「GCPは案件が少ないから、AWSにしておいたほうがいい」
エンジニアからも、同業のSES経営者からも、この言い方を何度も聞いてきた。半分は正しい。ただ、この助言は「案件数」という一つの軸しか見ていない。
Heydayでは2026年3月から8月にかけて自社の案件データベースに入った14,090件を技術タグ別に集計している。そこで見えたのは、GCP案件は確かに174件しかないが、単価上限の中央値は90万円で、AWS(80万円)を10万円上回っているという事実だった。
数は少ない。単価は高い。この非対称をどう扱うかが、GCP PCA(Professional Cloud Architect)を取るかどうかの判断軸になる。
この記事では、資格の勉強法ではなく「PCAを持った人間が市場でいくらの値札を付けられるのか」を実測データで整理する。
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結論:GCPは「数が少なく、単価が高く、リモートが通りやすい」
まず実測データを出す。
| 技術タグ | 案件数 | 単価上限 p25 | 単価上限 中央値 | 単価上限 p75 | 単価上限 最大 | リモート可率 |
|---|
| GCP | 174件 | 77万円 | 90万円 | 110万円 | 140万円 | 84.0% |
| Azure | 364件 | 70万円 | 85万円 | 90万円 | 150万円 | 69.3% |
| AWS | 1,390件 | 70万円 | 80万円 | 90万円 | 220万円 | 73.3% |
(出典:Heyday案件データベース実測・2026年3月〜8月・N=14,090件。単価は「案件票に記載された単価上限」の分布。GCPの単価上限記載は60件、Azureは150件、AWSは521件)
読み取れることは3つある。
1. 中央値でGCPが最も高い。 GCP 90万円に対してAWS 80万円。同じクラウドの設計・構築案件でも、GCPを名指しする案件のほうが10万円高いレンジで出てくる。
2. p75(上位25%ライン)の差はさらに開く。 GCPは110万円、AWSとAzureはともに90万円。上振れの伸びしろがGCPのほうが20万円大きい。GCPを求める案件は、データ基盤やML基盤といった単価の高い領域に集中しているためだ。
3. リモート可率84.0%はクラウド3社で最高。 AWS 73.3%、Azure 69.3%を大きく上回る。GCPを採用している企業層(Web系・データ活用企業)の働き方が、そのまま案件条件に反映されている。
一方でAWSの単価上限「最大」は220万円で、GCPの140万円を大きく超えている。これは案件数が8倍あることの帰結で、母数が多いぶん極端な上振れ案件も含まれる。中央値で見るか最大値で見るかで結論が変わる点は、正直に書いておく。
クラウド3社の総合比較はAWS・Azure・GCPどれを選ぶべきか、GCPエンジニアの職種としての単価はGCPエンジニアのSES単価で扱っているので、本記事は「PCAという資格」に絞る。
GCP PCAは何を証明する資格なのか
Google Cloud Professional Cloud Architect(PCA)は、Google Cloudの認定資格体系における上位(Professional)レベルの一つだ。
- Associate Cloud Engineer(ACE):基礎〜中級。運用・構築の実務レベル
- Professional Cloud Architect(PCA):上級。アーキテクチャ設計・技術選定
- Professional Data Engineer(PDE):上級。BigQuery・Dataflow中心のデータ基盤
- Professional Machine Learning Engineer:上級。Vertex AI中心のML基盤
PCAはケーススタディ形式の出題が中心で、「この事業要件に対してどのGCPサービスをどう組むか」を問われる。暗記より判断を見る試験という点で、AWSのSAP(Solutions Architect Professional)に近い性格を持つ。
SES・フリーランス市場での扱われ方について、業界では「クラウド資格は必須ではなく優遇条件」と言われることが多い。私の実感もこれに近い。ただしGCPに限っては事情が少し違う。案件数が174件しかない、つまり選考の枠が最初から狭いため、書類段階で落ちない材料の重みが相対的に大きくなる。
「PCAを取れば単価が上がる」は正確ではない
ここは誤解が多いので、はっきり書く。
PCAが単価を直接押し上げるわけではない。実測データで単価上限中央値90万円という数字が出ているのは「GCPを要件に含む案件」であって、「PCA保有者」ではない。案件票の単価は案件側の予算で決まっていて、資格の有無で予算が動くことはまずない。
では何が起きるか。PCAは「90万円レンジの案件の選考テーブルに載る」ための装置として働く。
AWS案件は1,390件ある。母数が多いので、資格がなくても実務経験の記述だけで書類が通る案件がいくらでもある。対してGCP案件は174件、直近3ヶ月に絞ると20件だ。この20件を全国のGCPエンジニアが取り合う構造では、案件側が「PCA保有」を足切りに使うインセンティブが強く働く。
つまりPCAの価値は「単価+○万円」ではなく「単価90万円レンジの母集団に入れるかどうか」という離散的なものになる。資格全般の単価への効き方についてはSES単価が上がる資格・上がらない資格、同じ構造をAWS側で検証した記事としてAWS SAA取得でSES単価はいくら上がるかも参照してほしい。
小川(代表)コメント
エンジニアから「PCAを取れば単価上がりますか」と聞かれたとき、私は「案件票の単価は変わりません。でも提案できる案件が変わります」と答えている。
Heydayでは案件データベースの単価上限をエンジニア本人に開示している。GCP案件の単価上限中央値が90万円という数字も、社内で見ている数字をそのまま出しているだけだ。数字を隠したまま「資格を取れば上がりますよ」と言うのは、結局エンジニアに判断材料を渡していないのと同じだと思っている。
フリーランスでGCP案件を狙うときの現実的な障壁
直近3ヶ月の流通量は20件
GCPタグの直近3ヶ月の案件数は20件だった(同期間のAWSは165件、Azureは51件)。月あたりに直すと7件前後。ここに全国のGCPエンジニアが応募する。
フリーランスとして「GCP専業」を名乗ると、待機リスクが構造的に高くなる。単価は高いが、次の案件が見つかるまでの時間が読みにくい。フリーランス独立の判断材料としては、この流通量の少なさは無視できない。独立の是非そのものはSESからフリーランス独立の判断基準にまとめている。
現実解は「GCP + もう1枚」
実測データで見ると、GCPと相性のいい隣接領域はいずれも高単価帯にある。
| 隣接タグ | 案件数 | 単価上限 中央値 | リモート可率 |
|---|
| 生成AI/LLM/RAG | 218件 | 100万円 | 78.9% |
| SRE | 77件 | 90万円 | 93.1% |
| Databricks | 35件 | 92.5万円 | 85.0% |
| データ基盤/ETL | 150件 | 80万円 | 79.5% |
| Python | 959件 | 75万円 | 71.5% |
(出典:Heyday案件データベース実測・2026年3月〜8月・N=14,090件)
GCP単体で待つのではなく、Python(959件)やデータ基盤(150件)といった流通量のあるタグを併走させることで、待機期間を潰しながらGCP案件を待てる。特に生成AI/LLM/RAGタグは単価上限中央値100万円と全タグ中でも高く、Vertex AIを触ってきたGCPエンジニアが最も自然に流れ込める先だ。詳しくは生成AI・LLM・RAG案件の単価実態で扱っている。
リモート84.0%という数字の使い方
GCPタグのリモート可率84.0%(リモート可否の記載があった106件中)は、地方在住のエンジニアにとって実利がある。AWS案件を狙って首都圏常駐を条件に飲むより、GCPに寄せてフルリモートを取りに行くほうが、生活込みの手残りは良くなるケースがある。フルリモート案件の実態はSESでフルリモートは可能かを参照してほしい。
PCA取得を「投資」として見たときの判断基準
私が相談を受けたときに確認しているのは、次の3点だ。
1. 現場でGCPを触っているか。 触っていないなら、PCAより先にGCPを使う案件に入ることを優先する。実務ゼロでPCAだけあっても、面談で「どのサービスをどう設計したか」に答えられず落ちる。
2. 目指す単価レンジがいくらか。 今60万円台なら、GCP案件の p25 である77万円が現実的な次の目標になる。90万円(中央値)や110万円(p75)を狙うなら、設計主導の実績が別途必要になる。単価交渉の進め方はSES単価交渉術にまとめてある。
3. 待機を許容できるキャッシュがあるか。 月7件の流通量で「GCP案件しか受けない」と決めるなら、2〜3ヶ月の待機に耐えられる資金が要る。ここが持たないと、結局単価を下げて別案件に入ることになり、資格の投資回収ができない。
この3つが揃っているなら、PCAは費用対効果の高い投資だと言える。揃っていないなら、順番を変えたほうがいい。
よくある質問(FAQ)
Q. GCP PCAとAWS SAP、どちらを取るべきですか?
案件数を優先するならAWS、単価レンジとリモート条件を優先するならGCPだ。実測ではAWS案件1,390件に対しGCP174件と流通量に8倍の差があるが、単価上限中央値はGCP 90万円・AWS 80万円でGCPが上回る。今すぐ次の案件を決めたいならAWS、2〜3年かけてポジションを作るならGCPという判断が現実的だ。
Q. PCAを取ると単価はいくら上がりますか?
「取得で何万円上がる」という形では答えられない。Heydayの実測データはあくまで案件側の提示単価であり、資格保有者の単価を追跡したものではない。実態として起きるのは金額の加算ではなく、単価上限中央値90万円のGCP案件群に応募できるようになるという母集団の変化だ。
Q. Associate Cloud Engineer(ACE)だけでは足りませんか?
GCPの実務が浅い段階ではACEから入るのは合理的だ。ただしGCP案件は数が少ないぶん要求レベルが高く出やすく、案件票では設計判断ができる人材が求められる傾向がある。最終的にPCAまで進むことを前提に、ACEを通過点として扱うのがよい。
Q. GCP案件はリモートが多いと聞きますが本当ですか?
実測ではGCPタグのリモート可率は84.0%で、AWS 73.3%・Azure 69.3%を上回りクラウド3社で最も高い。ただしこれはリモート可否の記載があった106件を母数とした比率であり、記載のない案件も含めた全体比率ではない点には注意してほしい。
Q. GCPだけで食べていけますか?
流通量から言えば厳しい。直近3ヶ月のGCP案件は20件で、月あたり7件前後だ。Python(959件)やデータ基盤/ETL(150件)など隣接タグを併走させて、待機リスクを分散させる構成を勧めている。
Q. PCAの資格は失効しますか?
Google Cloudの認定資格には有効期限があり、更新のための再認定が必要になる。取得して終わりではなく、更新コストも含めて投資判断をする必要がある。詳細な期間・更新条件は必ずGoogle Cloud公式の最新情報を確認してほしい。
まとめ
- GCP案件の単価上限中央値は90万円で、AWS 80万円・Azure 85万円を上回る(Heyday案件データベース実測・2026年3月〜8月・N=14,090件)
- p75で見るとGCP 110万円 vs AWS/Azure 90万円と、上振れの差はさらに大きい
- 一方で案件数は174件、直近3ヶ月では20件。流通量の少なさがGCP最大のリスク
- PCAは単価を直接上げる資格ではなく、単価の高い狭い枠にたどり着くための通過装置として機能する
- リモート可率84.0%はクラウド3社中最高。働き方の条件で選ぶ価値がある
数字を見て「思ったより高い」と感じたか「思ったより枠が狭い」と感じたか。その反応が、あなたにとってPCAが投資に値するかどうかの答えに近い。
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