SES経営者として、正直に書く。SESは全員に向いている働き方ではない。
転職エージェントの記事を読むと、ほとんどが「SESには向き不向きがあります(でも結論として相談ください)」という結びになっている。これは構造上仕方がない。エージェントは紹介手数料で売上を立てるビジネスなので、来た人を可能な限り「合う」と書かざるを得ない。
ただ、SES側の経営者として採用面談を月に複数件こなしていると、「この人はSESに来ない方が幸せになる」と感じるタイプは確かにいる。同時に「この人にはむしろSESの方が合う」というタイプもいる。この記事では、その判断基準を正直に書く。
転職前に「自分はどっち側か」を見極めるための材料にしてほしい。
なぜ「おすすめしない人」を正直に書けるのか
先に立ち位置を明らかにしておく。Heydayは関東圏中心のSES企業で、自社でエンジニアを採用している。だから本来は「SESは全員に向いている」と書いた方が採用には有利だ。
それでも「向いてない人は来ない方がいい」と書く理由は、ミスマッチで入社した人が3〜6ヶ月で離脱するのが、本人にとっても会社にとっても最大の損失だからだ。
採用面談で「この人は他のキャリアの方が伸びる」と感じたとき、Heydayでは正直にそう伝えている。だからこの記事も、その面談で言っていることをそのまま文章にしている。
SESをおすすめしない人 4タイプ
タイプ1:スキルアップを最優先で、半年単位で技術習得したい人
「Reactを半年で実務レベル」「クラウドアーキテクトを1年で取りたい」という明確な技術成長目標がある人には、SESは構造的に向いていない。
理由はシンプルで、SESの案件は「クライアントが求めるスキルセット」で決まるからだ。あなたが学びたい技術と、クライアントが発注している案件の技術スタックが一致するとは限らない。むしろ、ベテランの案件ほど「枯れた技術」を求められる傾向がある。
採用面談でよく聞く誤解は「SESに入れば色々な現場で色々な技術を経験できる」というものだが、現実には1案件1〜2年の長期常駐が多く、その間は基本的に現場の技術スタックに縛られる。
技術習得を最優先するなら、自社サービスを持つ企業で技術選定に裁量がある立場か、フリーランスで案件を選びながら学習時間を確保する方が早い。
タイプ2:一つの技術領域を深く極めたい人
「Kubernetesのスペシャリストになる」「データベースのパフォーマンスチューニングを極める」など、一点突破型のキャリアを目指す人にもSESは合わない。
SESの案件はクライアントの業務要件で構成されているため、極端な深掘りを許容する案件は少ない。深掘り系の専門職は、自社プロダクトを持つ企業の中で「その技術なしではビジネスが回らない」というポジションに立つことで成立する。
採用面談で「DBスペシャリストになりたい」と言われたとき、私は基本的に大手SIerかメガベンチャーへの転職を勧めている。SESでも一部の専門案件はあるが、それを継続的に確保できる会社は限られている。
タイプ3:チームへの帰属感・継続的な人間関係が必要な人
SESの構造上、エンジニアは2社の間に立つことになる。所属会社(雇用主)と現場(クライアント)。「自分はどちらの人間なのか」という曖昧さに耐えられない人は、メンタル的にしんどくなる確率が高い。
具体的には次のような人だ。
- 朝礼や歓送迎会に呼ばれないと孤独を感じる
- 評価面談で「現場での貢献」が見えにくいことに不満を感じる
- 数年単位で同じ仲間と一緒に働く文化を求めている
採用面談で「前職では同期と毎日ランチに行っていました」というエピソードが多い人は、SESに来ると確実に環境ギャップで苦しむ。本人がその覚悟を持っているなら問題ないが、知らずに入ると半年で辞める。
これは能力の問題ではなく、組織文化との相性の問題だ。
タイプ4:案件の安定供給を「会社の責任」と考える人
SES経営者として一番悩ましいのが、「案件は会社が用意するものだ」という前提でSESに来る人だ。
確かに会社は案件を提案する責任を負う。ただし、最終的にその案件で評価されるのはエンジニア本人であり、現場で「次もぜひお願いしたい」と言われ続けるかどうかが個人の市場価値を決める。
「会社が悪い案件しか持ってこない」「営業がちゃんとしていない」という不満を抱える人ほど、実は現場での評価が下がっており、いい案件を提案されにくくなっているケースが多い。これは循環構造で、本人が気づくまで抜けられない。
「案件の質も自分の市場価値が決める」という発想を持てない人は、SESではなく自社開発企業の方が幸せになる。受託や自社開発なら、案件選定は会社の経営判断で完結するため、エンジニア個人が「商流」「単価交渉」「現場評価」を意識する必要がない。
SESをおすすめできる人 4タイプ
逆に、こういう人にはSESは合理的な選択肢だ。むしろ自社開発に行くより伸びる。
タイプ1:複数業界・複数技術を横断して経験したい人
金融・物流・小売・製造・公共——SESエンジニアは1〜2年単位でこの業界を渡り歩ける。「業界知識×技術力」のかけ算で市場価値を作りたい人にとって、SES以外でこの経験を短期間で積める手段はない。
採用面談でも「金融経験のあるエンジニア」「製造業の業務知識を持つエンジニア」は単価が高く、案件が途切れない。SESを5〜7年経験して業界知識を蓄積した人は、その後の転職で大手SIerやコンサルへの選択肢が広がる。
「会社員として複数業界を経験できる」というのは、SES以外ではほぼ不可能なキャリアパスだ。
タイプ2:自走力があり、案件を自分で選びたい人
SESの会社のうち、エンジニアの希望を聞いて案件を提案する文化を持つ会社は限られているが、その文化を持つ会社ではエンジニア本人が「次はこういう案件をやりたい」と主張できる。
自社開発企業だと、配属は経営判断で決まる。自分が決められる余地は小さい。一方、SESは「次の案件を選ぶ」という行為が定期的に発生するため、自分のキャリア軌道を自分で設計したい人に向いている。
ただしこれは「商流が浅く、希望を聞いてくれる会社に所属していること」が前提。3次請け中心の会社だと選べる案件の幅自体が狭いため、SESを選ぶなら会社選びが重要になる。
タイプ3:単価=市場価値の構造で評価されたい人
SESのいいところは、市場単価という客観指標で自分の価値が測れることだ。同じJava3年目でも、フレームワーク経験と商流次第で単価が45万〜70万まで変わる。これは残酷だが、わかりやすい。
「自分が会社に評価されているか分からない」「上司の好き嫌いで査定が決まっているのではないか」と感じる人にとって、SESの単価評価は健全だ。市場が答えを持っているので、上司の主観が介在しない。
採用面談で「正当に評価されたい」と言う人には、SESを正直におすすめできる。年功序列や情緒的な評価ではなく、スキルと商流で単価が決まるからだ。
タイプ4:いずれフリーランス・起業を考えている人
会社員としていきなり起業するより、SESを3〜5年経験してからフリーランスや会社化に進む方が成功率が高い。理由は次の通り。
- 営業がいなくても自分で案件を取る感覚が身につく
- 単価交渉・契約交渉の現場を経験できる
- 複数のクライアントとのつながりができる
- 業界・商流・エージェントの仕組みを内側から見られる
新卒で自社開発に入ってそのまま独立する人より、SES経験者から独立する人の方が、月単価100万以上の案件を継続的に取れている確率が高い(Heyday OBの追跡データより)。
「将来は独立したい」というキャリア観を持つ人にとって、SESは独立準備期間として機能する。
迷っているときの判断フロー
ここまでで「自分はどちら側か」迷う場合のために、判断フローを置いておく。
Q1. あなたが今後3〜5年で最も得たいものは何か?
A. 特定技術の専門性 → SESおすすめしない(自社開発推奨)
B. 業界×技術の横断経験 → SESおすすめできる
C. 安定した雇用と人間関係 → SESおすすめしない(メーカー系SE推奨)
D. 独立・起業の準備 → SESおすすめできる
Q2. 「案件は誰が選ぶべきか」と聞かれたら?
A. 会社が選ぶべき → SESおすすめしない
B. 自分で選びたい → SESおすすめできる
Q3. 「同じ職場に5年以上いる」のは?
A. 安心できる → SESおすすめしない
B. 退屈に感じる → SESおすすめできる
3問のうち2問以上が「おすすめできる」側に振れたら、SESは合理的な選択肢だ。逆に2問以上が「おすすめしない」側に振れたら、自社開発・受託・社内SEなど別の選択肢を先に検討した方がいい。
まとめ:「全員に合う仕事」は存在しない
SESは「全員に合う働き方」ではない。これはSES経営者として正直な見解だ。
ただ、合う人にとっては自社開発より早くキャリアを伸ばせる選択肢でもある。重要なのは「自分がどちら側か」を入社前に見極めることであり、エージェントの「向いていますよ」という言葉ではなく、自分自身の価値観で判断することだ。
迷っている人は、Heydayの市場単価診断で自分のスキルセットがSES市場でどう評価されるかを確認してみてほしい。市場価値が見えてくると、SESを選ぶべきか別の道を選ぶべきかが具体的に判断できるようになる。
エージェントの「とりあえず相談」より、自分の数字を先に持つ方が、判断は早く正確になる。
関連記事