「SESにいる限り上流工程には行けないですよね」
面談でよく言われる。私の答えは「半分は正しい」だ。
私はHeyday株式会社の代表として6年、案件を発注する側と受注する側の両方をやっている。その立場から言うと、SESエンジニアが下流工程に固定されやすいのは能力の問題ではなく、案件がどう切り出されて外部に出されるかという構造の問題だ。だから個人の努力の方向を間違えると、何年頑張っても工程は変わらない。
一方で、実際に上流に移動した人を毎年何人も見ている。彼らに共通しているのは、努力の量ではなくルートの選び方だった。
この記事では、上流工程の定義を整理したうえで、案件データベースの実測単価、SESで上流に入れない構造的な理由、そして実際に移動した4つのルートを書く。
上流工程とは何を指すのか
システム開発の工程は一般に次のように並ぶ。上流・下流はこの順序の前後を指す表現だ。
| 区分 | 工程 | 主な成果物 | SES案件での切り出され方 |
|---|
| 上流 | 企画・構想 | 企画書、投資判断資料 | ほぼ外部に出ない |
| 上流 | 要件定義 | 要件定義書、業務フロー | エンド直・一次請けの案件で出る |
| 上流 | 基本設計(外部設計) | 画面設計書、IF設計書 | 一次請け〜二次請けで出る |
| 下流 | 詳細設計(内部設計) | 詳細設計書、テーブル定義 | 二次請け以下で大量に出る |
| 下流 | 実装 | ソースコード | 最も多く外部に出る |
| 下流 | テスト | テスト仕様書、試験報告書 | 最も多く外部に出る |
「上流工程に行きたい」という言葉が実際に指しているのは、要件定義と基本設計であることが多い。 企画・構想はほぼ事業会社の内部で完結するため、外部人材の案件として流通しない。ここを狙うなら事業会社への転職が現実的な選択になる。
つまりSESの枠内で目指せる上流は、要件定義と基本設計、そしてPMO/PMポジションだと考えるのが正確だ。
上流と下流の単価差【実測データ】
工程による単価差はデータで確認できる。Heydayでは受領した案件を構造化してデータベース化している。技術タグ別の実測値が次の表だ。
| 技術タグ | 案件数 | 単価上限の中央値 | 上限のp25〜p75 | 上限の最大 | リモート可率 |
|---|
| PMO/PM | 1,682件 | 90万円 | 75〜100万円 | 200万円 | 66.6% |
| Azure | 364件 | 85万円 | 70〜90万円 | 150万円 | 69.3% |
| AWS | 1,390件 | 80万円 | 70〜90万円 | 220万円 | 73.3% |
| インフラ/NW | 763件 | 75万円 | 68〜85万円 | 180万円 | 52.9% |
| Java | 1,922件 | 70万円 | 62〜80万円 | 220万円 | 60.7% |
| QA/テスト | 831件 | 70万円 | 60〜80万円 | 230万円 | 61.9% |
出典:Heyday案件データベース実測(2026年3月〜8月)。単価は案件票に記載された単価上限の中央値で、記載があった案件のみで集計(PMO/PM 583件、Java 722件、QA/テスト 376件など)。1案件が複数タグに該当する場合がある。
PMO/PMタグの単価上限の中央値は90万円で、Java(70万円)とは20万円の差がある。 年換算で240万円だ。同じ人が同じプロジェクトにいても、担う工程が変わればこの差が生まれる。
もう一つ注目すべきは案件数だ。PMO/PMタグは1,682件、直近3ヶ月でも190件発生している。上流案件は希少だから単価が高いのではなく、件数が十分あるうえで単価が高い。 需要側の問題ではないということだ。
商流の観点でも差が出ている。案件票に商流の記載があるものは全技術で1割未満だが、PMO/PMタグではそのうち69件が「エンド直」表記で、全タグ中最多だった。上流工程の案件はエンドクライアントと近い距離で発注されやすいという傾向がここに出ている。商流の判定方法は一次請けとはにまとめている。
なぜSESだと下流に固定されるのか
理由1:外部に出しやすい工程が下流だから
発注する側の立場で書く。要件定義を外部人材に任せるには、業務知識・意思決定権・社内の人間関係へのアクセスが必要になる。発注側にとって最もリスクが低いのは、仕様が固まった後の実装とテストを切り出すことだ。
だからSES市場に流通する案件は、必然的に下流に偏る。これは所属企業が悪いわけでも、エンジニアの能力が足りないわけでもない。
理由2:単価が工程ではなくスキルシートの職種名で決まるから
案件にアサインする際、発注側が見るのはスキルシートの職種名と経験工程の欄だ。ここに「詳細設計・実装・単体テスト」しか書かれていない人を、要件定義の案件に提案しても通らない。
問題は、実際には基本設計に近い仕事をしていても、スキルシートに書かれていないケースが非常に多いことだ。「画面設計をレビューして修正提案した」「テーブル定義を起案した」は基本設計の経験として書けるが、多くの人はこれを実装の一部として片付けてしまっている。
書き方はSESスキルシートの書き方で扱っている。工程の記載を見直すだけで提案できる案件の幅が変わる、というのは営業側の実感だ。
理由3:商流が深いと上流の情報が降りてこないから
三次請け以下の案件では、要件定義はすでに完了した状態で作業が降りてくる。そもそも上流工程が行われている場所と物理的・組織的に離れているため、関与する余地がない。
商流の深い案件に長く入り続けることは、工程の観点でもキャリアを固定する。金額面の影響はSES一次請け・二次請けで年収はいくら違うかで扱っている。
上流に移動する4つのルート
実際に移動した人が使ったルートを、難易度順に4つ整理する。
ルート1:現在の現場の中で工程を広げる(最も成功率が高い)
同じ現場に居続けたまま担当工程を広げるのが、最も成功率が高い。理由は単純で、発注側にとって既に信頼している人に工程を広げるのが最もリスクが低いからだ。新しく要件定義ができる人を外から探すより、現場にいる人に任せるほうが安全だと考える。
具体的な動き方は次のとおり。
- 設計レビューに「参加させてほしい」と自分から手を挙げる(議事録係でいい)
- 実装中に見つけた仕様の矛盾を、指摘ではなく代替案付きで出す
- 次フェーズの見積もり作業を手伝う
この3つを半年続けると、次の契約更新のタイミングで役割の相談が来ることがある。私の実感では、現場での工程拡大はこのルートが7割を占める。
ルート2:小規模案件で全工程を担当する
大規模プロジェクトでは工程が細分化されるが、小〜中規模の案件では1人が要件のヒアリングから実装まで担当することがある。単価だけを見ると大規模案件のほうが高いこともあるが、工程経験を作るという目的では小規模案件のほうが効率が良い。
営業に希望を伝えるときは「上流に行きたい」ではなく「顧客と直接要件を詰める規模の案件に入りたい」と具体的に言うほうが、提案が来やすい。
ルート3:PMOから入る
PMOは、上流工程への入口として最も現実的なポジションだ。PMほどの意思決定責任を負わずに、プロジェクト全体の情報が集まる場所に座れる。進捗管理・課題管理・会議体運営から始まり、要件の調整に関与していく流れになる。
案件数1,682件、単価上限の中央値90万円という数字は、このポジションの市場の厚さを示している。PMOのキャリア設計はPMOキャリアロードマップ、単価の詳細はPM/PMOのSES単価で扱っている。
ただしPMOには「上流に見えて調整作業しかしていない」案件も混ざっている。案件を選ぶ際は、要件や仕様の議論に参加できるか、それとも進捗表の更新が主業務かを事前に確認すべきだ。この見極めの重要性はPMOのSESをやめとけと言われる実態で扱っている。
ルート4:商流の浅い案件を持つ会社に移る
ルート1〜3を試しても、そもそも所属企業が下流の案件しか持っていない場合、個人の努力では突破できない。会社が二次請け以下の実装案件で構成されているなら、上流案件は物理的に存在しない。
判断基準は次のとおりで、2つ以上当てはまるなら移籍を検討していい。
- 自社の案件に要件定義・基本設計フェーズのものが存在しない
- エンドクライアントと直接契約している案件の比率を答えられない
- 「上流に行きたい」と伝えて半年以上、提案がゼロ
コンサルティングファームへの移動を選ぶ人もいるが、この場合は求められるものが変わる。詳しくはSESからコンサルへの転職を参照してほしい。
上流に行く前に確認しておくべきこと
最後に、経営者として率直に書いておく。
上流工程は単価が高いが、全員にとって正解ではない。要件定義とPMOで求められるのは、技術力よりも合意形成と説明責任だ。会議と調整が業務時間の大半を占め、コードを書く時間は減る。
技術を深めることで単価を上げる道もある。実測データを見ても、AWSの単価上限の最大値は220万円、Javaも220万円で、PMO/PMの200万円を上回っている。中央値では上流が高いが、上限では技術特化も同じ水準に届く。 中央値と上限のどちらの世界で戦うかは、適性で選んでいい。
年代別にどちらを選ぶべきかの判断軸はSESエンジニアの年代別キャリア戦略、単価全体の構造はSES単価・年収の完全ガイドで扱っている。
よくある質問
Q. SESエンジニアでも要件定義に関われますか?
関われますが、案件の商流と規模に依存します。エンド直・一次請けの案件、または小〜中規模で工程が細分化されていない案件でなければ、要件定義フェーズ自体が外部に出ていません。現在の案件で関われないなら、まず案件を選び直す必要があります。
Q. 上流工程に行くと単価はいくら上がりますか?
Heyday案件データベース実測(2026年3月〜8月)では、PMO/PMタグの単価上限の中央値が90万円、Javaが70万円で20万円の差がありました。年換算では240万円の差になります。ただしこれは案件票の上限値であり、実際の提示額は経験年数と業務範囲によって変わります。
Q. 未経験からいきなりPMOの案件に入れますか?
開発経験があれば可能性はあります。PMOは進捗管理・課題管理・会議体運営が入口の業務で、開発現場の経験があることが評価されます。ただし「上流に見えて調整作業しかない」案件も多いため、要件や仕様の議論に参加できるかを面談で確認してください。
Q. 上流工程に行くには資格が必要ですか?
必須ではありませんが、案件によっては歓迎要件に挙がります。実務上は資格そのものより、スキルシートに要件定義・基本設計の関与実績が書かれているかのほうが提案通過率に影響します。
Q. 何年目から上流を目指すのが現実的ですか?
実装経験3年前後が一つの目安です。設計の妥当性を判断するには実装側の経験が必要で、ここが薄いまま上流に移ると、実現性のない設計を書いてしまいます。逆に実装だけを10年続けると、工程を広げる動機を持ちにくくなります。
まとめ
SESで下流工程に固定されるのは能力の問題ではなく、案件がどう切り出されるかという構造の問題だ。だから突破口も構造側にある。
- 目指せる上流は要件定義・基本設計・PMO。企画・構想はほぼ外部に出ない
- PMO/PMタグの単価上限の中央値は90万円で、Javaとの差は20万円(年240万円)
- 上流案件は件数も1,682件と厚く、需要側の問題ではない
- 移動ルートは現場内での工程拡大が最も成功率が高い。次いで小規模案件、PMO、そして会社を変えること
- ただし上限値では技術特化も同水準に届く。中央値の世界と上限の世界、どちらで戦うかは適性で選んでいい
まず確認すべきは、自分のスキルシートに設計工程が書かれているかどうかだ。実際にやっていたのに書いていないケースが本当に多い。提案の土俵に乗るための最初の一手はそこにある。
上流案件に提案できる状態か、一緒に確認しませんか
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