典: 公正取引委員会 フリーランス法の案内、中小企業庁のパンフレット)。

SES会社を通して個人事業主の要員を受け入れる場合、本人と契約するのはSES会社なので、本人との間でこの義務を負うのは主にSES会社だと考えられる。自社が個人と直接契約するなら、自社が発注事業者の立場になりうる。直接契約の注意点はフリーランスエンジニアとの法人契約の注意点で扱う。

取適法(2026年1月施行)

2026年1月1日に施行された取適法(中小受託取引適正化法、旧・下請法)は、事業者どうしの取引を規制する法律で、受注側には個人事業主も含まれる。対象となる取引先を判断する基準として、従来の資本金に加え、従業員数(取引の種類によって300人または100人)が加わった。対象になる取引では、協議に応じない一方的な代金決定と手形払が禁止された。公正取引委員会の資料では、こう説明されている(出典: 公正取引委員会『改正のポイント』。jftc.go.jp のPDF)。

自社とSES会社の取引が対象になるかは、取引の内容と、両社の資本金・従業員数で決まるとされる。当てはめは法務部門か専門家に確認する。SES会社から単価の見直しを求められたときは、協議の場を持ち、経緯を記録に残しておく。内容は取適法とSES(エンジニア向け)で詳しく扱っている。

参考資料として、中小企業庁のページで情報サービス・ソフトウェア産業の取引適正化ガイドラインが公開されている(中小企業庁 取引適正化ガイドライン)。

契約前のチェックリスト10項目

  • 業務の指示を出す受託会社の責任者と、自社側の窓口が決まっている
  • 要員が1人の場合も、受託会社側の責任者と連絡の経路が体制図にある
  • 業務範囲が契約書にあり、成果物の完成を求めるのかどうかがはっきりしている
  • 朝会、チケット、チャットで、誰が作業を割り振るかを運用ルールに書いた
  • 勤怠の承認、残業と休暇の調整、評価は受託会社が行う形になっている
  • 精算の幅、超過と控除の計算、税抜か税込か、締め日と支払日が個別契約にある
  • 再委託の可否と承諾の手続き、要員の所属会社と間に入る会社の数を確かめた
  • 秘密保持、個人データの扱い、アカウントと端末の管理、終了時の返却と消去が決まっている
  • 契約期間、更新、解約の予告、要員の交代の手続きが決まっている
  • フリーランス法と取適法がどの取引にかかるかを、法務部門か専門家に確認した

なお、Heydayは、発注企業・BP企業・エンジニアの三者と契約実務を行うSES会社である。契約形態は準委任(SES)が中心で、成果物ベースの受託も扱う。労働者派遣は扱っていない。商流は元請を1次と数え、「エンド直(間に入る会社0社)」「2次(間に入る会社1社)」のように、間に入る会社の数を添えてお伝えしている。

よくある質問(FAQ)

Q. 発注側の社員が要員に質問や相談をしてもよいですか?

やり取りが指揮命令に当たるかは、内容と実態で判断されるとされる。仕様の確認や情報の共有と、作業の割り振りや時間の指示は分けて考え、後者は受託会社の責任者を通す。厚生労働省の疑義応答集に場面ごとの考え方が示されているので、原文で確かめてほしい。

Q. 準委任の契約で、成果物の納品を約束してもらえますか?

民法の改正で、委任にも成果に対して報酬を払う類型(成果完成型)が明文化されたとされる(第648条の2)。準委任でも成果完成型にはできるが、成果物の完成そのものを約束してほしいなら、請負のほうが合う場合もある。どちらの形で何を約束するかは契約書の書き方で決まるので、専門家に確認してほしい。

Q. 契約書に「SES」や「準委任」と書いてあれば安心ですか?

区分は契約書の名称より実態で判断されるとされる。契約書が準委任でも、発注側が要員に直接指示し、勤怠や評価を管理していれば、派遣と評価されるおそれがある。契約書と現場の運用の両方を確かめる。

Q. 要員が個人事業主の場合、フリーランス法は誰にかかりますか?

SES会社が本人と契約している場合、本人との間でフリーランス法の義務を負うのは、主にSES会社だと考えられる。自社が本人と直接契約するなら、自社が発注事業者になりうる。当てはめは専門家に確認してほしい。

Q. 再委託を禁止できますか?

契約の条項で、再委託の禁止や事前承諾を定めることがある。個人データを扱う業務では、再委託先まで含めた監督が委託元に求められるとされるので、承諾の手続きと再委託先の通知を契約に入れておく。

関連記事

エンジニアの要員について相談する

必要なスキル・人数・時期を送って相談する →

開発チームの増員、短期の補強、PMO、AI・セキュリティの要員について、Heyday がお話を伺います。候補者のご提案時に、契約単価・契約形態・商流(間に入る会社の数)をお伝えします。お伝えできない項目は、その旨をお伝えします。要件が固まっていない段階でも相談できます。フォームの必須は4項目です。

この記事の著者

小川将司
小川将司

Heyday株式会社 代表取締役

厚生労働省の区分基準と疑義応答集、民法、公正取引委員会などのフリーランス法・取適法の公表資料をもとに、発注企業・BP企業・エンジニアの三者と契約実務を行うSES会社の立場から執筆

Heyday株式会社 代表取締役。エンジニア・PM/PdMを経験後、SES事業を創業。複数クライアント現場でAI導入コンサルティングを担当。「ITをもっとフェアに」を掲げ、単価・商流の開示に取り組む。

シェア:B!

次に読む