税務・お金13

フリーランスエンジニアの
確定申告

小川将司
小川将司代表取締役

SES事業6期目のHeyday代表小川将司が、数百人のフリーランス転向相談に関わった経験をもとに執筆

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この記事でわかること

  • 青色申告承認申請書の提出期限は開業から2ヶ月以内。ここを逃すと初年度は白色申告になる
  • 青色申告特別控除65万円の条件は「複式簿記+e-Tax申告(または優良な電子帳簿保存)」
  • インボイスの2割特例は令和8年9月30日までの日の属する課税期間まで。個人事業主は2026年分が最後になる

この記事の対象: 独立を検討中、または独立したばかりで確定申告の全体像を掴みたいエンジニア

「確定申告って、実際どのくらい大変なんですか」

独立を迷っている人からこの質問を受けるたびに、私は「3月の作業量を聞いているなら答えは短いです」と返している。3月にやることは、それまでの11ヶ月をどう過ごしたかで決まるからだ。

私はHeyday株式会社の代表として、数百人のエンジニアのキャリア相談に関わってきた。フリーランス転向を選んだ人が初年度につまずくポイントはほぼ共通していて、その大半は独立する前に決めておけば発生しなかった問題だ。期限を1日過ぎたせいで65万円の控除を落とす、といったことが実際に起きる。

この記事では、独立を検討している段階から逆算して、確定申告に関わる年間の作業と、押さえるべき期限・控除を整理する。すでに独立して初年度の申告作業に入っている人はフリーランスエンジニアの確定申告|初年度にやるべき手順のほうが実務的なので、そちらを参照してほしい。

なお本記事は一般的な制度の説明である。個別の判断は税理士または所轄税務署に確認してほしい。


独立前に決めておく3つのこと

1. 開業日をいつにするか

開業届(個人事業の開業・廃業等届出書)は事業開始から1ヶ月以内に提出する。そして最も重要なのが、青色申告承認申請書の提出期限が開業日から2ヶ月以内であることだ。

この2ヶ月を過ぎると、その年は青色申告ができず白色申告になる。青色申告特別控除65万円を落とすということは、所得税・住民税・国民健康保険料のすべてが上振れするということだ。金額インパクトは所得水準によるが、初年度で十万円単位の差になることは珍しくない。

開業届の書き方と提出方法はフリーランスエンジニアの開業届にまとめている。開業届と青色申告承認申請書は必ず同時に出す、とだけ覚えておけば事故は防げる。

2. 会計ソフトを何にするか

独立してから探すのではなく、開業日の時点で決めて口座連携まで済ませておくのが正しい順序だ。理由は、青色申告特別控除65万円の要件が複式簿記による記帳だからで、これを手作業でやろうとすると挫折する。

事業用の銀行口座とクレジットカードを分けて作り、会計ソフトに連携する。ここまでを開業の週にやってしまえば、あとは日々の取引が自動で仕訳候補になる。

3. インボイス登録をするかどうか

これは独立前に判断が必要な項目だ。詳細は後述するが、SES・受託開発のフリーランスの場合、取引先が課税事業者である以上、登録しないという選択が実務上取りにくい。


青色申告特別控除65万円の条件

青色申告特別控除は3段階に分かれる。

控除額主な要件
65万円複式簿記による記帳+貸借対照表と損益計算書の添付+e-Taxによる電子申告(または優良な電子帳簿保存の要件を満たすこと)
55万円複式簿記による記帳+貸借対照表と損益計算書の添付(書面提出)
10万円簡易簿記による記帳

出典:所得税法にもとづく青色申告特別控除の要件(2026年8月時点)

55万円と65万円の差は、e-Taxで申告するかどうかだけだ。会計ソフトを使っていれば電子申告はボタン数回で終わるので、ここで10万円を落とす理由がない。

青色申告にはもう一つ、赤字を翌年以降3年間繰り越せる純損失の繰越控除がある。独立初年度は経費が先行して赤字になることがあり、この場合でも青色申告なら翌年以降の黒字と相殺できる。赤字だから申告しなくていい、ではなく、赤字だからこそ申告するというのが実務上の結論だ。


控除4種で課税所得を作る

フリーランスエンジニアの税負担は、売上ではなく課税所得で決まる。課税所得を圧縮する手段は主に次の4つだ。

控除上限の目安性質
青色申告特別控除65万円要件を満たせば無条件で適用。実質的なコストはゼロ
社会保険料控除支払った全額国民健康保険料・国民年金保険料の全額が対象
小規模企業共済年84万円(月最大7万円)掛金全額が所得控除。廃業・退任時に共済金として受け取る
iDeCo(個人型確定拠出年金)年81.6万円(第1号被保険者・2026年時点で月6.8万円)掛金全額が小規模企業共済等掛金控除。60歳まで引き出せない

出典:所得税法・小規模企業共済法・確定拠出年金法にもとづく制度の概要(2026年8月時点)。iDeCoの拠出限度額は国民年金基金・付加保険料との合算枠で、制度改正の予定があるため最新情報を確認すること。

重要なのは、小規模企業共済とiDeCoは「支出」であって「消費」ではないという点だ。掛金は将来自分に戻ってくる資産でありながら、拠出した年の課税所得を減らす。会社員時代にはなかった選択肢で、フリーランスの税制上の数少ない優位点だ。

一方で、iDeCoは60歳まで引き出せない。案件が切れたときの生活防衛資金を確保する前にフルで拠出すると、資金繰りが詰まる。独立1年目は控除枠を使い切ることより、手元資金を厚くするほうを優先すべきだ。iDeCoの拠出額と手取りの関係はiDeCoでフリーランスエンジニアの手取りはどう変わるかで扱っている。

社会保険料控除の対象になる健康保険の選択については、フリーランスの健康保険3択比較を参照してほしい。


経費の考え方——エンジニア特有の論点

経費の網羅的なリストはフリーランスエンジニアの経費チェックリストにまとめている。ここでは独立検討段階で誤解が多い3点だけ書く。

常駐案件でも自宅の家賃は按分できる

SES的な常駐案件がメインでも、自宅で資料作成・請求業務・学習を行っていれば、その使用実態に応じて家賃・光熱費を按分して経費にできる。ただし按分の根拠(作業に使う面積の割合、稼働時間の割合など)を説明できる状態にしておくことが前提だ。常駐時間が長いほど按分率は下がるので、フルリモート案件の人と同じ割合で計上するのは危険になる。

PCは金額によって処理が変わる

10万円未満なら消耗品費として全額をその年の経費にできる。10万円以上になると原則として減価償却の対象になるが、青色申告者には少額減価償却資産の特例(取得価額30万円未満のものを一定限度まで即時償却できる制度)がある。青色申告のメリットは65万円控除だけではない、というのがここに表れる。

独立前に支払った費用も開業費にできる

独立準備のために開業前に支出した費用(機材、書籍、名刺、打ち合わせ費用など)は開業費として資産計上し、任意のタイミングで償却できる。独立を検討し始めた時点から領収書を取っておくべき理由がこれだ。多くの人がここを知らずに捨てている。


インボイスの2割特例には期限がある

これは2026年に独立を検討している人にとって最も時間的制約が強い論点だ。

インボイス(適格請求書)発行事業者に登録すると、本来は基準期間の課税売上高が1,000万円以下でも消費税の課税事業者になる。ここで納税額を抑えるための経過措置が2割特例で、納税額を売上にかかる消費税額の20%に圧縮できる。

この2割特例の適用対象は、令和5年10月1日から令和8年9月30日までの日の属する各課税期間だ。個人事業主の課税期間は暦年なので、令和8年(2026年)分が2割特例を使える最後の年になる。

つまり、2026年中に独立してインボイス登録する人は2026年分で2割特例を使えるが、2027年からは原則課税か簡易課税を選ぶことになる。簡易課税を選ぶ場合、エンジニアの受託業務は多くのケースでサービス業(第五種、みなし仕入率50%)に区分されるが、業務内容によって判定が変わるため税務署または税理士に確認が必要だ。簡易課税制度選択届出書は原則として適用を受けたい課税期間の開始前日までに提出する必要があるため、2027年から簡易課税にしたいなら2026年内に届出を出すという段取りになる。

なお税制は改正されるため、実行前に国税庁の最新情報を必ず確認してほしい。

そもそもインボイス登録をすべきかについては、SES・受託開発の場合は取引先がほぼ課税事業者であり、登録しないと取引先側の仕入税額控除が制限される。実務上は「登録しない自由」がほぼ機能しないと考えたほうがいい。


年間タスク12(時系列)

独立を決めてから初回申告までにやることを時系列で並べる。

独立前

  1. 開業予定日を決める(青色申告承認申請書の2ヶ月ルールの起点になる)
  2. 開業準備の領収書を保管し始める(開業費として計上できる)
  3. 事業用の銀行口座・クレジットカードを作る

開業月 4. 開業届と青色申告承認申請書を同時に提出する 5. インボイス登録の申請可否を判断・申請する 6. 会計ソフトを契約し、口座・カードを連携する

毎月 7. 請求書を発行し、入金を消し込む 8. 会計ソフトの仕訳候補を確認して確定する(月1回30分で終わる状態を保つ) 9. 電子取引でやり取りした請求書・領収書のデータを電子保存する(電子帳簿保存法の要件)

年末〜年始 10. 小規模企業共済・iDeCoの拠出額を年内に確定させる(12月末が期限) 11. 各種控除証明書(国民年金、生命保険料等)を集める

2月16日〜3月15日 12. 確定申告書を作成し、e-Taxで提出する(65万円控除の要件)

やることの大半は毎月の8番だ。ここを溜めた人だけが3月に地獄を見る。逆に言えば、月1回の30分を確保できるなら、確定申告は独立の障害にならない。


よくある質問

Q. 独立初年度でも青色申告はできますか?

できます。ただし青色申告承認申請書を開業日から2ヶ月以内(その年の1月1日〜1月15日に開業した場合はその年の3月15日まで)に提出する必要があります。この期限を過ぎると初年度は白色申告になり、翌年分からの青色申告となります。

Q. 会社を辞めた年は、給与所得と事業所得の両方を申告するのですか?

はい。年の途中で独立した場合、退職までの給与所得と、独立後の事業所得を合算して確定申告します。前職の源泉徴収票が必要になるため、退職時に必ず受け取ってください。年末調整を受けていない給与から源泉徴収された所得税は、申告により還付されることが多いです。

Q. 青色申告特別控除65万円と55万円は何が違いますか?

要件の違いはe-Taxによる電子申告(または優良な電子帳簿保存の要件を満たすこと)です。複式簿記による記帳と貸借対照表の添付はどちらも必要で、書面で提出すると55万円になります。会計ソフトを使っていれば電子申告は簡単なので、65万円を選ばない理由はほぼありません。

Q. インボイス登録は必須ですか?

法的な義務ではありません。ただしSES・受託開発の取引先はほぼ課税事業者であり、登録していないと取引先の仕入税額控除が制限されるため、単価の減額交渉や取引の見送りにつながる可能性があります。実務上は登録を前提に単価を設計するのが一般的です。

Q. 税理士に頼むべきタイミングはいつですか?

売上が1,000万円を超えて消費税の課税事業者になる時期、法人化を検討する時期、複数の取引形態(受託・顧問・物販など)が混在してきた時期が目安です。単一の準委任契約で売上が数百万円規模なら、会計ソフトで自力対応できるケースが大半です。

Q. 領収書やレシートはいつまで保管する必要がありますか?

青色申告者の場合、帳簿は7年間、領収書等の書類は原則7年間(一部5年間)の保存が必要です。電子取引でやり取りしたデータは電子帳簿保存法により電子形式での保存が求められるため、紙に印刷しての保管では要件を満たしません。


まとめ

確定申告は3月の作業ではなく、独立を決めた日から始まる年間業務だ。押さえるべきポイントを整理する。

  • 青色申告承認申請書は開業から2ヶ月以内。ここを逃すと初年度の65万円控除が消える
  • 65万円控除の条件は複式簿記+e-Tax。会計ソフトを開業日に用意すれば自動的に満たせる
  • 控除は青色65万円・社会保険料全額・小規模企業共済84万円・iDeCo81.6万円の4本立てで設計する
  • インボイスの2割特例は個人事業主なら2026年分が最後。2027年以降の消費税の扱いを今のうちに決めておく
  • 毎月30分の記帳を続けられるかが、すべてを分ける

SES経営者として言うと、確定申告の難しさを理由に独立を諦める人は多いが、実際に詰まるのは制度の複雑さではなく期限の管理だ。期限だけカレンダーに入れてしまえば、残りは会計ソフトが処理してくれる。


独立後の手取りが見合うか、単価から逆算しませんか

Heydayでは契約単価・マージン・商流をすべて開示している。正社員とフリーランス、それぞれの手取りを税・社会保険まで含めて比較したうえで相談に乗っている。

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この記事の著者

小川将司
小川将司

Heyday株式会社 代表取締役

SES事業6期目のHeyday代表小川将司が、数百人のフリーランス転向相談に関わった経験をもとに執筆

Heyday株式会社 代表取締役。エンジニア・PM/PdMを経験後、SES事業を創業。複数クライアント現場でAI導入コンサルティングを担当。「ITをもっとフェアに」を掲げ、マージン構造の開示に取り組む。

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