SESで評価されないと感じているとき、多くのエンジニアは「自分の努力が足りない」と考える。しかし実際は、評価基準が存在しないか、存在しても開示されていないことが原因であるケースが圧倒的に多い。
私はHeyday株式会社の代表として、6年以上SES事業を経営してきた。これまでに100名以上のエンジニアの評価・昇給交渉に直接関与してきた経験から、はっきり言える。「評価されない」と感じているエンジニアの大半は、評価基準を知らないのではなく、会社が評価基準を持っていない(または教えない)状態に置かれている。
この記事では、他のSES企業経営者が公開しないような内容——Heydayが実際に使っている評価基準・評価サイクル・昇給連動の仕組みを全て開示する。それを参考に、あなたが今いる会社の評価を正しく判断できるようにする。
SES評価が不透明になる構造的な理由
SES特有の三者関係(自社・客先企業・エンジニア)が、評価を複雑にしている。
通常の会社では、上司が部下の仕事を直接見て評価する。しかしSESでは:
- 日常の仕事を見ている人(客先の担当者) に評価権限はない
- 評価権限を持つ人(自社の上司・人事) は日常の仕事を見ていない
- 単価を決める商流の状況 はエンジニア自身が把握できない
この構造では、誰が何を根拠に評価するかが曖昧になる。その曖昧さを「評価基準を作って開示する」ことで解決している会社と、「なんとなく運用している」会社に分かれる。
前者に所属しているエンジニアは「何をすれば評価が上がるか」が明確だ。後者に所属しているエンジニアは、どれだけ頑張っても評価が上がらないまま年月が過ぎる。
SESとは何か・仕組みの基本でも解説しているが、SESは準委任契約による労働提供モデルのため、成果ではなく稼働時間と属性(スキルセット)で単価が決まる。これが評価の複雑さをさらに増している。
Heydayが実際に使っている評価基準を開示する
多くのSES企業が「評価基準は複雑だから説明できない」「ケースバイケース」と言う。Heydayでは、入社後に評価シートを全員に渡している。以下が実際の評価軸だ。
評価軸1: スキル評価(技術力・市場単価への影響度)
技術スキルの評価は「市場単価への影響度」で測る。頑張りや姿勢ではなく、そのスキルが単価に影響するかどうかが基準になる。
| スキルカテゴリ | 単価影響度 | 評価ポイント |
|---|---|---|
| 上流工程(要件定義・基本設計) | 高(+5〜15万円/月) | 案件内での担当範囲の拡大 |
| クラウド(AWS/Azure/GCP)設計 | 高(+3〜10万円/月) | 設計・構築・運用のどこまで担当できるか |
| 主要言語(Java/Python/TypeScript等)実装 | 中(+2〜5万円/月) | フレームワーク習熟度・設計判断の有無 |
| テスト・運用保守のみ | 低(単価維持〜微増) | 担当範囲の拡大意欲・改善提案の有無 |
スキルの成長は「担当できる範囲が広がったか」で見る。「XX言語を3年やっています」という年数ではなく、「要件定義から実装まで一人で担当できますか」という問いに答えられるかが評価の基準だ。
評価軸2: 態度・コミュニケーション評価
態度の評価は、客先継続率と自社への報告品質で判断する。抽象的な「やる気」や「姿勢」ではない。
評価が高い行動の具体例:
- 月1回の自社への業務報告を期日通りに提出し、担当範囲・改善提案・次月の目標を明記している
- 客先からの正式なフィードバック(書面・メール)を積極的に収集して自社に共有している
- 案件内でのトラブル発生時、客先と自社の双方に即時に連絡・対応できている
評価が下がる行動の具体例:
- 月次報告を提出しない・遅延が続く
- 客先からのフィードバック(良い・悪い両方)を一切自社に伝えない
- 問題が起きても「なんとかなっている」と自己完結し、報告しない
自社への情報共有が評価の根拠になる。 客先での頑張りがどれだけ高くても、自社に伝わらなければ評価されない。これは構造上どうにもならない制約だ。
評価軸3: 商流改善への貢献
Heydayでは、エンジニア自身が商流改善(現場の格上げ・エンド直案件への移行)に積極的かどうかを評価する。
具体的に評価される行動:
- 現在の案件での実績をもとに「より上流の案件に挑戦したい」と明確に意思表示する
- 客先との関係を活かして、直接契約や上流工程参加の可能性を打診する
- 副業・社外活動でスキルを補完し、次の商流交渉の材料を作る
商流が下がる(多重下請けが深まる)と、どれだけ頑張っても昇給原資が消える。 単価が上がってもマージンを多く取られ、手元に残る原資が減る。Heydayでは商流の改善を「エンジニア個人のキャリア課題」だけでなく「会社が一緒に動くべき課題」として扱っている。
商流の詳細はSESマージン構造の解説記事で整理している。
評価軸4: 成長速度評価
同じスキルレベルでも、「成長している人」と「止まっている人」では評価が変わる。Heydayでは半期ごとの面談で、過去6ヶ月の変化を確認する。
成長速度として評価される具体的な変化:
- 担当できる技術領域が1つ以上増えた(「設計まで担当できるようになった」「AWSを独学で取得した」等)
- 案件内での役割が広がった(「テスト担当→実装担当」「実装→設計レビュー参加」)
- 資格取得・社外の技術発信(登壇・記事公開)など、スキルを可視化できる実績を作った
「現場で頑張っているのに評価されない」という相談で最も多いパターンは、頑張りが「担当範囲の拡大」や「スキルの幅の変化」として現れていないケースだ。同じ仕事を丁寧にこなすことは「維持」であり、「成長」とは別物だ。
Heydayの評価サイクルと昇給連動の仕組み
評価軸だけでなく、いつ・どのように昇給が決まるかを開示する。
評価タイミング: 四半期レビュー + 半期昇給判断
| タイミング | 内容 |
|---|---|
| 3ヶ月ごと | 1on1面談。スキル・態度・成長速度の確認。商流改善の進捗確認。 |
| 6ヶ月ごと | 昇給判断。単価交渉の実施有無・結果の確認。 |
| 単価交渉成立時 | 成立翌月から給与連動(単価上昇分の一定割合を即時反映) |
「年1回の評価で昇給を判断する」という運用では、頑張りと報酬の連動が薄くなる。Heydayでは四半期ごとに状況を把握し、単価が上がればそれに連動して即座に給与を動かす仕組みにしている。
単価上昇と給与連動のルール
Heydayでは、単価交渉で単価が上がった場合、その上昇分を給与に還元するルールを明示している。具体的には:
- 単価が月5万円上昇した場合 → 給与増加分として数万円を翌月から反映(還元率は案件・商流・個人状況により変動)
- 単価交渉は半年ごとにHeydayの営業が客先へアプローチする(エンジニア個人が直接交渉する必要はない)
- 単価が上がらなかった場合でも、評価軸のスコアが上がっていれば次回交渉時の根拠として蓄積する
「単価が上がれば給与に連動する」という明確なルールがない会社では、単価交渉に成功してもその利益が会社に留まるケースがある。 入社前・転職検討前に、この仕組みを必ず確認することを勧める。
「評価されていない」と気づく4つのサイン
評価基準を知らないままでは、評価されているかどうかの判断もできない。以下の4つが重なっている場合、評価の仕組みが機能していない可能性が高い。
サイン1: 1年以上給与が変わっていない
1年以上給与変化がゼロの場合、以下のどちらかだ。
- 単価交渉を会社が実施していない(していても結果が給与に反映されない)
- 評価サイクルが機能しておらず、昇給判断が行われていない
SES業界では年功序列の昇給がほぼ機能しない。給与が上がるのは「単価が上がった」か「会社が評価して上げた」かのどちらかだ。1年以上変化がない場合、どちらも起きていないことを意味する。
サイン2: 案件が変わらない・変えてもらえない
「現場を変えたい」と伝えたが何ヶ月も動かない。または、案件変更の相談をする場があるかどうかすら不明。
健全な評価の仕組みを持つSES企業は、定期的に「現在の案件でのキャリアへの影響」を確認し、本人の意向を踏まえて動く。動かない会社は、エンジニアを「現状維持」のリソースとして扱っている可能性が高い。
SES企業選びの判断基準では、入社前に確認すべき7つの数字基準を整理している。
サイン3: 半年以上面談・1on1がない
自社の上司や担当者から半年以上、業務確認の面談がない。または面談はあるが「元気ですか」「困っていませんか」で終わる。
評価の仕組みが機能している会社では、四半期ごとに必ず業務内容・スキルの変化・キャリア意向を確認する場がある。形式的な「確認の場」ではなく、「スキルシートの更新をしたい」「次の案件の方向性を話したい」という具体的な内容で行われる。
サイン4: 現場からのフィードバックが自社に伝わっていない
客先でどれだけ高評価を受けても、その情報が自社の担当者に届いていなければ評価には反映されない。
確認の方法は1つ:自社の担当者に「先月の客先からのフィードバックはどのような内容でしたか」と直接聞くことだ。答えられない場合、フィードバックの収集ルートが機能していない。
