フリーランス15

フリーランスエンジニアの
確定申告

小川将司
小川将司代表取締役

SES経営者として数百人のフリーランス転向相談に関わってきた実績をもとに解説

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この記事でわかること

  • SES正社員→フリーランス初年度の確定申告が特殊な理由(年度途中・社会保険切替・開業届タイミング)
  • 青色申告55万円控除のメリットと申請手順
  • フリーランスエンジニアが経費にできるもの・できないものの判断基準
  • 確定申告ツール選定と税理士に頼むべきタイミング

この記事の対象: SES正社員からフリーランスに転向した初年度で確定申告に不安を感じているエンジニア

フリーランスに転向した最初の春、私は確定申告の複雑さに正直戸惑った。

Heydayを立ち上げる前、私自身もエンジニアとして稼働していた時期がある。 その経験と、その後SES経営者として数百人のエンジニアのキャリア相談に関わってきた中で、「初年度の確定申告で損をする人のパターン」が見えてきた。

Heydayでフリーランス転向の相談を受ける中で、「確定申告が不安で踏み切れない」という声は全体の約2割を占める。技術力も案件もあるのに、税務への不安だけで独立を先延ばしにしている人が少なくない。

この記事では、SES正社員からフリーランスになった初年度特有のポイントを中心に、申告の手順と節税の実務を整理する。


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1. SES正社員からフリーランス初年度の申告が特殊な理由

「給与所得」と「事業所得」が混在する

SES正社員を途中退職してフリーランスに転向した場合、その年の確定申告には2種類の所得が含まれる。 4月末まで正社員として給与をもらい、5月からフリーランスとして稼働を始めたなら、「給与所得」と「事業所得」が同一年に発生する。

これ自体は珍しいことではないが、合算して申告しなければならない点を見落とす人が多い。 会社員時代の源泉徴収票を捨てないこと。 これが第一の注意点だ。

社会保険の切り替えタイミングが申告に影響する

正社員を退職すると、健康保険と年金を自分で払う立場になる。 選択肢は「国民健康保険に切り替える」「任意継続にする」「家族の扶養に入る」の3つだ。

どの選択をとったかによって、確定申告で控除できる社会保険料の金額が変わる。 保険料の領収書や控除証明書は必ず手元に揃えておく。

消費税の免税事業者期間を把握する

開業2年間は原則として消費税の免税事業者になる。 ただし、インボイス制度(適格請求書発行事業者)に登録した場合は課税事業者になるため、消費税の申告義務が発生する。

2023年10月以降、取引先から「インボイス登録しているか」を確認されるケースが急増している。 登録の有無は確定申告の手続きを大きく左右するため、最初に確認しておくべきポイントだ。

開業届・青色申告承認申請書の提出期限を確認する

フリーランスとして事業を開始した場合、開業日から1ヶ月以内に「開業届」を税務署に提出する必要がある。 また、青色申告を選択するなら「青色申告承認申請書」を開業から2ヶ月以内(または確定申告期限の前日まで)に提出しなければならない。

この手続きを怠ると、初年度から青色申告の恩恵が受けられなくなる。 「後から気づいた」という相談を何度も受けてきた。



2. 青色申告 vs 白色申告:どちらを選ぶべきか

結論:フリーランスエンジニアなら原則として青色申告一択

青色申告と白色申告の最大の違いは、「青色申告特別控除」の有無だ。

申告方式最大控除額帳簿の複雑さ赤字の繰り越し
青色申告(e-Tax・複式簿記)65万円やや複雑3年間可能
青色申告(単式簿記)10万円比較的シンプル3年間可能
白色申告なしシンプル不可

年収600万円のフリーランスエンジニアが青色申告(65万円控除)を活用した場合、白色申告と比べて所得税・住民税が合計15〜20万円程度安くなる計算になる。

帳簿付けの手間は、後述するクラウド会計ソフトを使えば大幅に軽減できる。 「複式簿記が難しそう」という理由で白色申告を選ぶのは、数十万円を捨てる判断に等しい。

青色申告のもう一つのメリット:赤字の繰り越し

フリーランス初年度は、開業費(PC購入、ソフトウェアライセンス、名刺作成費など)が集中して発生することが多い。 これらの費用が売上を上回った場合、青色申告なら翌年以降3年間にわたって赤字を繰り越せる。

初年度に一括でMacBook Proを購入した場合など、青色申告の赤字繰り越しが節税に効いてくるケースは少なくない。

青色申告の注意点

  • 開業から2ヶ月以内(または青色申告を行う年の3月15日まで)に承認申請書を提出すること
  • 複式簿記での記帳が必要(クラウドソフトを使えば自動仕訳が大部分をカバーする)
  • e-Taxで申告することで65万円控除が適用される(紙申告だと55万円控除になる)

3. フリーランスエンジニアが経費にできるもの・できないもの

経費にできるもの(具体例)

エンジニアが仕事で使うものは、業務上の必要性が明確であれば経費として計上できる。

デバイス・周辺機器

  • MacBook / Windows PC(業務用として使用する場合)
  • モニター、キーボード、マウス
  • ルーター、Wi-Fiアダプタ
  • スマートフォン(業務使用分)

ソフトウェア・サービス

  • JetBrains IDE、VS Code拡張(有料)
  • GitHub、GitLab(有料プラン)
  • AWSなどのクラウドサービス費用
  • Figma、Notionなどのツール費用
  • ChatGPT Plus、Claude Proなど

学習・情報収集

  • 技術書、プログラミング書籍
  • Udemyなどのオンライン学習費用
  • 勉強会・カンファレンスの参加費

通信・交通費

  • インターネット回線(自宅兼用の場合は按分)
  • 客先への交通費、出張費

その他

  • コワーキングスペース利用料
  • 仕事用の文房具、消耗品
  • 名刺、印刷物
  • 会計ソフト(freee、マネーフォワードなど)の費用

経費にできないもの(注意が必要なもの)

プライベートとの按分が必要なもの

  • 自宅の家賃(業務使用スペース分のみ按分可能。通常30〜50%)
  • スマートフォンの通信費(業務使用割合で按分)
  • 自宅の電気代(ホームオフィス使用分のみ)
  • 交通費(プライベートな移動は不可)

経費にできないもの

  • スーツ、私服(「仕事で着る」だけでは不可)
  • 食事・外食(取引先との打ち合わせ時は交際費として一部可能)
  • 罰金・反則金
  • 個人的な旅行費用

家賃按分の実務

在宅勤務が中心のフリーランスエンジニアにとって、家賃の按分は大きな節税ポイントになる。

按分の方法は「使用面積比」が一般的だ。 50平米の1LDKで、6畳(約10平米)をホームオフィスとして専用使用しているなら、按分率は20%となる。

月家賃15万円であれば、年間で36万円が経費になる計算だ。 税務署から否認されないためには、実際にその部屋を仕事専用で使っている事実と、間取り図などの根拠資料を手元に持っておくこと。

SES常駐フリーランス特有の経費按分(客先交通費・自宅作業按分・通信費按分)の判断基準はフリーランスエンジニア 経費チェックリスト|SES常駐の按分判断で詳しく整理している。


4. freee vs マネーフォワード:選択のポイント

2大クラウド会計ソフトの比較

項目freeeマネーフォワード クラウド確定申告
月額費用(スタータープラン)1,628円1,078円
操作性直感的・UI優秀やや慣れが必要
銀行・カード連携多数対応多数対応
確定申告書の自動生成対応対応
e-Tax連携対応対応
サポート体制チャット・電話チャット
税理士連携多数対応多数対応

どちらを選ぶべきか

freeeを選ぶべきケース:

  • 経理・会計の経験がほぼゼロで、初めてクラウドソフトを使う
  • UIのわかりやすさを最優先したい
  • サポートを手厚く受けたい

マネーフォワードを選ぶべきケース:

  • コストを少しでも抑えたい
  • すでにマネーフォワードの家計簿アプリを使っており、データ連携したい
  • エンジニアとしてAPI連携や外部サービスとの接続を考えている

私自身は法人設立後にマネーフォワードを使っているが、個人事業主として独立した直後の段階ではfreeeの方が入口として使いやすいと感じる。 どちらも無料トライアルがあるため、両方を試してから決めれば間違いない。

自動仕訳機能を最大限に活用する

クラウド会計ソフトの最大の価値は「銀行口座・クレジットカードとの自動連携」だ。 仕事用の口座とカードをソフトに登録しておけば、明細が自動で取り込まれ、AIが仕訳を提案してくれる。

ここでポイントになるのが「仕事用とプライベートの口座・カードを分けること」だ。 混在していると仕訳の手間が倍増し、ミスの原因にもなる。 フリーランスになるタイミングで、仕事専用の銀行口座とクレジットカードを開設することを強く勧める。



5. 税理士に頼むべきケース

自力で申告できるケースと、税理士が必要なケース

多くのフリーランスエンジニアは、クラウド会計ソフトを使えば自力で申告できる。 しかし以下のケースでは、税理士に依頼することで税理士報酬以上の節税効果が得られることが多い。

税理士に頼むべきケース:

  1. 年収が1,000万円を超える、または超えそうな場合 消費税の課税事業者になる可能性が高く、インボイス制度の対応も含めて専門家の判断が必要になる。

  2. 法人化を検討している場合 個人事業主から法人への切り替えは、タイミングと方法によって数十万円規模の差が生じる。 法人化の判断は税理士との相談が必須だ。SES単価ベースで「いつ法人化すべきか」の判断軸はフリーランスエンジニアの法人化タイミング|SES単価で見る2つの壁で実額化している。

  3. 不動産投資や株式投資などで複雑な申告になる場合 フリーランス所得と他の所得が絡み合うと、節税の最適解が複雑になる。

  4. 開業年度に多額の設備投資をした場合 一括償却・即時償却・減価償却の選択によって、複数年にわたる節税効果が変わる。

  5. 税務調査のリスクが高まっていると感じる場合 売上が急増した年、大きな経費計上をした年などは、税理士のサポートがあると心強い。

税理士費用の相場

フリーランス(個人事業主)の確定申告を依頼した場合の費用目安は以下の通りだ。

サービス内容費用目安
確定申告書の作成のみ3〜8万円
年間顧問契約(記帳・申告込み)20〜40万円/年
法人設立サポート10〜20万円(別途設立費用)

年収500万円以下であれば、自力申告+クラウドソフト(年2万円程度)の組み合わせで十分なケースが多い。 年収1,000万円を超えるなら、顧問税理士への投資対効果は高い。

税理士の選び方

エンジニアやフリーランスに強い税理士を選ぶポイントは3つだ。

  • IT・フリーランス専門の経験があること:個人事業主とフリーランスの税務は一般的な中小企業と異なる論点がある
  • クラウド会計ソフト対応であること:freeeやマネーフォワードに対応した税理士でないと、データ共有が手間になる
  • コミュニケーションがチャットやメールで完結すること:訪問を前提にした事務所は、フリーランスの働き方に合わないことがある

6. 初年度にやるべき手続きチェックリスト

フリーランス初年度は手続きが集中する。 以下のチェックリストで漏れを防いでほしい。

開業時(フリーランス転向直後)

  • 開業届の提出(開業から1ヶ月以内)
  • 青色申告承認申請書の提出(開業から2ヶ月以内)
  • 仕事用銀行口座の開設
  • 仕事用クレジットカードの申し込み
  • クラウド会計ソフトの選定・契約
  • インボイス登録の要否を判断

年間を通じて

  • 月次で入出金を記帳(自動連携でラクになる)
  • 領収書・レシートの保管(電子保存でOK)
  • 源泉徴収された案件の記録(翌年の還付申告に必要)

確定申告期間(翌年2月〜3月)

  • 前職の源泉徴収票の確認
  • 社会保険料の控除証明書の確認
  • 小規模企業共済の控除証明書(加入している場合)
  • iDeCoの控除証明書(加入している場合)
  • e-Taxで申告・65万円控除を適用


7. FAQ

Q. 白色申告から青色申告に途中で切り替えられますか?

切り替えは可能です。 切り替えたい年の3月15日(または開業日から2ヶ月以内)までに「青色申告承認申請書」を提出すれば、その年の確定申告から青色申告が適用されます。 申告したい年の翌年に申請しても間に合わないため、早めに動くことが重要です。

Q. インボイス登録は必須ですか?

必須ではありません。 ただし、取引先(SES会社や直クライアント)が課税事業者の場合、インボイス未登録だと先方が仕入税額控除を受けられず、取引条件の変更を求められるケースがあります。 取引先との関係と、自分が課税事業者になった場合の消費税負担を天秤にかけて判断してください。 年収1,000万円以下の免税事業者にとっては、登録の有無が経済的に大きな影響を持ちます。

Q. 副業として受注している案件も確定申告が必要ですか?

会社員の給与以外に年間20万円を超える所得がある場合、確定申告が必要です。 副業収入が20万円以下であれば確定申告は不要ですが、住民税の申告は別途必要な場合があります。 副業を本業に近い規模でやっている場合は、開業届を出して青色申告を選択する価値があります。

Q. 経費の領収書はどれくらいの期間保管すればいいですか?

原則として7年間の保管義務があります(青色申告の場合)。 紙での保管が難しければ、「電子帳簿保存法」に対応した電子保存が認められています。 スマートフォンで撮影した領収書画像を、freeeやマネーフォワードに取り込んで保存する方法が現実的です。

Q. 小規模企業共済とiDeCoはフリーランスに有効ですか?

どちらも所得控除として使える優れた節税手段です。 小規模企業共済は月最大7万円(年84万円)が全額所得控除になり、将来の退職金代わりにもなります。 iDeCoは月最大6.8万円(年81.6万円)が控除対象で、運用益も非課税です。 両方フル活用した場合、年収600万円のエンジニアで年間30〜40万円規模の節税効果が見込めます。 加入を検討していない方は早めに情報収集することをお勧めします。

注記: この記事の税務に関する記述は一般的な情報提供を目的としており、個別の税務判断については税理士にご相談ください。


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この記事の著者

小川将司
小川将司

Heyday株式会社 代表取締役

SES経営者として数百人のフリーランス転向相談に関わってきた実績をもとに解説

Heyday株式会社 代表取締役。エンジニア・PM/PdMを経験後、SES事業を創業。複数クライアント現場でAI導入コンサルティングを担当。「ITをもっとフェアに」を掲げ、マージン構造の開示に取り組む。

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