「生成AIの普及でエンジニアの仕事がなくなるのでは」——2024年あたりからこの不安の声が増え、2026年の今も消えていない。
結論を先に言う。エンジニアの需要は減っていない。 Heydayの案件数は2024年から2026年にかけて一貫して増加している。ただし、需要の「中身」は明確に変わった。何が増えて何が減ったのか、IT業界12年、SES事業を6年経営し、かつAI導入コンサルのPMも担当してきた立場から、データと現場の観察をもとに検証する。
Heydayの案件数推移:2024→2025→2026
まず、私たちの手元にあるデータから示す。
Heydayが扱った案件数の推移は以下の通りだ。
| 年度 | 案件数(年間) | 前年比 |
|---|---|---|
| 2024年 | 基準値 | — |
| 2025年 | 約1.3倍 | +30% |
| 2026年Q1 | 前年同期比 約1.2倍 | +20%(Q1同士の比較) |
注目すべきは、ChatGPT登場(2022年末)→GitHub Copilot普及(2023年)→Claude Code・Cursor普及(2024〜2025年)という生成AIの進化と並行して、案件数が減るどころか増え続けている点だ。
「AIが仕事を奪う」のであれば、案件数は減少するはずだ。しかし現実はそうなっていない。
ただし内訳を見ると、増加している案件と減少している案件の傾向が明確に分かれている。これについては後述する。
「エンジニアの仕事がなくなる」言説の検証
この言説を3つの粒度で検証する。
粒度1:タスクの代替
2026年時点で、以下のタスクはAIに代替されている。
- ボイラープレートコードの生成(CRUD、API、型定義)
- テストコード初稿の作成
- ドキュメント・コメントの生成
- 既知パターンの実装(標準的なUI、バリデーション等)
- エラーの原因調査と対処法の提案
これは事実だ。Heydayでもエンジニアのスキルシート解析、案件マッチング、提案書の初稿生成をAIで処理しており、以前なら数人分の工数を要した作業が大幅に圧縮されている。
粒度2:役割の代替
「専任テスター」「ドキュメント担当」「データ入力担当」のような、単一タスクに特化した役割は縮小傾向にある。しかし、これは「その職種が消えた」のではなく、「他の役割に統合された」というのが正確な表現だ。
例えば、QAエンジニアが手動テストだけでなくテスト戦略の設計やAIテストツールの管理も担うようになった、という変化だ。
粒度3:職業の代替
「エンジニアという職業がなくなる」——これは2026年時点では起きていない。経済産業省のIT人材需給に関する調査(2024年更新版)でも、2030年時点で最大79万人のIT人材不足が予測されている。生成AIの普及を加味した補正値でも、不足は数十万人規模と試算されている。
要するに、タスクレベルの代替は進んでいるが、職業レベルの代替は起きておらず、需給ギャップはむしろ拡大している。
SES現場で見えている需要の変化
ここからは、Heydayの営業現場で実際に観察している変化を書く。
増えた案件の特徴
2025年後半から明確に増えたのは以下のような案件だ。
1. AI活用前提のシステム開発案件
「社内業務にAIを組み込みたい」「既存システムにLLMを接続したい」という案件が急増した。クライアント企業のDX部門やCTO室からの引き合いが増えている。
私自身、AI導入コンサルのPMとして複数のクライアント企業でAI活用プロジェクトを推進してきたが、2025年は「PoC(概念実証)」の案件が多かった。2026年に入ると「PoC→本番実装」へのフェーズ移行案件が増えている。つまり企業がAI導入を「試す段階」から「本格実装する段階」に進んだ結果、エンジニアの需要が増えた。
2. クラウドインフラ+AI基盤の構築案件
AIモデルのデプロイ、GPU環境の構築、推論パイプラインの設計——こうしたインフラ寄りの案件も増加傾向にある。AWSのSageMaker、Azure OpenAI Service、GCPのVertex AIなど、クラウドAIサービスの設計・運用経験を持つエンジニアへの引き合いは以前の比ではない。
3. データ基盤の整備案件
AIを活用するにはデータが必要だ。企業がAI導入に本腰を入れ始めた結果、「まずデータ基盤を整備しなければ」という案件が増えた。ETLパイプラインの構築、データウェアハウスの設計、データ品質管理——地味だが需要は堅い。
減った案件の特徴
一方で、以下のような案件は減少傾向にある。
1. 単純なコーディング作業の外注案件
「この仕様書通りに実装してほしい」という、仕様が完全に決まった状態でコーディングだけを外注する案件は減った。クライアント企業側がAIツールで自社内のエンジニアに実装させられるようになったためだ。
2. 定型的な保守・運用案件の一部
障害検知、ログ分析、定型的なパッチ適用など、パターンが決まった保守業務の一部は、AIOps(AI運用)ツールの導入で人員が縮小される傾向がある。
3. ドキュメント作成が主な案件
設計書の清書、テスト仕様書の作成、手順書の整備——ドキュメント作成が業務の大半を占める案件は、AIの文書生成能力の向上で縮小している。
Heyday営業チームの実感
営業の篠田からも「案件紹介の際に『AIツールの活用経験はありますか?』と聞かれることが2025年後半から明確に増えた」という報告が上がっている。以前はスキルシートに「GitHub Copilot使用経験あり」と書いてあっても特に加点されなかったが、今は案件の要件に「AIツール活用経験」が明記されるケースが出てきた。
生成AI登場後の採用トレンド変化
SES業界全体の採用トレンドとして、以下の変化を観察している。
「書ける」から「設計できる+AIを使える」へ
2023年以前の案件要件は「Java経験3年以上」「React実務経験」のように、特定言語・フレームワークの実装経験が中心だった。
2025年以降は「要件定義・基本設計の経験」「AIツールを活用した開発経験」が要件に含まれるケースが増えている。Heydayの案件要件を集計すると、「上流工程経験」を要件に含む案件の割合は2024年の約40%から2026年Q1には約55%に上昇した。
ジュニアの採用は慎重に、ミドルの奪い合いに
生成AIの影響で、ジュニアエンジニア(経験1〜2年)が担っていた定型的な実装タスクの価値が下がった。その結果、ジュニアの採用は慎重になっている企業が多い。
一方で、経験3〜7年のミドルエンジニアは「自分で設計もできてAIも使いこなせる」層として引き合いが強い。特にAIツールを日常的に使いこなしているミドル層は、単価交渉でも有利なポジションにある。
AI特化人材の需要爆発
MLエンジニア、データサイエンティスト、AIインフラエンジニアへの需要は2025年から急増し、2026年も加速している。ただし供給が追いついていないため、単価が高騰している領域でもある。
言語・職種別の需要変動マトリクス
Heydayの案件データと業界動向をもとに、言語・職種別の需要変動を整理する。
言語別の需要変動
| 言語/技術 | 需要の方向 | 背景 |
|---|---|---|
| Python | 大幅増 | AI/ML案件の急増。データ基盤案件でも需要堅調 |
| Go | 増加 | クラウドネイティブ・マイクロサービス案件が増加 |
| TypeScript/React | 増加 | フロントエンド需要は安定。AI連携のUI案件も |
| Java | 横ばい〜微増 | エンタープライズの基幹システム需要は安定 |
| PHP | 横ばい〜微減 | 新規案件は減少傾向、保守案件は安定 |
| Ruby | 微減 | 新規案件は減少。Rails保守は安定 |
| COBOL/VB | 減少 | マイグレーション案件はあるが新規はほぼゼロ |
| Rust | 増加 | パフォーマンス要求の高いAIインフラ・WebAssembly案件 |
| Swift/Kotlin | 横ばい | モバイル需要は安定。クロスプラットフォームの影響あり |
職種別の需要変動
| 職種 | 需要の方向 | 背景 |
|---|---|---|
| AIエンジニア/MLエンジニア | 大幅増 | 企業のAI導入本格化 |
| バックエンドエンジニア(設計込み) | 増加 | AI連携のAPI設計需要が増加 |
| クラウドインフラエンジニア | 増加 | AI基盤構築の需要 |
| データエンジニア | 増加 | AI活用のためのデータ基盤整備 |
| フロントエンドエンジニア | 横ばい | 安定需要。AI連携UIの案件は微増 |
| SRE/DevOps | 増加 | AIOps、MLOpsの需要増 |
| テストエンジニア(手動中心) | 減少 | AI自動テストツールの普及 |
| PMO/テクニカルPM | 増加 | AI導入プロジェクトの増加 |
「需要が増えた」エンジニア像と「減った」エンジニア像
需要が増えたエンジニアの共通点
Heydayで実際に高単価・好条件の案件にマッチしているエンジニアの特徴を5つ挙げる。
1. AIツールを日常的に使いこなしている
GitHub Copilot、Cursor、Claude Codeなどを「試した」ではなく「日常業務に組み込んでいる」エンジニア。AIの出力を正確に評価し、必要に応じて修正できる。
2. 上流工程の経験がある
要件定義、基本設計、技術選定——「言われたものを作る」だけでなく「何を作るべきかを設計できる」エンジニア。生成AIの普及で実装コストが下がった結果、「何を作るか」を決める側の価値が相対的に上がった。
3. 特定ドメインの知識を持っている
金融、医療、物流、製造——特定の業界知識を持つエンジニアは、AIが代替しにくい。AIは汎用的なコードを書けるが、業界固有の業務フローや規制を理解した設計はまだ人間に依存している。
4. 技術の掛け算ができる
「Python × AI × クラウド」「TypeScript × AI × フロントエンド」「Java × 金融ドメイン × 上流設計」——単一スキルではなく、2つ以上の強みを掛け合わせられるエンジニア。
5. コミュニケーション力が高い
クライアントの曖昧な要件を整理し、技術的な提案ができるエンジニア。AIが実装を担う分、人間が担う「対話と合意形成」の重要性は増している。
需要が減ったエンジニアの特徴
厳しい現実だが、以下の特徴を持つエンジニアは案件マッチングが難しくなっている。
1. 「コードを書く速さ」だけが武器
AIが高速にコードを生成できるようになった今、実装速度だけでは差別化が難しい。
2. 特定の言語・フレームワークしか書けない
「Javaしかできません」「PHPだけです」——単一言語の実装経験だけでは、選択肢が狭まる。
3. AIツールを使っていない
面談で「AIツールは使っていますか?」と聞かれて「使っていません」と答えるエンジニアは、2026年時点では不利だ。使いこなしている必要はないが、「使おうとしていない」はリスクになる。
4. 上流工程の経験がない(経験5年以上の場合)
経験年数が5年を超えているにもかかわらず、要件定義や基本設計の経験がないと、「AIに代替される実装業務」の範囲にとどまるリスクが高い。
