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SESで評価されない・
昇給しない本当の理由

小川将司
小川将司代表取締役

SES企業経営者・小川将司がSES業界の評価構造を経営者目線で解説

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この記事でわかること

  • SESで評価されないのは『構造の問題』。個人の努力とは関係ない
  • 客先常駐・準委任契約・多重下請けの3つが評価を阻む構造的要因
  • 昇給しない会社に残り続けるのは機会損失。選択肢は3つ(交渉・転職・フリーランス)
  • 単価が上がっても給与に反映されない会社の見分け方

この記事の対象: SESで働いていて「頑張っても評価されない」「給料が上がらない」と感じているエンジニア

SESで評価されない・昇給しないのは、多くの場合あなたの努力が足りないのではなく、構造の問題だ。

SES経営者として断言できる。SES業界には、エンジニアの評価を阻む構造的な仕組みが複数存在する。その構造を知らずに「もっと頑張れば評価される」と思い続けるのは、時間の無駄になる可能性が高い。

私はHeyday株式会社の代表として、SES事業を6年以上経営してきた。毎年数十名以上のエンジニアの評価・昇給を決定する立場にいる。「なぜSESは評価されにくいのか」という構造を、経営者として内側から正直に書く。この記事を読めば、評価されない理由が「自分のせい」なのか「会社の構造のせい」なのかを判断でき、次に何をすべきかが明確になる。


SESで評価されない5つの構造的理由

理由1: 客先常駐で自社上司が業務を直接見られない

SESエンジニアにとって最大の問題は、評価権限を持つ「自社の上司」が日常業務を一切見ていない点だ。

毎日8時間、エンジニアは客先で働く。設計を担当し、障害対応を素早くこなし、後輩メンバーをフォローする。しかしその姿を見ているのは客先のメンバーであり、評価を決める自社の上司ではない。

実態として何が起きているか。多くのSES企業では、月1回の客先との定期報告会(もしくはメール報告)で情報を収集する。ここで集まる情報は「エンジニアの技術力」より「客先との関係が継続できているか」が中心だ。「スキルが高い」より「現場のトラブルを起こさない」「契約更新に支障がない」という情報が評価を決める。

経営者として正直に言う: 客先常駐モデルは構造上、エンジニアの成長や貢献を評価する仕組みが弱い。これはSES企業が意図的に評価をサボっているのではなく、情報収集ルートとして「客先から見た印象」しか手に入らないという物理的な制約による。

対策として定期1on1・月次目標設定・スキルシート更新などを実施している企業もあるが、大多数の中小SES企業では形式的に終わっているのが現状だ。


理由2: 準委任契約は成果ではなく工数を売っている

SESの契約形態は「準委任契約」だ。これは法律上、「受任者が一定の事務を行うことを約する契約」であり、成果物の完成を保証しない。

わかりやすく言えば、「月に○時間稼働する」という時間を売る契約だ。

この契約形態が評価に直接影響する。どれだけ優れた成果を出しても、契約上の評価軸は「規定時間内に稼働したかどうか」になる。バグを完全に潰して品質を10倍改善しても、それは「成果物の達成」ではなく「稼働時間内の活動」として扱われる。

単価(=会社の売上)が上がる条件も、「成果が高い人」ではなく「希少スキル・上流工程を担える人」に集中する。AWSの設計ができる、要件定義を主導できる、マネジメント経験がある——こうした「市場で希少な属性」が単価を引き上げるのであって、「現在の現場で頑張っている人」が単価を引き上げるわけではない。

つまり、現場でどれだけ頑張っても、スキルプロファイルが変わらなければ単価交渉の材料にならない。


理由3: 多重下請け構造でマージンが抜かれるほど昇給原資が減る

エンジニアが昇給するためには、会社に昇給させる原資(利益)が必要だ。そして多重下請け構造は、その原資を薄くする仕組みになっている。

商流ごとの手元利益を整理する。

商流エンドクライアント単価エンジニア手元残る利益(会社)
直接契約(エンド直)月100万円月70〜75万円25〜30万円
1次請け経由月100万円月60〜65万円15〜20万円
2次請け経由月100万円月50〜55万円5〜10万円
3次請け以下月100万円月40〜45万円以下ほぼゼロ〜赤字

※数値はHeydayが把握している業界内の一般的な範囲。企業・案件によって異なる。

2次・3次請けにいるSES企業は、利益そのものが薄い。昇給の原資がなければ、会社がどれだけ「頑張れば昇給させる」と言っても、物理的に給与を上げることができない。

経営者として正直に言う: 自社が何次請けかを把握せずに「頑張れば昇給できる」と信じている場合、改善の余地がない構造にいる可能性がある。商流の確認は、昇給交渉の前に最低限やるべき確認事項だ。


理由4: 評価制度が整備されていない企業が多い

「何をすれば昇給するか」が明確に決まっていない企業が、SES業界には少なくない。

「頑張れば評価する」「しっかりやってくれれば上げる」という曖昧な方針の下、評価の基準が不透明なままになっている。

具体的に何が問題か:

  1. 評価シートや評価基準が存在しない(上司の主観で決まる)
  2. 評価基準はあるが、客先常駐環境では達成確認が困難
  3. 評価サイクルが年1回で、タイムラグが大きすぎる
  4. 「単価が上がれば給与を検討する」という運用だが、単価交渉を誰も主導しない

Heydayでは「単価が上がれば給与に連動する仕組み」を明示して運用している。具体的には、単価改定交渉を半年ごとに行い、単価上昇分の一定割合を給与に還元するルールを設けている。全てのSES企業がこうした仕組みを持っているわけではない。

評価制度の有無は、入社前の面談で確認できる。後述する「会社を見分ける5つの質問」を参照してほしい。


理由5: 下流工程固定でスキル評価が市場価値に繋がらない

運用保守・テスト・単純な実装に固定されたまま数年が経過した場合、市場単価が上がらず、昇給交渉の根拠も作れなくなる。

これは悪循環だ。

下流工程のみ担当
→ スキルの幅が広がらない
→ 市場単価が上がらない
→ 昇給交渉の根拠がない
→ 昇給されない
→ モチベーション低下
→ 現場変更の意欲も下がる(現状維持に慣れる)
→ さらに下流工程が続く

「現場を変えたいが、会社が変えてくれない」という相談がHeydayには定期的に来る。SES企業側の論理は単純だ。案件を変えることにはコスト(営業工数・人間関係の調整)がかかる。問題なく稼働しているエンジニアを動かすインセンティブが、会社には少ない。

エンジニア本人が強く主張しない限り、現場は変わらない。そして強く主張できるのは、「自分のキャリアに危機感を持っている人」だけだ。


「評価される会社」と「評価されない会社」の違いを見分ける5つの質問

面接・面談時に以下の質問を直接ぶつけることで、会社の評価姿勢を判断できる。曖昧な回答が返ってきた場合、それ自体が答えだ。

質問1: 単価が上がった場合、給与への反映はどのような仕組みですか?

理想的な回答: 「単価上昇分の○%を給与に還元するルールがあります」「半年ごとに単価交渉を行い、上昇時は翌月から給与反映します」など、具体的なルールが即答できる。

要注意な回答: 「頑張れば考えます」「ケースバイケースです」「会社全体の業績次第で」など、基準が不明確。

質問2: 評価制度はどのような基準で昇給を決めますか?

理想的な回答: 評価シート・評価サイクル・評価者・昇給ラインの基準が明確に説明できる。

要注意な回答: 「上長の評価をもとに」「半期ごとに話し合いで」など、主観評価が中心の説明。

質問3: 案件選択に本人の意向はどの程度反映されますか?

理想的な回答: 「技術スタック・業務内容・勤務地の希望を毎回確認している」「強制アサインはしない」など。

要注意な回答: 「状況に応じて」「まずはアサインできる案件を優先して」など、本人の意向が後回しになる表現。

質問4: 1年で単価が上がったエンジニアの具体例を教えてもらえますか?

理想的な回答: 「○○スキルを取得した△△さんは月単価が○万円上がりました」という具体例が出てくる。

要注意な回答: 「そういう人もいます」「頑張っている人は上がっています」など、具体性がゼロ。

質問5: マージン率は開示していますか?(または教えてもらえますか?)

これを聞ける会社かどうか自体が判断基準になる。マージン率を開示している会社は、情報の透明性に自信がある証拠だ。Heydayではマージン率を開示しており、業界水準より低い水準で運営している。



評価されない状況を変える3つの選択肢

現状を変えるための選択肢は3つだ。それぞれ「誰に向いているか」「成功する条件」「最初にやるべき行動」を整理する。

選択肢1: 今の会社で交渉する

向いている人: 現場の仕事内容・人間関係には満足しており、給与の水準だけが問題。会社にある程度の評価制度が存在する。

成功する条件:

  • 自分の市場単価を数字で把握している(感覚ではなく、エージェントへの問い合わせ・単価診断で実数を持つ)
  • 直近6〜12ヶ月で単価交渉のきっかけ(案件更新・資格取得・スキルアップ)がある
  • 交渉のタイミングが適切(案件更新の1〜2ヶ月前が最も交渉力が高い)

行動ステップ:

  1. 市場単価を把握する(診断ツールまたはエージェント複数社への問い合わせ)
  2. 「現在の単価 vs 市場単価」の差分を数字で作る
  3. 案件更新タイミングの1〜2ヶ月前に上司に面談を申し込む
  4. 「市場水準と乖離があるため確認したい」という事実ベースで交渉する

交渉の具体的な進め方はSES単価交渉術|契約更新タイミングで月10万上げる準備と交渉スクリプトSESエンジニアの年収交渉完全ガイドで詳しく解説している。


選択肢2: より良い条件のSES企業・自社開発へ転職する

向いている人: 現在の会社の構造に問題があり(多重下請け・評価制度なし・昇給原資不足)、改善の余地がない。転職先の条件をしっかり確認して動ける。

成功する条件:

  • 転職先でも同じ構造に入らないよう、前述の「5つの質問」で確認できる
  • 自分のスキルセットと希望単価が一致する案件が存在するか、事前に確認している
  • 転職先タイプ(SES/SIer/自社開発)ごとのメリット・デメリットを理解している

転職先タイプ別の判断基準:

転職先タイプ単価・年収向上必要なスキル・経験向いている人
条件の良いSES企業中(会社次第)現在と同等環境だけ変えたい人
SIer(1次請け)中〜高要件定義・上流経験上流工程に挑戦したい人
自社開発企業高(長期)ポートフォリオ・実務スキル製品開発・キャリア積み上げ重視

転職のタイミングと準備についてはSES転職のタイミング完全ガイド、企業選びの判断基準はSES企業の選び方完全ガイドで詳しく整理している。


選択肢3: フリーランスに転向する

向いている人: 実務5年以上・特定領域で高単価が出せるスキルがある・案件を自分で獲得できるルートを持っている(または作れる)。

成功する条件:

  • エンド直または1次請け案件に入れるルートがある(エージェント複数・業界人脈)
  • 稼働率が落ちた月の収入減を数ヶ月カバーできる蓄えがある
  • 税務・社会保険の手続きを自分で管理できる(または税理士に依頼できる)

フリーランスは正しい条件が揃えば、SES正社員より大幅に収入が上がるケースがある。しかし「とりあえずフリーになれば単価が上がる」という認識は誤りだ。3次請けのフリーランスは、3次請けの正社員と同じかそれ以下の処遇になることも珍しくない。

行動ステップ:

  1. エージェント複数社に問い合わせ、現在のスキルで出せる単価の見積もりを取る
  2. 副業案件(週1〜2稼働)を試して、案件獲得の感覚を掴む
  3. 月収の目標を設定し、6ヶ月以上の生活費を確保してから本格移行する

フリーランス転向の判断基準と具体的な手順はSESからフリーランス独立の判断基準で詳しく解説している。


「今の評価・単価が適正かどうか」を数字で確認する方法

評価されているか・いないかを感覚で判断していても、行動の根拠にならない。まず自分の市場単価を数字で把握することが最初のステップだ。

同じスキルセットでも、商流・所属会社によって月10〜30万円の差が生まれることは珍しくない。「自分は適正な評価を受けているか」を判断するには、まず「自分が本来受け取れるはずの単価」を知る必要がある。

Heydayの無料単価診断ツールでは、言語・経験年数・クラウドスキル・上流工程経験の入力から、市場単価の目安を確認できる。診断結果を交渉の材料として使っているエンジニアも多い。


よくある質問(FAQ)

Q1. SESで5年働いているのに給料が全く上がりません。これは普通ですか?

A. 残念ながら、珍しくはない。5年間給料が上がらない最も多い原因は「評価制度が機能していない」「商流が深く昇給原資がない」の2つだ。まず自分の市場単価を調べてほしい。5年のキャリアがあれば、現在の給与より20〜40万円高い単価が出ることも多い。現状の給与との乖離が大きければ、転職または交渉を検討すべき段階にある。

Q2. 「頑張れば昇給する」と言われたのに1年経っても上がりません。どうすれば?

A. まず確認すべきことがある。「何をすれば昇給になるか」を数字と基準で説明できる人が、社内にいるかどうかだ。「頑張る」という定性的な基準で昇給が決まる会社は、評価制度が実質的に機能していない。上司に「具体的に何を達成すれば昇給になりますか」と書面で確認を求めることを勧める。明確な回答が得られない場合、評価制度そのものが存在しない可能性が高い。

Q3. 客先での評価は高いのに、自社の評価が低いです。なぜですか?

A. これは理由1で説明した「客先常駐による情報の非対称性」が典型的に起きているケースだ。客先でどれだけ高評価を得ても、自社の上司がそれを把握していなければ評価に反映されない。具体的な対策は、客先からのポジティブなフィードバック(メール・口頭での賞賛)を記録し、自社上司への報告時に証拠として提示することだ。また、客先の担当者から自社に対して直接フィードバックしてもらえるよう、関係性を作っておくことも有効だ。

Q4. 転職しても同じ状況になりそうで不安です。どうすれば転職先を選べばいいですか?

A. この不安は正しい。転職先でも同じ構造に入れば、結果は変わらない。転職先を選ぶ際は本記事の「5つの質問」を面接で必ず確認してほしい。特に重要なのは「単価上昇の給与還元ルールが明確か」と「マージン率を開示しているか」の2点だ。回答が曖昧な会社への転職は、現在の会社と同じか悪化するリスクがある。

Q5. 昇給交渉でうまくいく言い方はありますか?

A. 感情的な要求より、データに基づく事実確認の形にすることが有効だ。「給料を上げてほしい」ではなく「市場の単価水準を調べたところ、現在の私のスキルセットで○○万円の提示が複数来ています。会社としてはどのようにお考えですか」という形が交渉を進めやすくする。感情ではなくデータで話すことで、会社側も「ケースバイケース」という逃げ方がしにくくなる。具体的な交渉スクリプトはSES単価交渉術を参照してほしい。


まとめ

SESで評価されない・昇給しない理由を5つ整理した。

  1. 客先常駐で自社上司が業務を直接見られない
  2. 準委任契約は成果ではなく工数を売っている
  3. 多重下請け構造でマージンが抜かれるほど昇給原資が減る
  4. 評価制度が整備されていない企業が多い
  5. 下流工程固定でスキル評価が市場価値に繋がらない

重要なのは、これらはあなたのせいではなく会社の構造の問題だという点だ。しかし同時に、構造の問題だと理解しながら何もしないことも、機会損失だ。

次のステップは1つだけでいい。まず自分の市場単価を数字で把握する。それが、交渉・転職・フリーランス転向のどの選択肢を取るにしても、最初の根拠になる。


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この記事の著者

小川将司
小川将司

Heyday株式会社 代表取締役

SES企業経営者・小川将司がSES業界の評価構造を経営者目線で解説

Heyday株式会社 代表取締役。エンジニア・PM/PdMを経験後、SES事業を創業。複数クライアント現場でAI導入コンサルティングを担当。「ITをもっとフェアに」を掲げ、マージン構造の開示に取り組む。

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