2026年4月時点の情報: 本記事はHeydayが2026年4〜5月時点で取り扱う業務委託案件データと、SES事業6年の経営者視点での市場観察をもとに執筆しています。
2027年12月末、SAP ECC6.0の延長保守が終了する。残り約1年半。
この期限がSAPコンサルタントの市場価値に何をもたらしているか。数字を先に示す。
Heydayが2026年4〜5月時点で取り扱う業務委託案件データでは、S/4HANA移行特化コンサルタント(移行経験1件以上)の単価は150〜200万円/月に達している。シニアクラス(10年以上・100億円超プロジェクト経験)は200〜230万円/月だ。通常のSES開発案件(68〜120万円/月)と比較すると、同じITエンジニアでも市場で評価される価値が根本的に異なる。
この差は今後2〜3年でさらに広がる可能性がある。なぜそう判断するのか、案件を供給する側から見えている市場の変化を解説する。
SAP ECC6.0(SAP ERP 6.0)は、2000年代から日本の製造業・流通業・金融機関を中心に広く導入されてきた基幹業務システムだ。在庫管理・会計・購買・販売といった企業の根幹業務を統合管理する、いわゆるERPの代名詞的存在である。
S/4HANA(SAP S/4HANA)は、SAPが2015年にリリースした次世代ERP。最大の違いはデータベース基盤にある。ECC6.0がOracle・Microsoft SQL Serverなど汎用RDBMSで動作するのに対して、S/4HANAはSAP独自のインメモリDBである「SAP HANA」上でのみ動作する。データをメモリ上で処理するため、大規模なリアルタイム分析や処理速度が大幅に向上している。
ただし、この技術的な違いが移行を複雑にしている主因でもある。データモデルそのものが変わるため、ECC6.0で積み重ねてきたカスタマイズ(アドオン)をそのままS/4HANAに持ち込むことができない。日本企業の場合、長年にわたって業務要件に合わせてカスタマイズを積み重ねてきたケースが多く、このアドオンの棚卸しと移行作業が最も工数を要する部分となっている。
SAP ECC6.0の保守終了については、過去に何度か延長が行われてきた経緯がある。
当初は2025年末が保守期限とされていたが、移行が間に合わない企業が多数出ることを受けてSAPは期限を2年延長し、2027年12月末を最終的な延長保守終了日とした。さらに有償の「延長保守(Extended Maintenance)」を利用すれば2030年まで継続できるオプションも存在するが、追加費用が発生し、根本的な解決策にはならない。
2027年12月末以降、標準保守が終了すると何が起きるか。セキュリティパッチが提供されなくなり、新機能追加は停止し、SAPからの公式サポートが受けられなくなる。企業のコアとなる基幹システムをサポートなしで動かし続けることは、セキュリティリスクと事業継続リスクの両面から現実的ではない。
日本におけるSAP ERP(ECC6.0系)の導入企業数は約2000社とされている。これは主に従業員数千人規模以上の大手・中堅企業であり、製造業・流通業・化学・金融・公共などが中心だ。
問題は移行のキャパシティにある。日本でS/4HANAの導入コンサルティングが可能なベンダーは2024年時点で約100社とされており、2027年末までに実施できるS/4HANA移行プロジェクト数は技術的・人員的な制約から1000件程度と見られている。単純計算で約半数の企業が期限までに移行を完了できない可能性があることを意味する。
世界規模で見れば、2万5000社以上の企業がS/4HANAへの移行途中にある。グローバルでSAPコンサルタントの需給がひっ迫していることが、日本国内での単価上昇の背景にもなっている。
2027年12月末まで残り約1年半という状況で、「今から動く」ことにどこまで意味があるのか疑問に思うかもしれない。しかし移行プロジェクトには通常1〜3年かかる。100億円超のシステムを抱える大企業では3〜5年のプロジェクトになることも珍しくない。
今まさに移行プロジェクトが大量に走っているのは、「間に合わせる必要がある企業」が本格的に動き始めたからだ。逆に言えば、これから移行プロジェクトへの参入機会がピークを迎える局面にある。
ここからは、Heydayが日々案件の供給と人材マッチングを行っている中で実感している市場の変化を話す。
2025年後半から、案件票に記載される必要スキル・経験の条件が変わってきた。以前は「SAPの実務経験○年以上」という書き方が一般的だったが、最近は「S/4HANA移行プロジェクトへの参画経験あり」という条件が明示されるケースが増えている。
これが何を意味するかというと、「SAPを知っている」だけでは不十分になってきたということだ。ECC6.0環境での開発・保守経験が豊富でも、S/4HANA移行プロジェクトに関わったことがないと、今まさに需要が集中している案件に入りにくい状況になっている。
Heydayの観察では、「移行経験ゼロだがSAP経験あり」という人材の案件充足に時間がかかるようになっており、これは2024年と比較して明らかな変化だ。
Heydayが2026年4〜5月時点で取り扱う業務委託案件データから、SAP関連案件の単価レンジを示す。
| カテゴリ | 経験要件 | 単価レンジ(月額) |
|---|
| SAP/ERP導入シニアコンサル | 10年以上・100億円超PJ経験 | 200〜230万円 |
| S/4HANA移行特化コンサル | 移行経験1件以上 | 150〜200万円 |
| SAP/ERP中堅コンサル | 5年以上 | 130〜190万円 |
| ABAPエンジニア | カスタマイズ開発経験 | 90〜140万円 |
| SES通常開発案件(比較値) | 言語・経験年数による | 68〜120万円 |
出典:Heydayが2026年4〜5月時点で取り扱う業務委託案件データ
通常のSES開発案件と比較して、SAP案件は単価水準が根本的に異なる。さらにその中で「S/4HANA移行特化」という軸が、中堅コンサルとシニアコンサルの間に新たな単価帯を形成している。
Heydayの肌感覚では、2026年Q1〜Q2でS/4HANA移行案件の単価は前年比10〜20%程度上昇している(推測:実取引ベースの感触であり統計的な裏付けではない)。グローバルでのコンサルタント不足と国内需要の集中が重なった結果と見ている。
実際に案件マッチングをしていて感じるのは、SAP経験者の二極化だ。
移行経験のある人材は複数クライアントから引き合いがあり、単価交渉の余地が大きい。一方、ECC6.0の保守・運用経験のみで移行プロジェクトに未参加の人材は、「需要はあるが単価上昇の恩恵を受けにくい」状態になっている。
この差は2027年に向けて拡大する可能性がある。なぜなら「保守・運用」の需要はECC6.0の保守終了とともに縮小し、「移行・S/4HANA上での開発」の需要が中心になるからだ。
経験年数と移行経験の有無を軸に、単価レンジを整理する。
| 経験年数 | S/4HANA移行経験あり | S/4HANA移行経験なし | 差分 |
|---|
| 10年以上 | 180〜230万円 | 120〜160万円 | +60〜70万円 |
| 5〜10年 | 150〜190万円 | 100〜140万円 | +40〜50万円 |
| 3〜5年 | 100〜150万円 | 80〜110万円 | +20〜40万円 |
| 1〜3年 | 80〜100万円(要案件による) | 60〜80万円 | +20万円前後 |
出典:Heydayが2026年4〜5月時点で取り扱う業務委託案件データおよび市場観察
移行経験の有無による単価差は、経験年数が高いほど大きくなる傾向がある。シニアクラスで移行経験がある場合、移行経験なしと比べて月額60〜70万円の差が出うる。年間で見れば700〜800万円以上の差になる計算だ。
モジュール別では、FI(財務会計)・CO(管理会計)・SD(販売管理)・MM(資材管理)の主要モジュールを跨いで経験があるコンサルタントが最も案件単価が高い傾向にある。S/4HANAでは業務プロセスの統合度が高まるため、複数モジュールを横断できる人材の価値が相対的に上がっている。
最も直接的な方法は、現在進行中の移行プロジェクトへの参画だ。移行プロジェクトは段階的に進み、フィット・ギャップ分析、設計、開発、テスト、本番移行と複数のフェーズがある。最初から全フェーズに入れるケースは少ないが、テストフェーズや本番移行前後のサポートから参入するという現実的なルートがある。
移行経験が「ゼロ」から「1件あり」になることで、次の案件での単価交渉余地が大きく変わる。今年度中に1件でも移行案件に参画することが、2026〜2027年の単価に直結する。
SES正社員として会社に所属しながら移行案件に参画する場合、会社の案件ラインナップとネットワークが重要になる。フリーランスで動く場合は自身のネットワークか、SAP案件に特化したエージェントの活用が現実的だ。
SAP公式の認定資格は、案件票での加点要素になることがある。特に以下が移行案件での評価につながりやすい。
- SAP Certified Associate - SAP S/4HANA Cloud Private Edition, SAP Activate Project Manager:移行プロジェクトマネジメントの認定
- SAP Certified Professional - SAP S/4HANA移行関連モジュール別資格:FI/CO/SD/MMなど各モジュール
- SAP Certified Associate - Implementation Consultant:導入コンサルタントの基礎資格
ただし資格単体より「移行プロジェクト参画経験」の方が案件選考では重視される傾向がある。資格はあくまで「スクリーニングを通過するための最低条件」として位置づけるのが現実的だ。
移行経験がないSAPエンジニアが取れる選択肢は主に3つある。
- 現職のプロジェクトで移行案件を獲得する:会社の営業にS/4HANA移行案件への参画希望を明示的に伝える。現職で移行案件の機会がないなら、それは長期的に見てキャリアリスクだ。
- SES会社を移行案件に強い会社に変える:SAP案件を複数取り扱っている会社に移籍することで、移行案件への参画機会を増やす。
- フリーランス化して直接案件に入る:経験が5年以上あれば、フリーランスとして移行案件の周辺フェーズ(テスト支援・トレーニング支援など)から参入するルートが開けることがある。
いずれの選択肢も共通しているのは「今年中に動く」ことだ。2027年末が近づくにつれて移行プロジェクトの数は増えるが、経験者不足のため「経験者優遇」の傾向が強まる。経験ゼロで入れる枠は今後縮小していく可能性が高い。
この問いに対するHeydayとしての見解は「最初の1件はSES正社員(または準委任の長期契約)で入る方が現実的」だ。
移行プロジェクトは12〜24ヶ月の長期になることが多く、チームでの動きが重要になる。経験が少ない段階でフリーランスとして単独で入ると、サポート体制が薄くなりがちで学習効率が下がる。正社員や準委任で会社のサポートを受けながら移行プロジェクトの全体を経験し、2件目以降でフリーランスとして単価を上げるというルートが、リスクを抑えながら移行経験を積む現実的な方法だ。
フリーランスとして直接案件に入る場合は、単価交渉力が高い反面、プロジェクト終了後の次案件確保を自分で動く必要がある。移行プロジェクトが終わる2027年以降のキャリア計画まで含めて考えた上で選択すべきだ。
2027年以降、多くの企業が移行フェーズを終えたとき、SAP市場はどうなるのか。Heydayは「需要は継続するが、求められるスキルセットが変わる」と見ている。
S/4HANAに移行が完了した後も、システムの保守・運用・追加開発は継続する。むしろ移行直後は「S/4HANA環境での安定稼働」「ECC6.0から持ち込めなかった機能の追加開発」「S/4HANA固有の機能を活用した業務プロセス改善」といった後継ニーズが発生する。
移行後の保守フェーズでは、長期契約での安定した案件供給が見込まれる。移行フェーズの高単価(150〜200万円)から保守フェーズの安定単価(100〜150万円)に移行するイメージだ。これはプロジェクトの緊張感は下がるが、長期安定という意味で別の価値がある。
ABAPはSAPが独自開発したプログラミング言語で、SAPシステムのカスタマイズ開発に使われる。「ABAPはS/4HANAで不要になる」という声もあるが、Heydayの実感ではABAPの需要はなくならない。
S/4HANAでもカスタマイズ開発はABAPで行われるケースが多く、移行後の追加開発でもABAPエンジニアは必要とされる。ただし、ECC6.0のABAPとS/4HANAのABAPでは推奨されるコーディングスタイルや利用できるAPIが変わる部分がある。S/4HANA環境でのABAP開発経験があることが、今後のABAPエンジニアの市場価値を左右する。
日本のSAP市場が長期的に安定している理由の一つは、基盤産業への深い浸透だ。
製造業・化学・流通・金融・公共といった日本経済の基幹を担う業種にSAPが深く組み込まれており、「SAPを別のシステムに入れ替える」という判断をするコストと時間が膨大になっている。ECC6.0からS/4HANAへの移行でさえ数億円〜数十億円のプロジェクトになるのに、SAPから別ベンダーのERPへのリプレースはさらに大規模な変更になる。
この「スイッチングコストの高さ」が、SAP市場を安定させている構造的な要因だ。2027年以降も日本のSAP市場は継続すると見ている。
HeydayはSES・ITエンジニア向けの業務委託案件を取り扱っている。SAP関連では、S/4HANA移行プロジェクト・SAP保守案件の両方を取り扱っており、案件の単価と商流を事前に開示した上でのマッチングを行っている。
「単価が教えてもらえない」「移行案件に入りたいが機会がない」という状況にある方は、まず自分の市場価値の確認から始めてほしい。診断ツールでSAP経験・経験年数・希望働き方を入力すると、現在の単価レンジと案件マッチングの方向性をすぐに確認できる。
移行プロジェクトの一部フェーズであれば参入可能なケースがある。特にテストフェーズ(シナリオテスト・統合テスト)や、移行後の安定稼働サポートフェーズは、移行経験が浅い人材でも参画できる場合がある。ただし2026〜2027年にかけて経験者優遇の傾向が強まることが予測されるため、参入できる期間には限りがある。「経験ゼロで入れる枠」は今が最も広い時期と見ている。
需要は継続すると考えている。S/4HANAでもカスタマイズ開発・追加開発においてABAPは使われ続けるためだ。ただし「ECC6.0のABAPのみ」という経験から「S/4HANA環境でのABAP開発経験あり」にシフトできるかどうかが、2027年以降の単価に影響する。移行プロジェクトへの参画はABAPエンジニアにとっても重要な経験になる。
「SAPコンサルタント」として案件で通用するレベルに達するには、一般的に3〜5年の実務経験が必要とされる。ただし、これはゼロから始める場合だ。業務系のシステムエンジニア経験(会計・在庫管理・SCMなど)があれば、SAP固有の知識習得は短縮できる。また、移行プロジェクトでの実務経験があれば「S/4HANA移行コンサルタント」として、従来の「SAPコンサルタント5年」より早く高単価帯に入れる可能性がある。
現時点では常駐(客先常駐)案件が多数を占める。SAP案件は機密情報を扱う基幹システムへのアクセスが必要になるため、リモートが認められるケースは限定的だ。ただしコロナ以降、ハイブリッド形式(週2〜3日リモート可)の案件は増えている。フルリモートを希望する場合、現状では案件の選択肢が大幅に絞られる点は留意が必要だ。
SAP ECC6.0の延長保守終了が2027年12月末に迫る中、市場に起きていることをまとめる。
- 日本で移行が必要なSAP導入企業は約2000社。技術的なキャパシティから全社は移行できないとされており、コンサルタント不足は今後も続く
- Heydayの実案件データで、S/4HANA移行特化コンサルは150〜200万円/月、シニアクラスは200〜230万円/月の単価になっている
- 「S/4HANA移行経験あり」という条件が案件票に急増しており、移行経験の有無が単価を分ける分岐点になっている
- 2027年以降も保守・追加開発フェーズで安定した需要が継続する見込みであり、SAP市場は中長期的に安定している
市場変化を理解して動く人が単価を上げる。今年中に移行プロジェクトへ参入することが、2026〜2027年の単価を変える最も現実的な行動だ。
「自分のSAP経験で移行案件に入れるか」「現在の単価は市場に対して適正か」という問いは、まず単価診断で現在地を確認することから始まる。