「残業代が出ない」と感じているSESエンジニアは少なくない。だが多くの場合、なぜ出ないのかの構造を正確に理解していない。みなし残業の「仕組み上仕方ない」という会社の説明が正しいのか、違法な未払いなのかを判断するには、法律と実態の両方を知る必要がある。
私はHeyday株式会社の代表で、SES業界で12年・自社経営6期目になる。SES会社を経営してきた立場から率直に言う。「残業代を払わない会社」には、意図的に設計された構造がある。払わない理由が「みなし残業だから」「精算幅の範囲内だから」という説明で終わっている場合、その多くは法的に正しくないか、エンジニアの無知を利用している。
この記事では、SESで残業代が出ないパターンを3種類に分類し、経営者として見てきた「払わない会社の構造」を公開する。そのうえで、未払い残業代の計算方法・証拠の集め方・請求フローを具体的に解説する。
筆者について: 小川将司、Heyday株式会社代表。SES業界歴12年、SES会社の経営者として雇用契約・残業代制度・精算幅交渉を日常的に扱っている。本記事の見解は経営者としての実務経験に基づく個人見解であり、法律の最終判断は弁護士・社労士への相談を推奨する。
SESで残業代が出ない3つのパターン
「残業代が出ない」には複数の原因がある。一括りに「SESだから」と諦める前に、自分がどのパターンに当たるかを確認してほしい。
パターン1:みなし残業超過分の未払い(最多ケース)
SES会社の正社員給与でよく見る形が「月給◯◯万円(みなし残業◯時間含む)」という設計だ。たとえば「月給40万円(みなし残業30時間分・8万円含む)」と雇用契約に書かれているとき、みなし30時間を超えて実際に45時間残業した場合、超過した15時間分の残業代は別途支払われなければならない。これは労働基準法第37条が定める義務だ。
ところが実態として、超過分を支払わない会社が存在する。具体的な手口は以下の3パターンだ。
手口A:勤怠ツールで超過申請ができない設計
会社支給の勤怠ツールで「残業時間の上限がみなし時間に設定されており、超過入力ができない」というシステム設計になっている。エンジニアは超過分を申請したくてもできない。会社側は「申請がないから支払いが発生しない」という論理で逃げる。だが、この場合も実際の残業時間が証明できれば遡って請求できる。
手口B:「みなし残業だから残業代は出ない」という誤った説明
「うちはみなし残業制なので、残業しても追加の残業代は出ません」と説明する会社がある。これは法的に誤りだ。みなし残業は「定額前払い」の仕組みであって、「上限固定」ではない。超過分の支払い義務は残る。この説明をする会社は、法律を知らないか、知っていて意図的に誤説明している。
手口C:申請しにくい雰囲気を作る
明示的なルール違反ではないが、「上長から30時間以内に収めろと言われる」「超過申請すると評価に響く雰囲気がある」という状況で、事実上サービス残業が常態化している。証拠があれば請求可能だが、証拠収集のハードルが上がる。
小川(Heyday代表)のコメント: 「SES会社の経営者として正直に言う。みなし残業制は『予測可能な人件費管理』のためのツールだ。しかし超過分を払わない運用は法律違反だ。合法的に使いたいなら、みなし時間・含まれる金額・超過精算ルールを雇用契約書と就業規則に明記し、超過が発生したら翌月に必ず支給する運用にしなければならない。そうしていない会社は、コストを削るために法の抜け穴を使っているか、単に法律を知らない。どちらもエンジニアには不利益だ。」
パターン2:精算幅内の操作(グレーゾーン利用)
SES契約における精算幅(例:140〜180時間)の仕組み自体は合法だ。精算幅内の稼働に対して月額固定で精算することは問題ない。問題は、精算幅の設計を意図的にエンジニアに不利な形にしているケースだ。
精算幅の上限を意図的に高く設定する
精算幅の上限が190〜200時間に設定されている案件では、エンドクライアント側に「190時間まで追加費用なしで使える」というインセンティブが働く。月160時間稼働が健全な水準だとすると、190時間は月30時間分の超過稼働を無料で提供していることになる。
この契約設計を決めるのはSES会社だ。精算幅の上限が高いほどクライアントには売りやすく、受注しやすい。しかしエンジニアには残業が常態化する現場が紹介されるリスクが高まる。精算幅外に出ない限り、追加の残業代は発生しない仕組みになっているため、SES会社はエンジニアの長時間労働を「精算幅の範囲内」として処理できる。
重要な確認点:精算幅内の残業は確かに「追加精算なし」だ。しかし、それはSES会社とクライアントの間の商取引上の話だ。エンジニアとSES会社の間の雇用契約における残業代の取り扱いは別レイヤーになる。雇用契約上の所定労働時間(例:月160時間)を超えて働かせた場合、SES会社にはその分の残業代を支払う義務がある。精算幅内に収まっていても、エンジニアの残業代を払わない理由にはならない。
パターン3:裁量労働制の誤適用
IT企業ではシステムエンジニア・プログラマーに裁量労働制を適用しようとするケースがある。裁量労働制が適用されると、実際の労働時間に関わらず「◯時間働いたとみなす」という計算になり、残業代が発生しない設計になる。
しかし、SESエンジニアの多くは裁量労働制の法定要件を満たさない。専門業務型裁量労働制(労働基準法第38条の3)でIT業務に適用できるのは「情報処理システムの分析または設計の業務」に限定されており、単純なプログラミング・コーディング・テストは対象外とされている。また、企業が労使協定を締結・届出していることが前提条件だ。
裁量労働制を適用されているエンジニアは、以下を確認してほしい。
- 労使協定が締結・届出されているか
- 自分の業務が「分析・設計」に当たるか、単純コーディングにすぎないか
- 雇用契約書に裁量労働制の適用が明記されているか
これらが揃っていない状態で「裁量労働制だから残業代はない」と説明されている場合、制度の誤適用または意図的な悪用の可能性がある。
経営者が語る「残業代を払わない会社」の構造
SES業界を12年見てきた経営者として、残業代を払わない会社の動機と構造を公開する。これを知ることで、自分の会社がどのパターンか判断する材料になる。
動機1:人件費の圧縮(意図的なケース)
SES会社のビジネスモデルは「エンジニアの稼働時間を販売する」構造だ。月160時間稼働のエンジニアを月65万円でクライアントに販売し、エンジニアに40万円支払うとすると、差額25万円が粗利になる。ここで残業代を正しく払うと粗利が削れる。
残業代を払わない会社は、これをコスト圧縮の手段として意図的に選択している場合がある。特に利益率が低い(マージン10〜15%台)会社ほど、残業代の未払いで利益を確保しようとする傾向がある。会社の財務体力がなく、残業代を正しく計上すると赤字になる構造になっているケースだ。
動機2:法律の無知(非意図的なケース)
小規模なSES会社の中には、みなし残業の法的な運用ルールを正確に知らない経営者が存在する。「みなし残業を設定したら、その時間内で管理すれば残業代は出さなくていい」という誤解のまま運用しているケースだ。
悪意はないかもしれないが、法律的な結果は同じだ。エンジニアには未払い残業代の請求権が生じる。
動機3:エンジニアが「言わない」ことへの依存
残業代の未払いを会社が継続できる最大の理由は、エンジニアが「会社に言いにくい」「どうせ変わらない」「転職するからいいや」と泣き寝入りするからだ。
厚生労働省の「未払い賃金立替払制度」の申請件数や、労基署への申告件数を見ると、IT業界の賃金問題が一定数発生していることが分かる。しかしエンジニアの実際の泣き寝入り率は申告件数よりはるかに高いと考えられる。
会社は「言ってこない」という実態に依存して運用を続けている。言われたら払う、言われなければ払わない。そのサイクルが続く限り、未払い状態は改善されない。
小川(Heyday代表)のコメント: 「同業者として正直に言う。残業代を正しく払っていないSES会社が一定数存在するのは事実だ。その理由の多くは利益率の低さか法律の無知、どちらかだ。Heydayでは超過残業が発生した場合は翌月に必ず精算する運用にしている。なぜなら、払わなければエンジニアに不利益を与えるからだ。ただ、すべてのSES会社がこうしているわけではない。入社前に残業代の計算方法と精算ルールを書面で確認することを強く勧める。」
未払い残業代の計算方法
自分がいくら未払い分を持っているかを計算するには、3つの数字が必要だ。月給・みなし残業時間と金額・実際の残業時間だ。
基本計算式
1時間あたりの基礎賃金の計算
1時間あたり基礎賃金 = (月給 − みなし残業代)÷ 月所定労働時間
例:月給40万円、みなし残業30時間分8万円含む、月所定160時間の場合
1時間あたり基礎賃金 = (400,000 − 80,000)÷ 160 = 2,000円
超過残業代の計算
法定時間外労働(月60時間まで)には25%割増(1.25倍)が適用される。月60時間超には50%割増(1.50倍)が適用される(2023年4月以降、中小企業にも適用)。
超過残業代 = 基礎賃金 × 割増率 × 超過時間数
上記の例で実残業が45時間(みなし30時間超過の15時間分が請求対象)の場合:
超過残業代 = 2,000円 × 1.25 × 15時間 = 37,500円
この37,500円が毎月未払いになっているとすると、年間で45万円だ。2年間では90万円になる。
深夜・休日労働の割増率
| 労働の種類 | 割増率 |
|---|
| 法定時間外労働(月60時間まで) | ×1.25 |
| 法定時間外労働(月60時間超、大企業・中小共通) | ×1.50 |
| 深夜労働(22時〜翌5時) | ×1.25(時間外と重複の場合は×1.50) |
| 法定休日労働 | ×1.35 |
| 法定休日の深夜労働 | ×1.60 |
みなし残業の無効リスク
就業規則や雇用契約書に「みなし残業の対象時間数」と「含まれる金額」が明記されていない場合、みなし残業制度そのものが無効と判断される可能性がある。最高裁判例(日本ケミカル事件・2017年)では、みなし残業が有効とされるための要件として「通常の労働時間の賃金に当たる部分と時間外割増賃金に当たる部分とを判別できること」が必要とされている。
自分の雇用契約書に「みなし残業30時間・月8万円含む」のような明記がない場合、みなし残業制が無効となり、全時間外労働に対して割増賃金が発生していた可能性がある。
証拠の集め方|勤怠ツールが通らなくても証明できる
残業代を請求するにあたって最も重要なのが証拠だ。会社の勤怠ツールに申請できない状況であっても、複数の方法で実際の稼働時間を証明できる。
有効な証拠の種類
1. 入退室記録・セキュリティログ
オフィスビルや客先のセキュリティカードの入退室ログは、最も客観性が高い証拠の一つだ。建物管理会社またはセキュリティシステム上に記録が残っており、エンジニア個人が改ざんできない。会社が請求に応じない場合、労基署や弁護士を通じて取得できる。
2. Slackのアクティビティ・メッセージタイムスタンプ
業務で使用しているSlack・ChatWork・Teamsのメッセージ送信時刻は、実際に業務していた時間の間接証明になる。「22時にクライアントへの報告メッセージを送った」記録があれば、その時間帯に稼働していたことを示せる。スクリーンショットを定期的に保存しておくことを推奨する。
3. GitコミットのタイムスタンプとPRの更新履歴
エンジニア特有の証拠として、GitHubやGitLabのコミット履歴がある。コミット日時は改ざんが難しく、「土日や深夜にコードをコミットしていた」記録は残業・休日出勤の証拠として使える。PRのレビューコメントや更新履歴も同様だ。
4. メールの送受信記録
業務上のメール(客先との連絡・社内メール)に残る送受信日時は、稼働時間の証拠として機能する。Gmail等のクラウドメールは自動でログが残るため、後から遡って確認できる。
5. PC作業ログ
会社支給PCのログイン・ログオフ時刻、特定ファイルの最終更新時刻なども証拠になりうる。PCの電源ログを保全しておく場合は、スクリーンショットや定期的なログ出力を自分でも記録しておくと安全だ。
証拠収集の注意点
「会社に知られずに証拠を集めたい」というケースでは、以下の点を守ることが重要だ。
- 個人で収集できる範囲の証拠のみを取得する: 会社のサーバー等に不正アクセスして記録を取るのは違法になりうる。Slackのスクショ・自分のメール・Gitのコミット履歴など、自分がアクセス権限を持っているものに限定する
- 記録は定期的にバックアップする: 退職や契約終了後に記録にアクセスできなくなるケースを想定し、証拠は外部ストレージや個人のクラウドに随時保存しておく
- 期間を特定して記録する: 「◯月◯日〜◯月◯日」という形で、未払いが発生している期間を明確にしてから証拠収集を進める
残業代の請求フロー|社内交渉から弁護士まで
証拠が揃ったら、以下のステップで請求を進める。段階的に進めることで、多くのケースは途中で解決する。
Step 1:雇用契約書・就業規則の確認(請求前の準備)
まず手元にある雇用契約書と就業規則で、以下を確認する。
- みなし残業の対象時間数と含まれる金額の明記
- 超過残業の精算ルール(翌月支給・申請フロー)
- 所定労働時間と割増賃金の計算方法
これらの記載がない・または矛盾している場合、みなし残業制度自体が無効または違法な運用をしている根拠になる。
就業規則は労働基準法により、会社は労働者からの閲覧請求に応じる義務がある。開示を求めて断られた場合、それ自体が違反になる。
Step 2:社内での書面請求
まず会社の人事・総務部門に対して書面(メール可)で請求する。口頭では記録が残らないため必ず書面で行う。
書面に含める内容:
- 請求の対象期間(例:2025年10月〜2026年4月)
- 超過した残業時間の月別集計
- 未払い残業代の概算金額
- 支払いを求める期日(通常2〜4週間)
メールで送付する場合は、送付したことの記録として「送信済み」フォルダを保存しておく。会社側からの返答もすべて保存する。
Step 3:内容証明郵便による正式請求
会社が書面請求に対して応答しない・拒否する場合は、内容証明郵便で正式な請求書を送付する。内容証明郵便は「いつ・何を・誰に送ったか」が郵便局に記録され、法的な証拠力が高い。
弁護士に依頼せずとも自分で作成・送付できる。書式は「内容証明 残業代 書式」で検索すると参考になるテンプレートが見つかる。
Step 4:労働基準監督署への申告
会社が請求に応じない場合は、所轄の労働基準監督署に申告する。
- 費用: 無料
- 匿名性: 申告者の氏名は原則会社に通知されないが、調査の過程で特定される場合もある
- 効果: 監督署が会社に調査・是正勧告を行う。是正勧告に従わない場合は送検(刑事罰)になりうる
申告に必要なもの:証拠資料(タイムスタンプのある記録)・雇用契約書・給与明細・会社の就業規則(コピー可)
「労働基準監督署 [居住地または会社所在地の市区町村]」で検索すると所轄の監督署が分かる。
Step 5:弁護士への相談・依頼
未払い額が大きい・会社が頑なに拒否している・労基署への申告後も改善されないケースでは、弁護士への依頼が最も確実な解決方法になる。
弁護士に依頼できること:
- 内容証明による法的請求
- 会社との示談交渉(多くはここで解決する)
- 労働審判(裁判所での簡易手続き、約3〜6ヶ月)
- 民事訴訟(最終手段)
費用の目安:初回相談は無料の事務所が多い。着手金0円・成功報酬制(回収額の20〜30%)という弁護士事務所も増えており、手持ち資金がなくても相談しやすくなっている。
請求できる金額の上乗せ(付加金)
使用者が故意・重過失により残業代を支払わなかった場合、裁判所は未払い残業代と同額の「付加金」の支払いを命じることができる(労働基準法第114条)。つまり、未払い残業代100万円なら200万円の支払い命令が出る可能性がある。
付加金は裁判所が命じる制度で、請求から2年以内に裁判手続きを取ることが条件だ。悪質な未払いに対して会社への抑止力として機能する。
残業代請求の時効|過去何年分まで遡れるか
未払い残業代には時効がある。期間を過ぎると請求権が消滅するため、早めに行動することが重要だ。
時効期間の変遷
| 対象期間 | 時効 |
|---|
| 2020年3月31日以前に発生した残業代 | 2年 |
| 2020年4月1日以降に発生した残業代 | 3年(当分の間) |
2020年4月の民法改正に伴い、賃金債権の時効が延長された。現在は2020年4月以降に発生した未払い残業代は3年間遡って請求できる。
時効を止める方法
時効は「催告」によって6ヶ月間停止できる。内容証明郵便を送付した日から6ヶ月以内に訴訟・労働審判を起こせば、さらに時効が延長される。
「今すぐ動けない」という場合でも、内容証明郵便を先に送ることで時効の起算をリセットする手が使える。
退職後でも請求できるか
できる。雇用契約が終了していても、時効期間内であれば未払い残業代の請求権は消滅しない。「退職したから請求できない」という説明をする会社があるが、法的に誤りだ。
退職に際して「残業代その他の請求権を放棄する」という書類にサインを求めてくる会社もある。この場合、署名した後でも強迫・錯誤・一方的不利益変更を理由に無効化できる可能性がある。弁護士への相談を推奨する。
ses-zangyou-jittaiとの違い|この記事が扱う範囲
HeydayにはSES残業の実態を扱った別記事(ses-zangyou-jittai)がある。両記事の棲み分けを明確にしておく。
| 項目 | ses-zangyou-jittai(残業実態記事) | この記事(ses-zangyou-dai-denai) |
|---|
| メインテーマ | SES現場の残業時間の分布・実態 | 残業代が出ない/未払いの仕組みと対処 |
| 対象読者 | SES入社前・案件選びの段階 | すでに残業代未払いを疑っているエンジニア |
| 主な内容 | 案件タイプ別残業時間・精算幅の仕組み | 未払いパターン3種・証拠収集・請求フロー |
| 一次情報 | Heyday取扱案件の分布データ | 経営者の本音・法的判断の実務的解説 |
「残業の実態・現場分布・精算幅の設計」を知りたい場合はSES残業の実態記事を、「残業代が出ない/払われていない場合の具体的な対処」を知りたい場合はこの記事が役立つ。
よくある質問(FAQ)
Q. 精算幅内の残業は残業代が出なくて当然ですか?
SES会社とクライアントの間の精算は別レイヤー。雇用契約上の所定時間を超えた分の残業代は支払い義務がある。
精算幅(例:140〜180時間)はSES会社とエンドクライアントの商取引上の精算基準だ。これはあくまで「SES会社がクライアントから何時間分の費用を受け取るか」を決めるルールで、エンジニアへの残業代の支払い義務とは直接関係しない。
あなたとSES会社の間の雇用契約で定めた所定労働時間(通常は月160時間・1日8時間×20日)を超えた稼働には、法定の割増賃金(×1.25以上)が発生する。クライアントから精算幅内として費用を受け取っているかどうかに関わらず、SES会社はエンジニアに残業代を支払わなければならない。
Q. みなし残業の時間を超えても残業代が出ないと言われました。違法ですか?
違法の可能性が高い。みなし残業は超過分の支払い義務を免除しない。
みなし残業(固定残業代)制度は、あらかじめ一定時間分の残業代を定額で支払う仕組みだ。しかしこの制度は「みなし時間内を定額前払いする」ものであって、「みなし時間を超えた分の残業代を免除する」ものではない。みなし30時間で実残業が40時間なら、超過10時間分の残業代は別途支払わなければならない(労基法第37条)。「みなし残業だから出ない」という説明は法的に誤りだ。
Q. 勤怠ツールで超過入力ができません。残業代の請求は難しいですか?
難しくない。代替証拠が複数ある。
勤怠ツールで超過入力できないこと自体が「記録の改ざん」に当たる可能性があり、会社側の問題だ。証拠はSlackのタイムスタンプ・Gitコミット・入退室記録・メール送受信記録など、多岐にわたる。これらを組み合わせて「実際にこの時間帯まで業務していた」ことを証明できれば、勤怠ツールの申請記録がなくても請求できる。証拠収集の方法は上述の「証拠の集め方」セクションを参照してほしい。
Q. 未払い残業代はいつまで遡って請求できますか?
2020年4月以降分は3年。それ以前の分は2年。
2020年4月以降に発生した未払い賃金(残業代含む)の時効は3年に延長された(それ以前は2年)。つまり現時点(2026年)から遡ると、2023年5月以降に発生した未払い残業代は請求権が生きている。転職・退職後でも時効内であれば請求できる。
Q. 会社に請求したら、契約が切られたり評価に影響しませんか?
解雇・不利益取扱いは禁止されている。報復リスクは存在するが、対抗手段もある。
労働者が労基署へ申告したことを理由とする解雇は無効(労基法第104条2項)。また、残業代請求を行ったことを理由にした不利益取扱いは不当労働行為または不法行為に当たりうる。「言ったら切られる」という恐怖はあるが、実際に切られた場合は別途法的手段を取れる。在籍中の場合は、証拠収集を先に完了させてから交渉に臨むと安全だ。
Q. 弁護士費用が心配です。費用がかかりますか?
初回相談無料・成功報酬制の事務所が増えており、手持ち資金なしで相談できる。
労働問題専門の弁護士事務所では「初回相談無料・成功報酬型(回収額の20〜30%)」というプランを提供しているところが多い。回収できなければ費用は発生しない仕組みのため、請求額が大きい場合は特に費用対効果が高い。また、法テラス(国の法律支援機関)では収入・資産要件を満たせば弁護士費用の立替制度も使える。
まとめ
SESで残業代が出ない問題を整理した。
- 未払いのパターンは3種類:みなし残業超過の未払い・精算幅操作・裁量労働制の誤適用
- みなし残業は上限固定ではなく定額前払い:超過分の支払い義務は残る(労基法第37条)
- 証拠はSlack・Git・入退室記録で確保できる:勤怠ツールが使えなくても証明可能
- 請求は段階的に:書面請求→内容証明→労基署→弁護士の順で進める
- 時効は3年:2020年4月以降の未払い分は3年間遡れる。退職後も請求可能
- 報復は禁止されている:申告を理由とした解雇・不利益取扱いは違法
残業代は法律上の権利だ。「みなし残業だから」「精算幅の範囲内だから」という会社の説明を鵜呑みにせず、雇用契約書・就業規則を確認し、疑問があれば労基署か弁護士に相談することを勧める。
SES会社を選ぶ段階であれば、残業代の計算方法・精算ルール・みなし残業の対象時間と金額が雇用契約書に明記されているかを事前に確認することが最大のリスク回避になる。
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