2024年から2026年にかけて、SES→SIerへの転職相談を70件以上支援してきた。そのうち転職に成功したのは50件(71%)、うち20件(29%)は転職できなかったか、転職後に「期待と違った」と連絡が来た。
SIer転職を目指す人の多くが信じている前提——「SIerの方が安定している」「単価が上がる」「キャリアが積める」——は、全員に当てはまるわけではない。SESからSIerへの転職が機能するケースと機能しないケースには、明確なパターンがある。
この記事では、野沢が支援してきた相談事例をもとに、SES→SIer転職で「できる人」と「できない人」の条件、転職後に単価がどう変わるか、そして進め方の具体論を解説する。一般論ではなく、Heydayで扱った一次情報をもとに書く。
転職相談で多いのが、SESとSIerの「仕事内容」の違いを曖昧に理解したまま転職活動を始めるケースだ。この認識ズレが、後から「思っていたのと違う」という後悔につながる。
SESは客先常駐が前提で、エンジニアは「常駐先の企業」の指揮命令下で働く。SES会社の社員ではあるが、日常的な業務指示は常駐先から受ける。
SIerは基本的に自社プロジェクトに参画する。案件ごとに客先に出向くケースもあるが、所属先の会社の中でプロジェクトが完結することが多い。「会社に属している感覚」が全く異なる。
大手SIerは元請けとして案件を受注し、SES企業に2次・3次として作業を発注する立場にある。つまりSIerのエンジニアは「設計・要件定義・PMO」を担い、SESのエンジニアは「実装・テスト・保守」を担うというのが、業界の典型的な分担構造だ。
ただしこれは大手SIerの話で、中堅SIerは自社エンジニアが実装まで担当するケースも多い。「SIer=上流工程」という認識は、会社の規模によって大きく異なる。
SIerは正社員雇用が前提で、案件がなくても給与は支払われる。安定性は高い一方、SESと比べると「案件単価と給与の連動性」が低い。スキルが上がっても給与が上がるスピードは遅く、給与テーブルが固定されているケースもある。
SESは案件単価と給与の連動性が高い(会社によるが)。スキルで案件単価を上げると、それが給与に反映されやすい。「安定性」より「成長性」を重視するエンジニアにはSESが合う場合がある。
| 比較軸 | SES | SIer(大手) | SIer(中堅) |
|---|
| 指揮命令 | 客先 | 自社PM | 自社PM or 客先 |
| 担当フェーズ | 実装〜保守が多い | 要件定義〜設計 | 設計〜実装 |
| 給与安定性 | 案件依存が高い | 固定給・安定 | やや固定 |
| 単価連動性 | 高い | 低い | 中程度 |
| 案件選択自由度 | 中〜高 | 低い | 中程度 |
70件の相談のうち転職成功50件を分析すると、「転職できた人」には共通するパターンがある。
SIerが求めているのは、実装だけできるエンジニアではない。要件定義・基本設計・外部設計のいずれかに関わった経験が、面接で具体的に語れるかどうかが最初のハードルになる。
「要件定義に参加した」という経験でも、どの案件で、誰と、どういう役割で関わったかが具体的に言えないと評価されない。スキルシートに「要件定義経験あり」と書いてあっても、面接で「具体的にどんな決定に関わりましたか」と聞かれて答えられないケースは、相談を受けながら何度も見てきた。
転職成功したAさん(Java 7年・33歳)のケースでは、SES時代に上流工程に参加した案件が2件あった。「要件定義で何を決めたか・誰とどう議論したか」をA4 1枚で言語化してから面接に臨んだ結果、書類通過率が上がった。
SIerの仕事は、客先や協力会社との調整業務が多い。エンジニアとしての技術力だけでなく、「ステークホルダーと合意形成できるか」を採用担当者は見ている。
面接で評価されたのは「困難な調整をどう解決したか」のエピソードだ。「納期が迫っている中で客先の仕様変更要求があり、どう交渉したか」「チーム内の技術的な対立をどう解決したか」——こういう具体的な話が出てくる人は、SIerの採用側に「即戦力になる」と映る。
転職成功したBさん(インフラ 5年・29歳)は、SES時代に客先の担当者と仕様変更の折衝をした経験を具体的に話した。「その場でエンジニア視点の意見を言い、最終的にどう合意したか」が評価された。
「SESを抜け出したい」という動機だけでは通らない。SIerのどの部門で、どんな案件に関わりたいか——この解像度が低いと「なぜうちでないといけないのか」の答えが出てこない。
転職成功率が高かった人は、「金融系のシステム要件定義に入りたい。現在のSES案件で金融系の実装経験が3年あり、次のステップとして上流に関わりたい」という明確な意図を持っていた。
野沢が支援した転職相談70件(2024〜2026年)の内訳。
| 分類 | 件数 | 割合 | 主な理由 |
|---|
| 転職成功(期待通り) | 35件 | 50% | 上流経験あり・面接準備充実 |
| 転職成功(期待より低評価) | 15件 | 21% | 入社したが職位・給与が想定以下 |
| 転職見送り(本人判断) | 10件 | 14% | 比較した結果SESの方が条件が良かった |
| 転職不成功(書類・面接落ち) | 7件 | 10% | 上流経験の証明ができなかった |
| 転職後に後悔 | 3件 | 5% | 単価低下・仕事内容のミスマッチ |
転職できなかった・後悔したケースに共通するパターンは5つある。
70件中最も多かった失敗パターンは、SES期間のほぼ全てが実装・テスト・保守運用であり、上流工程の経験がゼロまたは「関わったが役割が薄い」ケースだ。
SIerの採用では「設計からできる人」を求めていることが多い。実装スキルがいくら高くても、設計・要件定義の経験がないと一次の書類選考を通過しにくい。
Cさん(PHP 6年・32歳)は、SES在籍中6年間のほぼ全てをCMSの実装・保守に費やしてきた。「上流をやりたい」という動機は強かったが、実績として語れる上流工程の経験がなかった。3社に書類を出してすべて落ち、「まず今の現場で設計に関わることから始めた方がいい」とアドバイスした。
対策: 現在のSES案件で意図的に上流工程に近い仕事を取りに行くことが先決だ。具体的には「次の案件は設計フェーズから入れる現場を希望する」と会社に伝えること。案件の選び方も参考にしてほしい。
意外に見えるかもしれないが、SESからSIerへ転職すると単価(給与)が下がるケースがある。野沢の支援実績では、約35%のケースで転職後の月収が下がった。
SESでは案件単価が高い場合、還元率に応じて給与が高くなる。たとえばフリーランスとして月90万円の案件に参画していたエンジニアが、SIer正社員として年収600万円(月50万円相当)で入ると、実質的に下がる。
「SIer=年収アップ」という前提で転職活動を始めると、オファー段階で現実と乖離が生じる。単価アップを目的にSIer転職を考えている場合、後述の単価データを事前に確認することが重要だ。
「SIerに入れば自分の市場価値が上がる」「SIer出身というブランドが欲しい」——こういう動機が前面に出ると、面接でそれが伝わってしまう。
採用担当者が知りたいのは「うちの会社でどんな価値を発揮してくれるか」だ。「SIerというブランドを使いたい」「上流工程に入れば成長できると思う」という受け身の動機では通らない。
SES在籍が2年未満、かつ専門スキルがまだ薄い段階でSIer転職を試みても、評価されにくい。SIerは経験年数と実績を重視する傾向があるため、「3〜5年のSES経験+上流参画実績1件以上」が現実的な最低ラインになる。
20代前半でSES→SIer転職を試みたDさん(Java 2年)は、技術力は高かったが経験年数が足りず、希望していた金融系大手SIerには通らなかった。「3年後にもう一度チャレンジする」という判断に落ち着いた。
大手SIerは階層的な組織構造を持つことが多い。承認プロセスが長く、「スピード感がない」と感じるエンジニアは一定数いる。SES時代に比較的フラットな環境に慣れていた場合、SIerの組織文化に適応できずに早期離職するリスクがある。
面接前に「この会社の意思決定スピード・承認プロセスはどうなっていますか」を確認できると、ミスマッチを事前に発見できる。
SES→SIer転職で最も関心が高いのが単価・年収の変化だ。「SIerに移ると単価が上がるのか下がるのか」について、Heydayが扱う案件データを元に整理する。
Heydayで取り扱う案件のうち、要件定義フェーズから参画できる上流工程案件31件の単価レンジは以下のとおり。
| 雇用形態 | 単価レンジ | 平均単価 |
|---|
| 正社員(SES経由) | 50〜78万円/月 | 56〜68万円/月 |
| フリーランス | 65〜120万円/月 | 85〜103万円/月 |
注目すべきは正社員SES経由の上流案件が50〜78万円という水準だ。SIer大手の正社員年収(月換算55〜75万円前後)と比べても、必ずしもSIer転職が単価アップになるわけではない。
野沢が支援した50件のうち、SIer転職後の給与が確認できた32件の内訳。
| SIer規模 | 経験年数3〜5年 | 経験年数6〜10年 | 経験年数10年超 |
|---|
| 大手SIer(売上1,000億超) | 月40〜55万円 | 月55〜70万円 | 月70〜90万円 |
| 中堅SIer(売上100〜1,000億) | 月35〜50万円 | 月50〜65万円 | 月60〜80万円 |
| 中小SIer(売上100億未満) | 月30〜45万円 | 月45〜60万円 | 月55〜70万円 |
大手SIerの場合、経験年数3〜5年で月40〜55万円というのが現実だ。SES在籍中にフリーランスや高還元率企業で同じスキルを使っていた場合、月60〜90万円以上の案件もある。
SES→SIerで単価が下がるケース:
- SES在籍中にフリーランスまたは高還元企業で月70万円超の案件に参画していた
- 専門スキルが特定技術に特化しており、その技術のSES案件単価が高い
- SIer入社後に配属された部門が期待より下流工程寄りだった
SES→SIerで単価が上がるケース:
- SES在籍中のマージン率が高く(50%超)、手取りが低かった
- SIerで上流工程を担当し、管理職・PM職に早期昇格できた
- 学歴やコンサル系スキルが評価され、想定外の高評価を受けた
野沢の支援実績(n=32件、確認できたもの)での転職後の単価変化。
| 変化 | 件数 | 割合 |
|---|
| 単価上昇(+5万円超/月) | 9件 | 28% |
| 横ばい(±5万円未満/月) | 12件 | 38% |
| 単価低下(-5万円超/月) | 11件 | 34% |
約3分の1は単価が下がるという現実は、転職前に知っておくべき数字だ。
野沢(Heyday営業サポート)から一言:
SIer転職を「キャリアアップ」と表現する転職エージェントは多いが、単価だけで見るとそうでないケースが3割以上ある。「安定性」や「上流工程経験の積み重ね」という意味でのキャリアアップは本物だが、収入アップが目的なら現在のSES環境で案件単価を上げる道の方が現実的なことも多い。正直に言える立場で言う。
転職できる条件を満たしている場合、次は「どう進めるか」の戦略だ。
SES→SIer転職は、現在の案件終了の2〜3ヶ月前に動き始めるのが理想だ。案件途中での離脱は、新しい会社への印象を悪くするリスクがある。
また、転職活動の開始前に以下の準備が揃っていることを確認する。
- 上流工程の経験が1件以上、具体的に話せる状態にある
- 自分の市場単価を複数ソースで把握している(単価相場の確認)
- 転職後のSIerで「何をしたいか」が言語化できている
- スキルシートが最新の状態に更新されている(スキルシートの書き方)
SES転職のベストタイミングでも詳しく解説しているが、感情的に「今すぐ出たい」という状態で動くと、タイミングのズレで条件が下がりやすい。
SIer転職に向いているエージェントと、SES転職に特化したエージェントは異なる。
SIer転職に向いているエージェントの特徴:
- 保有案件にSIer正社員の求人が多い
- 面接対策として「上流工程経験のアピール方法」を具体的に指導できる
- SIerの採用担当者と直接繋がりがあり、推薦状の評価が見込める
避けた方がいいパターン:
- SES専業のエージェント(SIerの内部事情に詳しくないことが多い)
- 転職スピードを優先させてくるエージェント(条件確認の時間を削られる)
- マージン・年収の話を避けるエージェント
エージェントを選ぶ際、「SIer転職の支援実績がどのくらいありますか」「年収が下がるケースはどのくらいありますか」と率直に聞けるかどうかが、信頼性の目安になる。
SIer転職の面接で必ず聞かれる3つの質問と、準備の方向性を整理する。
質問1:「なぜSESからSIerへの転職を考えているのですか」
「SESを抜け出したい」という動機では通らない。「現在の案件で設計フェーズに関わる中で、上流から一貫してプロジェクトを担えるSIerの仕事に興味が出た」という能動的な動機に変換することが必要だ。
質問2:「上流工程の経験を具体的に教えてください」
ここが最も差がつく。「要件定義に参加した」だけでは不十分。「何の案件で、どんな決定に関わり、結果としてどんな成果が出たか」をSTAR形式(状況・課題・行動・結果)で話せるように準備する。
質問3:「弊社でどんな仕事をしたいですか」
対象企業の業界・得意分野を事前に調べ、「御社の金融系案件で要件定義を担いたい。SES時代に金融系の実装を3年経験しており、次のステップとして上流工程に関わりたい」という具体性が必要だ。
野沢が支援した成功ケースの平均的なスケジュール。
| フェーズ | 期間の目安 | 主な作業 |
|---|
| 準備フェーズ | 1〜2ヶ月 | 上流経験の言語化・スキルシート更新・市場単価把握 |
| エージェント接触 | 2週間 | 複数社に相談・希望条件の整理 |
| 書類選考 | 2〜4週間 | 複数社に書類提出・フィードバック収集 |
| 面接 | 2〜6週間 | 1次〜最終面接(SIerは3〜4次が多い) |
| オファー・条件交渉 | 1〜2週間 | 年収・役職・配属部門の確認 |
| 現職調整・入社準備 | 1〜2ヶ月 | 案件終了・引き継ぎ・入社準備 |
合計で4〜6ヶ月は見ておくべきだ。「来月中に転職したい」という状態で始めると、焦りが条件交渉の失敗や入社先のミスマッチを生む。
難しくはないが、条件がある。上流工程の経験が言語化できている・コミュニケーション能力のエピソードがある・SIerで何をしたいかが具体的に言える、この3点が揃っていれば転職できる可能性は高い。野沢の支援実績では、3点が揃っていたケースの転職成功率は85%以上だった。
できる。重要なのはSES経験の「中身」だ。客先常駐でも上流工程に関われた経験があれば、SIerの採用担当者に評価される。実装・テスト専任の場合は、現在の現場で少しでも設計フェーズに関わる実績を作ってから転職活動に入ることを勧める。
約28%のケースで上がり、38%は横ばい、34%は下がる(野沢支援実績n=32件)。「SIer=年収アップ」は必ずしも正しくない。SES在籍中の還元率と現在の案件単価によって、SIer転職が収入面でプラスになるかどうかは変わる。転職前に自分の現在の単価と希望SIerの年収水準を比較することが重要だ。
遅くない。SIerは経験を評価するため、30代での転職は「即戦力」として見てもらいやすい。ただし30代後半(37〜38歳以降)になると、管理職候補としての評価が重くなり、マネジメント経験がない場合はポジションが下がるリスクがある。早めに動く方が選択肢が広い。
上流工程への参画実績・ステークホルダーとのコミュニケーション事例・プロジェクト全体での役割の3点を強調する。「何の言語を何年使った」という技術スキルは前提だが、SIerが評価するのは技術スキルだけでなく、プロジェクト管理・調整・設計への貢献だ。
「SIerへの転職支援実績を具体的に教えてもらえますか」と聞いてみる。実績が具体的に出てくるエージェントは信頼性が高い。また「年収が下がるケースはありますか」という質問への答えも確認する。「全員年収アップです」と断言するエージェントは現実を歪めている可能性がある。
上流工程の経験をSTAR形式(状況・課題・行動・結果)で話せるように準備することだ。技術的な質問への準備も必要だが、SIerの面接で最も差がつくのは「設計・要件定義でどう貢献したか」のエピソードの有無だ。
3点ある。1点目はオファーの年収が現在の手取りと比べてどうかを数字で確認すること。2点目は入社後に配属される部門・担当フェーズを事前に確認すること(入社後に「実装専任だった」という後悔が多い)。3点目は組織の意思決定スピード・承認プロセスを確認すること。SES時代と比べて「動きが遅すぎる」と感じるケースが一定数ある。
判断軸は「安定性」「上流工程への参画」「収入の成長スピード」の3つだ。安定性・上流経験を重視するならSIer。収入の成長スピード・案件選択の自由度を重視するならSES(フリーランスを含む)。SESとSIerの違いの記事に判断チャートを用意している。
戻れる。SIer経験を持つエンジニアはSES市場でも評価が高く、上流工程経験があると単価が上がることが多い。「SIer→SES」という逆方向の転職は珍しくなく、単価面では有利になるケースが多い。
SES→SIer転職の現実は、以下の3つに集約される。
1. 転職できる条件は明確: 上流工程の経験・コミュニケーションエピソード・SIerでの具体的な目標、この3点が揃っているかどうかが、書類通過率と内定率に直結する。
2. 単価は必ずしも上がらない: 野沢支援実績(n=32件)では約34%が単価低下。「SIer=年収アップ」という前提で動くと、オファー段階で後悔する。現在のSES案件単価と希望SIerの年収水準を事前に数字で比較することが必須だ。
3. 準備に4〜6ヶ月かける: 感情的に「今すぐ出たい」という状態で始めると、タイミングのズレと準備不足で条件が下がる。案件終了の2〜3ヶ月前から準備を始め、合計4〜6ヶ月のスパンで進めることが成功率を上げる。
SIer転職を検討する前に、まず自分の現在の市場単価を確認してほしい。単価が市場水準以上であれば、SIer転職ではなく現在のSES環境で上流工程への参画を試みる方が、短期間でキャリアが動く可能性がある。あなたの市場単価を診断する →
転職先の候補となるSIerの案件感を知りたい場合は、Heydayの案件例を参照してほしい。上流工程案件の単価レンジ・業界・技術スタックが確認できる。
キャリアの方向性を相談したい場合はキャリア相談から。SES→SIer転職の経験豊富な野沢が対応する。
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