2026年現在、SAP ECC 6.0の標準保守終了まで残り約2年。日本国内の約2,000社がS/4HANAへの移行を迫られているにもかかわらず、2026年4月時点でまだ約4割(推定800社超)が移行未完了の状態だ。 S/4HANA移行に携われるSESエンジニアの月単価は、ABAP開発で70〜95万円、Basisで75〜100万円、導入コンサルで90〜130万円まで達する。しかし、この案件に「SES正社員として」入れるかどうかは、スキルだけでなく商流と会社の質によって決まる。
フリーランス向けの単価情報はいくつか出回っているが、「SES正社員がS/4HANA移行案件に参画したとき、実際にいくらもらえるのか」「商流はどう影響するのか」「移行が終わった後のキャリアはどうなるのか」を正直に書いたコンテンツは存在しない。
この記事では、SES事業を運営する経営者の立場から、S/4HANA移行案件の実単価・参画条件・移行後リスクを一次情報で解説する。SAP全般の単価についてはSAP SESエンジニアの月単価実態【2026年版】を先に読んでほしい。本記事はその「移行案件専門版」だ。
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S/4HANA移行は、単なるシステムアップグレードではない。
SAP ECC 6.0(通称ECC)とS/4HANAは、データモデルが根本的に異なる。ECCでは財務データが複数のテーブルに分散して格納されていたが、S/4HANAはHANA(インメモリデータベース)上で動作し、シンプルな単一テーブル構造(Universal Journal)に再設計されている。
この差異が、移行の難しさの根本原因だ。
- データ移行の複雑さ: ECCで長年蓄積されたマスターデータ・トランザクションデータを、S/4HANAのデータモデルに変換する必要がある
- カスタムコードの刷新: ECCで独自に組み込んだABAPプログラムの多くが、S/4HANAでは動作しなくなる(廃止APIの影響)
- 業務プロセスの見直し: Fit to Standard(標準機能への業務プロセス適合)を基本方針とするため、ゼロから業務要件を整理するケースも多い
- 大規模プロジェクト期間: 中堅企業で18〜36ヶ月、大企業では3〜5年以上のプロジェクト期間が一般的
通常のSAP保守案件(月次パッチ適用・軽微な機能追加)と比べると、移行案件は技術難度・工数・必要スキルの全てが1段上のステージにある。これが、移行案件の単価を押し上げている根本理由だ。
SAP社は当初、ECC 6.0の標準保守終了を2027年末と設定した。その後、延長保守(2030年末まで)の有料オプションが用意されたが、移行そのものを回避できるわけではない。
日本国内でSAP ERPを使っている企業は約2,000社。電通総研が指摘するように、移行を支援できるコンサルタントは「千人単位で足りない」状況が続いている(電通総研「ERPコンサルタント需要調査」より)。
2026年〜2027年は、まだ移行が完了していない企業が集中的にプロジェクトを立ち上げる時期にあたる。移行プロジェクトは開始から本番稼働まで最短でも18ヶ月かかる。つまり、今まだ動いていない企業の多くは「2027年末の標準保守終了に間に合わない」または「延長保守費用を払いながら移行を継続する」という状況に追い込まれつつある。
この逼迫した状況が、S/4HANA移行エンジニアの需要と単価を押し上げている直接の要因だ。
S/4HANA移行においてABAP開発者が担うのは、主に以下の2つのミッションだ。
- レガシーABAPコードの刷新: ECC時代に組み込まれた独自開発のABAPプログラム(帳票・インターフェース・バッチ処理)を、S/4HANA対応のコードに書き直す
- カスタム開発の最小化対応: Fit to Standardの方針のもと、既存カスタムコードのうちどれが標準機能に代替できるかを分析し、削減・統合する
Heydayが扱うS/4HANA移行案件のデータ(2026年Q1)では、ABAP開発者の月単価は以下のレンジに分布している。
| 経験年数・スキルレベル | 月単価レンジ | 市場での立ち位置 |
|---|
| 経験1〜3年・基礎ABAP | 55〜70万円 | テスト支援・コード修正補助 |
| 経験3〜5年・S/4HANA移行経験なし | 65〜80万円 | 詳細設計以降の実装担当 |
| 経験3〜5年・S/4HANA移行経験あり | 75〜95万円 | 廃止API対応・カスタム刷新担当 |
| 経験5年以上・S/4HANA + BTP経験 | 90〜120万円 | 設計主導・技術アーキテクト |
移行経験の有無で月10〜20万円の差が開くのが現実だ。移行案件に初めて入る段階では単価は控えめだが、1プロジェクトを経験した後は市場価値が跳ね上がる。
注意点として、ABAPはSAP独自言語であるため、一般的なJavaやPythonエンジニアよりも参入障壁が高い。その分、スキルを持つ人材の希少価値が維持されており、2027年問題の解決まで需要は落ちない見込みだ。
S/4HANA移行において、Basisエンジニアは「移行の技術面を担う縁の下の力持ち」だ。具体的には以下を担当する。
- システムコピー(ECCからS/4HANAへのシステムランドスケープ構築)
- HANA DBの設定・チューニング
- クラウド移行(SAP on AWS / SAP on Azure)
- 移行リハーサル・本番移行の技術的実行
Heydayが扱うSAP Basis移行案件のデータでは、以下のレンジが実態だ。
| 経験・スキル | 月単価レンジ | 備考 |
|---|
| Basis経験2〜4年・移行未経験 | 65〜80万円 | 移行リハーサル補助・設定作業 |
| Basis経験4〜6年・S/4HANA移行経験あり | 80〜100万円 | 技術移行のメイン担当 |
| Basis経験6年以上・クラウド(AWS/Azure)経験あり | 95〜125万円 | SAP on Cloud移行のリード |
Basisは業務系モジュール(FI/CO等)と異なり、インフラ・Linux・DBの経験から入れるルートがある。S/4HANA移行の技術的需要が高まっている今、技術系エンジニアがSAP領域に参入する入口として注目度が上がっている。
Heydayが扱う案件でも、2026年Q1においてBasis系案件の比率が前年同期比約1.5倍に増加している。これはS/4HANAの技術移行フェーズが本格化していることを示す数字だ。
S/4HANA移行プロジェクトにおける機能系コンサルタントの役割は、業務プロセスの要件定義・フィット&ギャップ分析・S/4HANA標準機能への適合設計だ。
フリーランス向け情報では「S/4HANA移行コンサルで150〜200万円」という数字も出回っているが、SES正社員として入る場合は異なる。
Heydayが扱うS/4HANA移行案件のコンサルタント単価(エンド直〜1次請け想定、2026年Q1データ):
| モジュール | 経験3〜5年 | 経験5〜8年 | 経験8年以上 |
|---|
| FI(財務会計) | 90〜110万円 | 110〜135万円 | 130〜160万円 |
| CO(管理会計) | 90〜115万円 | 115〜140万円 | 135〜165万円 |
| MM(購買・在庫) | 85〜105万円 | 105〜125万円 | 120〜150万円 |
| SD(販売管理) | 85〜105万円 | 105〜125万円 | 120〜150万円 |
| HR(人事・給与) | 80〜100万円 | 100〜120万円 | 115〜140万円 |
FI/COが最高単価になる理由は、S/4HANA移行でデータモデルが最も大きく変わるのが財務領域だからだ。Universal Journalへの統合によって、既存のFI/CO業務ロジックを根本から再設計する必要があり、ここに精通したコンサルタントの需要が特に高い。
移行プロジェクトのPMO(プロジェクトマネジメントオフィス)ポジションも、SES経由で参画できるケースがある。
| ポジション | 月単価レンジ | 必要経験 |
|---|
| PMO補助(課題管理・議事録) | 60〜80万円 | PM経験1〜3年・SAP知識不問 |
| PMOメンバー(進捗管理・リスク管理) | 80〜110万円 | SAP移行プロジェクト経験1件以上 |
| PM・プログラムマネージャー | 120〜200万円以上 | 大規模SAP移行経験・マネジメント経験 |
PMO補助は、SAP知識がなくてもプロジェクト管理経験があれば入れる可能性がある数少ないポジションだ。ただし、移行フェーズが進むにつれてSAP固有の知識が求められるため、入口としては有効でも、そこで知識を積まないとキャリアが停滞する。
S/4HANA移行案件は「経験者優遇」が基本だ。しかし、経験ゼロから参画できる余地も一部存在する。
機能系(コンサルタント)として参画するための最低条件:
- ECC稼働中のプロジェクト経験が1件以上あること: S/4HANA移行はECCとの差分を理解することが前提になるため、ECC経験のない状態での移行案件参画はほぼ不可能だ
- 担当モジュールの業務理解があること: SAP操作スキルだけでなく、担当する業務プロセス(財務・調達・販売等)の理解がないと、Fit to Standard分析ができない
- 日本語で顧客折衝ができること: 移行プロジェクトは現業部門との要件調整が頻繁に発生するため、コミュニケーション能力が重要視される
技術系(ABAP・Basis)として参画するための最低条件:
ABAP開発者:
- ECC環境でのABAP開発経験2年以上
- SE11(データ辞書)・SE38(プログラム)・SE51(画面設計)等の基本的なABAPツールの操作経験
- ABABの廃止APIや非推奨コードに関する基礎知識(S/4HANA対応コードへの変換に必要)
Basisエンジニア:
- SAP Basis管理経験2年以上(またはLinux/DB管理経験3年以上+SAP基礎知識)
- HANAデータベースの基礎理解(SAPランドスケープの構成を理解できるレベル)
- インフラ系:AWSまたはAzureの実務経験があると大幅にプラス評価される
SES正社員として移行案件に参画するプロセスは、フリーランスとは異なる。
フリーランスの場合、エージェント経由で直接案件紹介を受け、スキルシートと面談だけで参画が決まることが多い。SES正社員の場合は、会社のネットワークと営業力が介在する。
実際の流れ:
- 在籍するSES会社が、移行案件(SIer・コンサルファーム経由)の情報を入手する
- SES会社の営業が、「御社のエンジニアで対応できる人はいるか」という打診を受ける
- エンジニアのスキルシートが提出され、クライアント側が書類選考する
- 面談(1〜2回)を経て参画が決定する
- 参画開始後、SES会社が案件単価を受け取り、エンジニアに給与として支払う
ここで重要なのは、SES会社が「S/4HANA移行案件を取れる取引先を持っているか」がまず問われるという点だ。
エンドユーザーがSAP移行を発注する先は、主にSAP公認パートナー企業(IBMコンサルティング、アクセンチュア、NEC、富士通等)だ。これらと直接取引関係があるSES会社と、そうでない会社では、エンジニアが移行案件に入れる確率が大きく異なる。
小川代表コメント: S/4HANA移行案件は「エンジニアのスキルと会社の取引先の掛け算」で決まる。いくらスキルがあっても、所属するSES会社が移行案件を取引できるSIer・コンサルファームとパイプがなければ、案件に辿り着かない。エンジニアが会社選びで見るべき点は「SAP移行案件の実績があるか」だ。
| フェーズ | 主な作業 | 期間目安 | 単価水準 |
|---|
| 構想策定 | 移行戦略立案・ROI試算・ベンダー選定支援 | 3〜6ヶ月 | 高(+20〜30%) |
| 要件定義 | Fit to Standardワークショップ・As-Is/To-Be分析 | 6〜12ヶ月 | 高(+15〜25%) |
移行プロジェクトの初期フェーズは、最も経験値が問われ、かつ単価が高い。要件定義においては、「業務部門が慣れ親しんだECCの業務プロセスをS/4HANAの標準機能に合わせてどう変えるか」を顧客に説得しながら進める必要がある。業務理解・SAP知識・顧客折衝力の全てを要求されるため、SES経由での参画は経験豊富なエンジニアに限られるのが現実だ。
| フェーズ | 主な作業 | 期間目安 | 単価水準 |
|---|
| 設計 | 基本設計・詳細設計・設定値定義 | 6〜12ヶ月 | 標準 |
| 開発 | ABAPカスタム開発・廃止API対応・インターフェース構築 | 6〜18ヶ月 | 標準〜やや高め |
設計・開発フェーズは人員規模が最大になる。ここでABAP開発者の需要が急増する。Heydayが扱う案件でも、開発フェーズに突入したプロジェクトからのABAP開発者の急募依頼が2025年後半から増加している。
単価は「標準〜やや高め」だが、人数が集中するため、この時期にSES正社員が初参画するケースも多い。
| フェーズ | 主な作業 | 期間目安 | 単価水準 |
|---|
| 単体テスト・結合テスト | テストケース実行・バグ修正 | 6〜9ヶ月 | やや低め |
| UAT(ユーザー受け入れテスト) | ユーザー支援・障害記録 | 3〜6ヶ月 | 低め |
| 移行リハーサル | データ移行リハーサル・カットオーバー計画 | 2〜4ヶ月 | やや高め |
テスト工程は、SES正社員が初めてSAP移行案件に参画する入口として現実的なフェーズだ。単価はフェーズ1・2よりも低くなるが、SAP移行プロジェクトの「経験あり」という実績を得られることが長期的に重要になる。
| フェーズ | 主な作業 | 期間目安 | 単価水準 |
|---|
| 安定化サポート | 本番障害対応・業務サポート | 3〜6ヶ月 | 高め(緊急対応含む) |
| 保守移行 | 保守体制の引き継ぎ・ドキュメント整備 | 1〜3ヶ月 | 標準 |
本番稼働直後は障害対応・業務サポートの緊急ニーズが高まるため、単価が一時的に高くなるケースがある。ただし、安定化が終わると保守フェーズに移行し、移行案件特有の単価プレミアムは消えていく。
S/4HANA移行案件に関する情報のほとんどが、フリーランスエージェントの視点から書かれている。「フリーランスになれば月120万円」という話だ。SES正社員が同じ案件に入った場合の実態は、全く異なる。
商流の典型パターン:
エンドユーザー(製造業・金融・小売等)
↓ 発注(月単価の設定)
SAP公認パートナー(IBMコンサルティング・アクセンチュア・NEC等)
↓ 協力会社への外注(10〜20%マージン)
中堅SIer・SAP専門企業
↓ SES会社への外注(10〜15%マージン)
SES会社(Heyday等)
↓ エンジニアの給与として支払い(マージン15〜30%)
SES正社員エンジニア
この構造をたどると、エンドユーザーが設定した月単価から、最終的にエンジニアが受け取る手取りまでの間に、3〜4層のマージンが抜かれている。
具体例で考えてみよう。エンドユーザーがS/4HANA導入パートナーに支払う単価が「FIコンサル・月130万円」だとする。
| 取引階層 | 受取額 | 取り分(推定) |
|---|
| SAP公認パートナー | 130万円 | 20万円(15%) |
| 中堅SIer(1次請け) | 110万円 | 15万円(14%) |
| SES会社(2次請け) | 95万円 | 20〜25万円(21〜26%) |
| エンジニアの給与相当 | 70〜75万円 | — |
同じFIコンサルのスキルを持つフリーランスが、エージェント経由でエンド近接の案件に参画した場合の手取りは100〜115万円程度になる。SES正社員としての年収換算では600〜700万円、フリーランスでは1,200〜1,380万円という大きな差が生まれる。
小川代表コメント: この数字を出すことに躊躇いはあるが、エンジニアが「SES正社員 vs フリーランス」の判断をするために必要な情報だと判断して公開している。SES正社員が得るものは安定性・社会保険・スキル習得機会だ。それに対して何を差し出しているかを理解した上で、キャリア選択をしてほしい。
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プロジェクト終了後の次案件が不透明: S/4HANA移行は期限付きプロジェクトだ。2〜3年のプロジェクトが終わった後、同等の移行案件があるとは限らない。SES会社が次の案件を用意できるかが、エンジニアのキャリア安定に直結する
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スキルの偏り: 移行案件に長期間入ることで「S/4HANA移行しか知らない」専門特化が起きる。移行ピークが過ぎた後、この専門性の市場価値がどう変化するかは後述する
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商流の不透明さ: SES会社が単価を開示しない場合、自分が2次請けか3次請けかも分からないまま稼働することになる。高単価の移行案件に入っていても、商流が深ければ手取りは変わらない
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プロジェクト突然中断リスク: 移行プロジェクトが企業の業績悪化・経営判断で中断されるケースも稀にある。その場合、SES正社員はSES会社が次の案件を手配するまでの待機期間が発生する
Heydayの方針: Heydayでは、S/4HANA移行案件に参画しているエンジニアに対して、案件の契約単価を全件開示している。「あなたの案件はどこの会社と、いくらで契約されているか」をエンジニアが知ることが、公正なキャリア判断の前提だと考えているからだ。
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技術スタック・単価帯・勤務形態がわかる具体的な案件情報
これは推測を含む見解だが、Heydayの経営判断として以下のシナリオを想定している。
2027年末にSAP ECC 6.0の標準保守が終了し、延長保守(2030年末まで)を利用する企業を含めても、2028年〜2029年頃には日本国内の移行プロジェクトの大波は収束に向かう。
この「移行バブル終了」が意味することは何か。
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移行案件そのものの減少: 新規の移行プロジェクト発足は2028年以降に急減する可能性が高い。移行を終えた企業は保守フェーズに移行し、保守単価は移行単価より30〜40%程度低くなる傾向がある
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「移行経験者」の希少価値低下: 2026〜2027年に移行プロジェクトに参画したエンジニアが市場に増えると、「移行経験あり」という差別化が薄れてくる
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BTPシフトの加速: SAP社は次世代開発プラットフォームとして「SAP BTP(Business Technology Platform)」を推進している。移行後の改善・拡張はBTP上で行われるケースが増えており、「S/4HANA移行経験 + BTPスキル」を持つエンジニアと「移行経験のみ」のエンジニアで単価差が拡大する可能性がある
S/4HANA移行案件に入ったエンジニアが、移行バブル後に取れるキャリアの方向性は主に3つだ。
方向性1: S/4HANA保守・改善コンサルタントとして残る
移行後も、S/4HANAを使い続ける企業は常に改善ニーズを持つ。移行経験者がその企業の保守チームや内製化を支援するポジションに入るルートだ。移行案件より単価は下がるが、安定した長期契約になりやすい。
方向性2: BTP(Business Technology Platform)スキルを獲得する
SAP BTPは、S/4HANAの機能拡張・APIインテグレーション・ローコード開発を担うプラットフォームだ。ここに精通したエンジニアは、移行バブル後も需要が続く可能性が高い。Heydayが把握する限り、2026年時点でBTP経験を持つSESエンジニアは市場に少なく、希少価値が高い。
方向性3: フリーランスに転向し、グローバル案件を視野に入れる
日本のS/4HANA移行ピークが過ぎた後も、海外(東南アジア・中東等)ではSAP移行需要が継続する可能性がある。英語力 + SAP移行経験を持つエンジニアは、日本市場を超えた選択肢を持てる。ただし、これはSES正社員として実現しにくいキャリアパスであり、フリーランス転向が前提になる。
Heydayの経営者としての見解を率直に言うと、2027年を「SAP移行だけに頼るキャリアのピーク」と捉え、その前にBTPスキルかマネジメント能力のどちらかを積み上げておくことが、移行後の単価維持に不可欠だと考えている。
S/4HANA移行案件に入るためのSES会社選びでは、以下の3点が最重要だ。
1. SAP公認パートナーまたは大手SIerとの直接取引があるか
S/4HANA移行案件のほとんどは、SAP公認パートナー(IBMコンサルティング、アクセンチュア、デロイト、NEC、富士通等)が元請けとなる。ここと直接取引があるSES会社か、そうでないかで、参画できる案件の質・単価・商流の深さが大きく変わる。
確認方法: 「SAP案件の取引先はどこですか?元請けはどこの会社ですか?」と直接聞く。回答が曖昧なSES会社は、3次請け以下の可能性が高い。
2. 契約単価を開示しているか
先述した通り、S/4HANA移行案件は単価が高い。その分、SES会社が取るマージンの絶対額も大きくなる。契約単価を開示しない会社に在籍している場合、自分が商流のどこにいるかも分からないまま稼働することになる。
単価開示は、エンジニアのキャリア判断に必要な最低限の情報だ。
3. 移行プロジェクト終了後の次案件についてコミットメントがあるか
前述したリスクとして、移行プロジェクトは期限付きだ。プロジェクト終了後に次案件を準備してもらえるかを事前に確認しておく必要がある。「案件が終わったら待機(給与大幅減)」という状況は、SES業界で珍しくないため、事前に確認しておきたい。
Heydayが扱うS/4HANA移行案件では、ABAP開発者で月70〜95万円、Basisで75〜100万円、導入コンサル(FI/CO)で90〜130万円が中心レンジです。経験年数と移行経験の有無で20万円以上の差が生じます。
入れます。ただし、ECC稼働プロジェクト経験が最低1件必要です。テスト工程・PMO補助・ABAP補助などの下流ポジションであれば、より少ない経験でも参画可能なケースがあります。所属するSES会社がSAP案件の取引先を持っているかも重要です。
日本国内約2,000社のうち未移行企業(推定800社超)が2026〜2027年にプロジェクトを集中発注するため、S/4HANA移行エンジニアの需要はピーク状態にあります。今が移行案件に参画するための最高のタイミングです。
S/4HANA移行案件は、同スキルレベルのECC保守案件と比べて月10〜25万円程度高い単価がつきます。移行フェーズ(特に要件定義・設計)では、標準保守の1.3〜1.5倍の単価水準になることもあります。
ECC環境でのABAP開発経験2年以上と廃止APIの基礎知識が最低要件です。BTP(SAP Integration Suite等)の知識があると移行後も含めた希少価値が上がります。
技術移行作業が進められません。Basis人材は移行案件で最も不足するロールのひとつで、インフラ経験者がSAP Basis領域に参入すると比較的早く単価を引き上げられます。
2028年頃以降は移行案件特有のプレミアムが縮小する可能性があります。S/4HANA保守・BTPスキル・業種特化を持つエンジニアは需要が継続するため、付加スキルの積み上げが重要です。
同じ移行案件(例:FIコンサル月100万円の案件)でも、SES正社員の手取りは65〜75万円程度、フリーランス(エージェント経由)では80〜90万円程度になることが多いです。差額は商流の深さとSES会社のマージン率によって変わります。
要件定義フェーズ(Fit to Standardワークショップ・As-Is/To-Be分析)が最高単価です。業務知識・SAP知識・顧客折衝力の全てが求められるため、次いで本番稼働直後の安定化フェーズも高めです。
まず直接「契約単価を教えてほしい」と請求します。拒否された場合はフリーランスエージェントの無料相談で市場価値を確認できます。単価開示を拒否するSES会社は透明性に問題があると判断してよいでしょう。
「SAP標準機能に業務プロセスを合わせる」移行の基本方針です。カスタム開発を最小化してコスト・リスクを下げる戦略で、Fit to Standardを説明・推進できるコンサルタントの価値が特に高く評価されます。
要件定義・設計フェーズは顧客とのワークショップが多く、週3〜5日の常駐が一般的です。テスト後半・ABAP開発・Basis設定作業はリモート比率が高くなる傾向があります。本番稼働後の保守フェーズではフルリモートも増えています。
S/4HANA移行案件は、今が最大の参画機会だ。
日本国内約2,000社のうち推定800社超が移行未完了の状態で、2026〜2027年に向けてプロジェクトが集中発注される。移行を支援できるエンジニアは「千人単位で足りない」という電通総研の指摘通り、需要は実際に逼迫している。
SES正社員として移行案件に入るときの単価は、ABAP開発者で月70〜95万円、Basisで75〜100万円、FI/COコンサルで月90〜130万円(Heyday取り扱い案件・エンド直〜1次請け想定)。フリーランスと比べると手取りは少ないが、スキル習得機会・安定性・社会保険というトレードオフを理解した上で選択するのが正しい判断だ。
同時に、2027年以降の移行バブル終了を見据えたキャリア設計が必要だ。移行経験を積みながら、BTPスキル・特定業種の深い業務知識・マネジメント能力のいずれかを並行して積み上げることで、移行後も単価を維持できる可能性が高まる。
SES経由でS/4HANA移行案件に入るためには、「エンジニアのスキル × SES会社の取引先」の掛け算が必要だ。移行案件を扱える取引先を持ち、かつ契約単価を開示するSES会社を選ぶことが、このバブルを適切に活用するための第一歩になる。
まず、自分のSAPスキルが今いくらの市場価値を持つかを確認してほしい。
あなたの市場単価を診断する →
この記事は、Heyday株式会社代表・小川将司が執筆しました。掲載している単価データはHeydayが実際に扱う案件の数字および業界公開情報に基づいていますが、個々のエンジニアの市場価値は経験・スキル・商流などにより異なります。2027年以降の市場予測は筆者の推測を含みます。