「SESでフルリモートを希望しています」と伝えると、案件が決まりにくくなりますか?
これは面談でよく出てくる質問だ。Heydayの案件マッチング・営業サポートを担当している野沢が、この問いに正直に答える。
結論から言う。SESでのフルリモート(週0出社)は可能だ。ただし、実現できる条件が明確にある。その条件を理解せずに「フルリモートのみ」で探すと、案件が大幅に絞られて待機期間が長くなる。「どこで妥協するか」「何を変えれば選択肢が広がるか」を理解したうえで選ぶことが必要だ。
この記事では、フルリモートが実現できる案件の条件・スキル要件・求人票や面談での見分け方・入場後に出社が増えるパターン・フルリモートを交渉で勝ち取る方法を整理する。
なお、「週2〜3出社のハイブリッド」を含むSESのリモートワーク全般については、SESのリモートワーク事情で詳しく解説している。この記事は「週0出社の完全フルリモート」に絞った内容だ。
SESでフルリモートが実現できる割合
まず数字で現実を確認する。
Heydayで稼働中のエンジニアの出社状況(2026年Q1時点・n=約80名):
| 出社頻度 | 割合 |
|---|
| 完全リモート(週0出社) | 約15〜20% |
| ハイブリッド(週1〜2出社) | 約40〜45% |
| ハイブリッド(週3出社) | 約20〜25% |
| 週4〜5出社 | 約15〜20% |
フルリモートのエンジニアは全体の15〜20%だ。少数派ではあるが、決してレアなケースではない。「週1〜2出社のハイブリッド」まで許容できれば、半数以上が実質リモート中心の働き方をしている。
Heydayの代表・小川は次のように説明する。
「フルリモートが難しい理由は『SESという形態』ではなく、案件のクライアント業種・技術スタック・現場PMの方針によって決まります。同じエンジニアでも、案件を変えるだけでフルリモートに切り替えられたケースは何人もいます」
業界全体の傾向として、2021年(コロナ禍ピーク)と比較するとフルリモート案件は大幅に減少している。2023年以降の出社回帰の流れの中で、ハイブリッドが主流となり、完全フルリモートは選ばれた案件・技術領域に集中している。
弊社での実感値として、「週3以上リモート可」の案件は全体の約60%だが、「完全フルリモート」に絞ると全体の15〜25%程度に限定される。
「週0出社か否か」という条件で探す場合、選択肢はハイブリッド含む案件の約4分の1以下になる。この現実を把握したうえで戦略を立てることが重要だ。
技術スタック別フルリモート実現率
フルリモートが実現できるかどうかは、スキルセットで大きく変わる。Heydayの篠田が月約20件の面談同席から得た実感をもとに整理した数値だ。
| スキル・領域 | フルリモート実現しやすさ | 単価感(月単価) |
|---|
| AWS/GCPクラウドインフラ | 高(稼働案件の70%以上) | 65〜100万円 |
| TypeScript/Goバックエンド(SaaS系) | 高(50〜60%) | 55〜80万円 |
| データエンジニアリング(dbt/Spark/BQ) | 高(60%前後) | 65〜90万円 |
| Python/AIパイプライン・MLOps | 中〜高(40〜55%) | 60〜90万円 |
| React/Next.jsフロントエンド | 中(30〜45%) | 50〜70万円 |
| Java(エンタープライズ・金融系) | 低〜中(15〜25%) | 55〜80万円 |
| COBOL・VB.NET・レガシー系 | 低(10%未満) | 40〜65万円 |
クラウドインフラ系はフルリモート率が圧倒的に高い。AWS/GCPの構築・運用案件は、作業がクラウド上で完結するため物理的に現場に行く理由がない。弊社でもクラウドインフラ系案件に入っているエンジニアの大半がフルリモートか週1の定例出社で稼働している。
自分のスキルセットが「フルリモートになりにくい」傾向にある場合、AWS SAA(Solutions Architect Associate)の取得が最も効率的なリモート率向上策だ。JavaエンジニアがAWSクラウド構築経験を加えることで、フルリモート案件の選択肢が大きく広がった事例は弊社でも複数ある。
フルリモートが実現しやすい案件条件
技術スタックと業種の組み合わせで、フルリモート率は変わる。10年間の案件マッチング経験から、フルリモートになりやすい案件の条件を整理した。
クラウドインフラ・SRE・DevOps系
最もフルリモート率が高いカテゴリだ。
- AWS/GCP/Azureのインフラ構築・運用
- Terraform、Pulumi等のIaC案件
- Kubernetes、ECS等のコンテナオーケストレーション
- CI/CDパイプライン整備
これらは作業が完全にクラウド上で完結するため、物理的に現場に行く理由がない。Heydayでもクラウドインフラ系の案件エンジニアの大半がフルリモートか週1出社で稼働している。
SaaS・スタートアップのバックエンド・フロントエンド開発
Web系のスタートアップやSaaS企業では、2020年以降にリモート文化が定着した現場が多い。
- TypeScript/Go/Pythonを使うWeb API開発
- React/Next.jsを使うフロントエンド開発
- マイクロサービス設計・実装
ただしスタートアップは、資金調達フェーズ・リリース前後に「一時的に出社が増える」ことがある。フェーズによって条件が変わることは、入場前に確認しておく必要がある。
データエンジニアリング・MLOps
- BigQuery、Redshift等のデータウェアハウス設計
- dbt、Airflow等を使うデータパイプライン構築
- MLflowを使うモデル管理・デプロイパイプライン
データ系はリモート文化が根付いており、フルリモート案件の割合が高い。希少性から単価も高めで、条件交渉がしやすいカテゴリだ。
フルリモートが難しい案件の特徴
一方で、フルリモートが実現しにくい案件も把握しておく必要がある。
金融・官公庁・基幹系
セキュリティポリシーが厳しく、「業務データを社外で扱えない」「VDI接続のみ可能だが現地PCが必要」「入退室管理の都合で常駐必須」といった制約がある。同じスキルセットでも、クライアント業種で出社必須になるケースだ。
高い単価が提示されることも多いが、「フルリモート優先」なら業種を絞る必要がある。
ハードウェア・ネットワーク・現地作業系
物理的な作業が発生するため、リモート化そのものが難しい。これは技術スタックの問題ではなく、仕事の性質だ。
新規参画直後のオンボーディング期間
案件のスタート直後は、チームとの関係構築・業務の把握のために「最初の1〜2ヶ月は出社」を求めるクライアントが多い。フルリモートOKの案件でも、参画初期は出社が必要なケースは珍しくない。
これを「聞いていた条件と違う」ととるか「オンボーディング期間の仕様」ととるかは、事前に確認しているかどうかで変わる。面談時に「参画当初も完全リモートですか?」と明確に聞くことが重要だ。
求人票・面談でフルリモートを見分けるチェックリスト
「リモートOK」と書いてある案件が、実際に週0出社かどうかは別問題だ。Heydayの篠田が面談同席の経験から作成した確認リストを紹介する。
求人票段階で確認するポイント
フルリモートの可能性が高い求人票の特徴:
- 「常時フルリモート」「週0出社」と明記されている
- 「Slack/Notion/GitHub」等の非同期コミュニケーションツールが明示されている
- 勤務地が「自宅(フルリモート)」と記載されている
- クライアントがIT・SaaS・スタートアップ系である
注意すべき曖昧な表現:
- 「リモート可」「在宅勤務あり」→ 週何日かは不明
- 「基本リモート」→ 「基本」以外の日数が定義されていない
- 「状況によりリモート」→ 誰が状況を判断するかが不明
- 「ハイブリッド勤務」→ リモートと出社の比率が定義されていない
面談で必ず聞く6つの質問
篠田がフルリモート希望のエンジニアに必ず伝えている確認事項だ。
-
「参画当初から完全リモートですか?オンボーディング期間に出社要請はありますか?」
→ 最初の1〜2ヶ月だけ出社というケースが多いため、最初から確認する。
-
「過去6ヶ月で出社頻度に変化はありましたか?」
→ 出社回帰の傾向があるチームかどうかを測る質問。
-
「現在のチームメンバーのリモート状況はどうですか?正社員と同じ扱いになりますか?」
→ SESエンジニアだけ出社、という状況を避けるための確認。
-
「緊急時に出社を求められるケースはありますか?その頻度はどの程度ですか?」
→ 「ほぼフルリモートだが障害時は出社」という案件は珍しくない。
-
「クライアント企業全体の出社方針はどうなっていますか?直近で方針変更はありましたか?」
→ 2023年以降の出社回帰方針が残っているかを確認する。
-
「プロジェクトの今後のフェーズは?出社が増えるタイミングはありますか?」
→ リリース直前期だけ出社が増えるケースがあるため、フェーズを確認する。
「フルリモートOK」と「フルリモート確定」の違い
篠田は次のように説明する。
「面談で『リモートOKです』と言われても、入場後に週2出社になったというミスマッチが起きます。私が面談に同席するときは必ず『週何日の出社想定ですか』と数字で確認しています。数字で答えられない現場は、条件が曖昧な可能性が高い」
「リモート可」は「出社を求める場合がある」を含む表現だ。「完全フルリモート」を求めるなら、「週0出社が契約条件として明記されているか」まで確認することが最低限の基準になる。
フルリモートを交渉で勝ち取る方法
フルリモートは、案件選びだけでなく交渉によっても実現できる場合がある。
担当営業への正確な伝え方
「フルリモートで働きたい」と伝えるだけでは、担当者が案件を絞り込みにくい。以下の情報をセットで伝えると精度が上がる。
伝えるべき情報の型:
「フルリモートか週1出社まで可(週2出社は困難)」「希望技術スタック・得意領域」「経験年数と直近の案件内容」「希望単価レンジ」「フルリモートが必要な理由(介護・育児・地方在住等)」「入場可能時期」
フルリモートを希望する「理由」を伝えると、担当者が案件のマッチ度を判断しやすくなる。育児・介護・副業・地方在住といった背景情報は、担当者が「この人には週5出社の案件は提案しない」という判断をする上で重要だ。
入場後にフルリモートに切り替える段階的戦略
最初からフルリモートの案件に入れなくても、段階的に切り替える戦略がある。
ステップ1: 週1〜2出社のハイブリッド案件で入場する
フルリモート案件の候補が出ない場合、ハイブリッド案件で入場する。選択肢はフルリモートのみと比べて4〜5倍以上広がる。
ステップ2: 3〜6ヶ月間で「リモートでも動ける」実績を作る
稼働後3〜6ヶ月で「任せられる」という信頼が積み上がってから提案する。「最近、集中作業が多く、リモートで進めた方が生産性が上がると感じています。週1回だけ試させてもらえますか?」という形で実績を作る。
ステップ3: 次の案件でフルリモートを交渉材料にする
「前回の案件もほぼリモートで稼働していました」という事実が、次の案件交渉の武器になる。実績があるエンジニアへのフルリモート許容度は明らかに上がる。
Heydayの篠田によれば、「週1出社で入場したエンジニアが、3ヶ月後にフルリモートに切り替えた事例は弊社で複数あります。最初の条件が全てではないので、実績を積んでから交渉するという順番を意識してほしい」とのことだ。
入場後に出社が増えるパターン
「入場時はフルリモートだったのに、半年後に週2出社になった」というケースが実際にある。事前に知っておくべきパターンを整理する。
クライアント企業の方針転換
2023年以降、多くの企業が「出社回帰」方針を打ち出した。フルリモートで入場した案件でも、クライアント企業の全社方針変更によって出社要請が来ることがある。
これはエンジニア個人の努力ではコントロールできない。「このクライアントは方針変更のリスクが低いか」を事前に確認するには、担当営業に「過去2年間でリモート条件が変わった案件はありますか?」と聞くことが一つの手段だ。
プロジェクトフェーズの変化
開発フェーズ → リリース直前 → 運用フェーズという流れの中で、リリース直前期だけ出社が増えるケースがある。案件参画時に「このプロジェクトは現在どのフェーズか、今後どう変わるか」を確認しておくことで、ある程度予測できる。
チームの人員変更
現場PMが交代し、新しいPMが「定期的な対面を重視する方針」を持っていたというケースも聞く。これは予測が難しいが、「直近の現場PMの在任期間・方針」を事前に確認しておくことで、リスクをある程度把握できる。
よくある失敗と対処法
「フルリモートOK」の確認が甘いまま入場した
「リモートOKとのことだったが、実際は週3出社だった」というミスマッチが起きる原因は、確認の粒度が粗いことだ。前述の面談6つの質問チェックリストを必ず使ってほしい。
「リモートOK」と「フルリモート可能」の間には差がある。「リモート可」は「出社を求める場合がある」を含む表現だ。
フルリモートのみで探した結果、待機期間が長くなった
フルリモート案件は選択肢が限られる。「フルリモートのみ」で探すと、条件が合う案件が出るまで待機することになる。
現実的なアプローチは、「フルリモートが第一希望だが、週1出社まで許容できる」という形で選択肢を持つことだ。週1出社で入場し、現場での実績を積んだうえでフルリモートに切り替えた事例は弊社でも複数ある。
リモートの快適さを重視しすぎて、キャリア方向と合わない案件に入った
フルリモートが実現できる案件に偏って入り続けると、キャリアが「リモートできる技術スタック」に収束する。それがキャリア目標と一致していれば問題ない。しかし「なんとなくリモートが楽だから」という理由で案件を選び続けると、市場価値の方向性を失うリスクがある。
SES案件の選び方・判断基準も参考にしてほしい。
SESエージェント選びがフルリモート実現率に影響する
フルリモートを実現したいなら、エージェント選びも重要だ。
扱う案件のポートフォリオによって、フルリモート案件にアクセスできる比率が変わる。金融・官公庁系SIerの案件が多いエージェントと、SaaS・スタートアップ系の案件が多いエージェントでは、同じスキルセットでもフルリモート案件の出てくる頻度が異なる。
確認すべき点は以下の3つだ:
- 「直近3ヶ月で紹介した案件のうち、完全フルリモートはどの程度ありましたか?」
- 「クラウドインフラ・SaaS系の案件は取り扱っていますか?」
- 「フルリモート案件を特に得意としている担当者はいますか?」
エージェントの担当者が、フルリモート案件の特性や交渉ポイントを把握しているかどうかは、提案の質に直結する。
SES企業選びのポイントでも、エージェント選びの視点を整理している。
SESの働き方全体を把握したい場合
この記事はフルリモート(週0出社)に絞った内容だ。週1〜2出社のハイブリッドを含むリモートワーク全般の実態・交渉術・リモートでの成長問題については、SESのリモートワーク事情を参照してほしい。
案件参画後に出社条件を変更したい場合の交渉方法は、SESで就業条件変更を頼む方法で整理している。
まとめ
SESでのフルリモートは可能だが、条件がある。
- 実現しやすい案件: クラウドインフラ(最高・70%以上)、SaaS/スタートアップ系Web開発(50〜60%)、データエンジニアリング(60%前後)
- 実現しにくい案件: 金融・官公庁・基幹系(15〜25%)、ハードウェア・ネットワーク系(ほぼ不可)
- リモート率を上げる最短ルート: クラウドスキル(AWS SAA)の取得
- 入場前の必須確認6点: 参画当初からフルリモートか・過去6ヶ月の条件変化・チームのリモート状況・緊急時の出社頻度・クライアントの全社方針・フェーズ変化の見込み
- 交渉戦略: ハイブリッドで入場 → 3〜6ヶ月で実績 → フルリモートに切り替え
フルリモートを希望するなら、案件の業種・技術スタック・参画フェーズを確認したうえで交渉することが重要だ。「フルリモートOK」と「フルリモート確定」を区別する確認習慣を持ってほしい。
具体的な条件について話したい場合は、キャリア相談からご連絡ください。