「SES面談を受けるなら、ポートフォリオを作ったほうがいいですか」
Heydayに相談に来るエンジニアからよく受ける質問だ。Web系自社開発の転職ではポートフォリオが必須だと聞いた、未経験からの転職者は皆作っていると聞いた、だからSESでも作るべきなのか——というロジックでみんな悩んでいる。
私はHeyday株式会社の代表として、6年間SES事業を運営してきた。エンジニア採用・面談サポート・案件マッチングに関わった件数は数百件にのぼる。クライアント企業(現場)と一緒に面談官として候補者を見たことも、自社で採用面接を行ったことも、両方経験している。
その上で正直に書くと、**SES面談でポートフォリオは「あったほうが良いが、必須ではない」**という位置づけだ。Web系自社開発の転職とSES案件参画は、評価される軸が違う。同じ「ポートフォリオ」という言葉でも、効く場面と効かない場面がはっきり分かれている。
この記事では、Heyday経営者として実際の面談現場で見てきたデータをもとに、ポートフォリオが面談合格率に与える影響と、ない場合に代替すべきものを正直に書く。
結論:SES面談でポートフォリオが「効く時」と「効かない時」
最初に結論を出しておく。経営者として数百件の面談を見た上での評価軸はこうだ。
| 状況 | ポートフォリオの効果 |
|---|
| 未経験〜実務1年未満で初の案件参画を狙う | 高い(実務経験の不足を埋める) |
| 業務経験はあるが現場が秘匿性高くスキルシートに書きにくい | 中(自分の手で何が作れるかの証明になる) |
| 業務経験3年以上・スキルシートで十分に語れる | 低(むしろスキルシートと面談での会話が見られる) |
| 業務と全く関係ない領域のポートフォリオ | ほぼゼロ(むしろ「業務と違う方向に時間を使った人」と見られることもある) |
未経験〜浅い経験のフェーズでは効くが、実務経験が積み上がってくると相対的に重要度が下がる。これが現場感覚だ。
そして「業務と関係ない領域のポートフォリオ」は、SES面談ではむしろ加点にならないことがある。Web系自社開発の転職基準で作ったポートフォリオを、業務系SES案件の面談に持ち込むと評価軸がズレる。
なぜSES面談ではポートフォリオの重要度が下がるのか
Web系自社開発企業の中途採用では、ポートフォリオでコードの書き方・設計の判断・技術選定の理由が見られる。なぜなら、候補者が前職で書いたコードを見せられないことが多く、人物の技術力を測る一次情報がポートフォリオしかないからだ。
SES面談はこの構造が違う。
SES面談で面談官が見ている3つの情報源
クライアント企業のPMやリーダーが面談で重視するのは、以下の3つだ。
- スキルシート(職務経歴書)の業務経歴
- 面談での会話(業務をどう説明できるか)
- 営業担当が事前に伝えた候補者情報
ポートフォリオはこの3つの「補助資料」という位置づけになる。スキルシートで業務経歴がしっかり語られている時点で、面談官の判断材料の7〜8割は揃っている。
ここがWeb系自社開発の転職と決定的に違うところだ。
詳しいスキルシートの書き方はSESスキルシートの書き方で解説しているが、SES面談ではスキルシートの記述精度が面談通過率を左右する。ポートフォリオはあくまで補助だ。
SES案件は「現場で何ができるか」が評価軸
SES案件の発注側は、自社のチームに入って即戦力で動けるかを見ている。ポートフォリオが評価される自社開発企業の中途採用と違って、面談官が知りたいのは以下のような情報だ。
- 同じ規模のチームで業務をした経験があるか
- 自社で使っている技術スタック(言語・フレームワーク・クラウド)の経験があるか
- 担当工程(要件定義・基本設計・実装・テスト)が現場の期待値と合うか
- 業務理解の速度感と質問の仕方が現場のカルチャーに合うか
これらは個人開発のポートフォリオでは証明しづらい。「Reactでブログサービスを作りました」よりも「金融系基幹システムの保守でReactフロントを担当しました」のほうが、SES面談では強い武器になる。
Heydayデータで見るポートフォリオの実態
Heydayの面談サポート経験からの傾向データを共有する。
Heydayデータ(2025年通期〜2026年Q1の面談サポート経験から)
面談前後で候補者・面談官に確認した会話・所感を集計した傾向値。
- 面談で候補者がポートフォリオを「持参・提示」した割合: 約2割
- そのうち面談官がポートフォリオに「具体的に質問・反応した」割合: 約3割
- 面談合格者のうち「ポートフォリオが決め手」と面談官がコメントした割合: 1割未満
- 面談合格者の決め手として最も多かったコメント: 「業務経歴の説明が具体的」「現場理解と質問の質」
※集計対象はHeydayが面談調整に関わった案件のうち面談後に営業がフィードバックを取得できたもの
この数字を見ると、ポートフォリオを持っている候補者のうち、それが面談合否に直結したケースはかなり少ないことがわかる。
ただし、これは「ポートフォリオが意味がない」という話ではない。**「業務経歴が薄い候補者ほどポートフォリオの効果が高い」**という傾向もはっきり出ている。経験1年未満で面談に臨むエンジニアの場合、ポートフォリオが面談官の安心材料になり、合格率が押し上げられているケースもある。
代表・小川将司のコメント
「未経験から実務1年で初めての案件参画を狙う候補者の場合、ポートフォリオは『現場で動ける証拠の代わり』として機能している。一方、業務経歴3年以上の候補者がGitHubに個人開発のリポジトリを並べても、面談官は『業務でどう動いたか』のほうに興味がある。ポートフォリオを作る時間があるなら、過去案件のスキルシート記述を磨いたほうが面談通過率は上がる、というのが現場の実感だ。」
— Heyday株式会社 代表取締役 小川将司(SES事業6年)
ポートフォリオがない場合に準備すべき3つのもの
「ポートフォリオがないと不安」という相談を受けることが多いが、SES面談では以下の3つを準備しておけば、ポートフォリオの代替として十分機能する。
1. 具体的な業務エピソードを「課題→行動→成果」で3本
スキルシートに書ききれない業務エピソードを、面談で30〜60秒で話せる形で3本準備しておく。
- 課題(プロジェクトで起きていた問題は何か)
- 行動(自分が何を考えて何をしたか)
- 成果(どう変わったか・数値があれば数値)
このフォーマットで話せると、面談官は「業務の中で考えて動ける人」と判断する。ポートフォリオよりも遥かに効果が高い。
2. 技術選定・設計判断の根拠を言語化しておく
「なぜこの技術を選んだか」「他の選択肢と何を比較したか」を言語化できると、業務経験の深さが伝わる。
たとえば「ReactでフロントエンドをVueから移行した」という経験があれば、なぜVueをやめたのか・移行コストをどう評価したかを話せると、判断軸を持っているエンジニアとして見られる。
これはコードを書ける証明よりも、現場で意思決定に関われる人材かどうかを示す情報になる。
3. 業務に近い領域での簡単な技術ブログ・GitHubリポジトリ1本
どうしても「コードが書ける証拠」を残したい場合は、業務に近い領域で1本だけ作っておけばいい。
- 業務でJavaを書いているならSpring Bootで簡単なAPIを1本
- 業務でAWSを使っているならTerraformでインフラ構築のサンプルを1本
- 業務でフロント開発しているならNext.jsで小さいデモを1本
ポイントは「業務領域の近接性」だ。業務系SESを狙うのにフロント特化のポートフォリオを並べても、面談官には響かない。むしろ「業務外の技術に時間を使った人」と見られて評価が下がるケースもある。
SES面談で本当に見られている3つのポイント
経営者として面談官席に座ったときに、私が候補者を判断する軸はこうだ。これは多くのSES企業の面談官に共通する観点でもある。
ポイント1:業務理解の深さ
「過去に担当した案件は何のために存在していたのか」「ビジネス上どんな課題を解決していたのか」を話せるかどうか。
技術スタックを並べるだけのエンジニアと、業務を理解した上で技術を選んでいたエンジニアは、面談での会話の深さが全く違う。後者はSES案件でも「言われたことだけやる人」ではなく「現場の意図を汲める人」として高く評価される。
ポイント2:質問の質
候補者からの逆質問で、面談官は「この人がどこまで案件のことを考えているか」を見ている。
「残業はどれくらいですか」だけだと、現場のことを表面的にしか見ていないと判断される。一方、「現在チームで使っている技術スタックでつまずきポイントになっているのはどこですか」と聞ける候補者は、入った後の動き方をイメージしている人として強く評価される。
詳しい逆質問の作り方はSES面談で使える逆質問30選で解説している。
ポイント3:コミュニケーションのテンポ
SES案件は「自社のチームに入って動く」前提なので、コミュニケーションコストの低さが重視される。質問の意図を素早く汲み取り、過不足なく答えられるテンポは、ポートフォリオでは絶対に伝わらない。
面談官は最初の5分の自己紹介と質疑応答で、このテンポをほぼ判断している。ここが弱いと、ポートフォリオが優れていても合格は出にくい。
ポートフォリオを作るなら知っておきたい4つのコツ
それでもポートフォリオを作りたい、あるいは作ったほうがいい状況にあるなら、以下を意識してほしい。
コツ1:業務領域の近接性を最優先する
業務系SESを狙うなら業務系っぽいもの、Web系SESを狙うならWeb系のものを作る。ジャンルがズレたポートフォリオは加点になりにくい。
コツ2:1本に絞って完成度を上げる
GitHubに小さなリポジトリを10個並べても、面談官はほとんど見ない。1本だけ作って、READMEに「何を作ったか・どんな技術を使ったか・なぜその技術を選んだか・どんな改善をしたか」を書いておくほうが評価が高い。
コツ3:30秒で説明できる状態にしておく
面談で「ポートフォリオを少し見せてもらえますか」と言われたとき、何を作ったか・どんな技術選定をしたか・どこに工夫があるかを30秒で説明できるか確認しておく。説明に5分かかるポートフォリオは、面談時間を圧迫してマイナス評価になる。
コツ4:チーム開発っぽさを見せる
可能なら個人開発であってもチーム開発を意識したコミット履歴・PR運用・READMEを作っておく。SES案件はチームでの仕事になるため、「個人で全部やった」よりも「複数人で開発する前提のドキュメント」のほうが安心される。
よくある質問
Q1. 未経験からSESに入る場合、ポートフォリオは必須ですか
必須ではないが、あったほうが面談通過率は上がりやすい。スクール卒・独学からの転職組はポートフォリオで「業務未経験ながらコードが書ける」ことを示す材料が必要になることが多い。ただし、ジャンルは業務に近いものを選ぶことを優先してほしい。
Q2. 実務経験5年あるエンジニアもポートフォリオを作るべきですか
ほとんど不要だ。それより過去案件のスキルシート記述を具体化することのほうが面談通過率に直結する。ポートフォリオを作る時間があるなら、5年分の業務エピソードを「課題→行動→成果」で書き出して整理するほうが効果が高い。
Q3. 業務がNDAで詳しく書けない場合、ポートフォリオで補えますか
補えるが、限界はある。NDAで業務内容を細かく書けない場合は、抽象化してスキルシートに書きつつ、面談で口頭で補足するのが現実解だ。それでも足りない部分をポートフォリオで補う形になる。ただし、面談官もNDAの存在は理解しているので、技術スタックと工程レベルでスキルシートを書ければ、ポートフォリオなしでも通過するケースは多い。
Q4. AI生成ツールで作ったポートフォリオは評価されますか
評価されにくい。ChatGPTやCursorで生成したコードをそのまま並べても、面談官は「生成AIを使えること」より「自分で技術判断できること」を見ている。AIで作ったベースに自分の判断で改修を加えたなら、その判断プロセスを話せるようにしておくこと。
Q5. ポートフォリオに書いてはいけないものはありますか
業務で関わった本物のコード・スクショ・要件定義書を許可なく載せるのは絶対にNG。NDA違反になり、面談官に「秘密保持の意識が低い人」と判断されて即不合格になる。ポートフォリオは個人開発・公開可能な範囲のもので作ること。
まとめ:ポートフォリオより先にやるべきこと
SES面談でのポートフォリオは「あれば加点、なくてもスキルシートと面談で勝てる」というのが経営者としての本音だ。Web系自社開発の転職とは評価軸が違う。
SESで勝負するなら、土日にポートフォリオを作るより、現場で関わったプロジェクトをスキルシートに具体的な数値・役割・技術選定の理由で書き起こすことのほうが面談通過率に直結する。
それでも作るなら、業務に近い領域で1本だけ作り、面談で30秒で説明できる状態にしておけばいい。
Heydayでは、面談前のスキルシート添削・想定質問の擦り合わせ・現場特性に合わせた逆質問の準備までを営業がサポートしている。「ポートフォリオを作るべきか」で悩むよりも、まず自分の市場価値と、現場でどう見られるかを正確に把握することから始めてほしい。
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