「SESで産休・育休って、本当に取れるんですか?」
女性エンジニアからの相談で、もっとも多い質問のひとつだ。検索しても「取れる」と書いてある記事と「取りにくい」と書いてある記事が両方出てきて、結局どちらが正しいのか分からない——という声をよく聞く。
結論から先に言う。法的には取れる。だが運用で詰むケースが多い。これが、SES事業を6年経営してきて私が見てきた現実だ。
この記事では、Heyday株式会社の代表として、SES企業で産休・育休がどう扱われているか、なぜ取りにくいと言われるのか、Heydayではどう運用しているか、そして読者自身が「取りやすい会社」を見分けるための基準を、すべて開示する。
SESで産休・育休が取りにくいと言われる3つの理由
まず、なぜSESで産休・育休が取りにくいというイメージが広がっているのかを、構造から説明する。これを理解しないと、「取れるか取れないか」を会社単位で判断する基準が持てない。
SES特有の問題は、大きく分けて3つある。
理由1:常駐先(クライアント)の了承が事実上必要になる
SESは、自社のエンジニアをクライアント企業の現場に常駐させて稼働してもらう契約形態だ。準委任契約に基づき、エンジニアは雇用主であるSES企業の指示で動くが、日々の業務は常駐先のチームと一緒に行う。
ここで問題になるのは、産休・育休を取得すると、その期間中はそのエンジニアがクライアント現場から抜けるということだ。
クライアントから見れば、「契約していたエンジニアが半年〜1年いなくなる」という事実だけが残る。代替要員を別のSES企業から探すか、自社で内製で埋めるか、契約自体を打ち切るかの判断を迫られる。
ここでSES企業側の営業力が問われる。「産休に入るので一度契約を終了させてほしい」と切り出すこと自体は法律違反ではないが、クライアントとの関係性によっては「じゃあ次回からは御社に頼むのは難しいですね」という反応になることがある。営業がそれを恐れて、エンジニア側に「もう少し待てないか」「代わりの人を入れるから少しだけ続けてほしい」とプレッシャーをかけるケースが、業界には実在する。
理由2:契約更新タイミングと産休開始時期がズレる
SESの契約は、多くの場合3ヶ月〜6ヶ月単位で更新される。産休は出産予定日の6週間前(多胎妊娠の場合14週間前)から取得できるが、現実には体調や業務引き継ぎの関係でもう少し早く休みに入るケースも多い。
問題は、契約更新タイミングと産休開始時期がズレた場合だ。たとえば契約が9月末まで更新済みで、産休開始が8月初旬になる場合、「8月から9月末までの2ヶ月間、契約は残っているが本人は不在」という状態になる。
このとき、SES企業がクライアントに対して「契約を1ヶ月で打ち切らせてほしい」と交渉する必要が出てくる。準委任契約は中途解約が可能だが、関係性へのダメージはゼロではない。
逆のパターンもある。契約が9月末で終わるタイミングで産休に入りたいのに、クライアント側から「もう3ヶ月延長してほしい」と打診された場合、SES企業によっては「断りづらい」とエンジニア側に延長を依頼してくる。
理由3:復職時の案件確保が誰の責任なのか曖昧
これが、もっとも深刻な問題だ。
産休・育休から復職するとき、SESエンジニアには「次にどの現場に入るか」という問題がある。育休前の現場は、本人不在の間に別の体制で回り続けているので、戻る席はないことが多い。
つまり復職時には、新しい案件にゼロから参画することになる。このとき、誰が案件を探すのか——これが会社によって対応が大きく違う。
良心的な会社であれば、復職予定日の数ヶ月前から営業が動き、復職時に案件が用意されている状態を作る。しかし、SESには「待機期間中は減給」「待機が長引けば自然退職を促される」という慣習を持つ会社もある。育休復帰直後にこの状態に放り込まれると、復帰したのに案件がない=給与が大幅減という事態になりかねない。
ここで「育休は取れたが、復職後に詰んだ」というケースが発生する。法的には育休を取得できているので、形式上は問題ない。だが実態としては、キャリアが分断されてしまう。
法的には取れる。問題はあくまで運用
ここまで「取りにくい」要因を構造から説明したが、誤解しないでほしいのは、法律上、SESエンジニアも産休・育休を取得する権利を持っているということだ。
産休(産前産後休業)
労働基準法第65条に基づき、出産予定日の6週間前(多胎妊娠の場合14週間前)から産前休業、出産後8週間の産後休業を取得できる。これは雇用形態にかかわらず、すべての女性労働者に認められている権利だ。SESのエンジニアでも、正社員であれば当然取得できる。
産後6週間は本人が請求しても就業させてはならない、絶対的な休業期間だ(産後7〜8週間は本人請求と医師許可があれば就業可能)。
育休(育児休業)
育児・介護休業法(育介法)に基づき、原則として子が1歳に達するまで取得できる。保育園に入れない等の事情があれば、最大2歳まで延長可能だ。
2022年10月から「産後パパ育休」制度も整備され、男性エンジニアも子の出生後8週間以内に4週間まで分割取得できるようになっている。育休給付金は雇用保険から支給される(180日までは賃金の67%、それ以降は50%)。
雇用主に「拒否権」はない
ここが重要なポイントだ。産休・育休の取得申請を、雇用主が「拒否」することは法律上できない。
「業務の都合により」「代替要員が見つからないので」「クライアントの了承が得られないので」——こういった理由で取得を拒否することは、すべて違法だ。育介法第10条では、育休取得を理由とする不利益取扱い(解雇・降格・減給など)も明確に禁止されている。
つまり、SES企業が「うちでは産休・育休は取らせていない」と言ったら、それは違法状態を自認しているか、本人が断念するように仕向けて法的には取れたことにしている、のどちらかだ。
問題は、法律で守られているはずの権利が、運用上の圧力や情報不足で行使しづらくなっている点にある。
Heydayで実際に産休・育休を取った場合どうなるか——代表として答える
ここからはHeydayの代表として、自社の方針を一次情報として開示する。「業界一般」ではなく「Heydayでは具体的にこうしている」という話だ。
1. 妊娠が判明した時点で、まず情報共有してもらう
体調や個人の事情があるので強制はしないが、できるだけ早い段階で会社に伝えてほしいとお願いしている。理由は、伝えるのが早いほど、会社側がクライアントとの契約終了タイミングを設計しやすくなるからだ。
たとえば妊娠4ヶ月目で情報共有してもらえれば、産前休業(出産予定日の6週間前)まで5ヶ月以上の準備期間がある。この間に、クライアントとの契約更新タイミングを産休入りの直前に合わせて調整することができる。
逆に、産休直前まで情報を伏せていた場合、契約途中での解約交渉になり、クライアントとの関係性にダメージが残ることがある。これはエンジニア本人の責任ではなく、本来は会社が引き受けるべきリスクだが、結果としてエンジニア本人の復職時の選択肢が狭まる可能性がある。
Heydayでは、伝えてもらった情報は本人の同意なくクライアントに共有しない。共有のタイミングや表現方法も、本人と一緒に設計する。
2. 常駐先との契約終了は会社が責任を持って交渉する
これが、私がもっとも経営者として重視しているポイントだ。
産休・育休に入るためにクライアントとの契約を終了する交渉は、エンジニア本人がやるべき仕事ではない。これはSES企業の営業の責任範囲だ。
Heydayでは、産休育休が予定されているエンジニアの担当営業に、以下を明示的に指示している。
- クライアントへの説明はSES企業側の責任で行うこと
- エンジニア本人に「契約延長を打診してほしい」「もう少し続けてほしい」とプレッシャーをかけないこと
- クライアントとの関係性が悪化するリスクは会社が引き受けること
これを徹底しないと、「会社の都合でエンジニアが産休を取れない」という違法状態が発生する。経営者がこれを許すと、会社全体のコンプライアンスが崩れる。
3. 復職時の案件確保を会社がコミットする
ここがもっとも差が出るポイントだ。
Heydayでは、育休に入ったエンジニアに対して、「復職予定日の3〜4ヶ月前から営業が新しい案件を探し始める」ということを明示的にコミットしている。
具体的には、復職予定日が確定した時点で、以下を会社の責任として引き受ける。
- 復職時のスキル・経験・希望勤務形態(フルリモート/週X日勤務/時短など)に合う案件を、複数候補提示する
- 案件が見つからない場合の待機期間中も、就業規則に定めた給与(100%)を会社が負担する
- ブランクが空いていても受け入れてくれる案件を優先的に開拓する
これは会社側にコストがかかる方針だが、これをコミットしない限り、「育休は取れたが復職時に詰む」という構造が解消されない。
4. 時短・リモート・週X日勤務など、復職後の働き方を柔軟に設計する
育児中のエンジニアの多くは、復職時にフルタイムで稼働するのが難しい。Heydayでは、以下のような働き方を選べるようにしている。
- 時短勤務(週20〜30時間など)の案件を優先的に探す
- フルリモートの案件を優先する
- 週3〜4日勤務でクライアントが了承する案件を選定する
- 子どもの体調不良時の中抜け・早退に理解のある現場を選ぶ
これらは「希望すれば自動で叶う」わけではなく、クライアント側の要件と擦り合わせが必要だ。だが、最初から「フルタイム前提」で案件を探すのと、「時短・リモート前提」で案件を探すのでは、提示できる選択肢の数が大きく変わる。
5. 復職後のキャリア継続をコミットする
産休・育休後のキャリアでもっとも怖いのは、「復職したのに、ブランクのせいで単価が下がる」「以前と同じレベルの仕事ができない」と感じることだ。
Heydayでは、復職時の単価・契約条件を、産休前と同等以上にすることを基本方針にしている。ブランク期間中の市場変化(言語・フレームワークの新バージョン対応など)には、復職後の最初の数ヶ月で会社負担の学習時間を設けて対応する。
復職直後の3〜6ヶ月は「キャッチアップ期間」と位置づけ、技術トレンドの再確認・新しい開発ツールへの習熟・以前のスキルセットの再利用可能性の確認を、会社のサポート付きで行う。
私の経営者としての見解:
SESでは「経営者がコストを引き受けるか、エンジニアにしわ寄せするか」の二択になりやすい。クライアントとの契約交渉、復職時の案件確保、待機期間中の給与負担——どれもコストだ。これを「会社のリスク」として引き受けるか、「エンジニア本人の問題」として押し付けるかで、産休育休が「取れる会社」と「取れない会社」が分かれる。法律で禁止されている直接的な不利益取扱いがなくても、運用上の圧力で本人が断念するように仕向ける会社は実在する。それは違法ではないかもしれないが、フェアではない。
産休・育休を取りやすいSES会社の見分け方——3つの基準
ここまでの内容を踏まえて、読者自身が「取りやすい会社」を見分けるための実践的な基準を3つ提示する。
基準1:就業規則に産休・育休が明文化されているか
まず、入社前または現職で就業規則を確認する。産前産後休業・育児休業について、以下が明文化されているかをチェックする。
- 取得対象者(雇用形態・勤続年数の要件)
- 取得期間(産前6週間・産後8週間・育休最長2歳まで等)
- 取得手続き(申請方法・期限)
- 復職時の処遇(原職復帰の原則・給与の取扱い)
- 育休中の社会保険料免除の取扱い
法律で決まっていることを書いているだけだとしても、明文化されていないと「実態として取得できる文化があるか」が判別できない。「就業規則を見せてください」と言って嫌な顔をする会社は、その時点で危険信号だ。
基準2:過去の産休・育休取得実績があるか
これがもっとも重要な基準だ。
面談時に直接聞いていい。「貴社で過去3年以内に産休・育休を取得した方はいますか?」「取得後に復職して、現在も継続して稼働している方はいますか?」と。
実績ゼロでも違法ではないが、実績がないということは「初めてのケース」になるということだ。会社側にノウハウがなく、運用が手探りになる。クライアントとの契約終了交渉も、復職時の案件確保も、初めての対応になる。
実績がある会社は、すでにフロー化されているので、本人が動かなくても会社が必要な手続きを進めてくれる。
注意したいのは、「過去に取得実績はあるが、取得後に退職している」というパターンだ。これは「育休は取れたが復職時に詰んで自主退職した」可能性がある。「取得後に復職して、現在も稼働しているか」までセットで確認する。
基準3:復職時の案件確保方針が明文化または明言されているか
これがいちばん見落としがちで、いちばん深刻な差が出るポイントだ。
面談時に「育休復帰時、新しい案件が見つかるまでの期間の給与はどうなりますか?」「復帰時の案件は誰が探しますか?営業ですか?それとも自分で探しますか?」と直接聞く。
良い会社の答え:
- 「会社の営業が復職前から動きます」
- 「待機期間中も基本給は満額支給です」
- 「時短・リモート可能な案件を優先的に探します」
- 「ブランク期間を踏まえた単価設定にします」
危険信号な会社の答え:
- 「待機中は給与が下がります」(金額の明示を避ける)
- 「案件は本人にも頑張っていただきます」
- 「復職時はフルタイム勤務が基本です」
- 質問に明確な答えが返ってこない
男性エンジニアの育休(産後パパ育休)はどうか
ここまで主に女性エンジニアの産休・育休について書いてきたが、男性エンジニアの育休も触れておく。
2022年10月からスタートした「産後パパ育休」(出生時育児休業)は、子の出生後8週間以内に4週間まで取得できる制度だ。通常の育休と分割取得もでき、一定の条件下では育休中の就業も可能になっている。
SES業界でも男性育休の取得者は増えてきているが、女性育休と同じく、運用面で課題が残る会社は多い。
Heydayでは男性育休も同じ方針で運用する。具体的には、
- 取得希望があった時点で、クライアントとの契約終了タイミングを会社が設計する
- 短期取得(数日〜2週間)の場合、クライアントとの一時休業として調整するか、契約一時停止として扱う
- 復職時の案件は、女性育休と同じく営業が事前に確保する
男性育休はまだ社会全体で運用ノウハウが薄いが、「短期だから取れない」「営業が動いてくれない」と言われたら、その会社は女性育休も取りにくいと考えていい。
まとめ:法律ではなく運用が決める
SESで産休・育休が取れるかどうかは、法律の問題ではない。運用の問題だ。
法律上、すべての正社員エンジニアは産休・育休を取得する権利を持っている。雇用主に拒否権はなく、不利益取扱いは違法だ。
だが現実には、SES特有の3つの構造——常駐先の了承・契約更新タイミング・復職時の案件確保——が壁になり、運用上の圧力で本人が取得を断念するケースが業界には存在する。
ここで会社が問われるのは、「コストとリスクを会社が引き受けるか、エンジニアにしわ寄せするか」だ。クライアントとの契約終了交渉、復職時の案件確保、待機期間中の給与負担——これらは会社にとってコストだが、引き受けるべきコストだ。
会社選びの段階で、
- 就業規則に産休・育休が明文化されているか
- 過去3年以内の取得実績があるか(取得後の継続稼働まで)
- 復職時の案件確保が会社の責任として明言されているか
の3点を確認すれば、「取りやすい会社」かどうかは判別できる。
Heydayでは、これらすべてを会社の責任として引き受ける方針で運用している。完璧ではないし、すべての要望に応えられるわけでもない。だが、「会社が運用上のコストを引き受ける」という基本姿勢を崩さずにやってきた。
産休・育休をめぐって悩んでいる方、これから家族計画を考えていてSES業界での継続が不安な方は、まず自分の市場価値と、現職の方針を客観的に確認することから始めてほしい。会社選びは、結婚・出産前のタイミングで動くほうが選択肢が広い。
よくある質問(FAQ)
Q1. SESで派遣社員・契約社員でも産休・育休は取れる?
産休は雇用形態にかかわらず取得できる。育休は、有期雇用の場合「子が1歳6ヶ月になるまでの間に契約満了が確実でないこと」が要件になっている(2022年改正で「引き続き雇用された期間が1年以上」の要件は撤廃済み)。SES企業の正社員であれば問題なく取得できる。派遣・契約社員の場合は、雇用主と要件を個別確認する必要がある。
Q2. 産休前にクライアントから契約延長を依頼されたら断れる?
産休は労基法で保障された権利なので、本人が産休に入る決定をしている以上、断れる。ただし契約は会社とクライアントの間で結ばれているので、交渉はSES企業側の営業が行う。エンジニア本人がクライアントと直接交渉する必要はない。営業が「もう少し延ばせないか」とエンジニアに打診してきたら、それは営業の仕事の押し付けだ。会社の上長や経営者に相談していい。
Q3. 育休中の給与はどうなる?
育休中は会社からの給与は支給されないのが一般的だ(無給)。代わりに雇用保険から「育児休業給付金」が支給される。育休開始から180日までは賃金月額の67%、それ以降は50%。社会保険料は育休期間中、本人・会社ともに免除される(標準報酬月額の計算は継続)。手取りベースで見ると、育休前の手取りの約75〜80%程度が確保できる計算になる。
Q4. 育休から復帰したら同じ単価で働ける?
会社の方針による。Heydayでは復職時の単価を産休前と同等以上にすることを基本方針にしているが、業界全体ではブランク期間を理由に単価が下がるケースもある。これは法律で禁止されているわけではないので、会社選びの時点で確認する必要がある。「ブランク期間中の市場変化はどう扱うか」「復帰時の単価設定の考え方」を面談で具体的に質問するといい。
Q5. 産休・育休の取得を理由に解雇されたら?
明確に違法だ。育介法第10条で、育休取得を理由とする解雇・降格・減給などの不利益取扱いは禁止されている。「業績が悪化したから」など別の理由をつけられても、タイミングが育休取得の前後であれば、労働基準監督署や都道府県労働局の雇用環境・均等部に相談できる。匿名相談も可能なので、まず実態を相談するところから始めるといい。
Q6. 男性エンジニアでも産後パパ育休は取れる?
取れる。2022年10月からスタートした制度で、子の出生後8週間以内に4週間まで取得できる。通常の育休と分割取得も可能で、一定の条件下では育休中の就業も認められる。SES企業でも法律上は取得できるが、運用面でクライアントとの契約調整が必要になる点は女性育休と同じだ。短期取得(数日〜2週間)であれば、クライアント側との一時休業調整で対応可能なケースが多い。
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Heydayでは契約単価・マージン構造・産休育休の運用実績まで、質問があればすべて回答している。
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